この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

始動 前編

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 碧色の祝福に守られし栄光暦219年4月13日。
 マースノーの草原に布陣していた浮遊城ジャルプ・ケラッツァの内部では、慌ただしく職員が走り回っていた。

「幾らなんでも急すぎますね。浮遊城が見た目よりもずっとデリケートな事は、城主殿にはお分かりの事かと思いますが」

 ミックマインセが珍しく嫌味を込めた物言いをしてくるが、リッツェルネールは涼しい顔だ。

「急だからこそ意味がある。全機関最大主力。限界を見せてやれ」

 浮遊城ジャルプ・ケラッツァが急速に動き始める。
 普段の巡航速度は時速20キロメートル程度。戦闘状態で40キロメートル程だ。しかし現在、浮遊城の速度は60キロメートルを越える。
 ここまでの速度、そして浮遊白の巨大さともなると、風の抵抗も馬鹿には出来ない。急激な圧力を受け、城全体が揺れ軋む。
 キィキィと響く金属音は、まるで抗議の悲鳴の様だ。

「数ヶ所で配線や隔壁に損傷が見られる。少し抑えるべきだ」

 城内の報告を受けケインブラが報告を入れる。どちらかといえば、忠告に近い。
 このままでは戦闘どころではない。自壊の危険すらある。
 しかし――、

「それでは意味がないよ。ムーオスに耳目が集まる今だからこそ、仕掛ける最大の好機だ。我等はこれより、新領域を迂回して迷宮の森と亜人の領域を攻略する。ハルタール帝国、ティランド連合王国にも伝達せよ」

「ティランドはともかく、ハルタール軍は追いつけまい。今すぐ動いたとしても、到着は――」

「いや、動き始めてくれれば良い。どうせ一朝一夕に攻略できる領域ではないからね。それにこれは、南方への支援の一環でもある。ああ、それと――」

「まだ何かあるのか?」

「例の重飛甲母艦をナルナウフの司祭殿に寄付しておいてくれ」

「いやいや、待ってください」

 少し面白そうな、それでいていぶかしげにミックマインセが口を挟む。

「なんだい、ミックマインセ」

「今動かせるのは一機しかありませんよ。それも故障機体をこちらで修理と整備したわけでしょう? それなりに費用が掛かっているわけですし、所属だってまだ……」

「ムーオスとの譲渡契約は進んでいただろう?」

「だがそれは停止していたはずだ」

 今度はケインブラも戻って来る。興味があったのだろう。
 確かに、第二次炎と石獣の領域後に始まった譲渡交渉も、ムーオス自由帝国へ魔族が大挙して進行したことによって中断している。

「乗員はただの一般兵だ。上の問題など、もはや関係ないでしょう。彼らは今後生きていけるか――興味はそれだけでしょう」
 
「確かにそうですが、アレは緊急時の脱出用として購入予定だったわけですが」

「そんなものが必要なのかい?」

 まあ確かに、浮遊城を失って生きて帰るなどありえない。
 指揮官から一般兵士に至るまで、この城を失ったら行く場所などないのだから。




 ◇     ◇     ◇




 迷宮の森と亜人の領域近郊には、ティランド連合王国が布陣していた。
 元々ここが持ち場であり、急な作戦で布陣したわけではない。

「ほう、リッツェルネールが動いたか……なるほど、ムーオスに呼応して北の攻略か。どう思う、グレスノーム」

「そうですね……」

 リンバートに問われたグレスノームの黒い瞳が、深い思慮の色を湛える。

「元々、ムーオス自由帝国との共闘は不可能です。既に向こうには余裕がない。共闘するのならこちらが動くしかないわけですが、壁を越えて人間領を南下するか、白き苔の領域を突破するか……まあどちらも、そもそもが現実的ではありません。動くなら、確かに南に行くのではなくこちら側となるでしょう」

「そりゃそうだな。それに、どちらにしろ時間が足りん。やるなら最低限一ヵ月は欲しい」

 それなりに時間もあったため、士官用の部屋は四角い土作りだ。壁は漆喰で固められ、床は土の上に絨毯が敷かれている。
 外には同様の建物の他に、無数のテントが立ち並ぶ。既にいつでも開戦可能――というより、ティランド連合王国はとっくに独自路線で始めている。
 兵数は160万人をキープ。士気も高く準備も万全である。だが戦地はもちろん、連合王国全体として見れば損害はある。

 もうすでに、北のハルタール帝国では餓死者が出始めている。
 ゼビア王国の反乱により多くの人民を削減した帝国であったが、それでも当然貧富の差は残る。
 金持ちは10年後も生きているだろうが、貧しければ明日は無い。
 そしてそれは、ティランド連合王国とて無縁ではない。

 随時補充し、随時魔族の領域へと送り込む。
 死ぬためにここまで旅をし、決意を胸に森へと消えていく。
 本国では果敢に戦う勇者たちとして報道されているが、それは現実とは大きく違うのだ。

「だがそれも、ようやく一区切りだ。そうだろう、グレスノーム」

「ええ。ですが申し訳ありませんが、リンバート殿にはまだやるべきことがあるでしょう。ここは私が行きます」

 二人とも、もういい加減飽き飽きしていたのだ。
 ただ何の戦果も挙げることなく味方を死地に追いやるだけの任務。その膨大な損失を考えれば、必ずや戦後は無能の烙印を押されるであろう。
 そうなる前に二人とも意義ある戦いで散りたかったのだ。出来ればもっと早くに。
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