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第7章
07-180 チュニジア陥落
香野木恵一郎は、チュニジア陥落を風の噂で聞いた。
すでに、ノイリンには“行政”は存在しない。金髪碧眼と黒髪黒眼の2つのグループに分かれ、一触即発の状態にある。
どちらのグループも巻き毛・癖毛は優良なるヒトではないとした。つまり、巻き毛・癖毛は、子孫を残してはいけないのだ。子孫を残す可能性を感じたら、排除することが正しいと判断している。
そうしなければ、美しく、強く、正しいヒトの社会は作れない。
笑ってしまうが、彼らはそう信じている。
チュニジアの陥落は、陥落から3日後にノイリンを通過したロワール川を下る東方フルギアの船団の船員から聞いた。
彼方の出来事のように感じたが、実際1200キロも離れている。彼方の出来事だ。
そろそろ、ここを脱出しなければならない。昨日、金髪巻き毛の女の子が襲われた。ガチガチの優生主義者だったが、軽い巻き毛であったことから仲間からパージされた。
男が彼女を求めぬよう、片耳をそぎ落とされ、右頬に深い傷を付けられた。彼女は泣きながら、徒歩で下流に向かった。ドラキュロが侵入している状況では、長くは生きられないだろう。
優生主義者の残虐性が増している。
「一緒には行けない。
すまない」
「なぜです?」
この2人が襲われないわけは、何となくわかる。香野木はチュールの問いに軽く答えた。
「ローヌ川河口から北アフリカに向かう最初の船くらいは、見送らないと」
この優男は見かけとは違う。腰のコルト・パイソンをすごい速さで抜く。
「それは、俺も一緒ですよ。父さんのやり残しをあんたがしてくれた。
見届けないと」
クマのような男が同意する。“灰色のマトーシュ”と呼ばれている若者だ。灰色とは、ハイイログマを意味するそうだ。腰に佩いた刃渡り30センチの大型ナイフが、ポケットナイフに見えるほどの巨漢。指先がない革製の手袋をしている。おそらく、拳を守るためだ。
「ならば、付き合うよ。
船団の様子を確認しながら、折を見て中央平原に行けばいい。親父さんの形見を回収できるかもしれない」
マトーシュの言葉にチュールが笑う。
「あるわけない。
あったとしても、錆びてしまっている。錆びた鉄の塊を見つけても、意味はない」
香野木恵一郎は、2人をよく知らない。ヒトの目を気にして、古ぼけた木造の納屋の陰で話をしている。
「親父さん」
「俺の実の父親。病気で死んだんだが、もしかしたら毒を盛られたのかもしれない。
母さんがいなければ、俺と妹はどうなっていたか……」
「チュールとマーニは中央平原の出身なんだ。住んでいた家に、親父さん(実父)の拳銃が残されている」
香野木は単純に気になった。
「ローヌ川河口から中央平原に行くには、山脈を越えなければならない。
簡単じゃない。
方法は?」
2人が顔を見合わす。チュールが言った。
「いまは言えない」
香野木恵一郎が声を出して笑った。
長宗元親が建造した全通甲板を持ち、水陸両用トラック22輌を搭載可能な輸送船は、西地中海に入った。
ジブラルタルはヒトの手中にあり、対岸にあったオークの要衝セウタ要塞は陥落した。
西地中海は、ヒト、精霊族、鬼神族にとって安全な内海になった。
そして、里崎杏が指揮して、アルジェ方面へのトーカとギガス、トーカと行動をともにするヒトの輸送作戦が始まった。
「いよいよきな臭くなってきたね」
チュールが小首をかしげる。
「何かあった?」
香野木恵一郎は、昨夜の一件を思い出す。
「昨夜、侵入された」
「寝る場所は、毎日変えているか?」
「そうしているんだが、尾行されたようだ」
「コウノギが、ここに残っている理由は?」
「あるにはあるが……」
「理由は?」
「あのヘンな連中を見張っている」
「俺たちも。
でも、もう必要はないだろう。
トーカとギガスのほとんどは、河口付近まで移動したから」
「そうだな。
引き上げるか」
「じゃぁ、荷物をまとめて、西地区のエンジン工場跡に2時間後に」
「荷物はない。
背負っているザックだけだ」
マトーシュが促す。
「すぐに移動しよう。
見張られているぞ」
3人は、西地区に向かって歩き出した。背後から、距離を置いて2人が尾行している。
「驚いたな」
「父さんが見つけたヘリだよ」
「あぁ、UH-1イロコイだね」
「父さんはヒューイって呼んでいた」
「そう、ヒューイだ。
しかし、ボロだな。
飛ぶのか?」
「見かけほどひどくはない。
ちゃんと飛ぶさ」
「チュールが操縦するのか?」
「妹ほどじゃないが、操縦は下手じゃない」
香野木恵一郎とチュールとの会話に、マトーシュが割り込む。
「工場からヘリを出さないと。
連中がやって来る」
チュールが操縦し、香野木恵一郎とマトーシュは荷室に乗った。
離陸したヒューイはローヌ川を下り、2時間ほどで揚陸船の飛行甲板に着船する。
里崎杏は、突然のヒューイの飛来に驚いたし、着船させてもよいものか思案した。
事実上、ヒューイの強行着船だった。
香野木がヘリコプターを降りた際、里崎は彼にMP5短機関銃の銃口を向けた。
「香野木さん?」
「やぁ、船長」
ヒューイはすぐにローターを止めた。燃料が途切れそうだったから。
だから、香野木と里崎は、声をかけ合うことができた。
「いつも、驚かされる。香野木さんには。
みんな、銃を下ろしていいよ」
ヒトもいるが、船員の多くは精霊族だ。
「紹介するよ。
こちらは、マトーシュ。
パイロットは、チュール」
香野木がコクピットに残るチュールを指差す。
「マーニのお兄さんね」
「甲板が寂しいね?
