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第5章
第127話 空と陸
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ココワにセロの飛行船が現れたことは、ノイリンとバンジェル島を震撼させた。
しかも、飛行船に描かれていた国籍標識は、赤服とも青服とも異なる、黒い円に白い×だった。
新たなセロの侵攻を予感させた。
捕虜の尋問によって、セロには複数の“国家”があることがわかっている。赤服と青服以外にも、有力なセロの“国家”がある。
西ユーラシアと北アフリカに攻め込んだ赤服、西アフリカに侵攻してきた青服だけでも、どうにか対抗している状況で、新たなセロの勢力が現れたとするならば、ヒトの行く末に暗雲が立ち込める。
俺は湖水地帯に向かいたかったが、西ユーラシアの情勢がそれを許さなかった。
黒魔族の一部が、アルプス北麓から南麓に移動する動きを見せていたことと、一部がライン川を渡河する動きを示していた。
この変化は見過ごせない。黒魔族が西進するならば、ヒトは対抗しなければならない。
俺はこの緊急事態に対応するため、各街との連絡・折衝で、ローヌ・ソーヌ川沿いを上り下りしていた。
バンジェル島とバルカネルビ間は、直線で1500キロもの距離がある。ケドゥグとバマコに滑走路を建設すれば、500キロ間隔で経由でき、実際にそのようにしている。
滑走路はマナンタリ中継基地にもある。
輸送に投入している機体は、ノイリン製スカイバンとショート360に近似する長胴型単垂直尾翼のスカイバンⅡシェルパで、4機から6機を運行している。頑丈な固定脚なので、この地域に適している。
問題は燃料の輸送で、ケドゥグまでは陸送するにしても、バマコ以東はニジェール川を使いたかった。ケドゥグはガンビア川の上流にあたり、水運も可能だ。
200万年後のニジェール川は、想像を絶するほどの大河で、バマコ以西まで1000総トン級の船舶が航行できる。
ただ、ニジェール川河口付近は、赤道から500キロ圏にあり、常に暴風圏にある。500キロ圏内ギリギリなので船舶がまったく近寄れないわけではないが、かなり危険だ。
ニジェール川を頼っての安定供給は、不可能かもしれない。
旧クマン王国を南北に2分する北のバルマドゥ多民族国と、南のクマン国との国境線確定交渉は困難を極めた。
バルマドゥ多民族国側の言い分は、国境線はガンビア川、ガンビア川南岸からカザマンス川北岸までを緩衝地帯とする提案だったが、元首パウラは頑なに拒絶した。
元首パウラは、国境線をガンビア川とすることに異議は唱えず、「緩衝地帯は必要ない。ガンビア川の中心を国境とする。これで何の問題もない」と言い張った。
この主張はパウラの元臣下を含む誰もが、王朝最後の王族となるパウラの意地だと考えていた。
無意味な抵抗だと……。
結局、セロと対峙するクマン国には、バルマドゥ多民族国に攻め入る余力などありはしないことは明白なので、「クマン国はカザマンス川を越えて軍を動かす場合は、バルマドゥ多民族国に対して14日以上前に通報する」という条項を追加して、国境線確定と平和条約締結が整った。
パウラは半田千早から特別な情報を得ていた。
200万年後のガンビア川河口から南15キロに大規模な油田がある。200万年前は海底だったが、現在は陸になっている。
他にも油田はあるが、この油田は確実で、すぐにでも採掘できる。
油田が入手できれば、西ユーラシアとも有利に交渉できる。
石油を売った代金で、武器も買える。そうすれば、セロとも戦える。
平和条約締結の直後、条文通りにクマン軍の小部隊数隊をカザマンス川以北に派遣するとバルマドゥ政府に通告。
バルマドゥ政府側も織り込み済みの行動だった。
しかし、平和条約締結から20日後、クマンは油田を発見し、即座に原油の生産を始める。
カザマンス川以南に製油施設などの建設も始まった。
この事実に接したバルマドゥ政府の指導者マルクスは、「あの小娘~!」と叫んで壁に酒のグラスを叩きつけたという。
クマン国政府中枢は、政治家であれ、官僚であれ、パウラの元臣下であれ、軍人であれ、交渉相手である老練なマルクスに、ひたすら「民の大事な農地を奪わないで!」と懇願していた、か弱い姫君に思えた自国元首の強〈したた〉かさに舌を巻いた。
この日、元首パウラは、国のお飾りから政治家になった。
ある外交官僚は「元首閣下、これ以上の交渉は惨めというもの。禍根を残すことになります。バルマドゥ側の要求を受け入れましょう」と何度も進言したという。
官僚の進言を受け入れず、有力政治家の諌言にも従わず、軍人の忠告をも無視して、ひたすらガンビア川以南全域の完全領有を主張し続けた元首パウラの真意を知った政府関係者は、彼女に頭を垂れたと伝えられる。
この時期、クマン国は安定してはいなかった。クマン王家嫡流を名乗る幼子を擁立して、クマン王家再興を叫ぶ一団もあった。
また、クマンからの一切の身分制度廃絶を主張して、元首パウラの解任を要求する勢力もあった。
だが、油田の発見は、すべての勢力を沈黙させた。
その石油を、陸路以外ではバマコまで運べない。タンカーはなく、ドラム缶に入れて運ぶしか手段はない。
燃料がなければ、バマコは維持できない。バルカネルビの商館や飛行場も放棄しなければならなくなる。
現在は、バマコまで10キロリットルの航空燃料を運ぶために、輸送のために5キロリットルが必要だ。つまり、膨大な時間をかけて運んでも、50パーセントしか届かないのだ。
この非効率性を改善しない限り、赤道以北アフリカ内陸に関わり続けることはできない。
俺は黒魔族の動向を探りながら、心はアフリカにあった。
半田千早は、重大なことに気付いていた。湖水地域の河川船は、軽油か重油を燃料とする焼玉エンジンが動力の主力だ。
湖水地域に達した頃、川にも湖沼にも多くの船が行き交っていた。
だが、日を追って、その数が減っていく。
半田千早は、自分の迂闊さにめまいがしそうだった。この失態を誰かに聞いて欲しい。
誰に聞いてもらえばいいのか。
眼前に不時着したヘリコプターの横で、野戦口糧を食べるマーニがいた。彼女は、不時着させた機体から離れなかった。
「ヘリ、直りそう?」
「もう直っているよ。
て、言うか、機体自体は壊れていなかったんだ。
右のスポンソンがもぎ取られちゃったから、左を外しただけ」
マーニは、周囲を見た。すでに飽きたのか、小型のカニア輸送ヘリコプターの見物人は視界にはいない。
「チハヤ、気付いてる?
タンカーがまったく動いていない。タンカーの係留数が増えているんだ。
それだけじゃない。
渡船や漁船も動いていない。
きっと、燃料がないんだ。
湖水地帯のヒトは、それを隠している。
なぜ?
油田があるんだよ。
油田の存在を知られたくないから、私たちが立ち去るまで、燃料を取りに行かずに我慢しているんだ」
半田千早は唖然としていた。唐突に思い付いた湖水地域における燃料の問題を、マーニは正確に分析していた。
「……」
半田千早の沈黙を、マーニは半田千早にとっては不可知な問題と解した。
「やっぱり気付いていなかったんだね。
チハヤは、そういうことがあまりわからないからね。
空から見ると一目瞭然なんだ。船の数は、激減しているよ。
だけど、バルカネルビのヒトは燃料のことは何も言わない。藻を固めた薪は欲しがるけど、軽油やガソリンが欲しいとは言わない。
なぜなんだろう?
