異世界で農業を -異世界編-

半道海豚

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異世界編

01-008 戦う意思

 王都、東80キロの農村、西90キロの街に情勢調査隊を派遣している。
 東の隊はコンウィ城の動向調査、西の隊は都市住民の心情調査、王都の隊は王宮の動向を探っている。
 ヴァロワ王国の行く末は明るくない。上級貴族のうち、ダルリアダ貴族との婚姻による縁を結んでいる一族は、どうにか立場を守っている。
 これは一部で、多くはヴァロワを去った。豪商も同じ。当初は弾圧に耐えたり、反発したが、すぐに根を上げる。いや、耐える意味がないのだ。他国でなら、まともな商売ができるのだから。
 中級以下の貴族は弾圧に耐えるか、無謀にも抵抗して一族郎党皆殺しにあっている。
 軍において下級将校階級となる勲功爵と騎士は、退役させられた。収入を得る手段を失い、他国に渡り傭兵となる以外の選択肢がない。
 しかし、世界は平和。国が傭兵を雇う理由はない。
 一部は帰郷して農民となった。それは、下士官・兵も同じだった。

 ダルリアダ王国にとって厄介なのは、王都からそれほど遠くない地域で、公然と反抗する一領具足と呼ばれる勢力の存在だった。
 この貴族でも農民でもない武装集団は、他国に例がなく、それゆえにダルリアダはヴァロワ支配過程の極初期に完全殲滅を目論んだ。
 それはダルリアダの基準では成功した。当主、前当主、次期当主たる嫡男全員の一挙毒殺に成功したのだから。
 だが、生き残った女性たちが土地に居座り続け、無言の抵抗を続ける。
 多くを殺し、痛めつけたが、それでも去ろうとしない。
 いつしか新たな指導者が現れ、公然と反抗するようになった。
 ダルリアダ王家は、有力貴族であるキュトラ伯爵家の内情には介入しない方針を貫いていたが、キュトラ伯爵家の稚拙な統治には怒りを感じていた。
 巧妙な統治で支配体制を確立しつつあるダルリアダ貴族が多い中で、キュトラ伯爵家の不始末は見過ごせなくなりつつあった。
 しかも、ヴァロワにおけるキュトラ伯爵領は、全貴族領の3分の1を超えるのだ。

 イルメリは、フェイスタオルとバスタオルを大事にしている。ヴァロワ王家や上級貴族の間ではタオルが使われていたが、一般的ではなかった。
 翔太はヒルマから「タオルは手に入るのか?」と問われ、ポツンと一軒家にあったもらい物の未使用タオルを渡す。
 その中に祝い事のお返しでもらったフェイスタオルとバスタオルのセットがあった。
 平たく言えば、年賀でもらうタオルとは一線を画す品質だ。
 実は、年賀でもらうタオルであっても、王都では高額で売れた。
 社名の入った年賀タオルに銀貨10枚の値がつくのだ。
 砂糖を使って、ダルリアダ貴族に近付く計画はほぼ成功しており、さらにもう一段上の手立てが必要になっていた。
 ヒルマが目を付けたのがタオルだった。上級貴族の女性が喜びそうで、なおかつ入手が困難な品だからだ。

 ダルリアダ貴族の女性は、労働をしない。そのため、社交辞令は理解できるが、真の情報には疎い。男性の場合は戦争以外の労働をしない。彼らは国内や国際情勢には賢いが、農業、工業、貿易の実際には精通していない。
 ダルリアダでは、労働は農民や商工業者の仕事だ。
 ダルリアダ貴族の女性に取り入ることは、それほど困難なことではない
 アネリアたち王都調査隊は、巧妙に立ち回って、ダルリアダ上層部の動向をダルリアダ貴族の女性から引き出していた。

