落ちて拾われて売られて買われた私

ざっく

文字の大きさ
17 / 17

番外編2 いつもの日常

しおりを挟む
夕闇に包まれる直前の空が青紫に染まる時間帯。
サランダは言うことを聞かない魔物がまた現れたってことで少しだけ留守にしている。
「ねえ。君が陛下の花嫁?」
振り返ると、壮絶な美形が立っていた。
色鮮やかな空を背負った不思議な雰囲気の男性は、ニコニコと笑いながら近づいてくる。
「は……ええと、こんにちは」
「ふふ。陛下が気に入った人間って興味があるんだよねえ。つまみ食い程度なら怒らないかな?」
「つまみ食い……?」
ぞわっと怖気が走った。
逃げるより先に手が近づいてくる。
そして、私に触れた。

バタンッ。

派手な音を立てて転がった。
「ああ!大丈夫ですか!?」
心配はするけれど、さっきまで襲ってこようとしていた相手に近づくのは怖い。
表情が見えるところに移動すると、にやにや笑いながら寝ている。
サランダに効かないから忘れがちだが、私の力は未だに健在のようだ。
「ど、どうしよう」
「ああ、そんなにおびえないで。さあ、優しくしてあげよう」
私の言葉に反応して、男性がしっかりと言葉を発する。
どんな夢を見ているのか想像して、どうにかその夢を終わらせたいと思う。
「やだやだ。ナナ」
傍にいつもいてくれる女性を呼ぶが、今は私のために夕食の調達に行ってくれている。
サランダがいないので寂しいだろうと、何か果物をとってきてくれると言っていた。
「三人でかい?ふふ。そんなに僕を取り合わないでくれ」
……さらに気持ちが悪くなってしまった。
どうしよう。ナナまで登場させてしまった。
この発言が彼女に聞かれたら、この男性は極刑ではないだろうか。
男性がくねくねと体を寝たままくねらせる。
彼が来た服は乱れて、肌が見えてしまっている。
何も知らない人が見たら、もしかしたら私が襲ったと思われるのではないだろうか。
しかし、寝て、服が乱れた人をここに置き去りにすることもできないし、屋内に入れることもできない。
これに触るのは、ぜっっっったいにイヤダ。
「サランダ」
小さく名を呼べば、我慢できなくなってしまった。
「サランダ。サランダ」
空を見上げても、サランダはいない。
人間界に行ってしまっているのだ。仕方がないが、ここに一人でいることが怖くて仕方がない。
「陛下!?」
地面から男性が叫ぶ声がして、びくりと体をすくませる。
「陛下までも、私を求めるのですか!ああ……そんなっ……!あ、だめですっ……!」
男性が、サランダまで登場させて、さらに喘ぎ始めてことに私は目を丸くする。
同時に、さっきよりも強い嫌悪感が湧き上がる。
「やめて。サランダを登場させないで!」
怖くても、サランダとのことを想像すらされたくなくて手を伸ばした。

――ところで、男性の頭の上に、人が降ってきた。

「ぐえっ」
カエルの鳴き声のような音がして、思う存分に踏みにじられていた。
私は、手を伸ばした状態で固まったままだ。
「夢だと気が付いた時点で起きろ。殺すぞ」
男性を思う存分踏みつけ終わった後で、サランダが私を引き寄せる。
「ああ……素敵な夢で……ぐふっ」
うっとりと呟く彼に、サランダが腕を振ると、彼はまたうめき声を上げる。
「リンカ。怖かっただろう。変態が城に入れないように、結界を強化しような」
よしよしと頭を撫でられて、ようやく体のこわばりが解ける。
「それは困る!もう一度!いえ、一度と言わず、何度でもあの夢の世界へ行きたい!」
がばりと起き上がって、男が私を見る。
怖くてサランダに抱き付く。
サランダは私を抱きかかえながら、パチンと指を鳴らす。「ひええっ」と悲鳴を上げて、男は数メートル向こうに後ずさっていた。
見ると、彼の髪の毛が焦げているようだ。
「陛下!私の美貌が損なわれると、食事がままならなくなるのでおやめください!」
「俺の女に手を出そうとした時点で、死罪なのは承知しているか?」
「ちょっとの味見ならいいかと思って。いやあ、それ以上に素敵な体験ができました。ナナや、まさか陛下とまであのような……」
「死ね」
「お待ちください。でも、もう一度見たい」
サランダと男の言い争いに、私はようやく落ち着く。
男の気味が悪いことに変わりはないが、今はサランダに抱きしめられている。世界中で一番安全な場所にいるので、怖い相手でも観察する余裕が生まれる。
「どちらさま?」
サランダを見上げれば、
「変態だ」
にべもない返事をされた。
「私は、アンブロワーズ・エリヴェシウスと申します。淫魔族でございまして、主に性交渉を食事とさせていただいております」
……変態だった。名前も覚えなくていいと思う。
「お前、最初から夢だと分かっていただろう。そして、自分で起きることもできたのに、わざと術にかかったままでいただろう」
サランダが低い声を出しても、男は気にした様子もなくニコニコ笑っている。
「もちろんでございます!性交渉になだれ込んでもさっぱり満腹にならないので、現実ではないことなど分かっていました」
見た目だけはキラキラしている顔に、満面の笑みを浮かべて、さらりと髪をかき上げている。
優しく微笑みかけられても、気持ち悪さしか感じない。
「しかし、あの夢は素晴らしかった!食事として性交渉をする私に、性交渉としての愉しみを教えたもうたのです!ああ、素晴らしかった。陛下を加えての四人でくんずほぐれつ……」