そう考えながら、ヘリの見物人たちに探りを入れたんだ。
誰も答えない。
女の子にも声をかけたけど、好きな子のこととかは答えるけど、燃料のことは固く口をつぐむんだ。
何かある……。
私はそれを探る。
空から……。
秘密を見つけたら、チハヤがどうにかするんだよ」
半田千早は、マーニの観察眼が恐ろしかった。
「うん」
半田千早は、喉元からそれだけを絞り出した。
マーニは不時着したのではなかった。セロの飛行船を攻撃しながら、地上と水上を偵察し、船の運行数が少ないことを確認した。
同じ状況はバルカネルビでも発生していて、マーニはその理由を単独で探っていた。
200万年前の情報では、湖水地帯があるマリ共和国から油田は発見されていない。東の隣国であるニジェール共和国では、同国東部で油田が開発されていた。
この油田は位置から推測すると、200万年後のチャド湖西岸付近だ。
と、するならば、チャド湖近縁の油田からの補給はあり得ない。
ニジェール川の河口付近、ニジェール・デルタには大規模な油田がある。しかし、この地は赤道から500キロ圏にあり、暴風の中での採掘は不可能だ。
マーニは確信していた。他に油田がある。小規模かもしれないが、秘密の油田がある。しかも、ニジェール川からあまり離れていない場所に。
彼女はバルカネルビ飛行場に戻ると、兵装懸吊用のスポンソンを修理するとともに、機外燃料タンクの装備を可能にする改造を始めた。
マーニの真意を知る仲間は3人。ストライク・カニア攻撃ヘリコプターのガンナーである褐色の精霊族ホティア、精霊族唯一のパイロットのララ、そしてクフラックの武器商人カルロッタ。
カルロッタは、バルカネルビに武器の営業でやって来た。しかし、そこには先んじて市場を開拓しているノイリン王の娘がいた。
クフラックを訪れたフルギア商人から聞いたノイリン王の娘の話を鍵に、遠方の地で知古を得たいとノイリンの武器商人を探した。
カルロッタは、西ユーラシアから3000キロ以上離れたバルカネルビにノイリン王の娘が2人もいるとはまったく想像していなかった。
バルカネルビの飛行場で「ノイリン王の娘はどこにいるか知っているか?」と尋ねたら、自動的にマーニを紹介された。
そして、彼女が探していたノイリン王の娘とは、別人であることを最近知った。
ノイリン王の娘は英明・利発と聞いていたが、マーニのほんわかしたイメージはフルギア商人たちの伝聞とは合致しなかった。
カルロッタは、不審を抱きながらもマーニに近付いた。そして、マーニと意気投合してしまった。
ノイリン製小型ヘリコプターの原型は、200万年前にソ連のミル設計局が開発し、ポーランドのPZL-シフィドニクが製造したMi-2(ミル2)の民間型カニアだ。
200万年後では、調達できる物資に限りがあり、この5500機近く製造された傑作機をデッドコピーすることができなかった。
原型機はターボシャフトエンジン双発だったが、ノイリン製は単発となった。単発ではエンジンに異常があった場合、生存性に劣るが、やむを得ない処置だった。エンジンも原型機とは異なり、特徴的な機体上部の大きな盛り上がりがなくなっている。
輸送型は原型機の名を引き継いでカニアと呼ばれ、乗員・乗客6、貨物700キロ、800キロまでの機外懸吊のいずれかが可能だった。機内スペースは、燃料タンクを大型化したため、原型機ほどは広くなかった。乗員・乗客数は2減じている。
航続距離は、機内最大ペイロードでも300キロに達した。
ノイリン製カニアをベースに攻撃型であるストライク・カニアが開発されたが、製造は1機に留まった。代替として武装型が計画され、このタイプはサラマンドラと呼ばれた。この名も、原型機の武装型から拝借している。
ノイリンでは要員の不足を補うため、パイロットは整備の教育を受け、整備士には操縦訓練が課せられた。
マーニが整備しているカニアは初期型で、航続距離が150キロほどしかない。機内にドラム缶改造の燃料タンク(200リットル)、機外スポンソンに150リットル燃料タンクを左右1個ずつ懸吊できるようにした。
これで、航続距離は計算上500キロまで伸びる。バルカネルビを起点に、湖水地域全域を空から低速で偵察できる。
バルカネルビを起点にすれば、半径200キロ圏を上空から観察できる。
湖水地帯からあまり遠くない場所に、油田があるはず、とマーニは推測していた。
マーニはテスト飛行と偽って、湖水地域全域に対する計画的な観測飛行を実施した。
彼女は、ニジェール川右岸のどこかに油田がある、と考えていたが、5日を経ても手がかりはなかった。
そう考える理由は、油樽を積んだタンカーが湖水地帯の北側に集中して繋留されているからだ。
だが、マーニたちの計画はすぐに頓挫した。燃料の割り当てに限りがあったからだ。陸路で輸送できる量には限りがあり、単なるテスト飛行名目では燃料の配分は受けられなかった。
半田千早は、マーニに「マリに油田はない」と伝えていないことを気に病んでいた。だが、それは大規模油田のことで、ごく小規模ならば存在する可能性はある。
200万年前の日本の原油輸入量は、年間1億8000万キロリットル。人口1億2000万人とすれば、1人あたりの年間必要量は1.5キロリットル。湖水地域の人口を30万人とすれば、年間45万キロリットルあればいい。
石油資源のない日本でさえ、年間50万キロリットルくらいは産出していた。
湖水地域の近くに年産100万キロリットル級の小規模油田が存在していたとしても不思議じゃない。
それと、2000キロもの陸路を救世主がやって来た理由。
湖水地帯の人々は、口を揃えて「穀物を奪われた」と言うが、穀物ほしさに2000キロは遠すぎる。もっと重要なものを求めてきたはず。
最近まで、救世主はガソリンを使い、湖水地帯は軽油か重油だから、燃料を奪われなかった、と解していたが、それは不自然だ。絶対量は少なくとも、石油があるならばガソリンを製造することはできる。
西ユーラシアは、車輌や航空機用の燃料を自力で輸送しているが、この地で調達できるなら、それが最善だ。
半田千早は、コムギやトウモロコシなどの買い付けは経験しているが、燃料に関しては一切ない。不自然なほど。
彼女は、ココワのエリシュカからの要望を銃器班本店に伝えるために、商館の通信室で順番待ちしていた。
彼女は3時間待って、ようやく無線のマイクに取りついたが、養父が不在であることに本能的な不安を感じた。
俺はこの日、黒魔族の件でカンガブルに赴いていた。カンガブルは、北アフリカに進出した精霊族と鬼神族を支援しており、サハラ南部の白魔族の存在も議題だった。
状況は単純ではなく、混沌としていた。
半田千早の交信には、相馬悠人の妻で、ノイリン北地区議員のウルリカが対応した。ライフルの生産ライセンスの販売に関しては、あらかじめ決められた金額で交渉すれば許可されるとの言質を得た。
半田千早にとっての問題は、この先にあった。
「ウルリカさん、燃料の問題なんだけど、湖水地帯の近くに油田があるんじゃないかと……。
だけど、この地の人々は、燃料について話題にしないんだ……」
ウルリカは迂闊な答えは危険だと直感した。
「燃料は、とても繊細な問題だから……。
そっちの状況を理解しているわけではないから、的外れかもしれないけれど、燃料を買いたい、よりは、燃料を売りたい、と言ったほうが情報がとれるんじゃないかな。
買いたい、と言われたら警戒すると思うけど、売りたいなら、不足しているとは思われないと思う。
1キロリットルなら、ちょっとした量だと思うけど……」
半田千早はウルリカの提案を受け入れたいが、1キロリットルもの燃料を調達する術がなかった。
「でも、燃料なんて、どうやったって運べないよ。燃料不足で、クルマも飛行機も行動が制限されているのに……」
ウルリカは、赤道以北アフリカの内陸で燃料の調達ができれば、行動の範囲が拡大することは理解していた。
しかし、湖水地域付近に油田はない。それは200万年前の調査で明確だ。
「チハヤ、湖水地帯の一帯には石油は出ないよ。ユウトがそう言っていた。200万年前の記録は正しいって……」
それは、半田千早も承知していた。
「だけど、それは大油田のことだよ。200万年前は凄い量の石油を使っていたんだ。私が生まれた国では、年間2億キロリットルも輸入していた。
年産数十万キロリットル程度の小規模油田ならば、あるかもしれない。
隣国のニジェールには、大油田があったし……。
その程度の油田があれば、湖水地帯だけなら十分なんだ」
ウルリカも、半田千早の判断は正しいとは思う。それに、状況から油田があることは確実。だが、油田の存在を確認してどうするのか?
奪うのか?
それを決めない限り、調査自体に意味がない。
「チハヤ、油田を見つけてどうするの?
奪うの?」
半田千早は絶句した。
「それは……!」
ウルリカが諭す。
「方針を決めないと。
油田を発見して奪うのか、それとも売りたくない相手を銃で脅して買うのか?