マーニやホティアは?」
「Nキャンプから戻ってこないの。
結城くんは、ジャイロの製造にかかりっきりで、ヘリもジャイロも未搭載」
「2番船はどう?」
「2カ月あれば、動くようになる」
「航海は?」
「アルジェとマルセイユの間を2往復した。
輸送任務としては上々ね。
水陸両用トラックの威力は絶大。物資でも何でも、簡単に揚陸できる」
「長宗さんは、すごいヒトだ。設備なんてほとんどないのに、こんな船を造っちゃうんだから」
「長宗さんと加賀谷さんは、魔法の両手を持っている」
「確かに。
ここは、気持ちがいいね。
少し冷たいけど風が穏やかで、内陸のように凍えたりしない」
「内陸は寒いの?」
「夜は凍えるほど」
「夏なのに?」
「あぁ」
チュールは船に降りたのは初めてだし、「あの船に降りろ」と香野木から指示されたときは驚いた。
マトーシュは好奇心を刺激されたのか、飛行甲板上をあちこち見て回っている。チュールは、マトーシュが船に興味があることは知っていたし、移住が始まる前まではロワール川を航行する輸送船の船員をしていた。
チュールがノイリンの“監視”を始めると、マトーシュは彼のために街に残った。
船内は、まだ塗料の臭いがする。わずかだが、快適ではない。
だが、会議室は意外と広かった。
4人が着席すると、唐突にマトーシュが里崎に頼み事を始める。
「船長、俺をこの船の船員にしてくれ。俺はロワール川で船員をしていた。
こんな船は初めてだ!
デカイし、ヘンなカタチだ!
チュールに付き合うのも飽きたし、船乗りに戻りたいんだ」
船員不足に悩んでいた里崎には、渡りに船だった。
「そうしてくれると助かる。
人手が足りなくて……。
マーニのお兄さんと香野木さんも手伝ってね。絶対に解放しないから」
包囲する直前にチュニジアを脱出したオークの所在は、まったくわからなかった。数万に達する大群であるはずなのに、行方がわからない。
鬼神族は「戦車だけで1000はあるはず」と主張するが、それが彼ら特有の誇張なのか真実なのかさえわからない。
ただ、その数を精霊族が否定しない。ならば、戦車1000輌は可能性が高いのだ。
そんな不穏な空気の中で、西地中海沿岸付近に住む、ヒト、精霊族、鬼神族、トーカ。ギガスの北アフリカ移住が始まった。
揚陸船の機能と性能は、最初の輸送任務で、ヒト、精霊族、鬼神族に知れ渡っていた。
揚陸船は、右舷側に島型船橋があり、左舷側に大型の舷外エレベーターがある。
第1層のほとんどは航空機格納庫で、第1層の船首側に乗客用の共有部があった。ギガスの幼体たちは、ここを遊び場にしている。
第2層と第3層は客室。
アルジェまでは800キロほどで、18時間から20時間ほどの航海で到着する。
地中海は海退によって3分割されている。西から、西地中海、ティレニア海、東地中海だ。コルス島とサルディーニャ島はイタリア半島基部からつながる半島になっている。
このコルス・サルディーニャ半島とイタリアに囲まれた海がティレニア海だ。チュニス湾はない。
西地中海とティレニア海は、コルス・サルディーニャ半島沖でつながる。
東地中海は、ティレニア海と狭い海峡でつながる。アドリア海とエーゲ海は、陸地になっていて存在しない。つまり、イタリアは半島ではない。シチリア島とイタリアは接続していない。キプロス島も存在しない。
シナイ半島もない。アフリカ東部最北から大地溝帯に沿って、マダガスカル島対岸付近まで海水が入り込んでいる。つまり、アフリカは東西に分割されている。
浅海ではあるが、アフリカの西側は、紅海と大地溝帯が作り出した海によって、他の大陸から切り離されている。
アフリカ東側の分離は、東方フルギアによる探検で確実だとされている。実際、彼らはこの浅海を航海して、マダガスカル島と推定する大きな島に達している。マダガスカル島ではないとしても、インド洋に出たとは信じられている。
ララは王冠湾に戻ったが、マーニとホティアはNキャンプに留まっていた。
西サハラ湖西岸のアトラス人は、東岸が騒がしくなると活発な行動を始める。
だが、同時に東岸への“侵略者”とは、意図的に接触を避けているようでもあった。そして、Nキャンプでもアトラス人との接触に躊躇いがあった。
彼らのことが何もわからないからだ。
それでも、わずかな情報はあった。
上翼の小型航空機を保有していること。装輪と装軌の車輌を保有していること。高速の滑走艇を保有していること。
航空機は目撃情報から、装輪と装軌車は轍の発見から、高速滑走艇は航跡の存在から確実視されている。
となると、専制社会で、科学技術の遅れた東岸7姉妹とは、明らかに異なる。
どうであれ、アトラス人との接触は、いずれは必要になることだった。
西サハラ湖は広大。東西最大900キロ、南北最大650キロもある。
湖は南北に連なる中央列島によって、東西に別れる。
Nキャンプは、西サハラ湖から流れ出る唯一の河川であるヌアクショット川の湖尻(流出部、源流部)から200キロ離れた西岸にある。
対岸には、スパルタカスのグループが建設する街がある。
Nキャンプは当初、テント数張の小さな施設だったが、現在は恒久的な建物が続々と建設されている。
立場はジブラルタルなどと同じ、共同管理になっている。
事件は日没間際に起きた。
突然、見知らぬ航空機が滑走路に降りてきた。
パイロットは機外に出て気付く。
そして、慌てる。
半田千早は、マーニと一緒に謎の飛行機に駆け寄る。滑走路上には、飛行機とヘリコプターは駐機していなかった。
常駐しているアイランダーはカナリア諸島へ、カイユースはアトラス山脈内のクマンのキャンプに行っていた。
パイロットの驚きは相当なもので、また滑走路付近にいたヒトたちも驚いている。
パイロットは両手を挙げている。
謎の飛行機は迷彩塗装が施されているが、パイロットは軍人ではない。軍服を着ていないし、同乗者は明らかに民間人だ。
最初に声を発したのは、同乗者だった。
「ここは、どこだね。
きみたちは誰だね」
彼は、なぜかマーニを見ていた。マーニが正面にいたからか、彼女が拳銃を抜いていないからなのか。
「ここはNキャンプ。
私たちは大西洋沿岸から来たんだ」
「とすると、だね、東岸の野蛮人をやっつけたヒトたちだね?」
「そうだよ。
私はマーニ。
おじさんは?」
「私は地質学の教授で、ステラン・ヴィスト。
お嬢さんのお仕事は?」
「私はヘリコプターのパイロット」
彼は首から下げていたカメラを手にすると、それをパイロットに渡す。
「このお嬢さんと、一緒の写真を撮るんだ」
