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はじまり
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スズはスープを火からおろして耳をすます。
主寝室から音がしないので、女主人であるアイラーテ様はまだ眠っているのだろう。
昨日はどれくらい眠れたのだろうか。
スズは想像しようとして、やめた。またロン様に食ってかかって、アイラーテ様に心配をかけてしまうだけだ。
ロン様が防音をしっかりと施してくれているので、鈴は何も聞かずにぐっすり眠れる。だからこそ、起きられなくなっているアイラーテ様のお世話ができるのだ。それでよしとしよう。
先に掃除をしてしまおうとスズはバケツを持ち上げた。
ここは、竜人の街だ。
スズがお世話をしているアイラーテ様は、人間の国の王女様だった。
ある日、この家の主人、ロン様が城に降り立って、アイラーテ様こそが番だと言い、求婚した。
ロン様は青く輝く長い髪にたくましい体を持った美しい男性だった。竜に変態すれば大きく、存在だけで他を圧倒する力が感じられる。
国中が大騒ぎになった。
女性たちは夢を現実に垣間見て騒ぎ、男性は初めて見る竜人にあこがれを抱く。
もちろん、アイラーテ様も、初めてロン様を見た時から、彼と恋に落ちた。
竜人と繋ぎが取れることは国としても望ましいことで、すぐにアイラーテ様の嫁入りが決まった。
難航したのは、竜人の街について行く侍女たちの選定だ。
竜人の街は人間の足では到底たどり着けない海の向こうの山の上にあるらしい。
物語の中にしか存在しかなかった幻の竜人の里。
そこには、多くの竜人が生活している。
ならば、その里に足を踏み入れた途端、自分のもとにも竜人が舞い降りてくるかもしれない。
自分こそが竜人の番ではないとは、誰も言えないのだ。
多くの女性が希望し、競い合い始めてしまった。
それを見たアイラーテ様は「くじ引きにしましょう」と言った。
誰もが耳を疑った。
貴族は権力で、商人は財力で競い合ったが、そもそも竜人は番を見た目で選ばない。
くじびきが一番全員が納得できる方法だった。
本能が選ぶのだから、選定基準などないのだ。
スズは、そのくじ引きに参加した。
アイラーテ様のお傍に居たかった。
スズは、孤児だ。
国王様が孤児院の視察に来られた時、彼女と出会った。
ふわふわの金髪に青い瞳。白い肌とピンク色の唇。絵本で見たお姫様そのものだった。
ご挨拶をしている間、アイラーテ様が暇そうにしていたので、こっそり草笛を作って吹いた。驚いたような目がこちらを向き、花が咲いたように微笑んだのだ。
「お友達になってくれる?」
挨拶が終わってからスズのもとに来た彼女は、おずおずとそんなことを言う。
本来は王族が孤児にお願いをするなんて、あり得ないのに。
スズは、教わったばかりの丁寧な言葉で一生懸命話した。アイラーテ様は、たどたどしいスズの言葉をゆっくりと聞いてくれる。
三つ年上の彼女は、スズに勉強も教えてくれた。
「スズはどんどん覚えていってしまうのね。私も勉強を頑張らないとスズに教えられなくなってしまうわ」
ずっと勉強を続けてきた彼女がそんなわけがない。
きっと、スズをほめて伸ばすために言ってくれた。
もちろん、その方法は大成功だ。スズは、アイラーテ様に褒められたいためだけに勉強を頑張った。
そして、スズはアイラーテ様に望まれて、部屋付きの下女となった。掃除や洗濯をする侍女たちから命令を受けて動く人だ。
王女の侍女は貴族女性から選ばれる。スズは孤児だったので、侍女として彼女の傍に居ることはできなかった。
それを聞いて、見たことも無いくらい怒っていたアイラーテ様も覚えている。
優しくて厳しくて。本当に素敵な女性だ。
スズはアイラーテ様が大好きだったのだ。
そうして、たくさんのたくさんの中からくじびきの『当たり』を引き当てたことは、人生の運を使い切ってしまったと思った。
半分は、アイラーテ様と出会ったときに使って、もう半分は、くじで使い終わった。
人生の前半で運を使えたことは、とても幸運だったと思う。
竜人の街には、籠で向かう。竜人が竜の姿に変態して数人で籠を運ぶのだ。
一緒にくじを引き当てた女性たち、スズを含めて五人と、未開の地へと降り立ったのだ。
降り立ったところには、多くの竜人が詰めかけていた。
ここまで美形が多いと、逆に怖い。
だけど、その竜人たちはスズたちが籠から出てきたのを見届けた途端、全員いなくなった。
彼らも、人間の女性と同じ、番がいないかと期待していたのだ。
けれど、いなかったと一瞬で判断して誰もいなくなった。
それを理解すると同時に、侍女としてついてきた女性たちは帰りたいと騒ぎ始めた。
竜人に番ではないと判断された。
ということは、ここに居る限り、彼女たちが結婚できることは無い。
アイラーテ様は、「仕事をまっとうするように」と言って、彼女たちを働かせては、いたのだが……。
やる気がなく、すぐに休む彼女たちに頭を抱えた。
日々、悪くなる態度。