救世主は食料を求めて2000キロを旅してきたんじゃないと思う。
食料なら、黒羊や銀羊を襲っても手に入れられる。
わざわざ、湖水地帯までやって来たのは、もっと手に入れにくいものが欲しいから……」
半田千早は、ウルリカの慧眼に驚いた。
「マーニも同じことを言っていた……」
ウルリカは、マーニをよく知っている。
「あの子は、見かけと内実が違いすぎる。先を読む目を持っているの。
マーニは、彼女のグループを作っている。チハヤは、マーニとよく相談して連携して欲しい」
半田千早は、マーニのグループに惹かれた。ホティアやララは、想像の範囲内だが……。
バルカネルビの商館を早朝に出発した半田千早とオルカは、30分ほど東に走り、周囲に民家はもちろん、農地さえない荒れ地に救世主が造った滑走路をノイリンが拡張した飛行場に到着する。
飛行場には、意外な人物がいた。
片倉幸子だ。
新たに3000メートル級滑走路を増設するために、バマコからやって来た。
バマコとバルカネルビ間の道路は、未舗装だが完成している。ニジェール川には支流・分流が少なく、地形は平坦で、比較的容易に建設できた。
片倉幸子には、油圧のドーザーブレードを備えた装甲ドーザーが8輌も指揮下にあり、建設班自体が武装しており、戦力的には飛行場警備隊に匹敵した。
バルカネルビ飛行場において、片倉幸子には一定の発言力があった。
「ちーちゃん、元気だった?」
半田千早は、幼名で呼ばれ激しく動揺する。
「うん。
おばちゃんは?」
半田千早は一瞬、「ショウくんのママは?」と言いそうになり、慌ててもいた。脳と喉頭の筋肉が、異なる動きをしたことから不自然な発音になった。
片倉幸子は、そんな彼女の心を敏感に感じ取った。
「ちーちゃん。
燃料の陸送は、効率がよくない。
ここは、アフリカ。
ナイジェリアのニジェール川河口には大油田があった。ニジェール東部にも大油田があった。
マーニとよく相談して、石油のことを調べないと……」
半田千早は、激しく動揺した。
「おばちゃんは、湖水地帯の油田ではなく、独自に油田を探せ、と……」
片倉幸子には、目算があった。
「油田は、チャド湖西岸まで行かないとないはず。
200万年前の記録では……。
そして、実際にないのだと思う。
湖水地域では、危険を冒してニジェール川河口まで行っているんじゃないかな。
どう考えても、白魔族が拠点にしているチャド湖周辺には行かないでしょう。
それに、湖水地帯には動力のある車輌がほとんどないし……。水運と考えるほうが自然でしょう。
ギリギリ暴風圏外に秘密の油田があるんだと思う。
もし、救世主がニジェール川を封鎖したら、油が断たれるから、この付近に油田があるかのように思わせているんじゃないかな。
私たちも、それに引っかかっている」
半田千早は、すでに日本語をほとんど忘れていた。片倉幸子とは、変質した英語であるいわゆる異教徒の言葉で会話している。
オルカは、2人の会話の70パーセントほどは理解していた。オルカの村には石油系の燃料はなく、動力で動く乗り物もなかった。
オルカは背後に複数のヒトの気配を感じて、振り返る。
マーニが微笑む。オルカはマーニを知っていたが、ホティアやララとは初対面だった。ヒトではないヒトに似た種族……。そして、ヒト。
カルロッタは、片倉幸子の“秘密の油田”が気になった。秘密の油田について問いたかったが、面識がなく、かつノイリンの街人でない彼女は臆した。
しかし、マーニは違った。
「オバチャン、秘密の油田って?」
片倉幸子にも、確信があるわけではなかった。
「確かな情報があるわけじゃないの。
だけど、ガンビアの海岸で油田が発見された……。
200万年前の情報通りだった……。
ならば、湖水地帯に油田はない。
だけど、白魔族はこの世界ならば無尽蔵とも言えるほどの北アフリカの油田を確保している。
半田さんや相馬さんは、白魔族は油田確保が目的で北アフリカに進出した、と考えていたけれど、実際は油田のないチュニジアが拠点だったでしょ。
油田は、サハラ南端にあった……。
白魔族は、石油を陸路で北アフリカまで運び、さらには私たちが中央平原と呼んでいたアルプス以南まで進出してきた。
精霊族と鬼神族は、リビアで白魔族の油田を探したけれど、見つけられなかった。精霊族が見つけた油田は、数百年前に彼らが使っていたものだったらしい。
アフリカの内陸で、燃料問題を解決しない限り、ヒトに勝利の女神は微笑まないよ」
ララは沈黙を貫けなかった。
「カタクラ、もし、もしも……だけど、燃料が調達できなかったら……」
片倉幸子は、強い不安を感じていた。
「輸送潜水艦で、ニジェール川を遡り、バルカネルビとバマコに燃料を届ける、という計画を相馬さんや金沢さんが作成したことがあるらしい。
川を潜水して進めるわけはないから、成功したとしても1度か2度。川幅がいくら広くても、川なんだから封鎖はできるでしょう?
そもそも、河口付近でも川幅は3キロほど、ベヌエ川との合流より上流は1キロ以下。
水深はあるらしいけど、川なんだから浅瀬もあるだろうし……。
金沢さんは本気で潜水艦による燃料輸送を考えている、って噂があった。
潜水した状態の排水量が500トンくらいの小型の潜水艦で、60トンの燃料を運べるそうだけど……。
32トンの重油を使って、60トンの燃料、170キロリットルくらいじゃ、1回の輸送程度だと焼け石に水、かな。だいたい、効率悪すぎ。
定期的に運行すれば、救世主に気付かれる。
結局、船では運べない。
この状態が続けば、ララが大嫌いな精霊族がピンチになる。鬼神族も……。
北アフリカに活路を見出そうとしている、カンガブル、シェプニノ、カラバッシュだって無傷じゃすまない。
ヒトは追い込まれてしまう……」
ララが珍しく感情を見せる。
「私が嫌いなのは……」
片倉幸子が微笑む。
「許してあげなさい。
精霊族のすべてがあなたにひどいことをしたわけじゃない。
同じように、フルギアのすべてが章一の死にかかわったわけじゃない。
こんなことが言えるのは、私くらいだから……」
ララは沈黙した。
カルロッタは我慢できなかった。
「無礼は承知。お許を。
私はクフラックの武器商人でカルロッタ。
私たちはどうすればいいのか?」
片倉幸子は、カルロッタではなく半田千早を見詰める。
「ちーちゃん。
私たちが北方低層平原を出て、ようやくたどり着いた地で、私たちは何て呼ばれていたっけ?」
半田千早が小首をかしげる。
「……種から燃料を作る種族?……」
片倉幸子は、半田千早が幼い頃のことを覚えていたことを喜んだ。
「燃料班がガンビア川河口の南で活動しているの。
燃料班には農業班、正確には斉木先生の意を受けた特別チームが同行している……。
彼らは、海岸部にギニアアブラヤシが群生していることを発見したの。
だけど……。
内陸のほうが多いんじゃないかな?」
マーニが半田千早を見る。
「おばちゃん、パーム油?」
半田千早の問いに片倉幸子が頷く。
「見る限り、内陸にはアブラヤシが多いように感じる。
もし、パーム油が大量に確保できれば、バイオディーゼルが製造できる。
燃料班と農業班は、バンジェル島まで来ている……。
あなたたちが、きちんとしたレポートを作れば、きっと……」
全員が半田千早を見る。
「アブラヤシの実からパーム油が採れるんだ。植物から採れる油脂としては、最も効率がいいはず。果肉からも、種子からも油が採れる」
マーニが半田千早の肩に手を置く。
「アブラヤシがたくさんあれば、油田がなくても、どうにかなるよ。
私たちは空から、チハヤたちは陸から調べようよ。
でも、アブラヤシって、木?
