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Capture02
02-004 サンクチュアリ
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瑛太は、ホワイトベースの場所が知りたかった。
最初は通信の内容で探ったのだが、わかったことは「雪が降る、寒いところ」だった。
そんな場所は、日本中にある。ただ、会話の内容から北海道ではないことが推測できた。
理由は、南岸、北岸、東岸、西岸という言葉が頻発すること。東岸から西岸に移動するのに30分から40分かかるようで、現在の道路事情から平均時速20キロから30キロで計算すると、距離は10キロから20キロ。
そんな大きい湖は北海道にはない。
候補は3つ。琵琶湖、霞ヶ浦、猪苗代湖だ。電波の強弱から霞ヶ浦を除外。琵琶湖の外周は90キロ以上あるから、大きすぎて除外。
消去法で猪苗代湖ではないかと推測していた。
次にテレビアンテナを利用して、方向探知を試みた。九十九里の隠れ家で調べた方向と銚子で調べた方向とを地図上に線引きすると、猪苗代湖南岸のやや南で交差した。
交点の近くに羽鳥湖がある。
確信はないが「羽鳥湖の近くにホワイトベースがある」と、推測する。羽鳥湖をガイドブックで調べると、キャンプ場、コテージ、ホテル、スキー場などがある。
そして、大量の真水。
安全な飲料水の確保に汲々としている瑛太たちにとって、魅力に感じた。
銚子の隠れ家には、4トントラックと軽トラが残置されていた。キーは付いたままだった。車内に死人はいない。
軽油とガソリンの補給ができた。バラクーダは満タン、車体後部に取り付けたガソリン用ジェリカン2缶も満タンだ。
飲料水も作ったが10日分程度。どこかで補充しなければならない。
銚子大橋は、拍子抜けするほど車輌数が少なかった。千葉方向のほうが少なく、瑛太は逆走するように利根川を渡る。
利根川北岸に沿って走り、外浪逆浦の東岸でクルマを止める。進行方向左は外浪逆浦、右は放棄された水田。背の高い雑草が広がる。道の位置が周囲よりも少し高いので、視界はいい。
ここで、瑛太がバラクーダを止め、エンジンを切る。
説明を始める。
「猪苗代湖の南に羽鳥湖というダム湖がある」
瑛太が、この実、可奈、沙奈に地図を示す。「この付近に大きなヒトのグループがある」
この実が眉間に皺を寄せる。
「何人くらい?
10人とか?」
瑛太の顔が引き締まる。
「数十人以上、数百人かもしれない」
この実が驚く。
「信じられないよ」
瑛太は、その点については確信があった。
「間違いない。
複数の偵察隊を同時に派遣できるんだ。人数がいなければ、できないよ。
それと、病院や学校があるらしい」
可奈と沙奈が学校に反応。
「本当?」
「ランドセル、盗られちゃったよ」
この実は半信半疑どころか、与太話だと思っている。
「善人とは限らないでしょ」
瑛太が頷く。
「あぁ、俺も心配しているよ。
飛んで火に入る何とかになっちゃうんじゃないかって。
だから、観察しないと、とは思っている。
だけど、このまま4人で旅を続けていくのは、難しいんじゃないかな。
生きているヒトはどうにかなっても、いつかは死人に追い詰められる」
この意見には、この実も賛成だった。
「私もそう思うよ。
だから、安全な隠れ家を探しているんじゃん。これからも4人でいいじゃん」
瑛太が「隣近所もなく?」と尋ねる。
この実が黙る。
瑛太が続ける。
「その人たちの基地というか、拠点というか、村というか、はホワイトベースっていうんだ」
瑛太はアニメオタクだが、3人は違う。その名の意味がわからない。
「ガンダムの主人公が乗っていた宇宙戦艦の名前だ」
この実が呆れる。
「だからいいヒトだって?」
「いや違う。
世代が上だってことだよ。俺たちの世代じゃない。30歳とか、40歳とか、50歳かもしれない。
何層かの世代がいるみたいなんだ。
つまり、同種のヒトたちの均質な集団じゃない。
小さいけどヒトの社会だよ」
この実は得心がいかない。
しかし、可奈と沙奈は違った。
「学校、行きたいな」
「ランドセル、どうするの?
教科書もないよ」
瑛太がこの実に「羽鳥湖に行ってみよう」と促す。
この実は「あてはないし、そうしよう。悪いヒトなら、逃げればいいし……」
4人の当面の行き先が決まった。
房総半島と同じく、利根川以北でも国道は使わず、県道や市町村道をたどって南東北を目指す。
北上を始めた初日は40キロほど走行し、霞ヶ浦の北端付近まで進んだ。
キャンプに適した場所がなく、水田の真ん中を通る農道で夜明かしの支度を始める。
夕食はトレーラー内で、4人で食べた。すでに、肉、魚、野菜はなく、ご飯、海苔、ふりかけのさみしい食卓になっていた。
コメの消費量も気になる。瑛太とこの実は、不安から食べる量を減らしてしまう。
この実が瑛太に茨城のガイドブックを見せる。
「この釣り堀、ここから近くない?」
瑛太が誌面を凝視する。
「本当だ。
近いと思う。山の中だから、安全かも」
可奈と沙奈は、食べ物の話題には加わらない。瑛太とこの実の苦悩を知っているからだ。「行ってみる?」
「あぁ、養老渓谷では上手くいった。
期待しちゃうよ」
可奈と沙奈が顔を見合わせ微笑む。
3人はトレーラーで寝たが、瑛太は用心してバラクーダの中で休む。
この実とは無線でつながっていて、交代で寝る。2人のうち、どちらかは必ず起きている。そういうルールにしている。
翌朝早くに出発、実走18キロで釣り堀に着いた。施設はフェンスで囲われていて、ゲートは閉じられていたが、瑛太が上手に開け、そして締める。
「お魚がいるよ!」
沙奈が叫ぶ。
池は2つ。水は澄んではいないが、魚影が見える。1年半以上ヒトの管理がないはずだが、魚体の形はいい。ヒトがエサを与えなくても、自然の虫などを食べているのだろう。 死骸も浮いてはいるが、数尾だ。
たも網は、養老渓谷から持ってきた。釣り竿もある。
ニジマスを狙っているが、サクラマスも大歓迎だ。
周囲にヒトの気配がないので、可奈と沙奈は遠慮なく声を出す。魚を捕らえるたびに、大喜びしてくれる。
ニジマスとサクラマス、それとサケ・マス科だろうけど、魚体の大きな魚が捕れた。
瑛太は今回、三枚に下ろし、身だけを燻製にすることにした。このほうができあがりが早い。
4日間で40尾を燻製にする。20尾は甘露煮にする。圧力鍋での甘露煮は、頭から尾まで使う。骨も頭も食べられる。
甘露煮係はこの実が引き受けた。
5日目の朝、この実が提案する。
「釣り堀をたどろうよ」
瑛太が受け入れ、可奈と沙奈が喜んだ。
栃木に入ると、永野川を遡り、山間の釣り堀に至る。池は1つ。周囲に人家はあるが、路上に死人の姿はない。永野川沿いの奥まった場所に止めれば、県道からは見えない。
これは、生人から隠れるには大事なことだ。
この釣り堀は周囲が500メートル近くあり、たも網ですくうことは無理。ルアーで釣ることになるが、可奈と沙奈が大喜びで、釣れたら大騒ぎ、釣れなくても大騒ぎとなった。
ニジマス、サクラマス、ヤマメ、イワナが釣れた。
沙奈が50センチ級のカワカマスをヒットし、大騒ぎとなった。とても嬉しかったらしく、いつまでもはしゃいでいた。
この実は施設の食堂で、コメと小麦粉を見つける。施設の規模にしては大量で、30キロのコメ袋が6。大収穫だ。小麦粉は1キロが5袋。不足し始めていた調味料も確保できた。
ここにしばらく滞在する選択もあったが、この実が「危険な感じがする」と主張。
彼女のカンを受け入れて、2日目の夕方に移動することにした。
山間の道を1500メートルほど登ると、未舗装の側道を見つける。未舗装路の周囲は柿園で、樹木の間隔はかなり粗い。下草も低い、踝が隠れるくらいだ。
大量のカキを収穫できる。渋抜きをしなければならないが……。
川に沿っているので、水も手に入る。
周囲に人家がない。つまり、死人も生人もいない。だが、完全に無人な地域ではない。周囲を囲む防護に役立つ障害物がない。
バラクーダを止め、瑛太が迷う。
この実が提案。
「今晩は、ここですごそうよ」
瑛太は反対したかったが、この実の意見を受け入れる。反対の理由はいろいろあるが、論拠としては弱い。
