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【 滅び 】
離脱 前編
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重飛甲母艦の外見は、空飛ぶカブトガニといった風体だ。ただ、尾は付いていない。
上部は薄く丸いドーム状で、下部には6基のコンテナ。そして左右に飛甲騎兵が搭載されている。
ドームの前部、そしてその下、更に左右や後部と至る所に水晶の窓が取り付けられており、遠目には細いフレームだけで構成された工芸品のようにも見える。
その水晶の窓を切り裂き、一人の少女が乱入した。
突然の事に、ムーオスの兵士達は何の反応も出来なかった。
ただ驚き、目を剥き、口を開け、そして大量の血を吹き出しながらドサドサと崩れ落ちる。
操縦室にいた十数名は一瞬にして血だまりに沈むが、侵入者の殺戮は終わらない。
流れた血が階段から雫となって下に落ちるよりも早く、エヴィアは下にいた8人の動力士を斬り裂いていた。
音もなく、一機の重飛甲母艦が落ちて行く。
墜落ではない。魔力供給を失った飛甲母艦は、残った分を消費しながらゆっくりと高度を下げる。まるで空気が抜けていく風船の様だ。
とはいえ、落下の衝撃は大きい。脆いコンテナは潰れ、乗員もベルトなどで固定されていない限り生存は厳しいだろう。
もっとも、生き残ったところでどうしようもない。味方の人間に出会うより、魔族に遭遇する確率の方が高い。この国は、もうそんな状況なのだから。
「885番機応答なし。高度低下」
「連絡は?」
「ありません。後方の455、7の1022も同様です」
「フム……」
報告を聞きながら、“比翼の天馬”ルヴァン・マルファークは対応を迫られていた。
編隊後方にいた重飛甲母艦に魔族が取り付いた時、ヘッケリオの搭乗するこの機体を守るべきかを考えた。
以前であれば迷う事は無い。数機を殿に残し、残存部隊で密集防御を組むのがセオリーだ。それは、相手が人間であったとしても同じだろう。
だが大きく異なる点がある。魔族には、所在不明の浄化の光が存在するという事だ。
浮遊城と違い、何処にあるのか不明な点は大きな脅威である。
そしてあからさまな密集提携を取れば、逆に最重要機体を明かす事になる。
今はともかく、国境が近づけば浄化の光が飛んでくるのは確実だ。その目標は、考えるまでもないだろう。
だがそう考えて、あえて逆を突いてくるかもしれない。そんな駆け引きが、最初の対応を遅らせた。
――結果として助かったが、前後から襲撃か。魔族め、やってくれる……。
「将軍! 1523番が!」
隣を飛んでいた重飛甲母艦が、炎に包まれ急速に落下する。
「クソッ! 浄化の光か!」
国境際など甘い考えであった。ここはもう、ムーオス自由帝国ではない。魔族の土地なのだ。
「各機散開せよ! 魔導炉全開、高度を下げろ! 各員の無事を祈る」
重飛甲母艦の編隊が、一斉に隊列を乱し地上へと降下する。
それはまるで、舞い散る木の葉の様であった。
ひらひらと……というにはあまりにも早く飛甲母艦が降下する。
しかしそれは墜落ではない。螺旋する円を描くように降下したかと思うと、急加速して移動。そして再度の降下。
飛行する魔族たちの攻撃を、その何倍もの大きさを持つ重飛行母艦が華麗に躱す。
そして魔族たちが再度追撃しようと大慌てで方向を変えた時には、既にあまりにも鮮やかで、そしてあっけなく飛甲母艦隊は散り散りに逃げて行った。
暗闇の中、魔王はそれを視覚ではなく感覚で捕らえていた。
「いやいや、このまま逃がすわけにはいかないよ。ボンボイル、追ってくれ」
「どれを?」
どれを? といわれると困ってしまう。
重飛甲母艦たちは、四方八方、それこそ全周囲に散った。当然南や西にいたった連中も、そのまま進むわけがない。どこかで軌道を変えながら最終的に東を目指すだろう。
当然それなりに時間をロスするだろうが、最終的には数時間くらいしか変わらないと思われる。
しかしあたふたしている間に連中は行ってしまう。何機かにはウラーザムザザや空飛ぶイトマキエイのような魔族の群れが取り付いているが、攻撃している間に他は逃げてしまう。
「とにかく一番東を飛んでいるやつだ。エヴィアはまだ繋がっているな?」
「その点は問題ない。触手は今もしっかりと繋がっている」
「ならいい。テルティルト、服を外骨格にしてくれ。武器もだ。俺達も行くぞ」
「準備はしておくけど、みんなも信じてあげて欲しいわー。今回はちゃんとやっているのよー」
「いや判るけどな。どうにも自分で動かないと不安なんだよ」
ここを目指し、飛べる魔人達が魔族を率いて集まっている。
しかし向こうも早い。拡散しすぎたら見失う危険もある。
どうするべきか……相和義輝もまた、選択と決断を絶えず繰り返していた。
◇ ◇ ◇
戦闘開始から半日以上。空はすっかり明るくなり、これから次第に茜色に染まっていく。
碧色の祝福に守られし栄光暦219年4月16日夕刻間近。
重飛甲母艦の外殻に巨大な目玉が張り付くと、そこからジュウジュウと音を立て金属が溶けていく。
「ば、化け物めぇー!」
兵士の一人が防火用のハンマーで応戦するが、そんなものでウラーザムザザは傷つきはしない。
空を飛ぶ重飛甲母艦の兵士達は、基本的に鎧は付けていない。それに武器を携帯しているものも少ない。長い歴史上、重飛甲母艦内で交戦したことはただの一度も無かったからだ。