一週間でアイラーテ様は諦めた。
帰りたい人は帰して欲しいとロン様にお願いをした。
主寝室から音がしないので、女主人であるアイラーテ様はまだ眠っているのだろう。
昨日はどれくらい眠れたのだろうか。
スズは想像しようとして、やめた。またロン様に食ってかかって、アイラーテ様に心配をかけてしまうだけだ。
ロン様が防音をしっかりと施してくれているので、鈴は何も聞かずにぐっすり眠れる。だからこそ、起きられなくなっているアイラーテ様のお世話ができるのだ。それでよしとしよう。
先に掃除をしてしまおうとスズはバケツを持ち上げた。
ここは、竜人の街だ。
スズがお世話をしているアイラーテ様は、人間の国の王女様だった。
ある日、この家の主人、ロン様が城に降り立って、アイラーテ様こそが番だと言い、求婚した。
ロン様は青く輝く長い髪にたくましい体を持った美しい男性だった。竜に変態すれば大きく、存在だけで他を圧倒する力が感じられる。
国中が大騒ぎになった。
女性たちは夢を現実に垣間見て騒ぎ、男性は初めて見る竜人にあこがれを抱く。
もちろん、アイラーテ様も、初めてロン様を見た時から、彼と恋に落ちた。
竜人と繋ぎが取れることは国としても望ましいことで、すぐにアイラーテ様の嫁入りが決まった。
難航したのは、竜人の街について行く侍女たちの選定だ。
竜人の街は人間の足では到底たどり着けない海の向こうの山の上にあるらしい。
物語の中にしか存在しかなかった幻の竜人の里。
そこには、多くの竜人が生活している。
ならば、その里に足を踏み入れた途端、自分のもとにも竜人が舞い降りてくるかもしれない。
自分こそが竜人の番ではないとは、誰も言えないのだ。
多くの女性が希望し、競い合い始めてしまった。
それを見たアイラーテ様は「くじ引きにしましょう」と言った。
誰もが耳を疑った。
貴族は権力で、商人は財力で競い合ったが、そもそも竜人は番を見た目で選ばない。
くじびきが一番全員が納得できる方法だった。
本能が選ぶのだから、選定基準などないのだ。
スズは、そのくじ引きに参加した。
アイラーテ様のお傍に居たかった。
スズは、孤児だ。
国王様が孤児院の視察に来られた時、彼女と出会った。
ふわふわの金髪に青い瞳。白い肌とピンク色の唇。絵本で見たお姫様そのものだった。
ご挨拶をしている間、アイラーテ様が暇そうにしていたので、こっそり草笛を作って吹いた。驚いたような目がこちらを向き、花が咲いたように微笑んだのだ。
「お友達になってくれる?」
挨拶が終わってからスズのもとに来た彼女は、おずおずとそんなことを言う。
本来は王族が孤児にお願いをするなんて、あり得ないのに。
スズは、教わったばかりの丁寧な言葉で一生懸命話した。アイラーテ様は、たどたどしいスズの言葉をゆっくりと聞いてくれる。
三つ年上の彼女は、スズに勉強も教えてくれた。
「スズはどんどん覚えていってしまうのね。私も勉強を頑張らないとスズに教えられなくなってしまうわ」
ずっと勉強を続けてきた彼女がそんなわけがない。
きっと、スズをほめて伸ばすために言ってくれた。
もちろん、その方法は大成功だ。スズは、アイラーテ様に褒められたいためだけに勉強を頑張った。
そして、スズはアイラーテ様に望まれて、部屋付きの下女となった。掃除や洗濯をする侍女たちから命令を受けて動く人だ。
王女の侍女は貴族女性から選ばれる。スズは孤児だったので、侍女として彼女の傍に居ることはできなかった。
それを聞いて、見たことも無いくらい怒っていたアイラーテ様も覚えている。
優しくて厳しくて。本当に素敵な女性だ。
スズはアイラーテ様が大好きだったのだ。
そうして、たくさんのたくさんの中からくじびきの『当たり』を引き当てたことは、人生の運を使い切ってしまったと思った。
半分は、アイラーテ様と出会ったときに使って、もう半分は、くじで使い終わった。
人生の前半で運を使えたことは、とても幸運だったと思う。
竜人の街には、籠で向かう。竜人が竜の姿に変態して数人で籠を運ぶのだ。
一緒にくじを引き当てた女性たち、スズを含めて五人と、未開の地へと降り立ったのだ。
降り立ったところには、多くの竜人が詰めかけていた。
ここまで美形が多いと、逆に怖い。
だけど、その竜人たちはスズたちが籠から出てきたのを見届けた途端、全員いなくなった。
彼らも、人間の女性と同じ、番がいないかと期待していたのだ。
けれど、いなかったと一瞬で判断して誰もいなくなった。
それを理解すると同時に、侍女としてついてきた女性たちは帰りたいと騒ぎ始めた。
竜人に番ではないと判断された。
ということは、ここに居る限り、彼女たちが結婚できることは無い。
アイラーテ様は、「仕事をまっとうするように」と言って、彼女たちを働かせては、いたのだが……。
やる気がなく、すぐに休む彼女たちに頭を抱えた。
日々、悪くなる態度。
一週間でアイラーテ様は諦めた。
帰りたい人は帰して欲しいとロン様にお願いをした。
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