 翔太は会議で無言を貫いている。
 議題は、ミニエー銃をスナイドル銃に改造する案件だ。前装銃と後装銃では、後者のほうが圧倒的に発射速度が速い。前装銃は1分間に2発か3発しか発射できないが、後装単発銃ならば10発撃てる。
 スナイドル銃がミニエー銃からの改造銃であるのだから、レベッカたちはスナイドル銃への改造を進めろと翔太に迫っていた。
「スナイドル銃でいいのか、と悩む」
 レベッカには、翔太の発言の意味がわからなかった。
 翔太がノートパソコンを操作し、ネットで拾ってきた動画を見せる。
 スプリングフィールドM1873トラップドアの操作手順を紹介している。発射後、ブリーチブロックを跳ね上げると同時に排莢される。次弾を装填して発射。
「スナイドル銃にはエキストラクターがないから、排莢が手動になる。
 銃身から薬莢を引き出し、銃を傾けて地面に落とす。トラップドアはこの動きがいらない。
 改造の要領も大差ない。
 不安は、.577スナイドル弾の発射ガスの圧力にブロックが耐えられるか、だ」
 レベッカたちは、何度もM1873の動画を再生する。
 全員が翔太を見ている。
 レベッカが言った。
「ショウ様、私たちは、生きるか、死ぬかまで追い詰められています。
 少々の危険は覚悟しています。
 この銃を作ってください」

 翔太はCADを使って設計し、ブロック部の部品を彼の父親が使っていたNC工作機で製造する。すべて削り出しだ。
 最高の材料を使い、十分な強度を確保する。
部品点数は多くない。新造する部品は全部で9点。他に銃身の加工がある。
 銃身の加工には神経を使う。この付近にも警察のパトロールがあるのだ。
 銃身が見つかれば、大事になる。それ以外の部品は、何だかわからないだろう。
 銃身の加工はキャンプ側でやりたいが、そうもいかない。安定した電力供給に不安があるからだ。

 まず、3挺分の部品を作る。銃身の加工は、銃身の移送前にすべての準備を整わせ、1時間で完了させた。
 この加工もNC工作機で行う。

 キャンプの一画でミニエー銃のトラップドア改造型を試射する。
 人が扱うのではなく、銃を台座に固定し、ワイヤーで引き金を引いた。
 発射は正常で、ブリーチブロックにも異常がない。ただ、ブロックを開いても、排莢が上手くいかない。
 エキストラクターの形状に問題があるようだ。試作した3挺すべての排莢が、確実ではない。
 エキストラクターの形状を決めるのに、4種類を試作し、その1つが確実に動作した。
 試作の苦労はこれだけで、組み立てた3挺は確実に動作する。

 日を追って寒くなるのに、レベッカたちは住まいの心配をしない。
 夜のミーティングも四方開放のターフの下だ。寒い。最初のターフは手持ちのキャンプ用だったが、現在は建設現場で使われる単管パイプ製。屋根は防水シートだ。
 この他の建設資材では、断熱材を大量に要求されている。
 レベッカが予測していた通りの要求をする。
「ミニエー銃のすべてをトラップドア後装銃に改造したい。できれば、スナイドル銃もトラップドアに改造したい」
 翔太は追い詰められていた。
「ミニエー銃は、かなりの数がある。スナイドル銃を再改造する必要はない。
 それと、マスケットのゲーベル銃も後装化すれば、ショットガンになる」
 レベッカが一瞬沈黙する。
「ショットガン?」
 翔太は、ネットで拾った水平2連の散弾銃の映像を見せる。
「ショウ様、この銃が造れるのですか?」
「あぁ、接近戦で役に立つ。
 銃身を切断して、近距離で弾が拡散するようにする。
 弾もここで作る」
 レベッカがその場の全員を見る。
「やりましょう。
 いまを生き残らなければ、夏は来ません。夏を迎えられれば、収穫できます。
 皆さん、最大の脅威は冬の寒さではありません。新領主の暴力です」
 翔太はレベッカたちが何を恐れているのか、ようやく理解した。新領主による弾圧は、冬の寒さよりも危険なのだ。

 翔太は高祖父が残したものではなく、祖父が地下空間に隠したものに注意を変えていた。
 祖父はこの場所に興味はなかったようだ。単にものを隠す場所以上の役割を感じていないと推測している。
 高祖父はたぶん、異世界、つまり翔太がいまいる世界を旅したのだろう。
 そのときは平和で、戦乱の兆しさえなかった。だから、元の世界に戻った。元の世界のほうが戦雲が厚かったからだ。
 翔太は、祖父とも高祖父とも違う。異世界で農業がしたいだけ。彼が産まれた世界では、これほど広大な農地を手に入れることはできない。
 オーストラリアに移住でもしない限り。
 そのオーストラリアは今年、干ばつと蝗害で農業は壊滅状態だ。
 そこまで考えてふと思った。
 そんなに広いなら、飛行機が必要だ。