その夜、瑛太は4時間、この実は3時間ほどしか眠れなかった。
この実もこの場所が安全だとは思えなかった。彼女は柿狩りを含めて、遊び疲れていた可奈と沙奈を気遣って、早めのキャンプをしたかった。
翌日は山間の県道や林道、旧道をたどって、日光に向かう。
10時間かかって、今市の南に達した。
この日も路側の少し広い場所での仮眠となった。
今市や日光の中心部を避けて、国道122号に出て、一気に霧降高原を目指す。市街を走るので、緊張が走る。
死人は確実にいるし、生人もいるかもしれない。瑛太たちには、どちらも恐ろしい存在。生人に出くわせば、物資を奪われるだけでなく、生命まで取られる可能性がある。楽には死ねないことも多い。可奈や沙奈のように、死人の生き餌に使われることも。
ここで道を間違えた。
稲荷川を渡ってから、稲荷川左岸を遡らなければいけないのに、右岸の道を進んでしまった。
間違いに気付いたのは、砂防ダムに行き当たり、道が消えたからだ。
可奈が「ここ何ぃ?」と楽しそうな声を出す。
この実が「間違えちゃったよ。かなり走ったのにぃ」と涙声。
沙奈が「降りてもいい?」とソワソワ。
瑛太が「ちょっと待ってね」と調べに降りる。この実が続く。
仮設を含めて、建物はない。使い込んだダンプが1台。パワーショベルが2台あるだけ。ヒトの気配は皆無。死人も生人もいない。
この実が車体側面のドアを開ける。
「降りていいよ。
だけど、クルマが見える範囲だけ」
とは言ったが川の周辺は広大。
川岸まで100メートル。対岸まで150メートル。見渡す限りが遊び場だ。
「雨さえ降らなければ安全だ」
瑛太がそう言うと、沙奈が空を見る。
「青空だよぉ」
この実が可奈と沙奈に「行こ」と声をかけ、川の流れに向かう。
瑛太は、果樹園で手に入れた柿の渋抜きを始める。幸運なら、ナシやミカンが手に入ることもあるが、この季節は渋柿が入手しやすい。
柿渋は35度の焼酎で抜けると聞いていたが、25度しかない。だから、ウォッカで試す。ウォッカを使ったことはないが、ジンはある。やり方は知っている。
そういう知識がなければ、生き残れない世界なのだ。
3人がポリバケツに川の水を汲んできた。それを布で濾過しながら20リットルのポリタンクに移す。
可奈と沙奈は、少し上流の川岸に向かう。2人とも楽しそうだ。
瑛太が「ここなら4日か5日いられる」と提案すると、この実が「そうだね。緊張が続いて、少し疲れた」と言った。
実際、瑛太も疲れを感じていた。
トレーラーのルーフに固定装備されているターフを延ばす。初めて使う装備だ。
テーブルと椅子を出し、ターフの下に食卓を整える。
可奈と沙奈がその様子に気付き、走り戻ってくる。
湯を沸かし、紅茶を入れる。
可奈が「パンケーキ食べたい」とねだる。穏やかな時間が始まる。
2日目、瑛太はダンプとパワーショベルを調べる。ボンネットのダンプにはナンバーがない。廃車なのかもしれないが、タイヤにはエアが残っている。
タンクを叩くと、燃料が入っている。運転席を覗くとキーがない。試しにタンクのキャップを回してみる。簡単に回る。
棒を差し込むと、濁りのない液体が付着した。
灯油用電動ポンプを刺し込み、ジェリカンに移す。
20リットル+10リットルほど確保。劣化はあるだろうが、使えない様子ではない。
パワーショベル2台にも軽油が残っていた。他のジェリカンの軽油をバラクーダに補給し、空になったジェリカンにパワーショベルのタンクから移し替える。
すべてを確保できなかったが、十分な量を補充できた。
エンジン発電機を回して、ポータブル電源に充電を始める。ここ数日、冷蔵庫以外は完全な節電状態だった。
ここならエンジン音がしても、死人を呼ばない。生人にも聞こえない。
食糧があることから、この砂防ダムには1カ月も逗留してしまった。
すでに晩秋を過ぎ、初冬になっていた。
何度か雨は降ったが、川が氾濫することはなかった。
この日の朝、瑛太が提案する。
「雪が降る前に、ここを出よう」
この実はこの日が来ることを知っていたし、可奈や沙奈も理解していた。
だけど、反対したい気持ちもある。
口に出さないだけだ。
ターフをたたみ、テーブルと椅子をしまうと、可奈と沙奈が走り戻ってきた。
「何かいるよ!」
可奈がそう告げ、沙奈は瑛太の背に隠れる。
瑛太が双眼鏡を覗く。
双眼鏡をこの実に渡し、方向を指差す。
「あれ、何?」
「トラだ」
「トラ?
日本にいたっけ?」
「たぶん、動物園とかから逃げたんだ。
シカとかが多いから、獲物には困らない。
俺たち以上に食料事情はいいんじゃないか。
クマは想定内だけど、トラは想定外だ。
撤収決定後だから、タイミングはよかった」
沙奈が「襲ってくるぅ?」と問い、瑛太が「もう出発するから、大丈夫だよ」となだめる。
2人がこの実に促されて、バラクーダに乗る。
瑛太がバラクーダとトレーラーを連結し、運転席によじ登る。忘れ物の有無を確認し終えたこの実は助手席へ。
同時に、積もりそうにない細かな雪が舞う。
霧降高原には向かわず、大谷川北岸を東に進む。放置された車輌は多いが、進行を止められるほどではない。減速を強いられる程度。
国道に出る。
横須賀を発ってから、初めて国道を長時間走る計画だった。
国道沿いに大型スーパーがあり、この実が物資の補給を望んだが、瑛太が反対する。街が大きいので、死人を見かけるし、生人もいるはず。
危険すぎる。
衣料、寝具は十分にある。燃料もある。食糧のうち、ホットケーキミックス、調味料関係、植物性の食品が欠乏状態。
いままでの経験から、スーパーよりも飲食店のほうが確保しやすい。
コメや小麦粉、調味料を大量に保有している。
「鬼怒川まで行こう。
物資調達にはグッドサイズの街だ」
この実は反対しなかった。
最初はチェーンのファミレス、昼食にも夕食にもどちらにも不適切な時間にゾンビ事変が起きたので、店内にはコーヒー目当ての客くらいしかいなかったはず。
この考えはあたっていて、ファミレスは都合のいい物資調達場所だ。過去には、一斗缶の醤油や420グラム缶のコショウ、10キロのマヨネーズなどを手に入れている。
ファミレスには店員らしい死人が1体。瑛太がコンパウンドボウで倒す。
めぼしい物資を瑛太が店外に出し、この実がバラクーダに運ぶ。
可奈はルーフで遠方を監視、沙奈は車内で見張り。
瑛太はこの作業を5分で切り上げる。彼のルールだ。物資調達は5分以内と決めている。 ほしいものが手に入った。コメ60キロ、醤油18リットル、サラダオイル18リットル、ごま油18リットル、瓶入りマヨネーズ合計4キロ、コショウ、ドレッシング、砂糖、塩、その他未使用業務用食品多数。
次はうどん屋か蕎麦屋を狙う。干しシイタケ、昆布、鰹節、みりんが狙い目。過去には乾燥ホタテの貝柱を手に入れたこともある。
この実がガイドブックで調べた蕎麦屋を目当てに、国道から離れる。
想像していたよりは小さな店だったが、小規模店舗のほうが都合がいい。死人に出くわす可能性が低いからだ。
店は小さいが収穫は大きかった。大量の干しシイタケ、昆布、削り節、みりん、清酒、切り干し大根、高野豆腐を手に入れる。
30キロの蕎麦粉を9袋。小麦粉は3袋。
瓶ビールもあったが、これはトレーラーへ。8ケースを運び込む。
国道に戻って北上を続ける。
この実が「十分じゃん」と喜ぶが、瑛太は違った。
「これから冬になる。
冬の間、3カ月から4カ月分の食糧がいる。それと、厳冬期になる前に羽鳥湖まで行きたい」
この実は、瑛太がホワイトベースを諦めていないことに気持ちが沈む。
彼女は心の中で「サンクチュアリなんてないよ」と呟いていた。
この実が「見て!」と指差す。
瑛太はこの実がスーパーを見つけただけだと感じた。一応、減速する。
この実が見つけたのはスーパーの前に止めてある自衛隊の車輌だった。
「あれ、自衛隊のクルマでしょ」
「あぁ、本当だ。自衛隊の軽装甲機動車だ」
バラクーダを止め、様子をうかがう。2人の男性が店から転げ出てきた。
1人は手斧、1人は日本刀で、死人と戦っている。
瑛太はこういう場合、手助けしない。だが、自衛隊なら何か情報を知っているかもしれない。しかも2人。油断しなければ、どうにかなる。
スーパーの前までバラクーダを進め、瑛太が車外に出る。この実が続く。
