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妄想具現化
折角止まった涙がまたあふれそうになって、顔をうつむける。
「……スズ?どうしてまた泣くの?」
スズは首を横に振り続ける。
アイラーテ様が話しかけているのに、それに応えられないなんて。
言えない。彼は、自分を迎えに来てくれたのだと思ったなんて。
身の程知らずな期待をしてしまったことが恥ずかしい。
「シ、グルト……様」
一度だけ、呼んでみた。
さっき起こったことを忘れるために、彼はいなかったのだと納得を――。
バサッ
突然突風にあおられてよろける。
アイラーテ様がしっかりとスズを支えてくれるが、この逞しさに驚かされる。
「呼んだか?」
目の前にシグルト様の顔が現れた。
「ひゃっ!?」
悲鳴をあげると、咄嗟にアイラーテ様が背後にかばってくれる。
「近づかないでください」
さらに、その前にロン様が立つ。
「シグルト様、私の番に近すぎます」
二人の声に続いて、シグルト様の苛立たしげな声が聞こえる。
「今、スズに呼ばれたんだ。お前ら、どけ」
スズとシグルト様の間には、アイラーテ様とロン様が立ちふさがっている。
スズは、使用人である自分が主人二人に守られていることにようやく気がついて驚いてしまう。
自分が一番先頭に立つべきではないだろうか!?最悪、アイラーテ様を支えつつ横に立つってところだ。背後はない。
スズは震える足を動かして、アイラーテ様に止められる前に影から飛び出る。
「シグルト様」
まず、用もないのにお名前をお呼びしたことを謝って――聞こえるはずもないのだと思っていたからと言い訳は付け加えてもいいだろうか。
「ああ」
「…………」
「…………」
「ええっ!?なんで膝まづいているんですかっ!?」
自然に膝を突かれて、触れるか触れないかのところでスズの手に添えられた手。
どれも淑女にする対応だ。
「俺の番。ようやく見つけた。どうか、私と生涯を共にして欲しい」
「――っ!????」
妄想が目の前で爆発したのだと思った。
こんなに自分の妄想力はたくましかったのかと、スズは少々恥ずかしく思う。
今、自分は眠っているのか白昼夢か。幻を見ているのか。
スズがアイラーテ様に顔を向けた時、彼女はロン様に抱えられてに家の中に運ばれているところだった。
「ロン!離してっ!スズがっ!私の可愛いスズがぁっ!」
「邪魔をしたら、今度こそ私は殺されます」
目の前で、バタンと玄関のドアが閉まる。
二人がいなくなった。
ここには、妄想するスズが一人残されるばかり――の、はずだ。
スズは現在、自分の正気を疑っている真っ最中だ。
どうやったらこの幻は消えるのだろう。
浮かぶ疑問には、すぐに答えが出る。
消えて欲しいと思っていないから、消えないのだ。目の前にいる彼に全身で触れたいと思うほどに、愛おしい。
だけど、現実に帰らなくては。
ロン様がお帰りになったから、これから二人でお茶でも飲んでゆっくり過ごすのではないだろうか。茶菓子の準備をして、買い物のも行かなくては。
「スズ?」
目の前の彼に視線を向けずに考え込むスズに、声がかかる。
その声に顔を上げて、また、彼と視線を合わせてしまった。
甘い声で呼ぶ彼の声、見上げてくる熱っぽい視線。
そのどれもが、自分の妄想だなんて――思えない。
これが現実なのかと思った途端、スズの顔は燃えるように熱を持つ。
慌てて手を引こうとしたとき、掴まれてもいないのに、動かせなかった。
スズが逃げようとしたのを察してか、シグルト様の表情が泣きそうに歪んだのだ。
「一目で気が付かなかった私に、怒っているのか」
申し訳ないと頭を下げる彼に、スズは混乱しかない。
「最初から惹かれる存在だったが、番の匂いがしなかった。しっかりと確認すればよかったのに、それを怠った。番以外に引かれるなんて有り得ないのに……期待を裏切られることが恐ろしくて見えないふりをしてしまった」
期待を裏切られることが怖かった。
スズも、その状態真っただ中だ。
「シグルト様」
震える声で呼びかけた。
彼は一瞬、驚いたように目を見開いて……幸せでたまらないというように顔をほころばせた。