 地下空間に長時間滞在することは無理だ。酸素がない以外にも、物質の質量が変わる、光が拡散しない、といった特徴はすぐに気付いていた。その他にも、異常な現象があるかもしれない。
 質量に関しては、静止している物体は、徐々に質量が下がる。最大80パーセントまで減じる。地上で10キロの物質は地下空間では2キロにまで下がることになる。
 重量の感覚がなくなり、正常な判断ができなくなる。
 ただし、短時間では変化はない。
 光は収束する傾向がある。拡散しないので、広範囲が見えない。照明は設置しているが、手元以外が暗く、何があるのかよくわからない。
 特殊な環境であることは確実。長居はできない。

 祖父の持ち物はすべて、装甲運搬車の車内に積み込んでいる、と考えていた。
 雑然と放り込んだように。
 だが、実際は違った。集積されてなく、分散されている。
 例えば、高祖父の時代にはないもので、祖父の時代にはあり、翔太の時代にはないものが装甲運搬車から離れた場所にあった。
 将校行李だ。
 将校用のトランクだが、祖父は軍歴のほとんどが下士官だったと聞いている。将校行李であることは確かなので、戦後に入手したものか、と翔太は推測する。
 行李を開けると、コルトM1911ガバメント自動拳銃と大量の.45ACP拳銃弾が入っていた。祖父は.45ACPを集めていたようだ。
 装甲運搬車の荷室にあったコルトのリボルバーは、.44-40ウィンチェスター弾仕様なので、.45ACP弾を使用する拳銃を探したのだろう。
 しかし、時間を経ずに、祖父の武器弾薬収拾行動はなくなった。社会の変化が原因であることは確実。
 どちらにしても、決定的に強力な武器は見つけていない。
 これから起きるであろう事態に対処するには、ミニエー銃の後装化を急ぐしかない。

 翔太には、ダルリアダ側がどう出るか、予測できない。単にキュトラ伯爵領内のもめ事と判断するか、ダルリアダに対する反乱と受け取るか。
 それによって、降りかかる火の粉の量が変わってくる。

 ダーグ・キュトラは焦りを感じていた。毒殺した似非貴族の家族は、簡単に追い出せると考えていた。実際、半分は追い出せた。
 だが、残り半分が何をされても居座り続けた。追い出しから抹殺に切り替えると、どこからともなく“当主”だという男が現れる。
 そして、レベッカ・エスコラが、実家のエスコラ家の当主となり、嫁ぎ先のレイリン家の当主名代となった。
 それ以降、何をやっても上手くいかない。
 代官である長男カレウヴォ・キュトラは、この地を訪れたことはない。三男が配下にいるが、使い物になるほどの能力はない。三男は怠惰で淫乱で粗暴。コンウィ城には異母姉の長女ヘルガ・キュトラもいるが、信用できない。
 三男は助け出せなかったが、どういうわけか解放された。問われたことはすべて話したと、三男は打ち明けた。
 だらしない、と怒るが、兄がその程度であることはよく知っていた。

 ダーグ・キュトラは、長男であればキュトラ伯爵家を継ぐ身であったと確信していた。その能力は十分にあると自負している。
 実際、キュトラ伯爵は、四男を高く評価している。

 ダーグは、ヴァロワの王都に駐留するダルリアダ貴族が“後家”と呼ぶ、当面の敵を討ち滅ぼすには、彼自身が出陣しなければならないと考えていた。
 だから、三男を救出するために、小隊を率いて出陣した。
 そして、鋼の怪物に乗る男に負傷させられた。

 キュトラ伯爵家の長女ヘルガは、裕福な商家が使っていた4頭立て馬車に乗り、10騎の護衛を従えて西に向かう。護衛には、黒の胸甲を着せた。一行は、コンウィ城とは無関係を思わせる姿だった。

