この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 滅び 】

再び艦内では

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「アン・ラ・サム、貴方は魔王の下へ急いで!」

 ファランティアの中のユニカからそう指示され、アン・ラ・サムはほんの僅かだけ迷った。

 時間にすれば、ほんのつい先ほどの事だ。天から降りる魔王の魔力は、非常事態を知らせるには十分だった。
 当然の様に通信機も繋がらない。ユニカは緊急の決断を強いられた。
 単純に言えば、可能性は二つ。自分が行くことが、魔王にとってプラスになるかマイナスになるか。
 戦えない自分が行くことで、逆に魔王の足を引っ張るかもしれない。だがここは空の上。果たして一度下に降りてからで間に合うのだろうか?
 魔王が想定外の危機にある事は間違いないのだ。

「大丈夫よね?」

 そう尋ねられたファランティアは、その意図を察した。
 それはエヴィアをここから落としていいかという事だ。

「問題ありません。たとえ下が岩であったとしても、魔人エヴィアの再生に支障はありません」

「だって。それじゃエヴィア、行ってくるね」

 そう言うと、僅かに開いた蓋からエヴィアを投下。同時に駆け付けたアン・ラ・サムと共に、ここ地上戦艦の甲板に降り立ったのだ。
 危険は十分承知の上。しかしそれでも、魔王を守るためにユニカは共に行くことを選んだのだった。




 でかい、そして強い。目の前に出現したファランティアの力量を見て、オブマークの背筋に冷たいものが走っていた。
 元々甲板にいた2体の悪魔の内1体を討伐し、もう1体はたぶん瀕死といえるところまで追い込んだ。
 だがそれはサイアナという強大な存在と、数という武器があったからだ。

「テレミーレ司祭様、ご無事ですか?」

「ええ、問題ありませぬ。少し驚いただけですわ」

 見た目上、無傷な事はわかっていた。オブマークが確認したのは心が折れていないかだ。
 だがそんな心配は稀有に終わる。ナルナウフ教の司祭が、悪魔を前に自失するなど有り得はしない。
 しかし背後でもう1体、別の魔族が階段を降りるのが見えた。多分2人の司教を殺った奴だ。
 見た事も聞いた事も無い姿。あれも悪魔と考えるのが妥当だろう。いったい、この世界には何体の悪魔が存在するのか。
 先に階段を下りた仲間やサイアナに伝えたいが、この重甲鎧ギガントアーマーに付いているのは拡声器と収音機だけだ。遠くに連絡する手段はない。いや、そんな事を悠長に考えている余裕もない。

 金属の甲板に渦状の傷が走る。ファランティアの翼によるものだ。
 翼の先端を下につけ、突進しながら目にも止まらぬ速さで一回転。進路上にあった揺り籠は、まるで紙細工の様に切断され宙を舞う。
 床に付いた複雑な傷が、内側に回避する隙間が無い事を示している。

「こいつは……」

 まさか作戦ではあるまい……いや、そうでない事を祈るしかない。
 最初が上手く行き過ぎた。そして魔王という餌に釣られ、のこのこと兵力を分散してしまった。
 自分達を下ろした重飛甲母艦は? とっくに落とされたのか、姿は見えない。そんな事すら気が付かないとは……。
 オブマークの脳裏に、サイアナの微笑みが浮かぶ。

 ――……司祭様、どうかご無事で。

 形となって現れた死を目の前にしながらも、オブマークはサイアナの身を案じていた。

 天井から落ちてきたのは、もう考えるまでもない、サイアナだ。
 大体高さは5メートル弱、その程度の高さからなら、落ちても問題無いと言う事か。
 いっその事、床を踏み抜いてそのままもう一段下に落ちてくれていたらとも思う。
 部屋の広さは8メートルに6メートルって所か。扉は一か所。他は天井の穴だ。
 倉庫の一角だろうか? 壁沿いには多数の機械らしきものが、布を被せられて積まれている。
 どれも大きく、天井にまで届きそうだ。そのせいで、実際にはかなり狭い。

「私は少々忙しくてね。どうだろうか、続きはまたいずれというのは?」

 一瞬だが、サイアナが笑ったような気がした。
 そして次の瞬間には、もう目の前に重甲鎧ギガントアーマーが迫る。
 まあ予想はしていた。今更話など出来ない事は。
 こちらも彼女の突進に合わせ、バックステップでかわす。残念だが、彼女は強い。だが同時に残念な事に、一発一発が分かりやすい。彼女は戦士では無いのだ。
 この地形は幸いだ。彼女の大振りは置いてある機械にぶつかり止まる。その間に、先ずはこの部屋からの脱出を優先しよう。廊下に出てしまえば、彼女の行動は更に制限される。

 ――だったらよかったね。そう、自分にツッコミを入れてしまう。

 彼女のサイドスイングは、確かに積んである機械部品に命中した。しかし彼女は獣ではない。ぶつかる事は分かって振っていたのだ。
 命中した部分は激しい火花を上げると、まるでバターのように抉られ飛び散った。いや、それはまるで散弾の様。
 直撃、跳弾、何発も体に当たる。テルティルトを着ていなければ、今の一撃だけで確実に即死していただろう。
 だが幸い、機械も動いた。えぐられ飛ばされた部分はそれほど多くは無い。
 聖杖鈍器のサイズは直径およそ1メートル。長さは140センチほど。削られたのは、あくまでその範囲内だ。
 残りは衝撃により、彼女の前まで移動し進路を塞ぐ。これはチャンスだ。
 直ぐに扉の前を行き外へ――と、掴んだノブがガチガチと音を立てる。開かない。嘘だろう? 外鍵とがあり得ないだろ? ここを作った奴はどんな馬鹿だよ!
 背後でズザッと嫌な音が鳴る。巨大な機械をどけたのだ。そりゃ動かせたのだから戻せるだろう。
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