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第二章
けれど、好きでした。
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ディシール=デトロイショー。
近衛師団副長であり、代々武家として名高いデトロイショー伯爵家の次男。
俊敏な動きと咄嗟の判断の精度が高く、陛下にも信用されているそうな。
その姿は、濃い茶色の堅そうな髪と、優しげに垂れた目元がギャップ萌えだと、女性からの人気も高い。
……ギャップ萌えって、同一の顔面の中で何を言っているんだ。
もう一人は、シア=アベンシュー。
魔法師団を率いる師団長を務める。
幼いころから強大な魔力を有し、優秀な頭脳とともに、数々の魔術を生み出していく、稀代の天才と言われている。
黒目黒髪のミステリアスな雰囲気を醸し出す彼は、吊り上がった瞳で射抜かれたいと、これまた女性から人気がある。
もう好きにしてくれ。
「は……」
戸惑いながらも、ゆっくりと、私の左右に座った。
何故、二人で私を挟む。向こうに座ったらいいのじゃないか。
そんなことを思いながら、看過できない誤解があるようなので解いておこうと口を開いた。
「閣下、失恋したのは、この二人であって、私はしておりませんわ」
ふんと、傲慢に笑いながら、閣下の入れた紅茶を口に含んだ。
あら、なかなかおいしい。
「失恋、しただろう?殿下に」
「いいえ?」
強気で返事をすれば、くすくすと笑いが聞こえた。
「恋をしていたよ。なりたくもない王太子妃になる勉強を必死に頑張る程度には」
一瞬だが、言葉に詰まってしまった。
その一瞬で、この場にいる人間には充分だった。
舌打ちでもしてしまいたい。
はっきりと気持ちがないと誤魔化せていたつもりが、油断した。
やはり、彼には分かってしまったということだろうか。
早口の似合わない言葉の数々をの意味を。
泣きそうになった自分をごまかしたかった。
「・・・そうですね。幼いころから婚約者になるだろうと言われ育ってきましたから」
それでも、ストレートに認めることなどできない。
幸せになるために、好きになることなど、造作もない、と。
私は、自分のために相手を愛そうとしたのだ。
けれど、私が必要とした人は、私を排除するために動いた。
自嘲気味に笑った。
強気に出るしかなかった。
マリエに心を奪われた殿下。
願って、望んで、ようやく手に入れた、少しだけの二人の時間に、私を追い出す画策をする王太子殿下を愛していたのなどと。私のプライドが許さないのだから。
私は、最初からそんなもの欲しくはなかった。
自分の立場から、義務だから仕方がなくなってやろうとしたのだと、虚勢を張っていたと言うのに。
そんなプライドさえ、暴露する閣下には、怒りが浮かんでくるけれど。
打ち砕かれた虚勢にむすっとした表情を隠しもせずに表す私を、面白そうに眺めながら、自分の紅茶を口に含んだ。
「愚かなことに、殿下は、あなたの怒りを引き出そうと、必要のない書類まで持ち込んでいたからね」
あの仕事は小道具なのか。
「殿下が見られても構わない書類をくれというから、渡したんだ」
やはり、殿下は優秀だった。
こちらが、どうせ分からないと思っていても、重要書類を見せるなどという愚は侵さないのだと思った。
「あの計算ミス、指摘せずに返ってきたら、ネチネチ言おうと思ってたんだけど」
空振りに終わったねえなどと、本気で残念そうに言う閣下は、どんな性格をしているんだろう。
鍛えられているな。・・・殿下、がんばれ。
近衛師団副長であり、代々武家として名高いデトロイショー伯爵家の次男。
俊敏な動きと咄嗟の判断の精度が高く、陛下にも信用されているそうな。
その姿は、濃い茶色の堅そうな髪と、優しげに垂れた目元がギャップ萌えだと、女性からの人気も高い。
……ギャップ萌えって、同一の顔面の中で何を言っているんだ。
もう一人は、シア=アベンシュー。
魔法師団を率いる師団長を務める。
幼いころから強大な魔力を有し、優秀な頭脳とともに、数々の魔術を生み出していく、稀代の天才と言われている。
黒目黒髪のミステリアスな雰囲気を醸し出す彼は、吊り上がった瞳で射抜かれたいと、これまた女性から人気がある。
もう好きにしてくれ。
「は……」
戸惑いながらも、ゆっくりと、私の左右に座った。
何故、二人で私を挟む。向こうに座ったらいいのじゃないか。
そんなことを思いながら、看過できない誤解があるようなので解いておこうと口を開いた。
「閣下、失恋したのは、この二人であって、私はしておりませんわ」
ふんと、傲慢に笑いながら、閣下の入れた紅茶を口に含んだ。
あら、なかなかおいしい。
「失恋、しただろう?殿下に」
「いいえ?」
強気で返事をすれば、くすくすと笑いが聞こえた。
「恋をしていたよ。なりたくもない王太子妃になる勉強を必死に頑張る程度には」
一瞬だが、言葉に詰まってしまった。
その一瞬で、この場にいる人間には充分だった。
舌打ちでもしてしまいたい。
はっきりと気持ちがないと誤魔化せていたつもりが、油断した。
やはり、彼には分かってしまったということだろうか。
早口の似合わない言葉の数々をの意味を。
泣きそうになった自分をごまかしたかった。
「・・・そうですね。幼いころから婚約者になるだろうと言われ育ってきましたから」
それでも、ストレートに認めることなどできない。
幸せになるために、好きになることなど、造作もない、と。
私は、自分のために相手を愛そうとしたのだ。
けれど、私が必要とした人は、私を排除するために動いた。
自嘲気味に笑った。
強気に出るしかなかった。
マリエに心を奪われた殿下。
願って、望んで、ようやく手に入れた、少しだけの二人の時間に、私を追い出す画策をする王太子殿下を愛していたのなどと。私のプライドが許さないのだから。
私は、最初からそんなもの欲しくはなかった。
自分の立場から、義務だから仕方がなくなってやろうとしたのだと、虚勢を張っていたと言うのに。
そんなプライドさえ、暴露する閣下には、怒りが浮かんでくるけれど。
打ち砕かれた虚勢にむすっとした表情を隠しもせずに表す私を、面白そうに眺めながら、自分の紅茶を口に含んだ。
「愚かなことに、殿下は、あなたの怒りを引き出そうと、必要のない書類まで持ち込んでいたからね」
あの仕事は小道具なのか。
「殿下が見られても構わない書類をくれというから、渡したんだ」
やはり、殿下は優秀だった。
こちらが、どうせ分からないと思っていても、重要書類を見せるなどという愚は侵さないのだと思った。
「あの計算ミス、指摘せずに返ってきたら、ネチネチ言おうと思ってたんだけど」
空振りに終わったねえなどと、本気で残念そうに言う閣下は、どんな性格をしているんだろう。
鍛えられているな。・・・殿下、がんばれ。
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