審判の手

s.y.n

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事の始まりは記憶の彼方

無慈悲は案内人と共に

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どのくらいの大きさなのだろう、果てが見えない奥行き、どこまでも続いていそうな天井、全てが一面の白に包まれた謎の空間、私が気付いた時には自分を含めた5人の少年少女がいた部屋には今現在医者の格好をした謎の男性を含めて6人の人間が存在している、自らを【案内人】と名乗るその男は、私たちが円を描いて座っている椅子のその中心に佇んでいる

「さて、皆様も早めにこの状況が何なのか知りたいはずですがまずは皆さん、自己紹介しましょうか」
案内人と名乗る男はこの状況を把握しているに違いない、彼の言葉には何の緊張感も威圧感も無かった、ただただ笑顔で爽やかに言葉を放った、が。
すぐにその言葉の返答は怒号と共に遮られた

「おい!ちょっと待ってくれよ!何を呑気に自己紹介なんぞしなくちゃならんのよ!早く用件済ませて帰らせてくれよ!こっちは予定が立て込んでるんだよ!」
放ったのは薫と呼ばれる私より一回りも二回りも大きな体の男の子だった、彼の言うこともわからなくはない、私だって早くここから抜け出したいからだ、ここがどこなのか、そんなことはこの部屋から出たらきっと解るに違いない、そう思っていた。
薫が案内人に投げた言葉に対して返事をしたのは案内人では無かった

「ちょっと‥‥アンタ‥!騎士王ネロスハルト様に向かってその口の利き方って‥‥なんなのよ‥‥アンタ何様のつもりよ‥‥!!」
私は自分の目と耳を疑った、さっきまで私の左隣で頭を抱え震えていた女の子が、顔を真っ赤にし歯をむき出しにしながら薫を睨んでいた

「ね‥‥ネロなんだって??こいつそんな名前なのかよ?」
薫をは豆鉄砲をくらった鳩のような顔でキョトンとしながら案内人を指差した

「ふむ、桜木桜さんあなたには私が騎士王ネロスハルトに見えているのですね」
私は理解できなかった、『あなたには』
頭の中が整理できないうちに薫が再び言葉を放った

「おいどういうことだよ!俺にはお前がメロスハートには見えねぇぞ!説明しろ!」
ネロスハルトと訂正する余裕すら無かった

「うーん、その説明をする前に自己紹介をして欲しかったのですがね‥‥
そうすればあなた方のお身体の不自由も少しは和らいでさしあげようと思っていたのですが‥‥」

「えっ‥‥」

「なに!?」

「ほー、なるほど」

「うそっ‥‥」

「‥‥」
その場にいる全員が恐らく感じた、または察しただろう、今この状況を作っているのは間違いなくこの男だ
私はどうすることもできない状況にただ俯向くしか無かった、唯一動く上半身を震えさせ、泣くことを堪えて膝の上に置いてる手をきつく握った、泣いても変わる状況じゃない。
隣の眼鏡君に視線を向ける、彼はずっと表情を変えていない、自分に突きつけられた現状を真摯に受け止めているそんな風に感じた。

眼鏡君の右隣の薫に視線を向ける、今にも殴りかかりそうな雰囲気だった、下半身が動かないのがもどかしいのか、怒りを抑えられない様だ自分の膝を何度も何度も拳で叩いていた。

薫の隣右隣にいる條次と呼ばれる男の子とその隣にいる桜木桜と案内人に呼ばれた女の子この2人だけは異様だった双方とも笑っていたのだ、恐怖や嫌悪感にも似た震えが私の上半身を揺らした、
條次は何か楽しい物、小さな子供が親から誕生日プレゼントをもらった時のようなワクワクした顔をしていた。

桜木桜はつい数十分前とは人格が変わったかのような印象だった、両手の指と指絡めて握った手は胸の前でまるで自分の憧れの存在が目の前にいるような‥‥いや現に彼女は本当にその状況なのかもしれない、私にはこの2人が狂っているようにしか見えなかった、どうしようもない状況の中沈黙を裂いたのは條次の声だった

「案内人さんさぁ、つまり今この状況で俺たちがやらなきゃならないことは、アンタの言うことを素直に聞いてみんなで仲良く自己紹介をしろってことだよな?そうすれば動かない下半身も動かせるようになる、ってゆーか動かせるようにしてくれるってことなんだろ?」
若干ハニカムようにしかし的確に、條次は自分に突きつけられたこのどうしようもない状況の打開策を述べた。

「その通りです宮田條次君、君は状況把握が早くて助かります。私は皆さんのことを全てと言っていい程に知り尽くしていますが、ここにいるほとんどの人は初対面なので人間の礼儀として自分自信の紹介くらいはしておかなければなりませんよね?」
私にはまた疑問が増えてしまった、何故案内人は私たちの全てを知り尽くしているのか、もう自分が考えられる範囲の問題ではないのだと、私は深く考えることをやめた

「なら早いところ始めよう、それぞれの自己紹介を」
眼鏡君が喋り終えると案内人は口角をあげ再び喋り始めた

「そうですね、それでは始めましょう皆様の自己紹介を」
案内人の台詞を皮切りに始まってしまった、文字通り始まってしまったんだ、無慈悲の非日常が。



無慈悲は案内人と共に     END
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