それとも草?」
ギニアアブラヤシ自体は、クマンも利用していた。ただ、200万年前の東南アジアのように巨大なプランテーションを作る、大規模な栽培はしていなかった。
食用油と灯火用、採油後に残った種子はナッツとして、食用にしていた。果実の繊維は頑丈で紙の原料にもしている。
基本的には自生しており、自生地を拡張して原始的な栽培を行っていた。作物としては、コムギやトウモロコシほど重要視していなかった。
それでも、栽培に関する技術は継承されていた。
農業班は、当初からギニアアブラヤシに注目していた。
もちろん、燃料資源として。
だが、油田の存在を確実視している燃料班は、植物の果実に興味はなかった。
農業班と燃料班は同根だった。だが、燃料班の若者たちは、我々が“種から燃料を作る種族”と呼ばれていたことを知らない。
農業班は独自に、ギニアアブラヤシの果実と種子から効率よく油を抽出する方法を研究していた。
基本は、クマンの方法と同じ。果実を数時間煮込んで、水を混ぜた果肉を砕いて攪拌、水分の上に脂肪を含んだ泡ができ、これを採集する。脂肪を含む泡を鍋で加熱し、水分を蒸発させ、蛋白質などの不純物が沈殿する。
上澄みが、精製されたパーム油となる。
農業班は、これを大規模に行うプラントの設計を始めていた。さらに、精製を完全にするためのグリセリンの徹底除去、劣化を防ぐ酸化防止剤については、ノイリンで研究している。
マーニたちは空からの探査で、バマコとバルカネルビの中間点にある中継基地マルカラ周辺に、巨大なギニアアブラヤシの群生地を見つけた。
半田千早たちが地上で群生を確認したのだが、群生地には人跡があった。
高さ1.5メートルから2メートル、全長2キロに達する精密な石組みの真円に近い防塁があった。防塁の内部には、精密な石組みの土台が残っており、崩れてはいるが石造の神殿のようなものまである。
川の流れが変わったのか、防塁は畔から4キロほど北にあった。
マルカラ中継基地は維持されてはいたが、役目は終えていた。恒久的な建物はなく、回収待ちの空のドラム缶が数百とトレーラーを牽引する全装軌のトラクターが残されている。
周囲は鉄条網で囲ってはいるが、ヒトの攻撃には無防備だ。
ギニアアブラヤシの群生は、地上からは100平方キロに達することを確認していたが、空中からの観察ではその数十倍はあると、推測できた。極端に密生しているのではなく、適度な間隔で繁茂している。単子葉類のヤシ科であることから、上空からでも判別しやすかった。
ギニアアブラヤシの小規模な群生地はニジェール川沿岸全域に点在しているが、この植物の勢力は大きくない。ニジェール川北岸のマルカラ周辺は例外で、不自然なほど広範囲に自生している。
半田千早とマーニたちが作成した簡単なレポートは、燃料班は完全に無視した。燃料班にとっての関心は、ガンビア川河口南側の油田だった。
だが、農業班はすぐに調査隊を陸路で送ってきた。
ギニアアブラヤシの果実の現物もバンジェル島に送っていたが、現地を実際に調査すると、すぐに実験プラントの搬送を始める。
農業班は実験プラントの設置場所を、半田千早たちが見つけた防塁内に決める。
神殿の台座が完璧に水平で、プラントの設置に適していたからだ。
ただ、それだけだった。
この頃から、半田千早のグループとマーニのグループは、深くバイオディーゼルの製造にかかわっていくことになる。
農業班のリーダーは若かった。マニニアンは20歳になったばかりの野心家で、個人的な事情から西アフリカにやって来て、西ユーラシアに戻る意思はなかった。
彼は数年前、家族とともにドラキュロに襲われた。家族と本人は無事だったが、ドラキュロが恐ろしく、その恐怖から逃れるため西アフリカ行きを志願した。
彼の野心とは、ドラキュロのいない西アフリカに自分の居場所を築くことだった。実に小さな野心だが、切実でもあった。
だから、何としてでも、ギニアアブラヤシからバイオディーゼルを精製したかった。
マーニは防塁の上に座り、半田千早を見下ろしている。
「基地の移動許可は出た?」
半田千早が見上げる。
「基地の移動どころか、空のドラム缶の再利用許可も出ないんだよ。
ドラム缶を管理している班がわかんないんだって!」
マーニが両手を太股と防塁の間に入れる。
「ふぁ~、バカっぽい!」
「本当に呆れちゃうよ」
「誰のものかわからないときは、誰のものでもないと言うことで……」
半田千早は、マーニをにらむ。
「そういうわけには、いかないでしょ」
現実は、そうしなければならない状況だった。
バイオディーゼルの製造は順調で、すでにドラム缶4本分を精製している。
マルカラ中継基地の暇をもてあましている輸送班員も協力して、20人ほどでアブラヤシの実を集めているのだが、それほど一生懸命でもないのに、プラントに必要な量が集まってくる。
燃料不足に悩むバマコやバルカネルビからも“援軍”が空荷のトラックでやって来て、仕事を手伝ってくれる。
製造にあたってのエネルギー効率が非常にいい。
マルカラ燃料工場では、果肉を圧搾して絞るパーム油、種子を圧搾して得るパーム核油を採取している。
圧搾する動力は蒸気ピストンなのだが、ボイラーの燃料は絞りかすを使っている。また、ボイラーの蒸気でタービンを回転させ、その力で発電もしている。
バンジェル島以外では、最も電力が豊富な場所とまで言われ始めている。
マニニアンの方針ははっきりしていて、人的資源の不足から「燃料が欲しければ“援軍”を寄越せ」だ。
マルカラ中継基地の要員は、ランプの生活に疲れていて、強引に燃料工場に移動してしまった。
空のドラム缶は、気付けばマーニの言った通りになっていた。誰のものかわからないのだから、誰が使ってもいい、と。
トラックは空荷でやって来て、マルカラに残置されていた空のドラム缶に詰めた燃料を、バマコやバルカネルビに運んでいく。
2カ月ほどで燃料の問題は半分ほど解決した。実験プラントでの生産量は、絶対的に少ないのだが、極限に近い節約状態からは抜け出していた。
バマコ周辺にもギニアアブラヤシの自生地があり、バマコ基地は農業班に「実験プラントでいいから、燃料の生産設備を設置しろ」とうるさく要求している。
マニニアンはバマコでもプラント建設を計画している。
半田千早は、ウルリカの提案であるバルカネルビでの燃料の販売を試みた。
半田千早は、オルカとともにバギーSに乗り、湖水地域で最も多くタンカーを保有するココワの油商人宅を訪ねる。
なるべく、ほころびのない服を選び、編み上げのブーツは泥を落とした。
商談用の部屋に通されたが、アポイントを取っていたにもかかわらず1時間以上待たされた。
だが、当主が対応してくれた。
「西のお方、今日はどのようなご用ですか?」
半田千早はこの時点で、商談を諦めかけていた。当主が内在する態度は、明確に半田千早を見下していた。
「先日お知らせした通り、燃料をお買い上げいただけないかと思い、まかり越しました」
当主は表情を変えなかった。
「量は、どれほどですか?」
半田千早は、極度に緊張し始めていた。
「軽油相当品を1キロリットル」
番頭は下を向き笑った。
「当家は、街の小売店ではないのですよ」
半田千早は、当主の答えを逆手にとる。
「それは失礼しました。
貴家の油樽を積んだ船が、最近はぴくりとも動かないようなので……。
さぞや商品にお困りなのでは、と思った次第です」
当主は45歳ほどの練達の商人だが、彼から見れば子供の、しかも女に見くびられて、怒りの感情が頭をもたげてしまった。
当主は、男尊女卑の激しいココワ出身だった。半田千早の若さよりも、女であることのほうが怒りの源泉になっていた。
「女の分際で、男に向かってその口のきき用は何だ」
半田千早は、マルカラで最も強面の男を相手に啖呵を切る練習をしてきた。湖水地帯での油商人は、例外なくココワ出身だと聞いていたからだ。ココワがこの地で一目も二目も置かれる理由は、燃料の独占にあった。
「おっさん、小娘相手にビビってるんじゃないよ。
こっちは商売の話できてるんだ。
まともな話ができないなら、帰らせてもらうよ」
当主の怒りは極まっていた。
「女、しつけをしてやる」
ココワで“女のしつけ”とは、強制的な性交を意味する。
半田千早は、そのこともよく知っていた。
「おっさん、私に近付いたら、歩けなくなるよ」
半田千早が立ち上がり、部屋の扉に向かうと、当主が近寄ってきた。
彼女の早撃ちは、ノイリンでは有名。アンティの次に早いとされている。
番頭が気付いたときには、半田千早は38口径のハンドエジェクト・リボルバーを右手に握っていた。
「撃てるか、なんて聞かないでね。
西ユーラシアでは、赤ん坊でも銃を扱えるんだから。
引き金は、理性ではなく、本能で引く」
当主は、わずか16歳の少女に得体の知れない威圧を感じた。
オルカはご機嫌で、バギーSの車内で待っていた。旋回銃塔の機関銃は必要だと思えば発射してもいい、と半田千早から言われていたからだ。
だが、そんな事態はあり得ないと考えていたし、半田千早だって何かあるとは想像だにしていない。