完全に劣勢だった2人の男性は、瑛太がコンパウンドボウで、この実が手槍で助勢すると、体勢を立て直した。
1人がスーパーのドアを閉め、死人がこれ以上出てこないようにし、店外に出てしまった8体の死人を倒す。
「助かったよ。
ありがとう。
俺は椋木陽人」
「真藤瑛太」
「感謝する。真藤さん。
お姉さんにも」
瑛太は「自衛官ですか?」とは尋ねなかった。どう見ても成人ではない。
この実がバラクーダに戻っていく。
いい判断だ。彼女はバラクーダの運転席に入った。
トヨタ製の大型ピックアップが駐車場に入ってきた。
4人が降りてくる。
6対1。
瑛太が不利。絶対的不利。瑛太はミスを認めていた。こういう場合の行動は決めている。
この実は瑛太を見捨てる。
それが合理的な判断だ。
「こちら、真藤さん。
偵察隊の隊長の向田未来」
向田は体格がいい。1対1でも瑛太の負け。
「向田です。
助けていただいてありがとうございます」
丁寧な挨拶と、体格と顔つきがアンバランスだ。
向田が説明する。
「偵察と物資の調達で、ここまで来たのですが、ミスをしてしまいました」
女性が1人いる。彼女も若い。
「これ、ベーコン。
お礼です。
よく焼いて食べてください。新鮮なイノブタの肉で作りました」
1キロはある真空パックのベーコンを差し出されて、瑛太が驚く。
「こちらは、差し上げられるものがなくて……」
「お姉ちゃん、様子がヘンだよ」
「お兄ちゃん、何かもらったよ」
可奈と沙奈が同時に説明する。運転席からでは、よく見えない。
瑛太が戻ってきた。
「ベーコン、もらった」
この実が驚く。
「ウッソ!」
瑛太がトレーラーに向かう。
彼がスーパーの駐車場に走って戻る。
「これは、渋抜き中のカキです。
あと、2日で食べられます」
未来が驚く。
「こんなにたくさん、いいんですか?」
1人が「カキなんてしばらく食ってねぇよ」と。
もう1人が「おまえ、柿と牡蠣の区別もできねぇだろ」とからかう。
未来が質問する。
「どちらから?」
瑛太が南を指差す。
「どちらへ?」
瑛太が北を指差す。
未来が「気を付けて」と言い、瑛太は「あなたたちも」と伝えた。
助手席の瑛太は、30分後に驚愕する。
無線を傍受したからだ。
[ホワイトベースへ、定時連絡、鬼怒川のスーパーでゾンビと接触。
全員無事。
キャンピングカーを牽引する装甲車と遭遇]
この実が「私たちのことだよね」と言い、可奈が「私たち有名?」と騒ぎ、沙奈は「はやくベーコン食べようよ」とせがむ。
この実は「悪いヒトたちではないかもしれないけど……」と不安げに言った。
瑛太は「悪人じゃない」と言い切った。
この実が「どうしてそう思うの?」と尋ねる。
「相手は6人。
相応に戦い慣れしている。
俺は1人。制圧しようと思えば簡単だ。
物資の調達に来ていると言っていた。俺たちから奪うこともできたが、そうはしなかったし、そうしようとも考えていなかった。
それだけで、十分善人だよ」
瑛太たちは阿賀川沿いの水田の一角でキャンプし、翌早朝、会津田島を経由して羽鳥湖を目指す。
瑛太は大幅に予想が狂う。
羽鳥湖周辺は他のダム湖同様、閑散としていて死人も生人も少ないと考えていた。
ところが、死人が多い。空き地、道路、屋内にもいる。音という刺激がなければ、無期限に立ち続ける。
ここに生人がいるはずはない。
彷徨う屍の世界だ。
湖を一周する間、横須賀でもないほどの発見率で死人を見かける。
だが、この実が別のことに気付く。
「死人が多いけど、倒れてる死人も多いね。誰かが倒したんだ」
「いままでは倒れた死人はほとんど見ないから、手慣れた連中がいるんだろうな」
「誰かいるね」
「あぁ」
「どうする?
瑛太」
「どこかに隠れて様子をうかがう……。
でも、湖周辺はダメだ。ここは危険すぎる。
少し離れよう」
「途中にスキー場があった」
「そこに行ってみよう」
リフトが1本、コースが3つの小さなスキー場で、レストハウスが1棟。
ゾンビ事変の時期はシーズンが終わっていただろうから営業していなかったはず。通年のリゾートではないから、無人であった可能性が高い。
ここに隠れることにする。
長期滞在を前提に、ポータブルバスタブを設置する。水はポンプに通電すれば蛇口から出てくる。
ここは安全なので、可奈と沙奈は遊び回っている。
瑛太は周辺を偵察するための車輌を物色するために、近くの集落に徒歩で向かう。
3キロほどなので、危険を感じていなかった。
郵便局の前で、キーが付いたままの軽バンを発見。これが4WDだったので、確保する。
ジャンプスターターを使ったので、エンジンは簡単に始動した。
2カ月から3カ月の滞在を前提に、準備を進める。
もうすぐクリスマスだというのに雪が降らない。雨だ。動きやすいが、死人も動きやすい。
この日、トレーラーをスキー場に置いて、バラクーダで羽鳥湖まで偵察に向かう。可奈と沙奈は「いつも4人一緒」を望むので、同行する。
羽鳥湖は何度も偵察している。
そして、変化に気付く。以前はなかった倒れた死人がいたり、アーチェリーの矢が森の木に刺さっていたり、放置車を動かした形跡があったり。
つまり、頻繁に誰かが羽鳥湖周辺に来ている。
瑛太は、そう確信していた。
だが、この実は「そのヒトたちがホワイトベースとは限らないでしょ」と反論できない意見を言う。
岸辺芭蕉は、どうすべきか迷った。
鬼丸莉子が「動かないで」と小声で言った。動いても、動かなくても、結果は同じ。ここにいる誰かが襲われる。
体重1000キロ級の巨大イノブタが現れた。
通常サイズのイノシシは50キロから150キロほど。ブタは200キロほどになる。両種が自然交配したイノブタは、変異種を生み出しやすく、芭蕉が対峙してしまったイノブタはウシ並みの体格をしている。
そして、どう見ても凶暴。
莉子は弓を捨て、45口径の自動拳銃を構えるが、拳銃弾で倒せる相手ではない。突進されたら、8発撃ち込んでも、止められない。
芭蕉は、ハンティングナイフを手にしているだけ。
この実は道路に立つ死人を見ているが、その動かない姿が死人ではないことに気付くまで、30秒を要した。
生存者だと判断した理由は、手に何かを持っているからだ。死人は道具を使わない。
生存者が後退りする。生存者は、この実たちに気付いていない。
何かの頭が見えた。
「怪物よ」
助手席の瑛太が身を乗り出す。
「何だ!
あれ?
ブタか?」
「ウシよ」
「いや、ブタだ」
「どうする?」
「あのヒトをブタに食わせるわけにはいかないだろう」
「どうするの?
あんなの倒せないよぅ」
「体当たりしろ」
「えっ?」
「バラクーダで体当たりするんだ。
驚いて逃げるさ。
俺は外に出る。できれば、手負いにせずに、仕留める」
瑛太がモスバーグを手にする。
「気を付けて」
「この実もな。
きっちりぶつかれよ」
「怖いよ」
瑛太が微笑む。
「俺が出てから、15秒待て」
瑛太はバラクーダの背後につく。
バラクーダが加速する。
瑛太が置いていかれるが、モスバーグを構えて走り出す。
芭蕉は覚悟を決めた。娘のことを思い出す。
心残りは、娘のことだけ。
この実はブタにぶつかるときの衝撃が理解できない。可奈と沙奈も気になる。
だから、アクセルの踏み込みは弱く、横っ腹に衝突する直前、ブレーキを踏んだ。
それでも10トン超の鉄塊の衝撃は凄まじく、巨大イノブタを押し出した。跳ね飛ばしたのではなく、押しただけ。
巨大生物は、4回横転する。
芭蕉は、突然眼前が鋼鉄の壁になったことに驚く。
瑛太が突進する。
立ち上がった巨大イノブタに、12ゲージの巨大鉛弾を撃ち込む。
5発発射すると、巨大イノブタは蹲ったがまだ生きている。至近から後頭部に38口径拳銃弾を発射する。
莉子も加わり、45口径弾を8発発射。
瑛太も莉子も肩で息をする。
4人の若い男性が泣いている。中学生くらいか?
銃声に反応した死人が集まってくる。
すると、泣いていた男性たちが、弓矢で死人を阻止していく。
瑛太が莉子に「逃げたほうがいい」と伝えると、彼女が微笑む。
「おじさん、助けてくれてありがとう。
だけどこんな大物、置いていけないよ」
「生命のほうが大事だ」
「食べ物も大事でしょ」
芭蕉が瑛太に近付く。
「助けてくれて、感謝しかない……。
私は、岸辺芭蕉。
料理人です」
「あっ、逃げないんですか?