半田千早は呆気にとられていた。
シャッターの音で、我に返る。
「あなたは、アトラス人ですか?」
「東岸の野蛮人は、私たちをそう呼ぶね」
半田千早は、パイロットに「日没後の飛行は危険だから、今日はここに泊まって。身柄を拘束したりしないから」と伝えた。
パイロットは半信半疑のようで、頷きはしたが、同意しているとは思えない。
ステラン・ヴィストは、マーニに「泊まれと。それはいい。夕飯は何をご馳走してくれるのかな?」とのんきな問い。
「今日は、ジャガイモとタマネギのスープ、それと鶏の唐揚げだよ」
半田千早は、マーニは不思議な子だと思う。この状況で、日常の会話ができるのだ。
ステラン・ヴィストはやや小柄。頭髪は白く、やや薄い。口と顎にゴマ塩の髭を蓄える。
柔和な丸顔で、まん丸の眼鏡をしている。
薄茶のウールのズボンとジャケットを身に着け、足にはレギンスを巻いている。シャツもウールのようで、リボンタイを着けている。履き物は革製の短靴。
服装は、明確に東岸とは異なる。
半田千早が飛行機の管理を滑走路の管理担当に頼み、共用の食堂に向かったのは着陸から30分後だった。
パイロットは緊張しているのか、スープとパンには少し手をつけたようだが、唐揚げは減っていない。
「これ、美味しいね。
鶏肉を味付けして揚げたのかな。
私は料理には自信があるんだが、鶏肉を味付けしたソースが何かわからない。
お嬢さん、教えてくれるかね」
「醤油だよ」
「ショウユ?」
「うん。
大豆から造るんだ」
「マーニさん、海の沿岸は危険な場所だと聞いた」
「聞いた?」
「いいや、正確にはそう教わってきたんだ。
子供の頃から」
「ステランさん、どう危険なの?」
「大洋を渡って、ヒトに似たヒトではない生き物が襲ってくるんだ。
皆殺しにされる」
「手長族のことだね」
「手長族?」
「うん、ヒトよりも手が長いから手長族。自分たちのことをセロと呼ぶ」
「セロだ!
セロという動物だと教わったよ!」
「私たちは、セロと戦っている。
セロと戦う前に、ヒトを食う白魔族を北アフリカから追い払ったんだ」
「その進路上に東岸があった?」
「そうだよ」
「邪魔な東岸のヒトを殺した?」
「そんなことしていないよ。
白魔族の味方をするヒトとは戦ったけど、道を使わせてもらっただけ」
「真実ではないね」
「本当のことだよ」
「支配体制が変わったね」
「スパルタカスだよ」
「スパルタカス?」
「彼は労働市民の革命家なんだ。
虐げられていた労働市民を解放した……」
「東岸のヒトは飢え、身を売る女性がいると……」
「それは貴尊市民の仕業だよ。
スパルタカスは労働市民を解放した。
そして、貴尊市民が労働市民から奪った食料を奪い返した。
貴尊市民は食べるだけで無為に生きてきたから、働く能力がないんだ。
もう、労働市民から食料を奪えないから、生活は困窮していると思う。だけど、スパルタカスは貴尊市民にも慈悲を与えている。最低限の食料は配給している」
「本当か?」
「本当だよ。
直接、スパルタカスに聞いたら。
川の対岸にいるよ」
翌朝、ごく短い時間だったが、ステラン・ヴィストはスパルタカスと会談した。
これが、西岸のヒトで東岸の指導者と初めての会話となった。
マーニはステランを引き留めることは、トラブルの原因になると考えた。
半田千早は機体を一通り調べ、パイロットが要求する燃料を補給する。
そして、アトラス人の飛行機は飛び立った。
半田千早はアトラス人の来訪を待った。だが、10日過ぎても何の反応もなかった。
Nキャンプには、湖水地域のヒトたちが置いていった10メートル級動力艇と水陸両用トラック以外の船はなかった。
アトラス人との無理な接触は、双方にとっていいことではないように感じられた。
マーニは“返礼飛行”を主張している。訪問してくれたのだから、礼儀として訪問すべきだと。
だが、それができない理由があった。
アトラス人の中心的拠点がどこなのかわからないのだ。
Nキャンプの真北270キロに大きな街がある。アトラス人の街だが、ここが彼らの中心だとは思えない。
西サハラ湖西岸は平地が少ない。だが、湖を取り囲むサハラアトラス山脈の西、テルアトラス山脈の東に広大な平原がある。この山脈に囲まれた盆地のような地形は、推定5万平方キロ以上あり、この面積は九州と四国を合わせた広さに匹敵する。
この世界において地形は重要で、オークの拠点の近くにありながら、アトラス人が生き残れた理由は防御に適していたからだろう。
位置的には、セウタ要塞の南東にあたる。また、西の空からやって来るセロに対しては、アトラス山脈が防いでくれる。セロの飛行船は3000メートル程度が上昇の限界なので、4000メートルに達する高峰が連なる山脈越えは容易ではない。
この内陸平原は、バンジェル島に至るルートと湖水地域に向かうルートからもわずかに外れている。飛行ルートを外れない限り、空からは発見されることはない。
「来年の春は、暖かい」
精霊族の気候記録官は、そう予測した。
西ユーラシアのヒトは、戦慄する。暖かくなれば、ドラキュロがライン川を渡る。そうなれば、ヒト、精霊族、鬼神族にとっての地獄となる。
実在する地獄だ。
だが、その現実を受け入れられないヒトは一定数いる。将来への不安、農地を失いたくない気持ち、家族の墓、思い出など、理由は様々。
なるべく、そういうヒトは残したくない。
その努力は、ボランティアに委ねられている。
半田千早は戦場で戦うだけが、任務でないことをよく理解している。
「エンジンは6気筒の水平対向だった。たぶん、過給器はないよ。
機体の前後にエンジンがある双発機なんて、初めて見たよ。王冠島のドイに聞いたら、プッシュプルって言うんだって。
機体と主翼のほとんどは、木製だと思う。少なくとも金属や樹脂ではない。
座席は6人分あった」
マーニの報告に食堂内が静まる。半田千早は参加しているが、この会議の主役はパイロットたちだ。
ヴルマンの機長が「燃料を入れてやったなら、代金の回収に行ったらどうだ?」と発言すると、カナリア諸島の副操縦士が「緊急着陸なのに、それはないだろう」と反対する。
半田千早は、パイロットたちがアトラス人の街に乗り込む算段をしていることに気付いていた。
それは、危険なことだ。
カナリア諸島の機長が軽く挙手。
「アトラス人のことは、放ってはおけない。
それに、もし、想定通りの場所に飛行場があるなら、緊急の際の避難に使える。
あんたらがここで話し合っている理由だって、それだろう?