オルカは半田千早が右手に拳銃を握って、玄関のとてつもなく大きなドアから飛び出してきたときには、心底驚いた。
半田千早は、車寄せのバギーSの運転席側ドアを開けると機械の作動のように運転席に滑り込み、ドアを閉めた。
オルカは何があったのかを半田千早に問おうとしたが、それよりも早く、バギーSの運転席側ウィンドウに銃弾があたる。
半田千早が、右手の中指を立てた。笑っている。
中年の男が単発のカービンから薬莢を引き抜き、再装填しようとしている。
「チハヤ、撃っていい!」
半田千早の声音には嘲笑が混じっていた。
「その必要はないよ。
あのおっさんに、殺すほどの価値はない」
数日後の夜、マルカラでは全員が1カ所に集まった。
半田千早は、何を言うべきか考えたが、思い付かなかった。
「私、余計なことしたみたい。
ごめんなさい。
燃料を買ってくれたら嬉しいなぁ、って思っただけなんだけど……。
でも、知ってはいたんだ。
湖水地域の経済は、ココワが仕切っているっていうことは……。
それと、湖水地域は、どこから燃料を得ているのか……。
私たち“種から燃料を作る種族”が現れたことで、湖水地域のパワーバランスが変わる」
マニニアンが半田千早に問う。
「概算だけど、バマコからマルカラまでの一帯で、計画的にパーム油を採取したら、年産300万キロリットルは確実だよ。
それが問題になるのか?」
マーニが喜ぶ。
「ビックリだよ。
こないだまでの燃料不足が嘘みたい。
だけど、私たちが燃料を売るほど持っているとなると、ココアの油商人はどう出るかな?」
マニニアンが地面を見詰めたまま答える。
「襲ってくる可能性がある。
ココワの油商人は、相当に荒っぽいらしい。
反抗的な住人の船を襲って、財貨や生命を奪うこともするとか」
カルロッタが驚く。
「それは、海賊だろう」
マニニアンが頷く。
「海賊、野盗とあまりかわらない連中ってことだ。
基地の防御を固めよう」
マルカラ中継基地は、急にきな臭くなってしまった。
しかも、飛行船に描かれていた国籍標識は、赤服とも青服とも異なる、黒い円に白い×だった。
新たなセロの侵攻を予感させた。
捕虜の尋問によって、セロには複数の“国家”があることがわかっている。赤服と青服以外にも、有力なセロの“国家”がある。
西ユーラシアと北アフリカに攻め込んだ赤服、西アフリカに侵攻してきた青服だけでも、どうにか対抗している状況で、新たなセロの勢力が現れたとするならば、ヒトの行く末に暗雲が立ち込める。
俺は湖水地帯に向かいたかったが、西ユーラシアの情勢がそれを許さなかった。
黒魔族の一部が、アルプス北麓から南麓に移動する動きを見せていたことと、一部がライン川を渡河する動きを示していた。
この変化は見過ごせない。黒魔族が西進するならば、ヒトは対抗しなければならない。
俺はこの緊急事態に対応するため、各街との連絡・折衝で、ローヌ・ソーヌ川沿いを上り下りしていた。
バンジェル島とバルカネルビ間は、直線で1500キロもの距離がある。ケドゥグとバマコに滑走路を建設すれば、500キロ間隔で経由でき、実際にそのようにしている。
滑走路はマナンタリ中継基地にもある。
輸送に投入している機体は、ノイリン製スカイバンとショート360に近似する長胴型単垂直尾翼のスカイバンⅡシェルパで、4機から6機を運行している。頑丈な固定脚なので、この地域に適している。
問題は燃料の輸送で、ケドゥグまでは陸送するにしても、バマコ以東はニジェール川を使いたかった。ケドゥグはガンビア川の上流にあたり、水運も可能だ。
200万年後のニジェール川は、想像を絶するほどの大河で、バマコ以西まで1000総トン級の船舶が航行できる。
ただ、ニジェール川河口付近は、赤道から500キロ圏にあり、常に暴風圏にある。500キロ圏内ギリギリなので船舶がまったく近寄れないわけではないが、かなり危険だ。
ニジェール川を頼っての安定供給は、不可能かもしれない。
旧クマン王国を南北に2分する北のバルマドゥ多民族国と、南のクマン国との国境線確定交渉は困難を極めた。
バルマドゥ多民族国側の言い分は、国境線はガンビア川、ガンビア川南岸からカザマンス川北岸までを緩衝地帯とする提案だったが、元首パウラは頑なに拒絶した。
元首パウラは、国境線をガンビア川とすることに異議は唱えず、「緩衝地帯は必要ない。ガンビア川の中心を国境とする。これで何の問題もない」と言い張った。
この主張はパウラの元臣下を含む誰もが、王朝最後の王族となるパウラの意地だと考えていた。
無意味な抵抗だと……。
結局、セロと対峙するクマン国には、バルマドゥ多民族国に攻め入る余力などありはしないことは明白なので、「クマン国はカザマンス川を越えて軍を動かす場合は、バルマドゥ多民族国に対して14日以上前に通報する」という条項を追加して、国境線確定と平和条約締結が整った。
パウラは半田千早から特別な情報を得ていた。
200万年後のガンビア川河口から南15キロに大規模な油田がある。200万年前は海底だったが、現在は陸になっている。
他にも油田はあるが、この油田は確実で、すぐにでも採掘できる。
油田が入手できれば、西ユーラシアとも有利に交渉できる。
石油を売った代金で、武器も買える。そうすれば、セロとも戦える。
平和条約締結の直後、条文通りにクマン軍の小部隊数隊をカザマンス川以北に派遣するとバルマドゥ政府に通告。
バルマドゥ政府側も織り込み済みの行動だった。
しかし、平和条約締結から20日後、クマンは油田を発見し、即座に原油の生産を始める。
カザマンス川以南に製油施設などの建設も始まった。
この事実に接したバルマドゥ政府の指導者マルクスは、「あの小娘~!」と叫んで壁に酒のグラスを叩きつけたという。
クマン国政府中枢は、政治家であれ、官僚であれ、パウラの元臣下であれ、軍人であれ、交渉相手である老練なマルクスに、ひたすら「民の大事な農地を奪わないで!」と懇願していた、か弱い姫君に思えた自国元首の強〈したた〉かさに舌を巻いた。
この日、元首パウラは、国のお飾りから政治家になった。
ある外交官僚は「元首閣下、これ以上の交渉は惨めというもの。禍根を残すことになります。バルマドゥ側の要求を受け入れましょう」と何度も進言したという。
官僚の進言を受け入れず、有力政治家の諌言にも従わず、軍人の忠告をも無視して、ひたすらガンビア川以南全域の完全領有を主張し続けた元首パウラの真意を知った政府関係者は、彼女に頭を垂れたと伝えられる。
この時期、クマン国は安定してはいなかった。クマン王家嫡流を名乗る幼子を擁立して、クマン王家再興を叫ぶ一団もあった。
また、クマンからの一切の身分制度廃絶を主張して、元首パウラの解任を要求する勢力もあった。
だが、油田の発見は、すべての勢力を沈黙させた。
その石油を、陸路以外ではバマコまで運べない。タンカーはなく、ドラム缶に入れて運ぶしか手段はない。
燃料がなければ、バマコは維持できない。バルカネルビの商館や飛行場も放棄しなければならなくなる。
現在は、バマコまで10キロリットルの航空燃料を運ぶために、輸送のために5キロリットルが必要だ。つまり、膨大な時間をかけて運んでも、50パーセントしか届かないのだ。
この非効率性を改善しない限り、赤道以北アフリカ内陸に関わり続けることはできない。
俺は黒魔族の動向を探りながら、心はアフリカにあった。
半田千早は、重大なことに気付いていた。湖水地域の河川船は、軽油か重油を燃料とする焼玉エンジンが動力の主力だ。
湖水地域に達した頃、川にも湖沼にも多くの船が行き交っていた。
だが、日を追って、その数が減っていく。
半田千早は、自分の迂闊さにめまいがしそうだった。この失態を誰かに聞いて欲しい。
誰に聞いてもらえばいいのか。
眼前に不時着したヘリコプターの横で、野戦口糧を食べるマーニがいた。彼女は、不時着させた機体から離れなかった。
「ヘリ、直りそう?」
「もう直っているよ。
て、言うか、機体自体は壊れていなかったんだ。
右のスポンソンがもぎ取られちゃったから、左を外しただけ」
マーニは、周囲を見た。すでに飽きたのか、小型のカニア輸送ヘリコプターの見物人は視界にはいない。
「チハヤ、気付いてる?
タンカーがまったく動いていない。タンカーの係留数が増えているんだ。
それだけじゃない。
渡船や漁船も動いていない。
きっと、燃料がないんだ。
湖水地帯のヒトは、それを隠している。
なぜ?
油田があるんだよ。
油田の存在を知られたくないから、私たちが立ち去るまで、燃料を取りに行かずに我慢しているんだ」
半田千早は唖然としていた。唐突に思い付いた湖水地域における燃料の問題を、マーニは正確に分析していた。
「……」
半田千早の沈黙を、マーニは半田千早にとっては不可知な問題と解した。
「やっぱり気付いていなかったんだね。
チハヤは、そういうことがあまりわからないからね。
空から見ると一目瞭然なんだ。船の数は、激減しているよ。
だけど、バルカネルビのヒトは燃料のことは何も言わない。藻を固めた薪は欲しがるけど、軽油やガソリンが欲しいとは言わない。
なぜなんだろう?