俺は、真藤瑛太です」
「逃げませんよ。
たいした数じゃない」
4トントラックが来た。
アウトリガーを延ばして車体を固定し、クレーンで巨大イノブタを吊り上げる。
瑛太が「じゃぁ、これで」と挨拶。
芭蕉が「何かあったら、このチャンネルで交信して」と走り書きのメモを渡す。
瑛太が受け取る。
莉子が「おじさん、感謝だよ」と。
莉子は、明らかに瑛太と同年代だ。
「あのヒトたちが、ホワイトベースだ」
瑛太の予想にこの実も同意。
「絶対にそうだよ」
折りたたみ浴槽が壊れてしまった。
寒さは厳しくなっている。
瑛太は、風呂が利用できそうな施設を探していた。
危険な作業なので、施設に入るのは彼1人だ。
鶴沼川河畔にたたずむ高級温泉宿を探査するが、風呂を復旧することは瑛太には不可能だった。
落胆した瑛太が振り向くと、死人がいた。
無音で近付かれた。
不意打ちだった。襲われて、左手で防御し、右手で拳銃を撃つ。
パン、パン。
拳銃音が2発。
この実が車外に飛び出す。
可奈と沙奈が抱き合う。
瑛太が出てきた。
「噛まれた」
瑛太が右手の甲を見せる。
「この実、俺のいうことをよく聞くんだ。
噛まれた以上、どうにもならない。
ここにとどまらず、3人で安全な場所を探すんだ」
この実は泣いていたが、狼狽えてはいなかった。
「私が何とかする」
彼女はそう言うと、車内に戻る。
[ホワイトベース、聞こえますか!
私は鮎村この実です。
大きなブタを仕留めたヒトたち、聞こえますか?]
教えられたチャンネルで交信する。
桂木良平は、装甲車の4人家族について、2回報告を受けていた。無線を受信したとの報告を受け、無線棟に走る。
通信担当は、指示がないので往信していなかった。
ヘッドセットを受け取ると、子供の声が飛び込んできた。
[お願い!
助けて!
噛まれちゃったよう]
[ホワイトベースだ。
スーパーとリゾートで、仲間を助けてくれた家族か?]
[わからない。
そうかもしれない]
[TM-170に乗っているヒトか?]
[そうだと思う。私たちはバラクーダと呼んでるけど……]
[どこにいる?]
場所は伝えたくない。傍受している別のグループがいるかもしれないからだ。
しかし、危険は承知だった。
[ブタをやっつけたところに行くけど、それでいい?]
[わかった。
すぐ向かえ。我々もすぐに行く]
変異する時間がわかっていなかった。
だから、瑛太は「俺をここに置いていけ」と言った。
バラクーダに乗る気など、さらさらない。 この実はスキー場に戻り、トレーラーを牽引して戻ってきた。
テーブルや椅子などの物資は、放棄した。
瑛太は温泉宿の駐車場から離れようとも考えたが、そうすればこの実は必死で探す。そのときが危険だ。
変異した姿を見られたくはないが、行方をくらますことは、逆にこの実たちを危険にさらすことになりかねない。
だから、とどまった。
「トレーラーに乗って」
瑛太はこの実の指示に従った。
巨大イノブタを仕留めた場所には、ピックアップトラックが待っていた。
「俺は、桂木良平。
彼は、岸辺芭蕉」
「ここで会いましたね」
「鮎村この実です。
瑛太はトレーラーに乗っています」
良平と芭蕉が顔を見合わす。
良平が「なぜ?」と尋ねる。
この実が「いつ、変異するかわからないから」と答える。
芭蕉が「いつ、噛まれましたか?」と尋ね、この実が「1時間半前」と答える。
良平が「どこを?」と尋ねる。
この実が「左の手」と。
2人が微笑む。
芭蕉が説明する。
「その場所なら噛まれてから72時間は変異しませんよ。
だけど、治療は一刻を争うんです。噛まれてからの時間が短いほど、回復が早くなります」
「治るんですか?」
良平が「場合によっては。完全じゃないけど、可能性はあるんです」と答える。
この実が「お願いです。助けてください。私には大切なヒトなんです」と懇願する。
芭蕉が「ではついてきてください」と言い、ピックアップに乗り込む。
山道を登ってい行く。
可奈が「どこに行くのぉ?」と尋ね、この実は「猪苗代湖に向かっているね」と答える。
峠の最高点でピックアップが止まる。
茂みから何人もが出てきて、道を隠す擬装を取り除く。
ピックアップが未舗装路に入り、この実も続く。
瑛太は、噛まれた手の甲が痛くてたまらず、消毒のつもりでウォッカを洗面器に入れ手を浸けた。痛すぎて、しみる感覚さえない。
トレーラーから降ろされ、プレハブ小屋のベッドに寝かされ、右手と両足を固定された。
この実は、プレハブ小屋に入れない。小屋には赤十字が描かれている。
野次馬が集まっている。
中年の女性が声をかけてくれた。
「真琴先生、千晶先生、桃利先生がついているから大丈夫よ」
「お医者さんですか?」
小学生くらいの男の子が教えてくれる。
「違うよ。
悪のバイオ科学者、残酷な看護師、意地悪な獣医さんだ」
子供たちが「そうだ、そうだ」と騒ぎ、一部が「もっと優しくしろ!」と抗議の声を上げる。
同じくらいの子がいるので、可奈と沙奈も降りてきた。
女の子が「食べる?」と、1粒袋入りのキャンディをくれた。
可奈が「ありがとう」と答える。
この実は益子真琴から説明を受けている。
「真藤さんは、脳にウイルスが達する前に治療できました。
断言はできませんが、回復する可能性があります。生死の分水嶺は、噛まれてから48時間ですが、それよりもだいぶ早いので、治癒する可能性は十分にあります。
噛まれた傷が浅く、うつされたウイルスの数が少なかったことと、ウォッカに手を浸けたことはよかったと思います。
ウイルスを減らせたので……」
「助かるんですか?」
「断言はできませんが、可能性はあります」
「助けてください。
先生、お願いします」
「全力を尽くします」
診療棟に近付くことを許されなかったこともあり、この実は一睡もできなかった。
ただ、駐車スペースが指定され、トレーラーの連結を解除すると、電源の供給を受けることができた。
武器は取り上げられなかった。ただ、施設内での携帯は禁止された。
制限はそれだけ。
翌朝、この実は疲れてウトウトしていた。
トレーラーのドアがノックされる音で、緊張が走る。
ドアを開けると、女の子が4人。
「可奈ちゃん、沙奈ちゃん、ガッコ行こ」
この実が驚く。
「学校があるの?」
4人は当然のように頷く。
可奈と沙奈は着替え終わっていて、自分たちでパンを食べ終えていた。
可奈が「ランドセルないの」と言うと、1人の子が「みんなないよ」と。
沙奈が「教科書もないの」と伝えると、別の子が「学校にあるよ」と。
可奈と沙奈がこの実を見る。
この実が頷くと、靴を履いて飛び出していく。
子供には子供の社会があり、それに適応することは困難を伴う。子供であるこの実は、よく理解していた。
一緒に行くべきかとも考えたが、可奈と沙奈に任せる。だめなら、帰ってくるはず。この集団の実体もわかる。
朝早いが、この実は診療棟に向かう。
加納千晶から説明を受ける。
「安定しています。
意識もはっきりしています。
発熱していますが、これはワクチンの副反応で、誰でもなります。
いまのところは、心配する状態ではありません。ですが、予断は禁物です」
この実は、心臓が止まりそうだった。
泣くしかできない。自分の無力を思い知らされる。
学校から帰ってきた可奈と沙奈は、ニコニコしている。
学校で他の子から「噛まれても死んだヒトなんていないよ。陽人くんだって助かったし」と聞いてきたからだ。
それに、学校は楽しかったらしい。
教科書は貸与だそうだが、受け取ってきた。
正式の入学のために、事務の女性から「お母さんに来てもらってね」と言われた。
この実は「お母さん?」でパニックになる。
「あぁ、私は保護者なんだ」
改めて自覚する。
この実が瑛太と会えたのは、診療棟に収容されてから1週間後だった。
瑛太は微熱が続いているものの、見かけは正常に見えた。変異していない。
「大丈夫?」
「あぁ、まだ正気みたいだ。
先生はもう変異しないと言っていた」
「私も聞いた」
「だけど、退院は簡単じゃないらしい。
前に噛まれたヒトは、完治まで6カ月もかかったそうだ」
「仕方ないよ」
「あぁ、俺もそう思う。
だけど、その間、どうやって食っていくんだ。食糧の調達はどうする?」
瑛太らしい心配だが、この実が話題を変える。
「可奈と沙奈は、毎日学校に行っている。
私は、調理の仕事をもらったから……」
「そうなのか?
