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第四章
慰められた?
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部屋に二人きりになった。
とはいえ、執務室なので必ず執務官の出入りがあるので完全な二人きりではない。だから、執務室では未婚の男女が二人きりという状況も許されるのだ。でなければ、女性の執務官が雇えなくなってしまう。
ブライアンが出ていった途端に、サイードが口を開く。
「彼とはどういう関係?」
「上司と部下……いや、雇用主と労働者?」
ブライアンの上司は筆頭執事だから、私は雇い主か?いや、雇っているのは私ではないから、雇い主の娘といったところか?
「そんなところを詳しく聞きたいわけではないんだよ」
呆れた声でサイードが言って、私に座るように促した。
テーブルの上には、ティーセットと書類が並んでいた。
「とても親しいようだったから、それ以上の関係があるだろう?」
ティーセットに準備されていた茶葉が、私が好きなアプリコットティーであることを見て、私はさっさとポットに湯を注いだ。
これで、クッキーとか甘いお菓子が会ったらいいのになあと思いながらお茶を口に含むと、口に一杯香りが届いて、ほっとしてしまった。
「聞こえないふりをしても無理だぞ」
今からクッキーを持ってきてもらえないか聞いてみよう。
おっと、残念なことにサイードとこれ以上話している暇はない。
残念だ残念。
「アリティ、人に見られようがどうなろうが、襲いますよ?」
「セクハラ被害者と加害者です!」
「……今の状況が?」
よく分かっているじゃないかと思いながらも賢明な私はそれを口にはしない。
サイードも私がそう思っていることを理解しているようで、片眉をあげるにとどめた。
「それは冗談だが、どちらが被害者だ?」
身分的に考えれば、明白なはずだが、男女のくくりからいって確認したかったのだろう。サイードの口調から困惑が伝わってきた。『そんなことをしたのか?』と。
私は恥ずかしさをこらえて、声を絞り出す。
「彼…ブライアンに、アリティが非常に……まあ、その、言いにくいことをしていました」
ズルいとは思ったが、一人称を使わずに他人事のように話した。
今の私だったら、絶対にあんなことはしない。
きちんとその理由で雇われている相手……父にだったらまだしも、その娘にまでその行為を強要される必要はないのだ。
しかし、アリティは彼が逆らえないことを分かってやっていた。おもしろいから。暇つぶしに。
仕事ではなく凌辱される行為は、相手を人間としてみていないと明言しているようなものだ。
―――最低だ。
「それは……」
サイードが言葉を詰まらせた。
私は、記憶を手に入れて変わったとはいえ、本人だ。魂が変わったとか実は他人だったなんてことは無い。
蔑みの言葉は甘んじて受け止めよう。
「あなたになら、少し羨ましいかもしれない」
「……」
なんですと?
「ま、高位貴族ならえぐい趣味を持っている人間は少なからずいるし、驚くことではないけれど」
びっくりする発言の後に、あっさりした発言が来た。
「それがいいことだと言っているわけではないよ?相手が割り切っているのなら、気に病むほどのことではないということだ」
……これは、もしかして。
「では、早速本題に入ろう」
サイードは、私の表情を見ないように書類に視線を落として、並べて見せた。
私が俯くことのできるようにだろうか。
そもそも、サイードにセクハラなどということを告白する必要はなかった。誤魔化す方法などいくらでもあったのではないか。きっと、彼は面倒くさがって深くは追及してこなかったはず。
だけど、それを口にした私は、何かの言葉を求めたのだろうなと思った。
―――そんなふうに考えられるほど、私は慰められたのだと思った。
とはいえ、執務室なので必ず執務官の出入りがあるので完全な二人きりではない。だから、執務室では未婚の男女が二人きりという状況も許されるのだ。でなければ、女性の執務官が雇えなくなってしまう。
ブライアンが出ていった途端に、サイードが口を開く。
「彼とはどういう関係?」
「上司と部下……いや、雇用主と労働者?」
ブライアンの上司は筆頭執事だから、私は雇い主か?いや、雇っているのは私ではないから、雇い主の娘といったところか?
「そんなところを詳しく聞きたいわけではないんだよ」
呆れた声でサイードが言って、私に座るように促した。
テーブルの上には、ティーセットと書類が並んでいた。
「とても親しいようだったから、それ以上の関係があるだろう?」
ティーセットに準備されていた茶葉が、私が好きなアプリコットティーであることを見て、私はさっさとポットに湯を注いだ。
これで、クッキーとか甘いお菓子が会ったらいいのになあと思いながらお茶を口に含むと、口に一杯香りが届いて、ほっとしてしまった。
「聞こえないふりをしても無理だぞ」
今からクッキーを持ってきてもらえないか聞いてみよう。
おっと、残念なことにサイードとこれ以上話している暇はない。
残念だ残念。
「アリティ、人に見られようがどうなろうが、襲いますよ?」
「セクハラ被害者と加害者です!」
「……今の状況が?」
よく分かっているじゃないかと思いながらも賢明な私はそれを口にはしない。
サイードも私がそう思っていることを理解しているようで、片眉をあげるにとどめた。
「それは冗談だが、どちらが被害者だ?」
身分的に考えれば、明白なはずだが、男女のくくりからいって確認したかったのだろう。サイードの口調から困惑が伝わってきた。『そんなことをしたのか?』と。
私は恥ずかしさをこらえて、声を絞り出す。
「彼…ブライアンに、アリティが非常に……まあ、その、言いにくいことをしていました」
ズルいとは思ったが、一人称を使わずに他人事のように話した。
今の私だったら、絶対にあんなことはしない。
きちんとその理由で雇われている相手……父にだったらまだしも、その娘にまでその行為を強要される必要はないのだ。
しかし、アリティは彼が逆らえないことを分かってやっていた。おもしろいから。暇つぶしに。
仕事ではなく凌辱される行為は、相手を人間としてみていないと明言しているようなものだ。
―――最低だ。
「それは……」
サイードが言葉を詰まらせた。
私は、記憶を手に入れて変わったとはいえ、本人だ。魂が変わったとか実は他人だったなんてことは無い。
蔑みの言葉は甘んじて受け止めよう。
「あなたになら、少し羨ましいかもしれない」
「……」
なんですと?
「ま、高位貴族ならえぐい趣味を持っている人間は少なからずいるし、驚くことではないけれど」
びっくりする発言の後に、あっさりした発言が来た。
「それがいいことだと言っているわけではないよ?相手が割り切っているのなら、気に病むほどのことではないということだ」
……これは、もしかして。
「では、早速本題に入ろう」
サイードは、私の表情を見ないように書類に視線を落として、並べて見せた。
私が俯くことのできるようにだろうか。
そもそも、サイードにセクハラなどということを告白する必要はなかった。誤魔化す方法などいくらでもあったのではないか。きっと、彼は面倒くさがって深くは追及してこなかったはず。
だけど、それを口にした私は、何かの言葉を求めたのだろうなと思った。
―――そんなふうに考えられるほど、私は慰められたのだと思った。
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