人類……ムーオス自由帝国こそが、この空の覇者だったのだから。
上部は薄く丸いドーム状で、下部には6基のコンテナ。そして左右に飛甲騎兵が搭載されている。
ドームの前部、そしてその下、更に左右や後部と至る所に水晶の窓が取り付けられており、遠目には細いフレームだけで構成された工芸品のようにも見える。
その水晶の窓を切り裂き、一人の少女が乱入した。
突然の事に、ムーオスの兵士達は何の反応も出来なかった。
ただ驚き、目を剥き、口を開け、そして大量の血を吹き出しながらドサドサと崩れ落ちる。
操縦室にいた十数名は一瞬にして血だまりに沈むが、侵入者の殺戮は終わらない。
流れた血が階段から雫となって下に落ちるよりも早く、エヴィアは下にいた8人の動力士を斬り裂いていた。
音もなく、一機の重飛甲母艦が落ちて行く。
墜落ではない。魔力供給を失った飛甲母艦は、残った分を消費しながらゆっくりと高度を下げる。まるで空気が抜けていく風船の様だ。
とはいえ、落下の衝撃は大きい。脆いコンテナは潰れ、乗員もベルトなどで固定されていない限り生存は厳しいだろう。
もっとも、生き残ったところでどうしようもない。味方の人間に出会うより、魔族に遭遇する確率の方が高い。この国は、もうそんな状況なのだから。
「885番機応答なし。高度低下」
「連絡は?」
「ありません。後方の455、7の1022も同様です」
「フム……」
報告を聞きながら、“比翼の天馬”ルヴァン・マルファークは対応を迫られていた。
編隊後方にいた重飛甲母艦に魔族が取り付いた時、ヘッケリオの搭乗するこの機体を守るべきかを考えた。
以前であれば迷う事は無い。数機を殿に残し、残存部隊で密集防御を組むのがセオリーだ。それは、相手が人間であったとしても同じだろう。
だが大きく異なる点がある。魔族には、所在不明の浄化の光が存在するという事だ。
浮遊城と違い、何処にあるのか不明な点は大きな脅威である。
そしてあからさまな密集提携を取れば、逆に最重要機体を明かす事になる。
今はともかく、国境が近づけば浄化の光が飛んでくるのは確実だ。その目標は、考えるまでもないだろう。
だがそう考えて、あえて逆を突いてくるかもしれない。そんな駆け引きが、最初の対応を遅らせた。
――結果として助かったが、前後から襲撃か。魔族め、やってくれる……。
「将軍! 1523番が!」
隣を飛んでいた重飛甲母艦が、炎に包まれ急速に落下する。
「クソッ! 浄化の光か!」
国境際など甘い考えであった。ここはもう、ムーオス自由帝国ではない。魔族の土地なのだ。
「各機散開せよ! 魔導炉全開、高度を下げろ! 各員の無事を祈る」
重飛甲母艦の編隊が、一斉に隊列を乱し地上へと降下する。
それはまるで、舞い散る木の葉の様であった。
ひらひらと……というにはあまりにも早く飛甲母艦が降下する。
しかしそれは墜落ではない。螺旋する円を描くように降下したかと思うと、急加速して移動。そして再度の降下。
飛行する魔族たちの攻撃を、その何倍もの大きさを持つ重飛行母艦が華麗に躱す。
そして魔族たちが再度追撃しようと大慌てで方向を変えた時には、既にあまりにも鮮やかで、そしてあっけなく飛甲母艦隊は散り散りに逃げて行った。
暗闇の中、魔王はそれを視覚ではなく感覚で捕らえていた。
「いやいや、このまま逃がすわけにはいかないよ。ボンボイル、追ってくれ」
「どれを?」
どれを? といわれると困ってしまう。
重飛甲母艦たちは、四方八方、それこそ全周囲に散った。当然南や西にいたった連中も、そのまま進むわけがない。どこかで軌道を変えながら最終的に東を目指すだろう。
当然それなりに時間をロスするだろうが、最終的には数時間くらいしか変わらないと思われる。
しかしあたふたしている間に連中は行ってしまう。何機かにはウラーザムザザや空飛ぶイトマキエイのような魔族の群れが取り付いているが、攻撃している間に他は逃げてしまう。
「とにかく一番東を飛んでいるやつだ。エヴィアはまだ繋がっているな?」
「その点は問題ない。触手は今もしっかりと繋がっている」
「ならいい。テルティルト、服を外骨格にしてくれ。武器もだ。俺達も行くぞ」
「準備はしておくけど、みんなも信じてあげて欲しいわー。今回はちゃんとやっているのよー」
「いや判るけどな。どうにも自分で動かないと不安なんだよ」
ここを目指し、飛べる魔人達が魔族を率いて集まっている。
しかし向こうも早い。拡散しすぎたら見失う危険もある。
どうするべきか……相和義輝もまた、選択と決断を絶えず繰り返していた。
◇ ◇ ◇
戦闘開始から半日以上。空はすっかり明るくなり、これから次第に茜色に染まっていく。
碧色の祝福に守られし栄光暦219年4月16日夕刻間近。
重飛甲母艦の外殻に巨大な目玉が張り付くと、そこからジュウジュウと音を立て金属が溶けていく。
「ば、化け物めぇー!」
兵士の一人が防火用のハンマーで応戦するが、そんなものでウラーザムザザは傷つきはしない。
空を飛ぶ重飛甲母艦の兵士達は、基本的に鎧は付けていない。それに武器を携帯しているものも少ない。長い歴史上、重飛甲母艦内で交戦したことはただの一度も無かったからだ。
人類……ムーオス自由帝国こそが、この空の覇者だったのだから。
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