ごめん。ちょっと油断したんだ」
3人ともイヤなことないか?」
「可奈と沙奈は、毎日学校に走って行ってる。
私は、頑張ってる。
イヤなことはない。親切にしてもらっている。回覧板も回ってくるし……」
「そうなのか?」
この実は、数人のヒトを前に緊張している。このグループの指導者たちだ。14歳のこの実には、耐えがたいほどの圧力だった。
「これから、正式に住民になっていただくための聞き取りを始めます」
「はい」
「お名前は?」
「鮎村この実です」
「年齢は?」
「14歳です」
全員が度肝を抜かれる。
「えっ、じゃぁ、真藤瑛太さんは?」
「17歳です。今年、18歳になります」
「驚いたな。
2人は20歳代だと思っていた。
2人とも未成年だから、無条件に保護するけど、それでいい?」
「はい……?」
「ヒトを殺したことは?」
「死人以外では、撃ったことはあります。死んだかどうかはわかりません」
「どこから来たの?」
「出発地は横須賀です」
「東京を通った?」
「いいえ、不可能です」
「ではどうやって?」
「東京湾を渡りました」
「船で?」
「いいえ、バラクーダで」
「まったく、驚かされてばかりだね」
神薙太郎が発言。
「こっちから、仲間になってもらいたいよ。
あなたたち家族はたくましすぎる。
たいしたもんだ」
「正式なメンバーとすることに反対の方はいる?」
椎名総司が発言。
「いるはずないでしょ」
「今日から、あなたたち家族は、正式に私たちの仲間です。
ルールを守って生活してください」
この実は泣いた。
「ありがとう」
4人の生存を賭けたギリギリの戦いが終わった。
最初は通信の内容で探ったのだが、わかったことは「雪が降る、寒いところ」だった。
そんな場所は、日本中にある。ただ、会話の内容から北海道ではないことが推測できた。
理由は、南岸、北岸、東岸、西岸という言葉が頻発すること。東岸から西岸に移動するのに30分から40分かかるようで、現在の道路事情から平均時速20キロから30キロで計算すると、距離は10キロから20キロ。
そんな大きい湖は北海道にはない。
候補は3つ。琵琶湖、霞ヶ浦、猪苗代湖だ。電波の強弱から霞ヶ浦を除外。琵琶湖の外周は90キロ以上あるから、大きすぎて除外。
消去法で猪苗代湖ではないかと推測していた。
次にテレビアンテナを利用して、方向探知を試みた。九十九里の隠れ家で調べた方向と銚子で調べた方向とを地図上に線引きすると、猪苗代湖南岸のやや南で交差した。
交点の近くに羽鳥湖がある。
確信はないが「羽鳥湖の近くにホワイトベースがある」と、推測する。羽鳥湖をガイドブックで調べると、キャンプ場、コテージ、ホテル、スキー場などがある。
そして、大量の真水。
安全な飲料水の確保に汲々としている瑛太たちにとって、魅力に感じた。
銚子の隠れ家には、4トントラックと軽トラが残置されていた。キーは付いたままだった。車内に死人はいない。
軽油とガソリンの補給ができた。バラクーダは満タン、車体後部に取り付けたガソリン用ジェリカン2缶も満タンだ。
飲料水も作ったが10日分程度。どこかで補充しなければならない。
銚子大橋は、拍子抜けするほど車輌数が少なかった。千葉方向のほうが少なく、瑛太は逆走するように利根川を渡る。
利根川北岸に沿って走り、外浪逆浦の東岸でクルマを止める。進行方向左は外浪逆浦、右は放棄された水田。背の高い雑草が広がる。道の位置が周囲よりも少し高いので、視界はいい。
ここで、瑛太がバラクーダを止め、エンジンを切る。
説明を始める。
「猪苗代湖の南に羽鳥湖というダム湖がある」
瑛太が、この実、可奈、沙奈に地図を示す。「この付近に大きなヒトのグループがある」
この実が眉間に皺を寄せる。
「何人くらい?
10人とか?」
瑛太の顔が引き締まる。
「数十人以上、数百人かもしれない」
この実が驚く。
「信じられないよ」
瑛太は、その点については確信があった。
「間違いない。
複数の偵察隊を同時に派遣できるんだ。人数がいなければ、できないよ。
それと、病院や学校があるらしい」
可奈と沙奈が学校に反応。
「本当?」
「ランドセル、盗られちゃったよ」
この実は半信半疑どころか、与太話だと思っている。
「善人とは限らないでしょ」
瑛太が頷く。
「あぁ、俺も心配しているよ。
飛んで火に入る何とかになっちゃうんじゃないかって。
だから、観察しないと、とは思っている。
だけど、このまま4人で旅を続けていくのは、難しいんじゃないかな。
生きているヒトはどうにかなっても、いつかは死人に追い詰められる」
この意見には、この実も賛成だった。
「私もそう思うよ。
だから、安全な隠れ家を探しているんじゃん。これからも4人でいいじゃん」
瑛太が「隣近所もなく?」と尋ねる。
この実が黙る。
瑛太が続ける。
「その人たちの基地というか、拠点というか、村というか、はホワイトベースっていうんだ」
瑛太はアニメオタクだが、3人は違う。その名の意味がわからない。
「ガンダムの主人公が乗っていた宇宙戦艦の名前だ」
この実が呆れる。
「だからいいヒトだって?」
「いや違う。
世代が上だってことだよ。俺たちの世代じゃない。30歳とか、40歳とか、50歳かもしれない。
何層かの世代がいるみたいなんだ。
つまり、同種のヒトたちの均質な集団じゃない。
小さいけどヒトの社会だよ」
この実は得心がいかない。
しかし、可奈と沙奈は違った。
「学校、行きたいな」
「ランドセル、どうするの?
教科書もないよ」
瑛太がこの実に「羽鳥湖に行ってみよう」と促す。
この実は「あてはないし、そうしよう。悪いヒトなら、逃げればいいし……」
4人の当面の行き先が決まった。
房総半島と同じく、利根川以北でも国道は使わず、県道や市町村道をたどって南東北を目指す。
北上を始めた初日は40キロほど走行し、霞ヶ浦の北端付近まで進んだ。
キャンプに適した場所がなく、水田の真ん中を通る農道で夜明かしの支度を始める。
夕食はトレーラー内で、4人で食べた。すでに、肉、魚、野菜はなく、ご飯、海苔、ふりかけのさみしい食卓になっていた。
コメの消費量も気になる。瑛太とこの実は、不安から食べる量を減らしてしまう。
この実が瑛太に茨城のガイドブックを見せる。
「この釣り堀、ここから近くない?」
瑛太が誌面を凝視する。
「本当だ。
近いと思う。山の中だから、安全かも」
可奈と沙奈は、食べ物の話題には加わらない。瑛太とこの実の苦悩を知っているからだ。「行ってみる?」
「あぁ、養老渓谷では上手くいった。
期待しちゃうよ」
可奈と沙奈が顔を見合わせ微笑む。
3人はトレーラーで寝たが、瑛太は用心してバラクーダの中で休む。
この実とは無線でつながっていて、交代で寝る。2人のうち、どちらかは必ず起きている。そういうルールにしている。
翌朝早くに出発、実走18キロで釣り堀に着いた。施設はフェンスで囲われていて、ゲートは閉じられていたが、瑛太が上手に開け、そして締める。
「お魚がいるよ!」
沙奈が叫ぶ。
池は2つ。水は澄んではいないが、魚影が見える。1年半以上ヒトの管理がないはずだが、魚体の形はいい。ヒトがエサを与えなくても、自然の虫などを食べているのだろう。 死骸も浮いてはいるが、数尾だ。
たも網は、養老渓谷から持ってきた。釣り竿もある。
ニジマスを狙っているが、サクラマスも大歓迎だ。
周囲にヒトの気配がないので、可奈と沙奈は遠慮なく声を出す。魚を捕らえるたびに、大喜びしてくれる。
ニジマスとサクラマス、それとサケ・マス科だろうけど、魚体の大きな魚が捕れた。
瑛太は今回、三枚に下ろし、身だけを燻製にすることにした。このほうができあがりが早い。
4日間で40尾を燻製にする。20尾は甘露煮にする。圧力鍋での甘露煮は、頭から尾まで使う。骨も頭も食べられる。
甘露煮係はこの実が引き受けた。
5日目の朝、この実が提案する。
「釣り堀をたどろうよ」
瑛太が受け入れ、可奈と沙奈が喜んだ。
栃木に入ると、永野川を遡り、山間の釣り堀に至る。池は1つ。周囲に人家はあるが、路上に死人の姿はない。永野川沿いの奥まった場所に止めれば、県道からは見えない。
これは、生人から隠れるには大事なことだ。
この釣り堀は周囲が500メートル近くあり、たも網ですくうことは無理。ルアーで釣ることになるが、可奈と沙奈が大喜びで、釣れたら大騒ぎ、釣れなくても大騒ぎとなった。
ニジマス、サクラマス、ヤマメ、イワナが釣れた。
沙奈が50センチ級のカワカマスをヒットし、大騒ぎとなった。とても嬉しかったらしく、いつまでもはしゃいでいた。
この実は施設の食堂で、コメと小麦粉を見つける。施設の規模にしては大量で、30キロのコメ袋が6。大収穫だ。小麦粉は1キロが5袋。不足し始めていた調味料も確保できた。
