この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 未来と希望 】

殲滅戦 その1

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 それは一瞬であった。

「ええー、酷いよー!」

 抗議の声を上げるアンドルスフ。だがその時、マリッカは既にその横に移動していた。
 ――え、とアンドルスフは思う。本当にそれだけだ。まるで反応できていない、そう表現するのが正しいだろう。
 その瞬間、虚空にマリッカの短剣が刺さる。それは正確に、魔人のコアを穿ち、砕いていた。
 前後が繋がった、2つのブーメラン状の頭部をもつ両生類の上半身。その片方が、白化しながら姿を現す。アンドルスフの半分は、一瞬にして殺されたのだ。

「酷いやマリッカの馬鹿―!」

 だがもう片方は、目にも止まらぬ速さで逃げていた。
 しかし――

 ――なるほど、あそこですか……。

 透明なまま逃げたアンドルスフだったが、マリッカには通じなかった。
 魔人アンドルスフの後を追って、マリッカは更に奥へと向かったのだった。




 ◇     ◇     ◇




「なんだか相当に揺れているな。エンブス、状況はどうなっているんだ?」

「痛い痛いー、中で大きいのが暴れてるー!」

「さっきの尻から入ったやつらか。状況はどうなっているんだ?」

「ここからじゃ、分からないかな。エヴィアが見て来るよ」

「いえ、私が見てきましょーう」

 エヴィアの動きを静止して、テラーネが手をひらひらさせながら出て行った。
 まあ他に侵入者はいないし、今はテラーネが適任だろう。
 かなりの人間が侵入を試みた様だが、全て失敗した。エンブス全体が大きな警報機センサーなのだ。あれを抜けてくる人間などいはしない。

 向こうの浮遊城との距離は推定で10キロメートルほど。こちらが3、向こうが7位の比率で後退した結果だ。
 離れて行く間も互いに撃ち合ったが、双方致命傷にはなっていない。だがエンブスの一部は燃え上がり、今も闇夜に煌々と赤く輝いている状態だ。

「消火は順調かな。これ以上広がることなないよ」

「頼むよ。それで下に落ちた連中は?」

「ある程度は戻ったかな。でも重い魔人は無理だね」

「そうだな……じゃあ地上は地上でやって貰おう。暫くこちらは大丈夫そうだし、少し任せるよ」

 魔王はどうするのか? それは魔人には聞くまでもない事だ。
 相和義輝あいわよしきの意識は天へと飛び、地を覗く。
 そこにある多数の生命……人、亜人、虫、竜、獣。それらは互い交わり、そして消えて行く。
 そんな儚い存在達とは別の、全く異質な命――いや、エネルギーが存在する。
 それは、歴代魔王から切り離された魔力。領域に付属するエネルギー。この世界での名は”精霊”。
 全体を俯瞰しながらそれらに指示をだす。

「さて……殲滅戦だ。存分に絶望してくれたまえ、人間」




 ◇     ◇     ◇




 全軍左翼、ティランド連合王国軍は、軍隊蟻の撃退に成功し暫しの小康状態に入っていた。
 戦闘自体が停止したわけではなく、未だ獲物にありついていない軍隊蟻などとの小競り合いは続いている。
 それでも一応は食事と前線の交代が出来るほどにはなっている。

「将軍、後衛部隊との入れ替えはほぼ完了しつつあります」

「そうか、それで損害は?」

「負傷者を含めれば、損害は200万を下らないかと。我等正規部隊も、戦えるのは20万人といった程度ですね」
「いやあ、噂にたがわぬ強さでしたよ。まあ、冥界への良い土産話が出来ました」

 何とか支え切ったが、状況は予断を許さない。長期的に見れば絶望的ともいえる。
 軍隊蟻は下がっただけ。時間をおけば、再びやって来るだろう。一方で、こちらの補充は無い。
 しかし、グレスノーム・サウルスとその部下達に焦りはない。
 まだ後方にはハルタール帝国軍が布陣し、浮遊城も健在だ。
 報告によれば、中央の戦いは優勢だという。ならばまだ戦えるだろう。

「じきに夜が明ける。奴らの時間は終わりだ。連合王国の力を見せてやろう」

「「「オオ―!」」」

 この状況でも一切変わらぬ配下――いや、戦友たちを頼もしく思う。
 そんなグレスノームの前で、次第に世界が明るくなってくる。
 油絵の具の空に覆われたこの世界では、眩しい太陽などは無い。ただ少しずつ、全体的にぼんやりと視界が開けていく。
 闇に包まれた魔族の時間が終わり、ここからは人間の時間だ。最悪の状況は耐えきったのだ。
 そんな彼の視界が白く霞む。気温の変化によるものか、辺り全体に掛かる真っ白い霧。

 有り得ない――それをグレスノームはすぐに感じ取った。
 だがそれがどうしたというのか。対抗策など存在しない。
 白い靄が、次第に赤みを帯びてくる。それは大地に染み込んだ血。負傷兵の血。そして、生きている人間から強制的に引き出される血。
 大気の精霊と塩の精霊。二者の手によるものであった。

 塩の精霊単体でも、周囲の死体から血と共に塩を集めたりは出来る。しかし魔障の領域に棲む大気の精霊と組めば、その力は幾万倍にも跳ね上がる。
 それはもうただの靄とは言えない。赤い霧の巨人だった。
 一斉に上がる悲鳴と叫び。兵士は武器を振るうが、それは虚しく空気を切り裂くだけだ。

 かつて相和義輝あいわよしきがティランド連合王国と戦った時、多くの蠢く死体ゾンビ屍喰らいグールが倒された。
 しかし消滅した不死者アンデッドはいない。人間は、精霊には干渉できないのだ。
 それはリアンヌの丘でも同様だった。首無し騎士デュラハンを倒したのは、ケーバッハ唯一人。そして一体だけだ。
 精霊を倒すには、魔法――もしくはそれに準ずるか上回る魔法の力。浄化の光レイや揺り籠が必要となる。

「浮遊城に連絡! 対処不能。対処不能だ! 各員奮起せよ!」

 急ぎ慌てる味方を叱咤する。相手は対応不能の怪物たち。『人や家畜に害をなすから魔族』などと呼ばれる野生動物とは違う、本当の意味で魔族と呼ばれる者たちだ。
 通常であれば、部隊を下げるべきだろう。昔ならそうした。だが今は違う。今は魔族は連携する。必ず来るのだ、この後に新たな敵が。

「将軍、軍隊蟻の群れを確認!」
「南東からも新たな小集団を確認!」

「バリケードを死守せよ! 我等の奮戦が、友軍の明日を創るのだ!」
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