どおん……

大きな爆発音とともに、男はどこかに吹き飛ばされていった。
彼が立っていた場所は大きな穴が開いてしまっていた。
サランダが大きなため息を吐いて私を覗き込む。
「悪い、遅くなった。それと、今、吹き飛ばしたが、あいつは頑丈でな、すぐ回復するから、また来る。だけど、俺が傍に居るから」
「うん。嬉しい。お帰りなさい」

……まあ、多分、いつもの日常だ。
しおりを挟む
感想 9

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(9件)

ななし
2021.06.02 ななし

すんごい面白かったです‼️
最近、似通ったお話ばかりだった中とってもとっても面白かったです(≧∇≦)実は今、作者様の作品を順番に読んでるとこです(笑)

2021.06.03 ざっく

ありがとうございます!順番に!?どきどき。勢いだけで書いたのもあるので……それしかないというか、気を付けてくださいね。

解除
ぽった
2021.01.24 ぽった

主人公が前向きな性格だけど、ほのぼのしていて、純でキラキラしていて。読後感も爽やかで、満足感で満たされました。
もっとこの雰囲気を楽しんでいたいと思える素敵な作品でした。

解除
彩斗
2021.01.10 彩斗
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

ドルイデスは忌み子将軍に溺愛される

毒島醜女
恋愛
母の死後引き取られた叔父一家から召使として搾取され、手込めにされそうになった少女、羽村愛梨。 馴染みの場所であった神社に逃げると、異世界にいた。「神樹により導かれたのね」とドルイデスと呼ばれる魔女が愛梨を拾った。異世界に救われ、ドルイデスから魔法を教わりながら田舎で過ごしていく。現世では味わえなかった温かな人の温もりに、もう何も望むまいと思っていた。 先代のドルイデス=先生が亡くなり、村の外れで静かに暮らすアイリ。 そんな彼女の元に、魔獣討伐で負傷した将軍、ウルリクが訪ねてくる。 離れで彼を看病していくうちに、不器用で、それでいて真っすぐな彼に惹かれていくアイリ。 こんな想いを抱く事はないと、思っていたのに。 自分の想いに嘘がつけず、アイリはウルリクに縋りつく。 だがそれは、ウルリクにとって願ってもない頼みであり、もう決して逃れる事の出来ない溺愛の始まりであった…

唯一の味方だった婚約者に裏切られ失意の底で顔も知らぬ相手に身を任せた結果溺愛されました

ララ
恋愛
侯爵家の嫡女として生まれた私は恵まれていた。優しい両親や信頼できる使用人、領民たちに囲まれて。 けれどその幸せは唐突に終わる。 両親が死んでから何もかもが変わってしまった。 叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。 今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。 どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥?? もう嫌ーー

【完結】頂戴、と言われ家から追い出されました

さち姫
恋愛
妹に、お姉様を頂戴と言われた。 言っている意味わかる? お姉様はあげられないよ? え!? お父様と、お母様は、納得している? はあ。 馬鹿ばかしくて、付き合ってられない。 だったら、好きにして。 少ししか手直しかしてませんので、読んだこととある方はすみません

姉の結婚式に姉が来ません。どうやら私を身代わりにする方向で話はまとまったみたいです。式の後はどうするんですか?親族の皆様・・・!?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
家の借金を返済する為に、姉が結婚する事になった。その双子の姉が、結婚式当日消えた。私の親族はとりあえず顔が同じ双子の妹である私に結婚式を行う様に言って来た。断る事が出来ずに、とりあえず式だけという事で式をしたのだが? あの、式の後はどうしたら良いのでしょうか?私、ソフィア・グレイスはウェディングドレスで立ちつくす。 親戚の皆様、帰る前に何か言って下さい。 愛の無い結婚から、溺愛されるお話しです。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。

しゃーりん
恋愛
ルーチェは夫を亡くして実家に戻り、気持ち的に肩身の狭い思いをしていた。 そこに、王宮から仕事を依頼したいと言われ、実家から出られるのであればと安易に引き受けてしまった。 王宮を訪れたルーチェに指示された仕事とは、第二王子殿下の閨教育だった。 断りきれず、ルーチェは一度限りという条件で了承することになった。 閨教育の夜、第二王子殿下のもとへ向かう途中のルーチェを連れ去ったのは王太子殿下で…… ルーチェを逃がさないように愛妾にした王太子殿下のお話です。

あなたは私を愛さない、でも愛されたら溺愛されました。

桔梗
恋愛
結婚式当日に逃げた妹の代わりに 花嫁になった姉 新郎は冷たい男だったが 姉は心ひかれてしまった。 まわりに翻弄されながらも 幸せを掴む ジレジレ恋物語

旦那様が素敵すぎて困ります

秋風からこ
恋愛
私には重大な秘密があります。実は…大学一のイケメンが旦那様なのです! ドジで間抜けな奥様×クールでイケメン、だけどヤキモチ妬きな旦那様のいちゃラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。