ここにしばらく滞在する選択もあったが、この実が「危険な感じがする」と主張。
彼女のカンを受け入れて、2日目の夕方に移動することにした。
山間の道を1500メートルほど登ると、未舗装の側道を見つける。未舗装路の周囲は柿園で、樹木の間隔はかなり粗い。下草も低い、踝が隠れるくらいだ。
大量のカキを収穫できる。渋抜きをしなければならないが……。
川に沿っているので、水も手に入る。
周囲に人家がない。つまり、死人も生人もいない。だが、完全に無人な地域ではない。周囲を囲む防護に役立つ障害物がない。
バラクーダを止め、瑛太が迷う。
この実が提案。
「今晩は、ここですごそうよ」
瑛太は反対したかったが、この実の意見を受け入れる。反対の理由はいろいろあるが、論拠としては弱い。
その夜、瑛太は4時間、この実は3時間ほどしか眠れなかった。
この実もこの場所が安全だとは思えなかった。彼女は柿狩りを含めて、遊び疲れていた可奈と沙奈を気遣って、早めのキャンプをしたかった。
翌日は山間の県道や林道、旧道をたどって、日光に向かう。
10時間かかって、今市の南に達した。
この日も路側の少し広い場所での仮眠となった。
今市や日光の中心部を避けて、国道122号に出て、一気に霧降高原を目指す。市街を走るので、緊張が走る。
死人は確実にいるし、生人もいるかもしれない。瑛太たちには、どちらも恐ろしい存在。生人に出くわせば、物資を奪われるだけでなく、生命まで取られる可能性がある。楽には死ねないことも多い。可奈や沙奈のように、死人の生き餌に使われることも。
ここで道を間違えた。
稲荷川を渡ってから、稲荷川左岸を遡らなければいけないのに、右岸の道を進んでしまった。
間違いに気付いたのは、砂防ダムに行き当たり、道が消えたからだ。
可奈が「ここ何ぃ?」と楽しそうな声を出す。
この実が「間違えちゃったよ。かなり走ったのにぃ」と涙声。
沙奈が「降りてもいい?」とソワソワ。
瑛太が「ちょっと待ってね」と調べに降りる。この実が続く。
仮設を含めて、建物はない。使い込んだダンプが1台。パワーショベルが2台あるだけ。ヒトの気配は皆無。死人も生人もいない。
この実が車体側面のドアを開ける。
「降りていいよ。
だけど、クルマが見える範囲だけ」
とは言ったが川の周辺は広大。
川岸まで100メートル。対岸まで150メートル。見渡す限りが遊び場だ。
「雨さえ降らなければ安全だ」
瑛太がそう言うと、沙奈が空を見る。
「青空だよぉ」
この実が可奈と沙奈に「行こ」と声をかけ、川の流れに向かう。
瑛太は、果樹園で手に入れた柿の渋抜きを始める。幸運なら、ナシやミカンが手に入ることもあるが、この季節は渋柿が入手しやすい。
柿渋は35度の焼酎で抜けると聞いていたが、25度しかない。だから、ウォッカで試す。ウォッカを使ったことはないが、ジンはある。やり方は知っている。
そういう知識がなければ、生き残れない世界なのだ。
3人がポリバケツに川の水を汲んできた。それを布で濾過しながら20リットルのポリタンクに移す。
可奈と沙奈は、少し上流の川岸に向かう。2人とも楽しそうだ。
瑛太が「ここなら4日か5日いられる」と提案すると、この実が「そうだね。緊張が続いて、少し疲れた」と言った。
実際、瑛太も疲れを感じていた。
トレーラーのルーフに固定装備されているターフを延ばす。初めて使う装備だ。
テーブルと椅子を出し、ターフの下に食卓を整える。
可奈と沙奈がその様子に気付き、走り戻ってくる。
湯を沸かし、紅茶を入れる。
可奈が「パンケーキ食べたい」とねだる。穏やかな時間が始まる。
2日目、瑛太はダンプとパワーショベルを調べる。ボンネットのダンプにはナンバーがない。廃車なのかもしれないが、タイヤにはエアが残っている。
タンクを叩くと、燃料が入っている。運転席を覗くとキーがない。試しにタンクのキャップを回してみる。簡単に回る。
棒を差し込むと、濁りのない液体が付着した。
灯油用電動ポンプを刺し込み、ジェリカンに移す。
20リットル+10リットルほど確保。劣化はあるだろうが、使えない様子ではない。
パワーショベル2台にも軽油が残っていた。他のジェリカンの軽油をバラクーダに補給し、空になったジェリカンにパワーショベルのタンクから移し替える。
すべてを確保できなかったが、十分な量を補充できた。
エンジン発電機を回して、ポータブル電源に充電を始める。ここ数日、冷蔵庫以外は完全な節電状態だった。
ここならエンジン音がしても、死人を呼ばない。生人にも聞こえない。
食糧があることから、この砂防ダムには1カ月も逗留してしまった。
すでに晩秋を過ぎ、初冬になっていた。
何度か雨は降ったが、川が氾濫することはなかった。
この日の朝、瑛太が提案する。
「雪が降る前に、ここを出よう」
この実はこの日が来ることを知っていたし、可奈や沙奈も理解していた。
だけど、反対したい気持ちもある。
口に出さないだけだ。
ターフをたたみ、テーブルと椅子をしまうと、可奈と沙奈が走り戻ってきた。
「何かいるよ!」
可奈がそう告げ、沙奈は瑛太の背に隠れる。
瑛太が双眼鏡を覗く。
双眼鏡をこの実に渡し、方向を指差す。
「あれ、何?」
「トラだ」
「トラ?
日本にいたっけ?」
「たぶん、動物園とかから逃げたんだ。
シカとかが多いから、獲物には困らない。
俺たち以上に食料事情はいいんじゃないか。
クマは想定内だけど、トラは想定外だ。
撤収決定後だから、タイミングはよかった」
沙奈が「襲ってくるぅ?」と問い、瑛太が「もう出発するから、大丈夫だよ」となだめる。
2人がこの実に促されて、バラクーダに乗る。
瑛太がバラクーダとトレーラーを連結し、運転席によじ登る。忘れ物の有無を確認し終えたこの実は助手席へ。
同時に、積もりそうにない細かな雪が舞う。
霧降高原には向かわず、大谷川北岸を東に進む。放置された車輌は多いが、進行を止められるほどではない。減速を強いられる程度。
国道に出る。
横須賀を発ってから、初めて国道を長時間走る計画だった。
国道沿いに大型スーパーがあり、この実が物資の補給を望んだが、瑛太が反対する。街が大きいので、死人を見かけるし、生人もいるはず。
危険すぎる。
衣料、寝具は十分にある。燃料もある。食糧のうち、ホットケーキミックス、調味料関係、植物性の食品が欠乏状態。
いままでの経験から、スーパーよりも飲食店のほうが確保しやすい。
コメや小麦粉、調味料を大量に保有している。
「鬼怒川まで行こう。
物資調達にはグッドサイズの街だ」
この実は反対しなかった。
最初はチェーンのファミレス、昼食にも夕食にもどちらにも不適切な時間にゾンビ事変が起きたので、店内にはコーヒー目当ての客くらいしかいなかったはず。
この考えはあたっていて、ファミレスは都合のいい物資調達場所だ。過去には、一斗缶の醤油や420グラム缶のコショウ、10キロのマヨネーズなどを手に入れている。
ファミレスには店員らしい死人が1体。瑛太がコンパウンドボウで倒す。
めぼしい物資を瑛太が店外に出し、この実がバラクーダに運ぶ。
可奈はルーフで遠方を監視、沙奈は車内で見張り。
瑛太はこの作業を5分で切り上げる。彼のルールだ。物資調達は5分以内と決めている。 ほしいものが手に入った。コメ60キロ、醤油18リットル、サラダオイル18リットル、ごま油18リットル、瓶入りマヨネーズ合計4キロ、コショウ、ドレッシング、砂糖、塩、その他未使用業務用食品多数。
次はうどん屋か蕎麦屋を狙う。干しシイタケ、昆布、鰹節、みりんが狙い目。過去には乾燥ホタテの貝柱を手に入れたこともある。
この実がガイドブックで調べた蕎麦屋を目当てに、国道から離れる。
想像していたよりは小さな店だったが、小規模店舗のほうが都合がいい。死人に出くわす可能性が低いからだ。
店は小さいが収穫は大きかった。大量の干しシイタケ、昆布、削り節、みりん、清酒、切り干し大根、高野豆腐を手に入れる。
30キロの蕎麦粉を9袋。小麦粉は3袋。
瓶ビールもあったが、これはトレーラーへ。8ケースを運び込む。
国道に戻って北上を続ける。
この実が「十分じゃん」と喜ぶが、瑛太は違った。
「これから冬になる。
冬の間、3カ月から4カ月分の食糧がいる。それと、厳冬期になる前に羽鳥湖まで行きたい」
この実は、瑛太がホワイトベースを諦めていないことに気持ちが沈む。
彼女は心の中で「サンクチュアリなんてないよ」と呟いていた。
この実が「見て!」と指差す。
瑛太はこの実がスーパーを見つけただけだと感じた。一応、減速する。
この実が見つけたのはスーパーの前に止めてある自衛隊の車輌だった。
「あれ、自衛隊のクルマでしょ」