Nキャンプの滑走路拡張だって、それが俺たちの目的だった」
半田千早は気付いた。パイロットたちは、緊急時の退避場所、着陸場所としてアトラス人の飛行場を使いたいのだ。
航空機はヒトの独占ではない。ヒトと精霊族の混血も運用している。
彼らはいま、北アフリカへの移住で忙しい。アフリカ内陸まで飛んでくる余裕はない。だが、移住作業が一段落すれば、必ず進出してくる。
アルテミスの北郊外に一晩で造った急増滑走路は、どういうわけか廃止されず、延伸と舗装が始まっている。
物資集積用戦略的拠点として、必要だと聞いたが、これにもパイロットたちの“非常時”への思いがあるのだろう。
半田千早がパイロットたちの気持ちを察して、思案している間にマーニが決定的な一言を発した。
「アトラス人の街に行こう。
空から。
カナリアさん、飛行機出してくれる。
私も一緒に行くよ」
カナリア諸島出身者が、1人の機長を見る。
「政府にお伺いを立てると厄介だ。
俺たちでやっちまおう。
コンパスが狂ったとでも言えばいい。
拿捕はされないだろう」
半田千早は最近思うことがある。
この世界には、正義感が強すぎる無法者が多すぎる。彼女は「私は違う!」と心の中で叫んだが、自分自身がそれに当てはまることをよく知っていた。
アフリカの赤道直下の気候については、よくわかっていない。内陸ならば、あるいはアフリカ東岸ならば、大西洋の赤道付近に居座る強烈な低気圧の影響はないはず。
実際、東方フルギアは、大地溝帯が作り出した広大な浅海を進んで、赤道を越えている。
200万年後の地球の気候は、200万年前とはまったく異なる。
赤道以北アフリカは、総じて温暖で湿潤。内陸部の一部に乾燥が見られる。
バンジェル島付近は、気候としては温帯だ。
当然だが、動植物の分布も200万年前とは、まったく異なる。
そして、サハラは“緑の地獄”と呼ばれる大森林地帯だ。熱帯雨林ではない。温帯の常緑広葉樹林が広がる。
ここに逃げ込まれると、追跡は難しい。追跡できるが、待ち伏せ攻撃にさらされる。
そして、オークはサハラ樹林帯に逃げ込んだ。逃がしたくはないが、深追いすれば、大損害を被る。
今回の大攻勢は、オークを北アフリカから駆逐することが目的だった。その目的は果たした。
ヒト、精霊族、鬼神族が連合しても、オークの殲滅は難しいことはわかっていた。
オークがどうにかなったら、今度はアトラス人だ。
マーニはやる気だ。
翌日夜の会議は、紛糾した。
カナリア諸島のパイロットたちは、いざとなれば戦闘が可能なブロンコの使用を主張。
バンジェル島ドミヤート地区のパイロットたちは、武装していないターボ・アイランダーの使用を押す。
バンジェル島ダザリン地区とヴルマンのパイロットは、中立だ。
両案には一長一短がある。武装していれば、攻撃の意図ありとされても仕方ない。拿捕や撃墜もあり得る。
無武装ならば、「緊急着陸した民間機だ」で押し通せる。
ヴルマンのパイロットが自身の経験から意見を述べる。
「進路上に激しい雨が降っていて、仕方なくアトラス山脈寄りの非正規ルートを通ったことがある。
そのときに、機体の前後にプロペラがある双胴機に追撃された。平行して飛行し、領域から出るよう誘導されたが、警告射撃は受けていない。
むやみには、撃たないと思う」
マーニが両手をテーブルに付け、立ち上がる。
「アイランダーで行こうよ。
武装していなければ、敵意がないことを示せると思う。
訪問の目的は、緊急時の滑走路使用の許可。そして、私たちの滑走路も使っていいと、伝える」
ヴルマンのパイロットがヴルマンらしい心配をする。
「贈り物は何にする。
アイランダーじゃ、たいしたものは積めないぞ」
食堂に居合わせた湖水地域の商人が口を挟む。
「酒はどうだ。
バンジェル島の酒はうまいぞ」
年長の男と女が一斉に賛成する。
マーニはアンティ宛に「一番おいしいお酒をたくさん送って!」という実に曖昧な無線を送った。
マーニに頼られたアンティは妙に嬉しくなり、目的を知らぬまま貴重な8年貯蔵古酒50本を航空便で送った。
食堂のマスターが「50本もあるなら、半分は置いていけ」と分捕った。
マーニは釈然としなかったが、食堂のマスターを非難する年長者が誰もいない。
しかも、湖水地域の商人は「その酒は1本で、金貨5枚の価値がある」と言う。
さらに、「金貨5枚で買うから、売れ」と。湖水地域まで持って帰れば、金貨10枚で売れるのだと。
マーニは食堂のマスターが横流しするのではと疑ったが、違った。その酒は、そのとき食堂にいた男や女の体内に消えた。
スパルタカスまで希代の銘酒を飲みに対岸から訪れた。
マーニは残り25本を死守するために、アイランダーに積み込んでいた酒瓶の前で不寝番をした。
普段でも眠そうなマーニが、あくびをする。半田千早は心配したが、何も言わなかった。同じ養父母に姉妹として育てられたが、人格は別。
マーニがアイランダーの静かな機内に消える。
半田千早は、もしマーニの計画が成功すれば、北アフリカ西地中海沿岸からサブサハラ以北西側にヒトの巨大な生活圏が誕生する可能性があることに気付いていた。
彼女の鼓動は、徐々に速まっていく。
「セロに勝てるかもしれない」
彼女の呟きは、暗夜の中で消えていった。
すでに、ノイリンには“行政”は存在しない。金髪碧眼と黒髪黒眼の2つのグループに分かれ、一触即発の状態にある。
