この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
202 / 425
【 それぞれの未来 】

謁見 魔王、相和義輝 その1

しおりを挟む
 中は通路の荘厳そうごんさに反して、かなり質素な造りだった。
 壁は上半分が木製、下半分が石造りだ。正面と左の壁には柔らかな光が差し込む窓があり、右手にあるのは暖炉と奥への扉だろうか。
 西洋風の民家……そんなイメージだ。

 中央には横に長いテーブルが置かれ、手前に3脚の椅子、左端に1脚。誰が何処に座るのかは、聞かなくても分かる。
 机の上には、白い湯気を立てるティーポットやお菓子にケーキ、果物などが豪勢に置かれていた。
 そして3脚の椅子の正面、机を挟んだ先に一人の幼女が座っている。

 背は130センチ程度だろうか。身長よりも長そうなストレートの淡い金髪に、どこか眠そうな緑色の瞳。
 白と金のドレスを纏い、頭には白金プラチナのティアラを装着している。
 頬は何処かふっくらとしており、身長に見合った童顔だ。しかもかなり可愛らしい。
 ランドセル……いや、水色のスモックが似合うかもしれない。

 巨大国家の女帝――その言葉からは予想もしていなかった外見。だが魔王相和義輝あいわよしきは、決して拍子抜けなどしなかった。

 ――命を感じない。この人は……あの時のケーバッハと同じだ…………。

 魔人と戦い、シャルネーゼの剣に貫かれたケーバッハ。命を失っても尚、俺を殺す執念で動いていた男。
 自分でも知らずのうちに、警戒態勢を取る。そしてそれが幸いした。

「ケーキ!」

「おっとさせねぇ!」

 いきなり剥がれようとするテルティルト。
 あぶねえ! わざとやっているのでは無いだろうが、それでも絶対にやらかすと思ったぞ!

 既に一瞬で、テルティルトの体半分は尺取虫に戻っている。俺は丁度、その体の中間を掴んだ状態だ。
 残りの半分は、白くなって糊の様に俺に張り付いた状態である。何とか全裸は防いだが、体の後ろはもうマッパ。これ以上剥がされるわけにはいかない。

 とはいえ、踏ん張れないはずなのに物凄い力だ。気を抜くとスポンと離れてしまうだろう。だが幸いにも、尺取虫は胴体には足が無い。ここを掴んでいる限り、これ以上の抵抗は出来ないはずだ!

「離して! 離して魔王! ケーキが、ケーキがあるの!」

「何が有ろうが絶対に離さん! 前みたく、俺の腕に張り付いたまま食えばよかろうが!」

「いやよ! ケーキは全身で味わうの! 早くーはーなーしーてー!」

「いーやーだーねー!」

 ぐるんぐるんと頭を振り回して抵抗するテルティルト。こいつ、本当に魔王の言うこと聞かねぇな!

「もうよい、魔王。魔神の欲求に人が逆らうなど、無意味であるの」

 可愛らしくも凛とした、そして呆れた感を多分に含む声が響く。

「そっちが良くても、こっちが困るんですよ!」

 今の言葉に多少の違和感を覚えつつも、同時に理解もする。コイツはダメだ、もうケーキしか見ちゃいねぇ。
 しかも、他の二人はさっさと席についている。エヴィアに至っては、バナナを皮ごとモグモグと食い始めているし。
 この世界にもあるんだバナナ。いや、そんな事はどうでもいい!

「仕方が無い、席に着くまでだ。それまで我慢しろ!」

 一応、向こうとの間にはテーブルという障害物がある。上半身しか見えないだろう。

 それでもジタバタするテルティルトを抑えながら席に着くと、するりと剥がれてケーキめがけて一直線だ。もうすこし、ちゃんとしつけをするのだった。

 結局大事な会談を素っ裸で行う事になったが、もはや仕方が無い。
 落ち着け、俺。ちゃんと軌道修正するんだ……と思ったら、目の前に座っていたはずの幼女がいない。

「ふむ、人間と変わらぬの。違いと言えば、毛が生えている位か」

 そして下から声がする……。

「うわああぁぁ!」

 慌てて股間を隠す俺! すると幼女がテーブルの下から出て、正面の椅子にちょこんと座る。

「二股であったり、触手であったりしたら面白いと思うての。気にするな。」

 お茶目な性格なのか? 表情からは全く読めん。
 つか、最初の張りつめた空気が一瞬にして吹き飛んでしまったぞ。


「先ずは名乗っておこう。わらわがハルタール帝国女帝、オスピア・アイラ・バドキネフ・ハルタールである」

 今までのドタバタを完全に無視するように、落ち着いた幼い声が響く。
 それは静かな面持ちであったが、再び空気が張り詰めたのを感じ取った。
 これで全裸じゃなければ……服さえ着ていれば……だが!

「既にこちらの事は知っている……で良いんですよね? 魔王、相和義輝あいわよしきです。お初に御目にかかります」

 俺は何事もなかったように、予習通りの挨拶をした。
 こんな所でつまずいてたまるか!

「うむ、話だけではあるがの。しかし……なんとも平凡よの。もう少し、魔王らしい威厳が欲しい所であるの」

 グサッ! 心に棘が突き刺さる。
 以前ヨーツケールやゲルニッヒにも言われたが、俺はそんなに普通なのか。

「そういうオスピアさんは――」

 言おうとして言葉が詰まる。死んでいますよね? とはさすがに言えない。

「ふふ、見た目はアレだが、やはり魔王であるな。分かっているのであろう?」

「ええ……」

「いかにも、この身はとうに終わりを迎えておる。これでも、最初の魔王の子でな。長い時を過ごしてきた」

 初代魔王の娘!? 確か最初の魔王の家族は……いや、その後でまた人間を召喚したんだったな。するとその子時の子供か。いったい、何歳なんだろう。

「だが、色々と使命があっての。人間の事、そしてお主等の様な魔王の事。まだまだ投げ出すわけにもいかぬでな。まあ、自己紹介はこの辺りで良かろう」

 そう言うと、オスピアは自分でポットから茶を注ぐと――

「人間との和平を望んでいるようだの」

 そう言っていきなり本題に入る。
 やっと……ここまで来たか。数々の想いが胸の中に去来する。
 俺は一呼吸を置いて、

「そうだ。魔族と人間との共存。その為に、俺はここまで来た」

 そう、ハッキリと告げた。
 敬語で話すべきか? そうも考えたが、やはりだめだ。
 おそらく、そんな儀礼的な事を気にする相手でもあるまい。ここは言葉を選ぶより、俺の言葉できちんと間違えずに伝えるべきだろう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...