「あぁ、本当だ。自衛隊の軽装甲機動車だ」
バラクーダを止め、様子をうかがう。2人の男性が店から転げ出てきた。
1人は手斧、1人は日本刀で、死人と戦っている。
瑛太はこういう場合、手助けしない。だが、自衛隊なら何か情報を知っているかもしれない。しかも2人。油断しなければ、どうにかなる。
スーパーの前までバラクーダを進め、瑛太が車外に出る。この実が続く。
完全に劣勢だった2人の男性は、瑛太がコンパウンドボウで、この実が手槍で助勢すると、体勢を立て直した。
1人がスーパーのドアを閉め、死人がこれ以上出てこないようにし、店外に出てしまった8体の死人を倒す。
「助かったよ。
ありがとう。
俺は椋木陽人」
「真藤瑛太」
「感謝する。真藤さん。
お姉さんにも」
瑛太は「自衛官ですか?」とは尋ねなかった。どう見ても成人ではない。
この実がバラクーダに戻っていく。
いい判断だ。彼女はバラクーダの運転席に入った。
トヨタ製の大型ピックアップが駐車場に入ってきた。
4人が降りてくる。
6対1。
瑛太が不利。絶対的不利。瑛太はミスを認めていた。こういう場合の行動は決めている。
この実は瑛太を見捨てる。
それが合理的な判断だ。
「こちら、真藤さん。
偵察隊の隊長の向田未来」
向田は体格がいい。1対1でも瑛太の負け。
「向田です。
助けていただいてありがとうございます」
丁寧な挨拶と、体格と顔つきがアンバランスだ。
向田が説明する。
「偵察と物資の調達で、ここまで来たのですが、ミスをしてしまいました」
女性が1人いる。彼女も若い。
「これ、ベーコン。
お礼です。
よく焼いて食べてください。新鮮なイノブタの肉で作りました」
1キロはある真空パックのベーコンを差し出されて、瑛太が驚く。
「こちらは、差し上げられるものがなくて……」
「お姉ちゃん、様子がヘンだよ」
「お兄ちゃん、何かもらったよ」
可奈と沙奈が同時に説明する。運転席からでは、よく見えない。
瑛太が戻ってきた。
「ベーコン、もらった」
この実が驚く。
「ウッソ!」
瑛太がトレーラーに向かう。
彼がスーパーの駐車場に走って戻る。
「これは、渋抜き中のカキです。
あと、2日で食べられます」
未来が驚く。
「こんなにたくさん、いいんですか?」
1人が「カキなんてしばらく食ってねぇよ」と。
もう1人が「おまえ、柿と牡蠣の区別もできねぇだろ」とからかう。
未来が質問する。
「どちらから?」
瑛太が南を指差す。
「どちらへ?」
瑛太が北を指差す。
未来が「気を付けて」と言い、瑛太は「あなたたちも」と伝えた。
助手席の瑛太は、30分後に驚愕する。
無線を傍受したからだ。
[ホワイトベースへ、定時連絡、鬼怒川のスーパーでゾンビと接触。
全員無事。
キャンピングカーを牽引する装甲車と遭遇]
この実が「私たちのことだよね」と言い、可奈が「私たち有名?」と騒ぎ、沙奈は「はやくベーコン食べようよ」とせがむ。
この実は「悪いヒトたちではないかもしれないけど……」と不安げに言った。
瑛太は「悪人じゃない」と言い切った。
この実が「どうしてそう思うの?」と尋ねる。
「相手は6人。
相応に戦い慣れしている。
俺は1人。制圧しようと思えば簡単だ。
物資の調達に来ていると言っていた。俺たちから奪うこともできたが、そうはしなかったし、そうしようとも考えていなかった。
それだけで、十分善人だよ」
瑛太たちは阿賀川沿いの水田の一角でキャンプし、翌早朝、会津田島を経由して羽鳥湖を目指す。
瑛太は大幅に予想が狂う。
羽鳥湖周辺は他のダム湖同様、閑散としていて死人も生人も少ないと考えていた。
ところが、死人が多い。空き地、道路、屋内にもいる。音という刺激がなければ、無期限に立ち続ける。
ここに生人がいるはずはない。
彷徨う屍の世界だ。
湖を一周する間、横須賀でもないほどの発見率で死人を見かける。
だが、この実が別のことに気付く。
「死人が多いけど、倒れてる死人も多いね。誰かが倒したんだ」
「いままでは倒れた死人はほとんど見ないから、手慣れた連中がいるんだろうな」
「誰かいるね」
「あぁ」
「どうする?
瑛太」
「どこかに隠れて様子をうかがう……。
でも、湖周辺はダメだ。ここは危険すぎる。
少し離れよう」
「途中にスキー場があった」
「そこに行ってみよう」
リフトが1本、コースが3つの小さなスキー場で、レストハウスが1棟。
ゾンビ事変の時期はシーズンが終わっていただろうから営業していなかったはず。通年のリゾートではないから、無人であった可能性が高い。
ここに隠れることにする。
長期滞在を前提に、ポータブルバスタブを設置する。水はポンプに通電すれば蛇口から出てくる。
ここは安全なので、可奈と沙奈は遊び回っている。
瑛太は周辺を偵察するための車輌を物色するために、近くの集落に徒歩で向かう。
3キロほどなので、危険を感じていなかった。
郵便局の前で、キーが付いたままの軽バンを発見。これが4WDだったので、確保する。
ジャンプスターターを使ったので、エンジンは簡単に始動した。
2カ月から3カ月の滞在を前提に、準備を進める。
もうすぐクリスマスだというのに雪が降らない。雨だ。動きやすいが、死人も動きやすい。
この日、トレーラーをスキー場に置いて、バラクーダで羽鳥湖まで偵察に向かう。可奈と沙奈は「いつも4人一緒」を望むので、同行する。
羽鳥湖は何度も偵察している。
そして、変化に気付く。以前はなかった倒れた死人がいたり、アーチェリーの矢が森の木に刺さっていたり、放置車を動かした形跡があったり。
つまり、頻繁に誰かが羽鳥湖周辺に来ている。
瑛太は、そう確信していた。
だが、この実は「そのヒトたちがホワイトベースとは限らないでしょ」と反論できない意見を言う。
岸辺芭蕉は、どうすべきか迷った。
鬼丸莉子が「動かないで」と小声で言った。動いても、動かなくても、結果は同じ。ここにいる誰かが襲われる。
体重1000キロ級の巨大イノブタが現れた。
通常サイズのイノシシは50キロから150キロほど。ブタは200キロほどになる。両種が自然交配したイノブタは、変異種を生み出しやすく、芭蕉が対峙してしまったイノブタはウシ並みの体格をしている。
そして、どう見ても凶暴。
莉子は弓を捨て、45口径の自動拳銃を構えるが、拳銃弾で倒せる相手ではない。突進されたら、8発撃ち込んでも、止められない。
芭蕉は、ハンティングナイフを手にしているだけ。
この実は道路に立つ死人を見ているが、その動かない姿が死人ではないことに気付くまで、30秒を要した。
生存者だと判断した理由は、手に何かを持っているからだ。死人は道具を使わない。
生存者が後退りする。生存者は、この実たちに気付いていない。
何かの頭が見えた。
「怪物よ」
助手席の瑛太が身を乗り出す。
「何だ!
あれ?
ブタか?」
「ウシよ」
「いや、ブタだ」
「どうする?」
「あのヒトをブタに食わせるわけにはいかないだろう」
「どうするの?
あんなの倒せないよぅ」
「体当たりしろ」
「えっ?」
「バラクーダで体当たりするんだ。
驚いて逃げるさ。
俺は外に出る。できれば、手負いにせずに、仕留める」
瑛太がモスバーグを手にする。
「気を付けて」
「この実もな。
きっちりぶつかれよ」
「怖いよ」
瑛太が微笑む。
「俺が出てから、15秒待て」
瑛太はバラクーダの背後につく。
バラクーダが加速する。
瑛太が置いていかれるが、モスバーグを構えて走り出す。
芭蕉は覚悟を決めた。娘のことを思い出す。
心残りは、娘のことだけ。
この実はブタにぶつかるときの衝撃が理解できない。可奈と沙奈も気になる。
だから、アクセルの踏み込みは弱く、横っ腹に衝突する直前、ブレーキを踏んだ。
それでも10トン超の鉄塊の衝撃は凄まじく、巨大イノブタを押し出した。跳ね飛ばしたのではなく、押しただけ。
巨大生物は、4回横転する。
芭蕉は、突然眼前が鋼鉄の壁になったことに驚く。
瑛太が突進する。
立ち上がった巨大イノブタに、12ゲージの巨大鉛弾を撃ち込む。
5発発射すると、巨大イノブタは蹲ったがまだ生きている。至近から後頭部に38口径拳銃弾を発射する。
莉子も加わり、45口径弾を8発発射。
瑛太も莉子も肩で息をする。
4人の若い男性が泣いている。中学生くらいか?
銃声に反応した死人が集まってくる。
すると、泣いていた男性たちが、弓矢で死人を阻止していく。
瑛太が莉子に「逃げたほうがいい」と伝えると、彼女が微笑む。
「おじさん、助けてくれてありがとう。
だけどこんな大物、置いていけないよ」
「生命のほうが大事だ」
「食べ物も大事でしょ」
芭蕉が瑛太に近付く。
「助けてくれて、感謝しかない……。
私は、岸辺芭蕉。
料理人です」
「あっ、逃げないんですか?