 東の調査隊は、街道がよく見える農家の納屋を借りていた。納屋の中には、四輪駆動のワンボックスバンが隠されている。銃は鹵獲されたときのことを考えて、フリントロックの前装式マスケットだ。
 華やかな王都の調査隊は若いメンバーが主力だが、片田舎の東は人生経験豊富な女性たちが担っている。

「ショウ様、コンウィ城から商家に擬装した馬車が出た」
 無線担当が翔太にそう伝え、レベッカに向かって走って行く。
 無線やドローン担当は、戦場で戦うには身体的に無理がある12歳から15歳の女の子が担う。彼女たちも立派な戦力だし、絶対に必要なメンバーだ。彼女たちは、それを正確に自覚している。

 春まき小麦のための耕作地を耕す準備を始めている。
 草刈り機で森の近くの雑草を刈り、モヒカン刈りとなった草原に火を着ける。
 火炎放射器は、翔太が自作した。圧力をかけたガソリンタンクから噴射する。
 予想外に火炎が飛び、最大圧力だと80メートルに達する。

 馬車と護衛は、街道上に止まっている。それが、コンウィ城と関係があることはわかっている。しかし、誰が乗っているのかは不明。
 そして、ここに来た目的も。
 子供たちは母屋に押し込められ、大人たちは銃を持って警戒する。全員がキャンプの中だ。

 1人を除いて。

 翔太はコンウィ城の偵察に応えていた。レベッカたちの耕作能力を示し、戦うなら覚悟が必要なことを見せつけるためだ。

 ヘルガは、背中に冷たい汗が流れる様子を明確に感じていた。
「銃で撃たれた話ばかり聞かされた」
 同じ馬車に乗るベングト・バーリも同様だ。
「御意にございます。
 姫様。
 戦上手な女が立て籠もっているだけと考えていました」
「畑を耕す機械があることは知っている。
 だが、見たことはない。
 あれがそうなのか?」
「ウマ100頭分の働きをしています」
「ウマは疲れるが、機械は疲れないと聞く」
「ですが、頻繁に故障するとも」
「バーリ卿、夕方までに、この広大な農地を耕し終えるぞ」
「姫様、御意」

 街道からだと遠望する位置で、トラクターが止まる。
 翔太がトラクターを降り、馬車に向かって歩き始める。

「姫様、こちらに来ます」
「あの男、農民には見えない」
「ですが、騎士にも見えません」
「ではなんだ?」
「わかりません」
「私〈わらわ〉にもわからん」

 翔太は笑顔を作る。笑顔くらい簡単に作れる。
 馬上の護衛に話しかける。
「ここで何を……」
 馬車の中からベングトが答える。
「邪魔をした。
 見事な耕しっぷりに感心して、見とれていた。
 すぐに立ち去る」
「そう言うな。
 せっかくだから、茶でも振る舞おう」

 街道から少し離れた狭い平坦地に、キャンプ用のテーブルが置かれ、会社で使うような折りたたみのパイプ椅子が4脚置かれる。
 翔太はキャンプ用のガスバーナーに火を着ける。小さなケトルを載せ、湯を沸かす。
 テーブルの上には、ティーポットとティーカップ。ネットで買った激安品だが、それなりに見える。
 小さなガラスの皿に角砂糖が積まれている。砂糖自体が希少なこの世界で、角砂糖なんてダルリアダの田舎貴族は見たことさえないだろう。
 コーヒー用の瓶入りミルクを添える。
 お茶請けは、1箱88円のチョコレートチップの入ったクッキーだ。それと、ピーナッツブロックチョコレート。1箱98円。
 紅茶葉は通販で買った。高級品だ。