どちらのグループも巻き毛・癖毛は優良なるヒトではないとした。つまり、巻き毛・癖毛は、子孫を残してはいけないのだ。子孫を残す可能性を感じたら、排除することが正しいと判断している。
そうしなければ、美しく、強く、正しいヒトの社会は作れない。
笑ってしまうが、彼らはそう信じている。
チュニジアの陥落は、陥落から3日後にノイリンを通過したロワール川を下る東方フルギアの船団の船員から聞いた。
彼方の出来事のように感じたが、実際1200キロも離れている。彼方の出来事だ。
そろそろ、ここを脱出しなければならない。昨日、金髪巻き毛の女の子が襲われた。ガチガチの優生主義者だったが、軽い巻き毛であったことから仲間からパージされた。
男が彼女を求めぬよう、片耳をそぎ落とされ、右頬に深い傷を付けられた。彼女は泣きながら、徒歩で下流に向かった。ドラキュロが侵入している状況では、長くは生きられないだろう。
優生主義者の残虐性が増している。
「一緒には行けない。
すまない」
「なぜです?」
この2人が襲われないわけは、何となくわかる。香野木はチュールの問いに軽く答えた。
「ローヌ川河口から北アフリカに向かう最初の船くらいは、見送らないと」
この優男は見かけとは違う。腰のコルト・パイソンをすごい速さで抜く。
「それは、俺も一緒ですよ。父さんのやり残しをあんたがしてくれた。
見届けないと」
クマのような男が同意する。“灰色のマトーシュ”と呼ばれている若者だ。灰色とは、ハイイログマを意味するそうだ。腰に佩いた刃渡り30センチの大型ナイフが、ポケットナイフに見えるほどの巨漢。指先がない革製の手袋をしている。おそらく、拳を守るためだ。
「ならば、付き合うよ。
船団の様子を確認しながら、折を見て中央平原に行けばいい。親父さんの形見を回収できるかもしれない」
マトーシュの言葉にチュールが笑う。
「あるわけない。
あったとしても、錆びてしまっている。錆びた鉄の塊を見つけても、意味はない」
香野木恵一郎は、2人をよく知らない。ヒトの目を気にして、古ぼけた木造の納屋の陰で話をしている。
「親父さん」
「俺の実の父親。病気で死んだんだが、もしかしたら毒を盛られたのかもしれない。
母さんがいなければ、俺と妹はどうなっていたか……」
「チュールとマーニは中央平原の出身なんだ。住んでいた家に、親父さん(実父)の拳銃が残されている」
香野木は単純に気になった。
「ローヌ川河口から中央平原に行くには、山脈を越えなければならない。
簡単じゃない。
方法は?」
2人が顔を見合わす。チュールが言った。
「いまは言えない」
香野木恵一郎が声を出して笑った。
長宗元親が建造した全通甲板を持ち、水陸両用トラック22輌を搭載可能な輸送船は、西地中海に入った。
ジブラルタルはヒトの手中にあり、対岸にあったオークの要衝セウタ要塞は陥落した。
西地中海は、ヒト、精霊族、鬼神族にとって安全な内海になった。
そして、里崎杏が指揮して、アルジェ方面へのトーカとギガス、トーカと行動をともにするヒトの輸送作戦が始まった。
「いよいよきな臭くなってきたね」
チュールが小首をかしげる。
「何かあった?」
香野木恵一郎は、昨夜の一件を思い出す。
「昨夜、侵入された」
「寝る場所は、毎日変えているか?」
「そうしているんだが、尾行されたようだ」
「コウノギが、ここに残っている理由は?」
「あるにはあるが……」
「理由は?」
「あのヘンな連中を見張っている」
「俺たちも。
でも、もう必要はないだろう。
トーカとギガスのほとんどは、河口付近まで移動したから」
「そうだな。
引き上げるか」
「じゃぁ、荷物をまとめて、西地区のエンジン工場跡に2時間後に」
「荷物はない。
背負っているザックだけだ」
マトーシュが促す。
「すぐに移動しよう。
見張られているぞ」
3人は、西地区に向かって歩き出した。背後から、距離を置いて2人が尾行している。
「驚いたな」
「父さんが見つけたヘリだよ」
「あぁ、UH-1イロコイだね」
「父さんはヒューイって呼んでいた」
「そう、ヒューイだ。
しかし、ボロだな。
飛ぶのか?」
「見かけほどひどくはない。
ちゃんと飛ぶさ」
「チュールが操縦するのか?」
「妹ほどじゃないが、操縦は下手じゃない」
香野木恵一郎とチュールとの会話に、マトーシュが割り込む。
「工場からヘリを出さないと。
連中がやって来る」
チュールが操縦し、香野木恵一郎とマトーシュは荷室に乗った。
離陸したヒューイはローヌ川を下り、2時間ほどで揚陸船の飛行甲板に着船する。
里崎杏は、突然のヒューイの飛来に驚いたし、着船させてもよいものか思案した。
事実上、ヒューイの強行着船だった。
香野木がヘリコプターを降りた際、里崎は彼にMP5短機関銃の銃口を向けた。
「香野木さん?」
「やぁ、船長」
ヒューイはすぐにローターを止めた。燃料が途切れそうだったから。
だから、香野木と里崎は、声をかけ合うことができた。
「いつも、驚かされる。香野木さんには。
みんな、銃を下ろしていいよ」
ヒトもいるが、船員の多くは精霊族だ。
「紹介するよ。
こちらは、マトーシュ。
パイロットは、チュール」
香野木がコクピットに残るチュールを指差す。
「マーニのお兄さんね」
「甲板が寂しいね?
