落ちて拾われて売られて買われた私

ざっく

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勇者

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ある日、この地方の領主さまが接待で店を訪れた。
森の中にいた凶暴な魔物を倒してくれた勇者をお連れしたと、仰々しく一人の若者を連れてきた。
領主さまが接待する相手だ。当然、トップの私が出た。
「リンカと申します」
領主をはじめとする数人のおじさんの中心に、つまらなそうに座っている青年がいた。
チビチビと酒は飲んでいるが、遊女には全く関心をみせない。
髪も目も黒く、濃い眉と切れ長の瞳が意志の強さを感じさせる。
手足が長く、体も大きいので、領主たちと並ぶと一回り違う。
彼にとってはつまらないのではないかとも思うが、呼ばれた以上、芸を披露しなければならない。
踊りを披露し、酌をして回ってから、琴を奏でる。
おじさんたちは喜んでくれるが、接待されているご当人は食べ物にしか興味がないようだ。
だったら、今日は無いのかもしれない。
そんな束の間の希望を抱いたが、そんなわけもない。
一定の時間になると、領主方は立ち上がり、「あとはお楽しみくださいませ」と、下卑た笑みを浮かべて帰っていった。
残ったのは、こちらに興味のない青年だけ。
私はため息を吐きたくなるのをこらえながら微笑む。
接待名目で連れてきて、食事が終わった後にはさらにいい思いをしてもらおうと、用意した遊女と二人きりにする。
領主はこれを最高の接待だと信じているようだ。
まあ、そこで私を選択するには多くの金が必要だっただろうから、最高の接待であることに変わりはないか。
彼は、ちらりとこちらを見て、また食事に目を落とす。
興味がなさそうなふりをしてても、急にその気になる男性は多い。
というか、すでにその気だったりする。いきなり押しかかられたりするのは痛いし怖いのは嫌だ。
私はそっと近くに座って、自然な仕草で彼の手に触れる。
「勇者様」
呼びかけると、不思議そうな視線が私を捕える。

……。

普通だったら、ぱたんと眠ってしまうのに、彼は首を傾げて、あごに指をあてて、考えているような仕草をとっている。
眠気を我慢している?……絶対に眠いに違いない。
私はきゅっと彼の手を握り、強く念じる。
――眠れ!
笑顔の下で必死に念じている私を、彼は真っ直ぐに見返す。
彼に眠りそうな気配が全くない。彼には、まさか効かないの……!?
身体中の血がなくなってしまったかのようだった。
ここまで来て、処女なことがバレたら、どうなるのだろう。今までの客全てを眠らせて、横で呟いていただけなんてバレたら、追い出されるだけじゃすまない。
「何か、妙なことをしているな?私に何の術をかけようとしている?」
全身が冷たくなって、がくがくと震え始める。
私が処女だとバレたら。
この、能力のことがバレたら。
――また、捨てられてしまう!
「おい」
返事のない私の手を、彼がぎゅっと掴む。
彼の手は大きくて、私の手を余裕で覆ってしまう。
「――ああ、眠りの魔法か。それにしても、無詠唱の上に、妙な感じの術を使うな」
手の温かさにぼんやりしている間に、彼は私の術を調べているようだった。
興味深げにこちらを見る彼は、怒っているような様子はない。
それどころか、私の震えに気がついて、ぱっと手を離してくれる。
「俺にヤる気はない。そんなにおびえるな。お前が迫ってきたら、俺の方こそ眠らせておこうと考えていたくらいだ」

この世界には魔法がある。
時折魔獣が現れて、大きな被害をもたらす。
しかし、人間に魔力が宿ることは稀で、知ってはいるけれど見たことが無い。想像上の産物のように扱われているのが魔法だ。
彼は、そんな魔法を使える人なのだ。

「俺に魔法は効かないんだ。悪いな」

どうにか私の恐怖を和らげようとしてくれているのか、表情を柔らかくして、少し私から離れた。
その動きを見て、はっと我に返る。
「もっ、申し訳ございませんっ!私はっ、そのような……」

--そのようなつもりは?
あった。思い切り。
いつも通りに寝かせた後は、喘ぎ声を聞かせる予定だった。
当たり前にできると思い込んで、相手を無意識に嘲っていた。
「かまわない」
ふっと笑って、彼はまた酒を飲む。
「女を買おうと思ってきたわけじゃない。酒と上手い料理をくれるからというからついてきただけだ。そうしたら、こういう店だったらから驚いた」
言いながら、彼は食べ物をつまむ。

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