 ティーポットに茶葉を入れ、湯を注ぐ。翔太が腕時計を見て、「3分待ってください」と言った。
 レベッカがぎこちなく翔太の隣に座る。
 翔太がティーカップに紅茶を注ぎ、ヘルガとベングトに勧める。
「砂糖とミルクもどうぞ」
 レベッカは、眼前の女性が夫と義父を殺した一族であることを知っている。
 自分たちがしたことは、他人もすると考えるもの。レベッカはきれいに積まれた角砂糖の山を崩し、ランダムに2つ選んでシュガートングでつまんで、紅茶の中に落とす。
 ミルクのキャップを開け、スプーンが作った渦の中にミルクを垂らす。
 そして、飲む。
「私は、毒など使わない。
 敵は、撃ち殺す主義だ」
 ベングトは、レベッカに内在する戦士を見ていた。ベングトが紅茶を飲み、ヘルガが続く。
 翔太が2人を交互に見る。
「戦争は、もう始まっている。
 始めたのは、ダルリアダだ」
 ヘルガが慌てる。
「ここはキュトラ伯爵領で……」
 翔太が微笑む。
「違う。
 ダルリアダの田舎貴族なんてどうでもいい。
 最初から相手にはしていない」
 ベングトはやや呆れる。
「ダルリアダ王国を敵にする気か?」
 翔太はもっと大きいことを考えていた。
「いいや、世界を敵にする。
 この世界をブッ壊してやる。
 クソダメ野郎をブッ殺すのは、その過程でしかない」
 ヘルガは、翔太の本性を捕らえかねていた。だが、発言の裏付けがないとは思えない。理解しがたいが、ダルリアダ本国にいるダルリアダ国王を殺す手段を持っているのではないか、と疑った。
 もしそうだとして、万一、国王が狙われたら、領主たるキュトラ伯爵の失態になる。
 翔太をいま殺さないと、禍根が残ると信じた。
「やめておけ。
 俺を殺しても、あんたたちもここで死ぬことになる」
 ベングトは、この場での戦闘を諦める。ヘルガの身が危ないからだ。
「ショウ・レイリン、次に会うときは戦場にて見えよう」
 ベングトらしい発言だが、翔太にその気はなかった。彼は、軍人や戦士ではない。
「そんな非生産的なことは考えたくないね。
 もっと意味のあることで、会いたいものだ」
 レベッカの視線が翔太に注がれる。
 レベッカは、キュトラ伯爵家とは戦う以外の選択肢はないと考えている。だが、その判断を翔太が否定したように感じたからだ。

 嶺林翔太は、いわゆる低強度紛争の本質をよく知っている。彼は一時期、その渦中に身を置いていた。

 レベッカは不満だった。夫に愛情があったかと問われれば、明確には答えられない。そもそも一緒に暮らした日数は合計しても30日に満たない。夫のことはよく知らない。
 大陸動乱が終結するまで、戦場〈いくさば〉から戻らぬ夫をただ待つだけだった。終結してもすぐには戻らず、戻ると1週間後に毒殺された。
 夫の死は今後の生活を不安にさせたが、死自体はあまり悲しくなかった。
 だから、レベッカは翔太を容易に受け入れた。
 毒殺事件では、レベッカの父親と弟が死んでいる。その後、末の弟は何者かに殺され、実母は徐々に弱りながら死んでいった。
 キュトラ伯爵家とダルリアダ王家を許せるものではない。その感情を否定されたようで、レベッカは翔太をにらみ付けていた。
 愛情の裏返しでもあった。

 イルメリが「父上、母上が怒ってるよぉ~」と心配するが、翔太には微笑むことしかできなかった。

 翔太にとって、夜のミーティングは居心地の悪いものだった。
 だから、最初に発言する。
「低強度紛争という武力衝突がある」
 翔太が何を言い始めるのか、誰もがいぶかしむ。
「正規軍同士の戦いではなく、正規軍対準軍事組織との戦いだ。
 重装備の正規軍に対して、軽装備の準軍事組織が戦う場合、真正面から衝突すれば結果は決まっている。
 だから、装備と訓練に劣る準軍事組織側は、全面的な衝突を避けるんだ。
 我々も同じ。
 キュトラ伯爵軍との決戦に臨めば、勝ち目はほぼない。多勢に無勢。奇策を弄して緒戦に勝ったとしても、次の戦いで負ける。
 そういう戦い方はしない」
 レベッカは明確にイラ立っていた。しかし、問うたのはレベッカではなかった。
「では、どうやって戦うのだ!」
「ご当主様は臆しているのではないか!」
「なぜ、あそこでキュトラの姫を殺さなかったのだ!」