マーニやホティアは?」
「Nキャンプから戻ってこないの。
結城くんは、ジャイロの製造にかかりっきりで、ヘリもジャイロも未搭載」
「2番船はどう?」
「2カ月あれば、動くようになる」
「航海は?」
「アルジェとマルセイユの間を2往復した。
輸送任務としては上々ね。
水陸両用トラックの威力は絶大。物資でも何でも、簡単に揚陸できる」
「長宗さんは、すごいヒトだ。設備なんてほとんどないのに、こんな船を造っちゃうんだから」
「長宗さんと加賀谷さんは、魔法の両手を持っている」
「確かに。
ここは、気持ちがいいね。
少し冷たいけど風が穏やかで、内陸のように凍えたりしない」
「内陸は寒いの?」
「夜は凍えるほど」
「夏なのに?」
「あぁ」
チュールは船に降りたのは初めてだし、「あの船に降りろ」と香野木から指示されたときは驚いた。
マトーシュは好奇心を刺激されたのか、飛行甲板上をあちこち見て回っている。チュールは、マトーシュが船に興味があることは知っていたし、移住が始まる前まではロワール川を航行する輸送船の船員をしていた。
チュールがノイリンの“監視”を始めると、マトーシュは彼のために街に残った。
船内は、まだ塗料の臭いがする。わずかだが、快適ではない。
だが、会議室は意外と広かった。
4人が着席すると、唐突にマトーシュが里崎に頼み事を始める。
「船長、俺をこの船の船員にしてくれ。俺はロワール川で船員をしていた。
こんな船は初めてだ!
デカイし、ヘンなカタチだ!
チュールに付き合うのも飽きたし、船乗りに戻りたいんだ」
船員不足に悩んでいた里崎には、渡りに船だった。
「そうしてくれると助かる。
人手が足りなくて……。
マーニのお兄さんと香野木さんも手伝ってね。絶対に解放しないから」
包囲する直前にチュニジアを脱出したオークの所在は、まったくわからなかった。数万に達する大群であるはずなのに、行方がわからない。
鬼神族は「戦車だけで1000はあるはず」と主張するが、それが彼ら特有の誇張なのか真実なのかさえわからない。
ただ、その数を精霊族が否定しない。ならば、戦車1000輌は可能性が高いのだ。
そんな不穏な空気の中で、西地中海沿岸付近に住む、ヒト、精霊族、鬼神族、トーカ。ギガスの北アフリカ移住が始まった。
揚陸船の機能と性能は、最初の輸送任務で、ヒト、精霊族、鬼神族に知れ渡っていた。
揚陸船は、右舷側に島型船橋があり、左舷側に大型の舷外エレベーターがある。
第1層のほとんどは航空機格納庫で、第1層の船首側に乗客用の共有部があった。ギガスの幼体たちは、ここを遊び場にしている。
第2層と第3層は客室。
アルジェまでは800キロほどで、18時間から20時間ほどの航海で到着する。
地中海は海退によって3分割されている。西から、西地中海、ティレニア海、東地中海だ。コルス島とサルディーニャ島はイタリア半島基部からつながる半島になっている。
このコルス・サルディーニャ半島とイタリアに囲まれた海がティレニア海だ。チュニス湾はない。
西地中海とティレニア海は、コルス・サルディーニャ半島沖でつながる。
東地中海は、ティレニア海と狭い海峡でつながる。アドリア海とエーゲ海は、陸地になっていて存在しない。つまり、イタリアは半島ではない。シチリア島とイタリアは接続していない。キプロス島も存在しない。
シナイ半島もない。アフリカ東部最北から大地溝帯に沿って、マダガスカル島対岸付近まで海水が入り込んでいる。つまり、アフリカは東西に分割されている。
浅海ではあるが、アフリカの西側は、紅海と大地溝帯が作り出した海によって、他の大陸から切り離されている。
アフリカ東側の分離は、東方フルギアによる探検で確実だとされている。実際、彼らはこの浅海を航海して、マダガスカル島と推定する大きな島に達している。マダガスカル島ではないとしても、インド洋に出たとは信じられている。
ララは王冠湾に戻ったが、マーニとホティアはNキャンプに留まっていた。
西サハラ湖西岸のアトラス人は、東岸が騒がしくなると活発な行動を始める。
だが、同時に東岸への“侵略者”とは、意図的に接触を避けているようでもあった。そして、Nキャンプでもアトラス人との接触に躊躇いがあった。
彼らのことが何もわからないからだ。
それでも、わずかな情報はあった。
上翼の小型航空機を保有していること。装輪と装軌の車輌を保有していること。高速の滑走艇を保有していること。
航空機は目撃情報から、装輪と装軌車は轍の発見から、高速滑走艇は航跡の存在から確実視されている。
となると、専制社会で、科学技術の遅れた東岸7姉妹とは、明らかに異なる。
どうであれ、アトラス人との接触は、いずれは必要になることだった。
西サハラ湖は広大。東西最大900キロ、南北最大650キロもある。
湖は南北に連なる中央列島によって、東西に別れる。
Nキャンプは、西サハラ湖から流れ出る唯一の河川であるヌアクショット川の湖尻(流出部、源流部)から200キロ離れた西岸にある。
対岸には、スパルタカスのグループが建設する街がある。
Nキャンプは当初、テント数張の小さな施設だったが、現在は恒久的な建物が続々と建設されている。
立場はジブラルタルなどと同じ、共同管理になっている。
事件は日没間際に起きた。
突然、見知らぬ航空機が滑走路に降りてきた。
パイロットは機外に出て気付く。
そして、慌てる。
半田千早は、マーニと一緒に謎の飛行機に駆け寄る。滑走路上には、飛行機とヘリコプターは駐機していなかった。
常駐しているアイランダーはカナリア諸島へ、カイユースはアトラス山脈内のクマンのキャンプに行っていた。
パイロットの驚きは相当なもので、また滑走路付近にいたヒトたちも驚いている。
パイロットは両手を挙げている。
謎の飛行機は迷彩塗装が施されているが、パイロットは軍人ではない。軍服を着ていないし、同乗者は明らかに民間人だ。
最初に声を発したのは、同乗者だった。
「ここは、どこだね。
きみたちは誰だね」
彼は、なぜかマーニを見ていた。マーニが正面にいたからか、彼女が拳銃を抜いていないからなのか。
「ここはNキャンプ。
私たちは大西洋沿岸から来たんだ」
「とすると、だね、東岸の野蛮人をやっつけたヒトたちだね?」
「そうだよ。
私はマーニ。
おじさんは?」
「私は地質学の教授で、ステラン・ヴィスト。
お嬢さんのお仕事は?」
「私はヘリコプターのパイロット」
彼は首から下げていたカメラを手にすると、それをパイロットに渡す。
「このお嬢さんと、一緒の写真を撮るんだ」