そう考えながら、ヘリの見物人たちに探りを入れたんだ。
誰も答えない。
女の子にも声をかけたけど、好きな子のこととかは答えるけど、燃料のことは固く口をつぐむんだ。
何かある……。
私はそれを探る。
空から……。
秘密を見つけたら、チハヤがどうにかするんだよ」
半田千早は、マーニの観察眼が恐ろしかった。
「うん」
半田千早は、喉元からそれだけを絞り出した。
マーニは不時着したのではなかった。セロの飛行船を攻撃しながら、地上と水上を偵察し、船の運行数が少ないことを確認した。
同じ状況はバルカネルビでも発生していて、マーニはその理由を単独で探っていた。
200万年前の情報では、湖水地帯があるマリ共和国から油田は発見されていない。東の隣国であるニジェール共和国では、同国東部で油田が開発されていた。
この油田は位置から推測すると、200万年後のチャド湖西岸付近だ。
と、するならば、チャド湖近縁の油田からの補給はあり得ない。
ニジェール川の河口付近、ニジェール・デルタには大規模な油田がある。しかし、この地は赤道から500キロ圏にあり、暴風の中での採掘は不可能だ。
マーニは確信していた。他に油田がある。小規模かもしれないが、秘密の油田がある。しかも、ニジェール川からあまり離れていない場所に。
彼女はバルカネルビ飛行場に戻ると、兵装懸吊用のスポンソンを修理するとともに、機外燃料タンクの装備を可能にする改造を始めた。
マーニの真意を知る仲間は3人。ストライク・カニア攻撃ヘリコプターのガンナーである褐色の精霊族ホティア、精霊族唯一のパイロットのララ、そしてクフラックの武器商人カルロッタ。
カルロッタは、バルカネルビに武器の営業でやって来た。しかし、そこには先んじて市場を開拓しているノイリン王の娘がいた。
クフラックを訪れたフルギア商人から聞いたノイリン王の娘の話を鍵に、遠方の地で知古を得たいとノイリンの武器商人を探した。
カルロッタは、西ユーラシアから3000キロ以上離れたバルカネルビにノイリン王の娘が2人もいるとはまったく想像していなかった。
バルカネルビの飛行場で「ノイリン王の娘はどこにいるか知っているか?」と尋ねたら、自動的にマーニを紹介された。
そして、彼女が探していたノイリン王の娘とは、別人であることを最近知った。
ノイリン王の娘は英明・利発と聞いていたが、マーニのほんわかしたイメージはフルギア商人たちの伝聞とは合致しなかった。
カルロッタは、不審を抱きながらもマーニに近付いた。そして、マーニと意気投合してしまった。
ノイリン製小型ヘリコプターの原型は、200万年前にソ連のミル設計局が開発し、ポーランドのPZL-シフィドニクが製造したMi-2(ミル2)の民間型カニアだ。
200万年後では、調達できる物資に限りがあり、この5500機近く製造された傑作機をデッドコピーすることができなかった。
原型機はターボシャフトエンジン双発だったが、ノイリン製は単発となった。単発ではエンジンに異常があった場合、生存性に劣るが、やむを得ない処置だった。エンジンも原型機とは異なり、特徴的な機体上部の大きな盛り上がりがなくなっている。
輸送型は原型機の名を引き継いでカニアと呼ばれ、乗員・乗客6、貨物700キロ、800キロまでの機外懸吊のいずれかが可能だった。機内スペースは、燃料タンクを大型化したため、原型機ほどは広くなかった。乗員・乗客数は2減じている。
航続距離は、機内最大ペイロードでも300キロに達した。
ノイリン製カニアをベースに攻撃型であるストライク・カニアが開発されたが、製造は1機に留まった。代替として武装型が計画され、このタイプはサラマンドラと呼ばれた。この名も、原型機の武装型から拝借している。
ノイリンでは要員の不足を補うため、パイロットは整備の教育を受け、整備士には操縦訓練が課せられた。
マーニが整備しているカニアは初期型で、航続距離が150キロほどしかない。機内にドラム缶改造の燃料タンク(200リットル)、機外スポンソンに150リットル燃料タンクを左右1個ずつ懸吊できるようにした。
これで、航続距離は計算上500キロまで伸びる。バルカネルビを起点に、湖水地域全域を空から低速で偵察できる。
バルカネルビを起点にすれば、半径200キロ圏を上空から観察できる。
湖水地帯からあまり遠くない場所に、油田があるはず、とマーニは推測していた。
マーニはテスト飛行と偽って、湖水地域全域に対する計画的な観測飛行を実施した。
彼女は、ニジェール川右岸のどこかに油田がある、と考えていたが、5日を経ても手がかりはなかった。
そう考える理由は、油樽を積んだタンカーが湖水地帯の北側に集中して繋留されているからだ。
だが、マーニたちの計画はすぐに頓挫した。燃料の割り当てに限りがあったからだ。陸路で輸送できる量には限りがあり、単なるテスト飛行名目では燃料の配分は受けられなかった。
半田千早は、マーニに「マリに油田はない」と伝えていないことを気に病んでいた。だが、それは大規模油田のことで、ごく小規模ならば存在する可能性はある。
200万年前の日本の原油輸入量は、年間1億8000万キロリットル。人口1億2000万人とすれば、1人あたりの年間必要量は1.5キロリットル。湖水地域の人口を30万人とすれば、年間45万キロリットルあればいい。
石油資源のない日本でさえ、年間50万キロリットルくらいは産出していた。
湖水地域の近くに年産100万キロリットル級の小規模油田が存在していたとしても不思議じゃない。
それと、2000キロもの陸路を救世主がやって来た理由。
湖水地帯の人々は、口を揃えて「穀物を奪われた」と言うが、穀物ほしさに2000キロは遠すぎる。もっと重要なものを求めてきたはず。
最近まで、救世主はガソリンを使い、湖水地帯は軽油か重油だから、燃料を奪われなかった、と解していたが、それは不自然だ。絶対量は少なくとも、石油があるならばガソリンを製造することはできる。
西ユーラシアは、車輌や航空機用の燃料を自力で輸送しているが、この地で調達できるなら、それが最善だ。
半田千早は、コムギやトウモロコシなどの買い付けは経験しているが、燃料に関しては一切ない。不自然なほど。
彼女は、ココワのエリシュカからの要望を銃器班本店に伝えるために、商館の通信室で順番待ちしていた。
彼女は3時間待って、ようやく無線のマイクに取りついたが、養父が不在であることに本能的な不安を感じた。
俺はこの日、黒魔族の件でカンガブルに赴いていた。カンガブルは、北アフリカに進出した精霊族と鬼神族を支援しており、サハラ南部の白魔族の存在も議題だった。
状況は単純ではなく、混沌としていた。
半田千早の交信には、相馬悠人の妻で、ノイリン北地区議員のウルリカが対応した。ライフルの生産ライセンスの販売に関しては、あらかじめ決められた金額で交渉すれば許可されるとの言質を得た。
半田千早にとっての問題は、この先にあった。
「ウルリカさん、燃料の問題なんだけど、湖水地帯の近くに油田があるんじゃないかと……。
だけど、この地の人々は、燃料について話題にしないんだ……」
ウルリカは迂闊な答えは危険だと直感した。
「燃料は、とても繊細な問題だから……。
そっちの状況を理解しているわけではないから、的外れかもしれないけれど、燃料を買いたい、よりは、燃料を売りたい、と言ったほうが情報がとれるんじゃないかな。
買いたい、と言われたら警戒すると思うけど、売りたいなら、不足しているとは思われないと思う。
1キロリットルなら、ちょっとした量だと思うけど……」
半田千早はウルリカの提案を受け入れたいが、1キロリットルもの燃料を調達する術がなかった。
「でも、燃料なんて、どうやったって運べないよ。燃料不足で、クルマも飛行機も行動が制限されているのに……」
ウルリカは、赤道以北アフリカの内陸で燃料の調達ができれば、行動の範囲が拡大することは理解していた。
しかし、湖水地域付近に油田はない。それは200万年前の調査で明確だ。
「チハヤ、湖水地帯の一帯には石油は出ないよ。ユウトがそう言っていた。200万年前の記録は正しいって……」
それは、半田千早も承知していた。
「だけど、それは大油田のことだよ。200万年前は凄い量の石油を使っていたんだ。私が生まれた国では、年間2億キロリットルも輸入していた。
年産数十万キロリットル程度の小規模油田ならば、あるかもしれない。
隣国のニジェールには、大油田があったし……。
その程度の油田があれば、湖水地帯だけなら十分なんだ」
ウルリカも、半田千早の判断は正しいとは思う。それに、状況から油田があることは確実。だが、油田の存在を確認してどうするのか?
奪うのか?
それを決めない限り、調査自体に意味がない。
「チハヤ、油田を見つけてどうするの?
奪うの?」
半田千早は絶句した。
「それは……!」
ウルリカが諭す。
「方針を決めないと。
油田を発見して奪うのか、それとも売りたくない相手を銃で脅して買うのか?