俺は、真藤瑛太です」
「逃げませんよ。
たいした数じゃない」
4トントラックが来た。
アウトリガーを延ばして車体を固定し、クレーンで巨大イノブタを吊り上げる。
瑛太が「じゃぁ、これで」と挨拶。
芭蕉が「何かあったら、このチャンネルで交信して」と走り書きのメモを渡す。
瑛太が受け取る。
莉子が「おじさん、感謝だよ」と。
莉子は、明らかに瑛太と同年代だ。
「あのヒトたちが、ホワイトベースだ」
瑛太の予想にこの実も同意。
「絶対にそうだよ」
折りたたみ浴槽が壊れてしまった。
寒さは厳しくなっている。
瑛太は、風呂が利用できそうな施設を探していた。
危険な作業なので、施設に入るのは彼1人だ。
鶴沼川河畔にたたずむ高級温泉宿を探査するが、風呂を復旧することは瑛太には不可能だった。
落胆した瑛太が振り向くと、死人がいた。
無音で近付かれた。
不意打ちだった。襲われて、左手で防御し、右手で拳銃を撃つ。
パン、パン。
拳銃音が2発。
この実が車外に飛び出す。
可奈と沙奈が抱き合う。
瑛太が出てきた。
「噛まれた」
瑛太が右手の甲を見せる。
「この実、俺のいうことをよく聞くんだ。
噛まれた以上、どうにもならない。
ここにとどまらず、3人で安全な場所を探すんだ」
この実は泣いていたが、狼狽えてはいなかった。
「私が何とかする」
彼女はそう言うと、車内に戻る。
[ホワイトベース、聞こえますか!
私は鮎村この実です。
大きなブタを仕留めたヒトたち、聞こえますか?]
教えられたチャンネルで交信する。
桂木良平は、装甲車の4人家族について、2回報告を受けていた。無線を受信したとの報告を受け、無線棟に走る。
通信担当は、指示がないので往信していなかった。
ヘッドセットを受け取ると、子供の声が飛び込んできた。
[お願い!
助けて!
噛まれちゃったよう]
[ホワイトベースだ。
スーパーとリゾートで、仲間を助けてくれた家族か?]
[わからない。
そうかもしれない]
[TM-170に乗っているヒトか?]
[そうだと思う。私たちはバラクーダと呼んでるけど……]
[どこにいる?]
場所は伝えたくない。傍受している別のグループがいるかもしれないからだ。
しかし、危険は承知だった。
[ブタをやっつけたところに行くけど、それでいい?]
[わかった。
すぐ向かえ。我々もすぐに行く]
変異する時間がわかっていなかった。
だから、瑛太は「俺をここに置いていけ」と言った。
バラクーダに乗る気など、さらさらない。 この実はスキー場に戻り、トレーラーを牽引して戻ってきた。
テーブルや椅子などの物資は、放棄した。
瑛太は温泉宿の駐車場から離れようとも考えたが、そうすればこの実は必死で探す。そのときが危険だ。
変異した姿を見られたくはないが、行方をくらますことは、逆にこの実たちを危険にさらすことになりかねない。
だから、とどまった。
「トレーラーに乗って」
瑛太はこの実の指示に従った。
巨大イノブタを仕留めた場所には、ピックアップトラックが待っていた。
「俺は、桂木良平。
彼は、岸辺芭蕉」
「ここで会いましたね」
「鮎村この実です。
瑛太はトレーラーに乗っています」
良平と芭蕉が顔を見合わす。
良平が「なぜ?」と尋ねる。
この実が「いつ、変異するかわからないから」と答える。
芭蕉が「いつ、噛まれましたか?」と尋ね、この実が「1時間半前」と答える。
良平が「どこを?」と尋ねる。
この実が「左の手」と。
2人が微笑む。
芭蕉が説明する。
「その場所なら噛まれてから72時間は変異しませんよ。
だけど、治療は一刻を争うんです。噛まれてからの時間が短いほど、回復が早くなります」
「治るんですか?」
良平が「場合によっては。完全じゃないけど、可能性はあるんです」と答える。
この実が「お願いです。助けてください。私には大切なヒトなんです」と懇願する。
芭蕉が「ではついてきてください」と言い、ピックアップに乗り込む。
山道を登ってい行く。
可奈が「どこに行くのぉ?」と尋ね、この実は「猪苗代湖に向かっているね」と答える。
峠の最高点でピックアップが止まる。
茂みから何人もが出てきて、道を隠す擬装を取り除く。
ピックアップが未舗装路に入り、この実も続く。
瑛太は、噛まれた手の甲が痛くてたまらず、消毒のつもりでウォッカを洗面器に入れ手を浸けた。痛すぎて、しみる感覚さえない。
トレーラーから降ろされ、プレハブ小屋のベッドに寝かされ、右手と両足を固定された。
この実は、プレハブ小屋に入れない。小屋には赤十字が描かれている。
野次馬が集まっている。
中年の女性が声をかけてくれた。
「真琴先生、千晶先生、桃利先生がついているから大丈夫よ」
「お医者さんですか?」
小学生くらいの男の子が教えてくれる。
「違うよ。
悪のバイオ科学者、残酷な看護師、意地悪な獣医さんだ」
子供たちが「そうだ、そうだ」と騒ぎ、一部が「もっと優しくしろ!」と抗議の声を上げる。
同じくらいの子がいるので、可奈と沙奈も降りてきた。
女の子が「食べる?」と、1粒袋入りのキャンディをくれた。
可奈が「ありがとう」と答える。
この実は益子真琴から説明を受けている。
「真藤さんは、脳にウイルスが達する前に治療できました。
断言はできませんが、回復する可能性があります。生死の分水嶺は、噛まれてから48時間ですが、それよりもだいぶ早いので、治癒する可能性は十分にあります。
噛まれた傷が浅く、うつされたウイルスの数が少なかったことと、ウォッカに手を浸けたことはよかったと思います。
ウイルスを減らせたので……」
「助かるんですか?」
「断言はできませんが、可能性はあります」
「助けてください。
先生、お願いします」
「全力を尽くします」
診療棟に近付くことを許されなかったこともあり、この実は一睡もできなかった。
ただ、駐車スペースが指定され、トレーラーの連結を解除すると、電源の供給を受けることができた。
武器は取り上げられなかった。ただ、施設内での携帯は禁止された。
制限はそれだけ。
翌朝、この実は疲れてウトウトしていた。
トレーラーのドアがノックされる音で、緊張が走る。
ドアを開けると、女の子が4人。
「可奈ちゃん、沙奈ちゃん、ガッコ行こ」
この実が驚く。
「学校があるの?」
4人は当然のように頷く。
可奈と沙奈は着替え終わっていて、自分たちでパンを食べ終えていた。
可奈が「ランドセルないの」と言うと、1人の子が「みんなないよ」と。
沙奈が「教科書もないの」と伝えると、別の子が「学校にあるよ」と。
可奈と沙奈がこの実を見る。
この実が頷くと、靴を履いて飛び出していく。
子供には子供の社会があり、それに適応することは困難を伴う。子供であるこの実は、よく理解していた。
一緒に行くべきかとも考えたが、可奈と沙奈に任せる。だめなら、帰ってくるはず。この集団の実体もわかる。
朝早いが、この実は診療棟に向かう。
加納千晶から説明を受ける。
「安定しています。
意識もはっきりしています。
発熱していますが、これはワクチンの副反応で、誰でもなります。
いまのところは、心配する状態ではありません。ですが、予断は禁物です」
この実は、心臓が止まりそうだった。
泣くしかできない。自分の無力を思い知らされる。
学校から帰ってきた可奈と沙奈は、ニコニコしている。
学校で他の子から「噛まれても死んだヒトなんていないよ。陽人くんだって助かったし」と聞いてきたからだ。
それに、学校は楽しかったらしい。
教科書は貸与だそうだが、受け取ってきた。
正式の入学のために、事務の女性から「お母さんに来てもらってね」と言われた。
この実は「お母さん?」でパニックになる。
「あぁ、私は保護者なんだ」
改めて自覚する。
この実が瑛太と会えたのは、診療棟に収容されてから1週間後だった。
瑛太は微熱が続いているものの、見かけは正常に見えた。変異していない。
「大丈夫?」
「あぁ、まだ正気みたいだ。
先生はもう変異しないと言っていた」
「私も聞いた」
「だけど、退院は簡単じゃないらしい。
前に噛まれたヒトは、完治まで6カ月もかかったそうだ」
「仕方ないよ」
「あぁ、俺もそう思う。
だけど、その間、どうやって食っていくんだ。食糧の調達はどうする?」
瑛太らしい心配だが、この実が話題を変える。
「可奈と沙奈は、毎日学校に行っている。
私は、調理の仕事をもらったから……」
「そうなのか?
ごめん。ちょっと油断したんだ」
3人ともイヤなことないか?」
「可奈と沙奈は、毎日学校に走って行ってる。
私は、頑張ってる。
イヤなことはない。親切にしてもらっている。回覧板も回ってくるし……」
「そうなのか?」
この実は、数人のヒトを前に緊張している。このグループの指導者たちだ。14歳のこの実には、耐えがたいほどの圧力だった。
「これから、正式に住民になっていただくための聞き取りを始めます」
「はい」
「お名前は?」
「鮎村この実です」
「年齢は?」
「14歳です」
全員が度肝を抜かれる。
「えっ、じゃぁ、真藤瑛太さんは?」
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「驚いたな。
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「はい……?」
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