半田千早は呆気にとられていた。
シャッターの音で、我に返る。
「あなたは、アトラス人ですか?」
「東岸の野蛮人は、私たちをそう呼ぶね」
半田千早は、パイロットに「日没後の飛行は危険だから、今日はここに泊まって。身柄を拘束したりしないから」と伝えた。
パイロットは半信半疑のようで、頷きはしたが、同意しているとは思えない。
ステラン・ヴィストは、マーニに「泊まれと。それはいい。夕飯は何をご馳走してくれるのかな?」とのんきな問い。
「今日は、ジャガイモとタマネギのスープ、それと鶏の唐揚げだよ」
半田千早は、マーニは不思議な子だと思う。この状況で、日常の会話ができるのだ。
ステラン・ヴィストはやや小柄。頭髪は白く、やや薄い。口と顎にゴマ塩の髭を蓄える。
柔和な丸顔で、まん丸の眼鏡をしている。
薄茶のウールのズボンとジャケットを身に着け、足にはレギンスを巻いている。シャツもウールのようで、リボンタイを着けている。履き物は革製の短靴。
服装は、明確に東岸とは異なる。
半田千早が飛行機の管理を滑走路の管理担当に頼み、共用の食堂に向かったのは着陸から30分後だった。
パイロットは緊張しているのか、スープとパンには少し手をつけたようだが、唐揚げは減っていない。
「これ、美味しいね。
鶏肉を味付けして揚げたのかな。
私は料理には自信があるんだが、鶏肉を味付けしたソースが何かわからない。
お嬢さん、教えてくれるかね」
「醤油だよ」
「ショウユ?」
「うん。
大豆から造るんだ」
「マーニさん、海の沿岸は危険な場所だと聞いた」
「聞いた?」
「いいや、正確にはそう教わってきたんだ。
子供の頃から」
「ステランさん、どう危険なの?」
「大洋を渡って、ヒトに似たヒトではない生き物が襲ってくるんだ。
皆殺しにされる」
「手長族のことだね」
「手長族?」
「うん、ヒトよりも手が長いから手長族。自分たちのことをセロと呼ぶ」
「セロだ!
セロという動物だと教わったよ!」
「私たちは、セロと戦っている。
セロと戦う前に、ヒトを食う白魔族を北アフリカから追い払ったんだ」
「その進路上に東岸があった?」
「そうだよ」
「邪魔な東岸のヒトを殺した?」
「そんなことしていないよ。
白魔族の味方をするヒトとは戦ったけど、道を使わせてもらっただけ」
「真実ではないね」
「本当のことだよ」
「支配体制が変わったね」
「スパルタカスだよ」
「スパルタカス?」
「彼は労働市民の革命家なんだ。
虐げられていた労働市民を解放した……」
「東岸のヒトは飢え、身を売る女性がいると……」
「それは貴尊市民の仕業だよ。
スパルタカスは労働市民を解放した。
そして、貴尊市民が労働市民から奪った食料を奪い返した。
貴尊市民は食べるだけで無為に生きてきたから、働く能力がないんだ。
もう、労働市民から食料を奪えないから、生活は困窮していると思う。だけど、スパルタカスは貴尊市民にも慈悲を与えている。最低限の食料は配給している」
「本当か?」
「本当だよ。
直接、スパルタカスに聞いたら。
川の対岸にいるよ」
翌朝、ごく短い時間だったが、ステラン・ヴィストはスパルタカスと会談した。
これが、西岸のヒトで東岸の指導者と初めての会話となった。
マーニはステランを引き留めることは、トラブルの原因になると考えた。
半田千早は機体を一通り調べ、パイロットが要求する燃料を補給する。
そして、アトラス人の飛行機は飛び立った。
半田千早はアトラス人の来訪を待った。だが、10日過ぎても何の反応もなかった。
Nキャンプには、湖水地域のヒトたちが置いていった10メートル級動力艇と水陸両用トラック以外の船はなかった。
アトラス人との無理な接触は、双方にとっていいことではないように感じられた。
マーニは“返礼飛行”を主張している。訪問してくれたのだから、礼儀として訪問すべきだと。
だが、それができない理由があった。
アトラス人の中心的拠点がどこなのかわからないのだ。
Nキャンプの真北270キロに大きな街がある。アトラス人の街だが、ここが彼らの中心だとは思えない。
西サハラ湖西岸は平地が少ない。だが、湖を取り囲むサハラアトラス山脈の西、テルアトラス山脈の東に広大な平原がある。この山脈に囲まれた盆地のような地形は、推定5万平方キロ以上あり、この面積は九州と四国を合わせた広さに匹敵する。
この世界において地形は重要で、オークの拠点の近くにありながら、アトラス人が生き残れた理由は防御に適していたからだろう。
位置的には、セウタ要塞の南東にあたる。また、西の空からやって来るセロに対しては、アトラス山脈が防いでくれる。セロの飛行船は3000メートル程度が上昇の限界なので、4000メートルに達する高峰が連なる山脈越えは容易ではない。
この内陸平原は、バンジェル島に至るルートと湖水地域に向かうルートからもわずかに外れている。飛行ルートを外れない限り、空からは発見されることはない。
「来年の春は、暖かい」
精霊族の気候記録官は、そう予測した。
西ユーラシアのヒトは、戦慄する。暖かくなれば、ドラキュロがライン川を渡る。そうなれば、ヒト、精霊族、鬼神族にとっての地獄となる。
実在する地獄だ。
だが、その現実を受け入れられないヒトは一定数いる。将来への不安、農地を失いたくない気持ち、家族の墓、思い出など、理由は様々。
なるべく、そういうヒトは残したくない。
その努力は、ボランティアに委ねられている。
半田千早は戦場で戦うだけが、任務でないことをよく理解している。
「エンジンは6気筒の水平対向だった。たぶん、過給器はないよ。
機体の前後にエンジンがある双発機なんて、初めて見たよ。王冠島のドイに聞いたら、プッシュプルって言うんだって。
機体と主翼のほとんどは、木製だと思う。少なくとも金属や樹脂ではない。
座席は6人分あった」
マーニの報告に食堂内が静まる。半田千早は参加しているが、この会議の主役はパイロットたちだ。
ヴルマンの機長が「燃料を入れてやったなら、代金の回収に行ったらどうだ?」と発言すると、カナリア諸島の副操縦士が「緊急着陸なのに、それはないだろう」と反対する。
半田千早は、パイロットたちがアトラス人の街に乗り込む算段をしていることに気付いていた。
それは、危険なことだ。
カナリア諸島の機長が軽く挙手。
「アトラス人のことは、放ってはおけない。
それに、もし、想定通りの場所に飛行場があるなら、緊急の際の避難に使える。
あんたらがここで話し合っている理由だって、それだろう?