救世主は食料を求めて2000キロを旅してきたんじゃないと思う。
食料なら、黒羊や銀羊を襲っても手に入れられる。
わざわざ、湖水地帯までやって来たのは、もっと手に入れにくいものが欲しいから……」
半田千早は、ウルリカの慧眼に驚いた。
「マーニも同じことを言っていた……」
ウルリカは、マーニをよく知っている。
「あの子は、見かけと内実が違いすぎる。先を読む目を持っているの。
マーニは、彼女のグループを作っている。チハヤは、マーニとよく相談して連携して欲しい」
半田千早は、マーニのグループに惹かれた。ホティアやララは、想像の範囲内だが……。
バルカネルビの商館を早朝に出発した半田千早とオルカは、30分ほど東に走り、周囲に民家はもちろん、農地さえない荒れ地に救世主が造った滑走路をノイリンが拡張した飛行場に到着する。
飛行場には、意外な人物がいた。
片倉幸子だ。
新たに3000メートル級滑走路を増設するために、バマコからやって来た。
バマコとバルカネルビ間の道路は、未舗装だが完成している。ニジェール川には支流・分流が少なく、地形は平坦で、比較的容易に建設できた。
片倉幸子には、油圧のドーザーブレードを備えた装甲ドーザーが8輌も指揮下にあり、建設班自体が武装しており、戦力的には飛行場警備隊に匹敵した。
バルカネルビ飛行場において、片倉幸子には一定の発言力があった。
「ちーちゃん、元気だった?」
半田千早は、幼名で呼ばれ激しく動揺する。
「うん。
おばちゃんは?」
半田千早は一瞬、「ショウくんのママは?」と言いそうになり、慌ててもいた。脳と喉頭の筋肉が、異なる動きをしたことから不自然な発音になった。
片倉幸子は、そんな彼女の心を敏感に感じ取った。
「ちーちゃん。
燃料の陸送は、効率がよくない。
ここは、アフリカ。
ナイジェリアのニジェール川河口には大油田があった。ニジェール東部にも大油田があった。
マーニとよく相談して、石油のことを調べないと……」
半田千早は、激しく動揺した。
「おばちゃんは、湖水地帯の油田ではなく、独自に油田を探せ、と……」
片倉幸子には、目算があった。
「油田は、チャド湖西岸まで行かないとないはず。
200万年前の記録では……。
そして、実際にないのだと思う。
湖水地域では、危険を冒してニジェール川河口まで行っているんじゃないかな。
どう考えても、白魔族が拠点にしているチャド湖周辺には行かないでしょう。
それに、湖水地帯には動力のある車輌がほとんどないし……。水運と考えるほうが自然でしょう。
ギリギリ暴風圏外に秘密の油田があるんだと思う。
もし、救世主がニジェール川を封鎖したら、油が断たれるから、この付近に油田があるかのように思わせているんじゃないかな。
私たちも、それに引っかかっている」
半田千早は、すでに日本語をほとんど忘れていた。片倉幸子とは、変質した英語であるいわゆる異教徒の言葉で会話している。
オルカは、2人の会話の70パーセントほどは理解していた。オルカの村には石油系の燃料はなく、動力で動く乗り物もなかった。
オルカは背後に複数のヒトの気配を感じて、振り返る。
マーニが微笑む。オルカはマーニを知っていたが、ホティアやララとは初対面だった。ヒトではないヒトに似た種族……。そして、ヒト。
カルロッタは、片倉幸子の“秘密の油田”が気になった。秘密の油田について問いたかったが、面識がなく、かつノイリンの街人でない彼女は臆した。
しかし、マーニは違った。
「オバチャン、秘密の油田って?」
片倉幸子にも、確信があるわけではなかった。
「確かな情報があるわけじゃないの。
だけど、ガンビアの海岸で油田が発見された……。
200万年前の情報通りだった……。
ならば、湖水地帯に油田はない。
だけど、白魔族はこの世界ならば無尽蔵とも言えるほどの北アフリカの油田を確保している。
半田さんや相馬さんは、白魔族は油田確保が目的で北アフリカに進出した、と考えていたけれど、実際は油田のないチュニジアが拠点だったでしょ。
油田は、サハラ南端にあった……。
白魔族は、石油を陸路で北アフリカまで運び、さらには私たちが中央平原と呼んでいたアルプス以南まで進出してきた。
精霊族と鬼神族は、リビアで白魔族の油田を探したけれど、見つけられなかった。精霊族が見つけた油田は、数百年前に彼らが使っていたものだったらしい。
アフリカの内陸で、燃料問題を解決しない限り、ヒトに勝利の女神は微笑まないよ」
ララは沈黙を貫けなかった。
「カタクラ、もし、もしも……だけど、燃料が調達できなかったら……」
片倉幸子は、強い不安を感じていた。
「輸送潜水艦で、ニジェール川を遡り、バルカネルビとバマコに燃料を届ける、という計画を相馬さんや金沢さんが作成したことがあるらしい。
川を潜水して進めるわけはないから、成功したとしても1度か2度。川幅がいくら広くても、川なんだから封鎖はできるでしょう?
そもそも、河口付近でも川幅は3キロほど、ベヌエ川との合流より上流は1キロ以下。
水深はあるらしいけど、川なんだから浅瀬もあるだろうし……。
金沢さんは本気で潜水艦による燃料輸送を考えている、って噂があった。
潜水した状態の排水量が500トンくらいの小型の潜水艦で、60トンの燃料を運べるそうだけど……。
32トンの重油を使って、60トンの燃料、170キロリットルくらいじゃ、1回の輸送程度だと焼け石に水、かな。だいたい、効率悪すぎ。
定期的に運行すれば、救世主に気付かれる。
結局、船では運べない。
この状態が続けば、ララが大嫌いな精霊族がピンチになる。鬼神族も……。
北アフリカに活路を見出そうとしている、カンガブル、シェプニノ、カラバッシュだって無傷じゃすまない。
ヒトは追い込まれてしまう……」
ララが珍しく感情を見せる。
「私が嫌いなのは……」
片倉幸子が微笑む。
「許してあげなさい。
精霊族のすべてがあなたにひどいことをしたわけじゃない。
同じように、フルギアのすべてが章一の死にかかわったわけじゃない。
こんなことが言えるのは、私くらいだから……」
ララは沈黙した。
カルロッタは我慢できなかった。
「無礼は承知。お許を。
私はクフラックの武器商人でカルロッタ。
私たちはどうすればいいのか?」
片倉幸子は、カルロッタではなく半田千早を見詰める。
「ちーちゃん。
私たちが北方低層平原を出て、ようやくたどり着いた地で、私たちは何て呼ばれていたっけ?」
半田千早が小首をかしげる。
「……種から燃料を作る種族?……」
片倉幸子は、半田千早が幼い頃のことを覚えていたことを喜んだ。
「燃料班がガンビア川河口の南で活動しているの。
燃料班には農業班、正確には斉木先生の意を受けた特別チームが同行している……。
彼らは、海岸部にギニアアブラヤシが群生していることを発見したの。
だけど……。
内陸のほうが多いんじゃないかな?」
マーニが半田千早を見る。
「おばちゃん、パーム油?」
半田千早の問いに片倉幸子が頷く。
「見る限り、内陸にはアブラヤシが多いように感じる。
もし、パーム油が大量に確保できれば、バイオディーゼルが製造できる。
燃料班と農業班は、バンジェル島まで来ている……。
あなたたちが、きちんとしたレポートを作れば、きっと……」
全員が半田千早を見る。
「アブラヤシの実からパーム油が採れるんだ。植物から採れる油脂としては、最も効率がいいはず。果肉からも、種子からも油が採れる」
マーニが半田千早の肩に手を置く。
「アブラヤシがたくさんあれば、油田がなくても、どうにかなるよ。
私たちは空から、チハヤたちは陸から調べようよ。
でも、アブラヤシって、木?