 非難はなかなか収まらない。
「敵はキュトラではない!」
 場が静まる。
「ダルリアダの社会体制だ。
 ダルリアダ王家をヴァロワから追い出さないと、我々は勝ったことにならない」
 誰もが呆気にとられる。
「ダルリアダの干渉がやまない場合、まず、ダルリアダ国王の王宮を燃やしてしまおう」

 レベッカは、翔太が発した言葉の意味がわからなかった。
「方法ならあるさ」
 翔太がターフの外を見る。
 子供たちがドローンで遊んでいる。彼女たちは訓練と称して、毎日ドローンで遊ぶ。
「まさか、空から?」
 翔太が微笑んだ。

 地下空間の特徴が少しずつわかってきた。無酸素、質量可変、光の収束性は、作業をかなり難しくする。
 祖父が残した道具の多くは、装甲運搬車の中にある。
 この全装軌式小型装甲車を地下空間から引っ張り出せば、白日の下で検証できる。
 だが、それは不可能。全幅が1.92メートルもあるのだ。出入口は1.7メートルだから、どうやって入れたのかさえわからない。
 車体を横倒しして入れたとしか思えない。

 翔太は、光の収束性になれることはなかった。30分ほどいると目眩がしてくる。
 荒く息をしながら、エンジンルームのハッチを開ける。
 驚く!
 エンジンがないのだ。
 変速機と操向機は残っている。
 そして、エンジンルームにも木箱や弾薬缶が整然と積まれている。
 弾薬缶を1つ取り、蓋を開けて中身を確認する。布製リンクベルトで連結された30口径クラスの小銃弾がぎっしり入っている。
 長期間静止状態にあったので、質量が20パーセントほどになっているので、簡単に持ち上げられる。
 だから、感覚が狂う。そして、移動するとどんどん重くなる。そして、また感覚が狂う。
 15分いると、視覚と触覚の異常を明確に感じる。その後、三半規管の異常に至る。
 結果、地下空間に長時間留まることができない。

 小銃弾は、薬莢の長さと形状からモーゼル弾ではないかと推測する。だが、7.92×57ミリ弾を使う銃器は見つかっていない。
 それと、ドイツ軍の機関銃であれば非分離型金属リンクベルトのはず。ブローニングM1919中機関銃やビッカース重機関銃が多用した布製リンクベルトは合点がいかない。
 翔太はやや困惑する。
 もし、ラインメタルMG34かブローニングM1919が1挺でも手に入ったら、この18世紀的軍事ドクトリンの世界では革命的な武器になる。
 だが、弾薬は永遠には続かない。そして、補給はできない。元世界で弾薬の調達を試みれば、警察の世話になってしまう。
 何よりも武器によって戦いに勝つことはできるが、武器では社会を変えることはできない。
 そして、自由を守るために武器が必要なことは往々にしてある。

 レベッカたちは領主たるキュトラ伯爵との対決、武力対決か言論対決かは別にして、対決しなければならないと覚悟している。
 だが、翔太は違う。せっかく耕した畑を守るためには、ダルリアダ国王との対峙が必要だと考えている。

 小型のトラクターが戻ってきた。今日は、夫が戦死した勲功爵家の手助けだった。世継ぎのいない貴族なのだが、目を患っている当主が没すれば断絶する。
 目の見えない義父、元気な義母、夫に先立たれた妻の3人家族だ。
 トラクターは、この世界では画期的な道具だ。単に畑を耕すだけでなく、立場の違う地域住民が話をするきっかけを作っている。

 地域の社会が少しずつ変わり始めている。
 翔太はそれを実感していた。

 農業トラクターと等価な機械が防災用エンジンポンプだ。
 当初は野焼き時の延焼防止に使っていたが、すぐに強力な散水装置として使われるようになった。
 軽トラに積まれて、近隣農家の用務に供した。冬の直前まで、フル稼働だった。

 この頃から、翔太は揚水ポンプや用水路の必要性を感じるようになっていた。効率的な農業用水の供給があれば、飛躍的な収穫量増大が期待できるからだ。

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『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。