Nキャンプの滑走路拡張だって、それが俺たちの目的だった」
半田千早は気付いた。パイロットたちは、緊急時の退避場所、着陸場所としてアトラス人の飛行場を使いたいのだ。
航空機はヒトの独占ではない。ヒトと精霊族の混血も運用している。
彼らはいま、北アフリカへの移住で忙しい。アフリカ内陸まで飛んでくる余裕はない。だが、移住作業が一段落すれば、必ず進出してくる。
アルテミスの北郊外に一晩で造った急増滑走路は、どういうわけか廃止されず、延伸と舗装が始まっている。
物資集積用戦略的拠点として、必要だと聞いたが、これにもパイロットたちの“非常時”への思いがあるのだろう。
半田千早がパイロットたちの気持ちを察して、思案している間にマーニが決定的な一言を発した。
「アトラス人の街に行こう。
空から。
カナリアさん、飛行機出してくれる。
私も一緒に行くよ」
カナリア諸島出身者が、1人の機長を見る。
「政府にお伺いを立てると厄介だ。
俺たちでやっちまおう。
コンパスが狂ったとでも言えばいい。
拿捕はされないだろう」
半田千早は最近思うことがある。
この世界には、正義感が強すぎる無法者が多すぎる。彼女は「私は違う!」と心の中で叫んだが、自分自身がそれに当てはまることをよく知っていた。
アフリカの赤道直下の気候については、よくわかっていない。内陸ならば、あるいはアフリカ東岸ならば、大西洋の赤道付近に居座る強烈な低気圧の影響はないはず。
実際、東方フルギアは、大地溝帯が作り出した広大な浅海を進んで、赤道を越えている。
200万年後の地球の気候は、200万年前とはまったく異なる。
赤道以北アフリカは、総じて温暖で湿潤。内陸部の一部に乾燥が見られる。
バンジェル島付近は、気候としては温帯だ。
当然だが、動植物の分布も200万年前とは、まったく異なる。
そして、サハラは“緑の地獄”と呼ばれる大森林地帯だ。熱帯雨林ではない。温帯の常緑広葉樹林が広がる。
ここに逃げ込まれると、追跡は難しい。追跡できるが、待ち伏せ攻撃にさらされる。
そして、オークはサハラ樹林帯に逃げ込んだ。逃がしたくはないが、深追いすれば、大損害を被る。
今回の大攻勢は、オークを北アフリカから駆逐することが目的だった。その目的は果たした。
ヒト、精霊族、鬼神族が連合しても、オークの殲滅は難しいことはわかっていた。
オークがどうにかなったら、今度はアトラス人だ。
マーニはやる気だ。
翌日夜の会議は、紛糾した。
カナリア諸島のパイロットたちは、いざとなれば戦闘が可能なブロンコの使用を主張。
バンジェル島ドミヤート地区のパイロットたちは、武装していないターボ・アイランダーの使用を押す。
バンジェル島ダザリン地区とヴルマンのパイロットは、中立だ。
両案には一長一短がある。武装していれば、攻撃の意図ありとされても仕方ない。拿捕や撃墜もあり得る。
無武装ならば、「緊急着陸した民間機だ」で押し通せる。
ヴルマンのパイロットが自身の経験から意見を述べる。
「進路上に激しい雨が降っていて、仕方なくアトラス山脈寄りの非正規ルートを通ったことがある。
そのときに、機体の前後にプロペラがある双胴機に追撃された。平行して飛行し、領域から出るよう誘導されたが、警告射撃は受けていない。
むやみには、撃たないと思う」
マーニが両手をテーブルに付け、立ち上がる。
「アイランダーで行こうよ。
武装していなければ、敵意がないことを示せると思う。
訪問の目的は、緊急時の滑走路使用の許可。そして、私たちの滑走路も使っていいと、伝える」
ヴルマンのパイロットがヴルマンらしい心配をする。
「贈り物は何にする。
アイランダーじゃ、たいしたものは積めないぞ」
食堂に居合わせた湖水地域の商人が口を挟む。
「酒はどうだ。
バンジェル島の酒はうまいぞ」
年長の男と女が一斉に賛成する。
マーニはアンティ宛に「一番おいしいお酒をたくさん送って!」という実に曖昧な無線を送った。
マーニに頼られたアンティは妙に嬉しくなり、目的を知らぬまま貴重な8年貯蔵古酒50本を航空便で送った。
食堂のマスターが「50本もあるなら、半分は置いていけ」と分捕った。
マーニは釈然としなかったが、食堂のマスターを非難する年長者が誰もいない。
しかも、湖水地域の商人は「その酒は1本で、金貨5枚の価値がある」と言う。
さらに、「金貨5枚で買うから、売れ」と。湖水地域まで持って帰れば、金貨10枚で売れるのだと。
マーニは食堂のマスターが横流しするのではと疑ったが、違った。その酒は、そのとき食堂にいた男や女の体内に消えた。
スパルタカスまで希代の銘酒を飲みに対岸から訪れた。
マーニは残り25本を死守するために、アイランダーに積み込んでいた酒瓶の前で不寝番をした。
普段でも眠そうなマーニが、あくびをする。半田千早は心配したが、何も言わなかった。同じ養父母に姉妹として育てられたが、人格は別。
マーニがアイランダーの静かな機内に消える。
半田千早は、もしマーニの計画が成功すれば、北アフリカ西地中海沿岸からサブサハラ以北西側にヒトの巨大な生活圏が誕生する可能性があることに気付いていた。
彼女の鼓動は、徐々に速まっていく。
「セロに勝てるかもしれない」
彼女の呟きは、暗夜の中で消えていった。
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これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。