「……スズ?どうしてまた泣くの?」
スズは首を横に振り続ける。
アイラーテ様が話しかけているのに、それに応えられないなんて。
言えない。彼は、自分を迎えに来てくれたのだと思ったなんて。
身の程知らずな期待をしてしまったことが恥ずかしい。
「シ、グルト……様」
一度だけ、呼んでみた。
さっき起こったことを忘れるために、彼はいなかったのだと納得を――。
バサッ
突然突風にあおられてよろける。
アイラーテ様がしっかりとスズを支えてくれるが、この逞しさに驚かされる。
「呼んだか?」
目の前にシグルト様の顔が現れた。
「ひゃっ!?」
悲鳴をあげると、咄嗟にアイラーテ様が背後にかばってくれる。
「近づかないでください」
さらに、その前にロン様が立つ。
「シグルト様、私の番に近すぎます」
二人の声に続いて、シグルト様の苛立たしげな声が聞こえる。
「今、スズに呼ばれたんだ。お前ら、どけ」
スズとシグルト様の間には、アイラーテ様とロン様が立ちふさがっている。
スズは、使用人である自分が主人二人に守られていることにようやく気がついて驚いてしまう。
自分が一番先頭に立つべきではないだろうか!?最悪、アイラーテ様を支えつつ横に立つってところだ。背後はない。
スズは震える足を動かして、アイラーテ様に止められる前に影から飛び出る。
「シグルト様」
まず、用もないのにお名前をお呼びしたことを謝って――聞こえるはずもないのだと思っていたからと言い訳は付け加えてもいいだろうか。
「ああ」
「…………」
「…………」
「ええっ!?なんで膝まづいているんですかっ!?」
自然に膝を突かれて、触れるか触れないかのところでスズの手に添えられた手。
どれも淑女にする対応だ。
「俺の番。ようやく見つけた。どうか、私と生涯を共にして欲しい」
「――っ!????」
妄想が目の前で爆発したのだと思った。
こんなに自分の妄想力はたくましかったのかと、スズは少々恥ずかしく思う。
今、自分は眠っているのか白昼夢か。幻を見ているのか。
スズがアイラーテ様に顔を向けた時、彼女はロン様に抱えられてに家の中に運ばれているところだった。
「ロン!離してっ!スズがっ!私の可愛いスズがぁっ!」
「邪魔をしたら、今度こそ私は殺されます」
目の前で、バタンと玄関のドアが閉まる。
二人がいなくなった。
ここには、妄想するスズが一人残されるばかり――の、はずだ。
スズは現在、自分の正気を疑っている真っ最中だ。
どうやったらこの幻は消えるのだろう。
浮かぶ疑問には、すぐに答えが出る。
消えて欲しいと思っていないから、消えないのだ。目の前にいる彼に全身で触れたいと思うほどに、愛おしい。
だけど、現実に帰らなくては。
ロン様がお帰りになったから、これから二人でお茶でも飲んでゆっくり過ごすのではないだろうか。茶菓子の準備をして、買い物のも行かなくては。
「スズ?」
目の前の彼に視線を向けずに考え込むスズに、声がかかる。
その声に顔を上げて、また、彼と視線を合わせてしまった。
甘い声で呼ぶ彼の声、見上げてくる熱っぽい視線。
そのどれもが、自分の妄想だなんて――思えない。
これが現実なのかと思った途端、スズの顔は燃えるように熱を持つ。
慌てて手を引こうとしたとき、掴まれてもいないのに、動かせなかった。
スズが逃げようとしたのを察してか、シグルト様の表情が泣きそうに歪んだのだ。
「一目で気が付かなかった私に、怒っているのか」
申し訳ないと頭を下げる彼に、スズは混乱しかない。
「最初から惹かれる存在だったが、番の匂いがしなかった。しっかりと確認すればよかったのに、それを怠った。番以外に引かれるなんて有り得ないのに……期待を裏切られることが恐ろしくて見えないふりをしてしまった」
期待を裏切られることが怖かった。
スズも、その状態真っただ中だ。
「シグルト様」
震える声で呼びかけた。
彼は一瞬、驚いたように目を見開いて……幸せでたまらないというように顔をほころばせた。
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