それとも草?」
ギニアアブラヤシ自体は、クマンも利用していた。ただ、200万年前の東南アジアのように巨大なプランテーションを作る、大規模な栽培はしていなかった。
食用油と灯火用、採油後に残った種子はナッツとして、食用にしていた。果実の繊維は頑丈で紙の原料にもしている。
基本的には自生しており、自生地を拡張して原始的な栽培を行っていた。作物としては、コムギやトウモロコシほど重要視していなかった。
それでも、栽培に関する技術は継承されていた。
農業班は、当初からギニアアブラヤシに注目していた。
もちろん、燃料資源として。
だが、油田の存在を確実視している燃料班は、植物の果実に興味はなかった。
農業班と燃料班は同根だった。だが、燃料班の若者たちは、我々が“種から燃料を作る種族”と呼ばれていたことを知らない。
農業班は独自に、ギニアアブラヤシの果実と種子から効率よく油を抽出する方法を研究していた。
基本は、クマンの方法と同じ。果実を数時間煮込んで、水を混ぜた果肉を砕いて攪拌、水分の上に脂肪を含んだ泡ができ、これを採集する。脂肪を含む泡を鍋で加熱し、水分を蒸発させ、蛋白質などの不純物が沈殿する。
上澄みが、精製されたパーム油となる。
農業班は、これを大規模に行うプラントの設計を始めていた。さらに、精製を完全にするためのグリセリンの徹底除去、劣化を防ぐ酸化防止剤については、ノイリンで研究している。
マーニたちは空からの探査で、バマコとバルカネルビの中間点にある中継基地マルカラ周辺に、巨大なギニアアブラヤシの群生地を見つけた。
半田千早たちが地上で群生を確認したのだが、群生地には人跡があった。
高さ1.5メートルから2メートル、全長2キロに達する精密な石組みの真円に近い防塁があった。防塁の内部には、精密な石組みの土台が残っており、崩れてはいるが石造の神殿のようなものまである。
川の流れが変わったのか、防塁は畔から4キロほど北にあった。
マルカラ中継基地は維持されてはいたが、役目は終えていた。恒久的な建物はなく、回収待ちの空のドラム缶が数百とトレーラーを牽引する全装軌のトラクターが残されている。
周囲は鉄条網で囲ってはいるが、ヒトの攻撃には無防備だ。
ギニアアブラヤシの群生は、地上からは100平方キロに達することを確認していたが、空中からの観察ではその数十倍はあると、推測できた。極端に密生しているのではなく、適度な間隔で繁茂している。単子葉類のヤシ科であることから、上空からでも判別しやすかった。
ギニアアブラヤシの小規模な群生地はニジェール川沿岸全域に点在しているが、この植物の勢力は大きくない。ニジェール川北岸のマルカラ周辺は例外で、不自然なほど広範囲に自生している。
半田千早とマーニたちが作成した簡単なレポートは、燃料班は完全に無視した。燃料班にとっての関心は、ガンビア川河口南側の油田だった。
だが、農業班はすぐに調査隊を陸路で送ってきた。
ギニアアブラヤシの果実の現物もバンジェル島に送っていたが、現地を実際に調査すると、すぐに実験プラントの搬送を始める。
農業班は実験プラントの設置場所を、半田千早たちが見つけた防塁内に決める。
神殿の台座が完璧に水平で、プラントの設置に適していたからだ。
ただ、それだけだった。
この頃から、半田千早のグループとマーニのグループは、深くバイオディーゼルの製造にかかわっていくことになる。
農業班のリーダーは若かった。マニニアンは20歳になったばかりの野心家で、個人的な事情から西アフリカにやって来て、西ユーラシアに戻る意思はなかった。
彼は数年前、家族とともにドラキュロに襲われた。家族と本人は無事だったが、ドラキュロが恐ろしく、その恐怖から逃れるため西アフリカ行きを志願した。
彼の野心とは、ドラキュロのいない西アフリカに自分の居場所を築くことだった。実に小さな野心だが、切実でもあった。
だから、何としてでも、ギニアアブラヤシからバイオディーゼルを精製したかった。
マーニは防塁の上に座り、半田千早を見下ろしている。
「基地の移動許可は出た?」
半田千早が見上げる。
「基地の移動どころか、空のドラム缶の再利用許可も出ないんだよ。
ドラム缶を管理している班がわかんないんだって!」
マーニが両手を太股と防塁の間に入れる。
「ふぁ~、バカっぽい!」
「本当に呆れちゃうよ」
「誰のものかわからないときは、誰のものでもないと言うことで……」
半田千早は、マーニをにらむ。
「そういうわけには、いかないでしょ」
現実は、そうしなければならない状況だった。
バイオディーゼルの製造は順調で、すでにドラム缶4本分を精製している。
マルカラ中継基地の暇をもてあましている輸送班員も協力して、20人ほどでアブラヤシの実を集めているのだが、それほど一生懸命でもないのに、プラントに必要な量が集まってくる。
燃料不足に悩むバマコやバルカネルビからも“援軍”が空荷のトラックでやって来て、仕事を手伝ってくれる。
製造にあたってのエネルギー効率が非常にいい。
マルカラ燃料工場では、果肉を圧搾して絞るパーム油、種子を圧搾して得るパーム核油を採取している。
圧搾する動力は蒸気ピストンなのだが、ボイラーの燃料は絞りかすを使っている。また、ボイラーの蒸気でタービンを回転させ、その力で発電もしている。
バンジェル島以外では、最も電力が豊富な場所とまで言われ始めている。
マニニアンの方針ははっきりしていて、人的資源の不足から「燃料が欲しければ“援軍”を寄越せ」だ。
マルカラ中継基地の要員は、ランプの生活に疲れていて、強引に燃料工場に移動してしまった。
空のドラム缶は、気付けばマーニの言った通りになっていた。誰のものかわからないのだから、誰が使ってもいい、と。
トラックは空荷でやって来て、マルカラに残置されていた空のドラム缶に詰めた燃料を、バマコやバルカネルビに運んでいく。
2カ月ほどで燃料の問題は半分ほど解決した。実験プラントでの生産量は、絶対的に少ないのだが、極限に近い節約状態からは抜け出していた。
バマコ周辺にもギニアアブラヤシの自生地があり、バマコ基地は農業班に「実験プラントでいいから、燃料の生産設備を設置しろ」とうるさく要求している。
マニニアンはバマコでもプラント建設を計画している。
半田千早は、ウルリカの提案であるバルカネルビでの燃料の販売を試みた。
半田千早は、オルカとともにバギーSに乗り、湖水地域で最も多くタンカーを保有するココワの油商人宅を訪ねる。
なるべく、ほころびのない服を選び、編み上げのブーツは泥を落とした。
商談用の部屋に通されたが、アポイントを取っていたにもかかわらず1時間以上待たされた。
だが、当主が対応してくれた。
「西のお方、今日はどのようなご用ですか?」
半田千早はこの時点で、商談を諦めかけていた。当主が内在する態度は、明確に半田千早を見下していた。
「先日お知らせした通り、燃料をお買い上げいただけないかと思い、まかり越しました」
当主は表情を変えなかった。
「量は、どれほどですか?」
半田千早は、極度に緊張し始めていた。
「軽油相当品を1キロリットル」
番頭は下を向き笑った。
「当家は、街の小売店ではないのですよ」
半田千早は、当主の答えを逆手にとる。
「それは失礼しました。
貴家の油樽を積んだ船が、最近はぴくりとも動かないようなので……。
さぞや商品にお困りなのでは、と思った次第です」
当主は45歳ほどの練達の商人だが、彼から見れば子供の、しかも女に見くびられて、怒りの感情が頭をもたげてしまった。
当主は、男尊女卑の激しいココワ出身だった。半田千早の若さよりも、女であることのほうが怒りの源泉になっていた。
「女の分際で、男に向かってその口のきき用は何だ」
半田千早は、マルカラで最も強面の男を相手に啖呵を切る練習をしてきた。湖水地帯での油商人は、例外なくココワ出身だと聞いていたからだ。ココワがこの地で一目も二目も置かれる理由は、燃料の独占にあった。
「おっさん、小娘相手にビビってるんじゃないよ。
こっちは商売の話できてるんだ。
まともな話ができないなら、帰らせてもらうよ」
当主の怒りは極まっていた。
「女、しつけをしてやる」
ココワで“女のしつけ”とは、強制的な性交を意味する。
半田千早は、そのこともよく知っていた。
「おっさん、私に近付いたら、歩けなくなるよ」
半田千早が立ち上がり、部屋の扉に向かうと、当主が近寄ってきた。
彼女の早撃ちは、ノイリンでは有名。アンティの次に早いとされている。
番頭が気付いたときには、半田千早は38口径のハンドエジェクト・リボルバーを右手に握っていた。
「撃てるか、なんて聞かないでね。
西ユーラシアでは、赤ん坊でも銃を扱えるんだから。
引き金は、理性ではなく、本能で引く」
当主は、わずか16歳の少女に得体の知れない威圧を感じた。
オルカはご機嫌で、バギーSの車内で待っていた。旋回銃塔の機関銃は必要だと思えば発射してもいい、と半田千早から言われていたからだ。
だが、そんな事態はあり得ないと考えていたし、半田千早だって何かあるとは想像だにしていない。
オルカは半田千早が右手に拳銃を握って、玄関のとてつもなく大きなドアから飛び出してきたときには、心底驚いた。
半田千早は、車寄せのバギーSの運転席側ドアを開けると機械の作動のように運転席に滑り込み、ドアを閉めた。
オルカは何があったのかを半田千早に問おうとしたが、それよりも早く、バギーSの運転席側ウィンドウに銃弾があたる。
半田千早が、右手の中指を立てた。笑っている。
中年の男が単発のカービンから薬莢を引き抜き、再装填しようとしている。
「チハヤ、撃っていい!」
半田千早の声音には嘲笑が混じっていた。
「その必要はないよ。
あのおっさんに、殺すほどの価値はない」
数日後の夜、マルカラでは全員が1カ所に集まった。
半田千早は、何を言うべきか考えたが、思い付かなかった。
「私、余計なことしたみたい。
ごめんなさい。
燃料を買ってくれたら嬉しいなぁ、って思っただけなんだけど……。
でも、知ってはいたんだ。
湖水地域の経済は、ココワが仕切っているっていうことは……。
それと、湖水地域は、どこから燃料を得ているのか……。
私たち“種から燃料を作る種族”が現れたことで、湖水地域のパワーバランスが変わる」
マニニアンが半田千早に問う。
「概算だけど、バマコからマルカラまでの一帯で、計画的にパーム油を採取したら、年産300万キロリットルは確実だよ。
それが問題になるのか?」
マーニが喜ぶ。
「ビックリだよ。
こないだまでの燃料不足が嘘みたい。
だけど、私たちが燃料を売るほど持っているとなると、ココアの油商人はどう出るかな?」
マニニアンが地面を見詰めたまま答える。
「襲ってくる可能性がある。
ココワの油商人は、相当に荒っぽいらしい。
反抗的な住人の船を襲って、財貨や生命を奪うこともするとか」
カルロッタが驚く。
「それは、海賊だろう」
マニニアンが頷く。
「海賊、野盗とあまりかわらない連中ってことだ。
基地の防御を固めよう」
マルカラ中継基地は、急にきな臭くなってしまった。
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