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長命種と短命種
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わたくしの主人はエルフです。
わたくし自身は人間。
覚えていないほど、小さな頃から近所にいた綺麗な男の人。
小さいながらに憧れの存在でしたが、いつの間にかその瞳にわたくしを映して欲しいと自然と望むようになりました。
少女から大人の女性に成長するにつれ育ってゆく恋心。
小さな頃からずっと変わらぬ彼の方の外見に疑問も抱かずに。
彼の方の半分も無かった身長はいつの間にか少し見上げれば優しく微笑んだ彼の視線と絡む。
やっと追い付いた。
と、そう思った。
彼の方は今年524歳になると言う。
わたくしにはピンと来ない数字。
わたくしの愛の言葉に困ったお顔をされた彼の方。
何故困ったお顔をされているの?
わたくしがお嫌いなのかしら。
そう問うと、君と私は相容れない存在だと。君と同じ人々と幸せになりなさいと仰られた。
どうしてでしょう。
わたくしに悪いところがあれば直しますのに、ダメだと変わらぬ答えが返って来ます。
辛くなるのは君だよと言われるけれど、彼の方と一緒にいられるのにどこが辛くなると言うのでしょう。
諦めないわたくしに閉口する彼の方。
溜息を吐いた彼はわたくしに条件をお出しになったわ。
その条件は、結婚適齢期を過ぎても結婚せず、その時になり未だ気持ちが変わらずにいるのなら答えても良いと。
困りましたわ。
適齢期まで後三年、そこそこ裕福な商家に生まれたわたくしは数年前から縁談が舞い込んでいるのです。
年々お断りするのが難しくなって来たので彼の方に告白したのに。
でも分かりましたわ。
彼の方と一緒にいたいのはずっと変わりません。
お父様を説得しなければね。
お父様は予想通り猛反対。
人とエルフは寿命が違うのだぞ!大事な娘を苦しめると分かっていて許すはずもないと、予想通りの答えが聞こえて来ましたが、私はそれでも良かった。
再三父から他の縁談を勧められたけれど、決して頷くことなく適齢期を越えた。
これで彼の方の元に行けると笑うとお父様は疲れたように苦笑した。
好きにしなさい…と。
認めて下さいました。
それから久しぶりに訪れた彼の方の所に行きびっくりした顔を見る。
わたくしが諦めると思っていらっしゃったのかしら?失礼しちゃうわ。
彼の方もここまでされれば断れなかったようで、苦笑いしながらわたくしを受け入れてもらえました。
幸せ。
新しい生活に彼の方がいる、ままごとのような生活。
主人のために家事をする事に平凡で暖かい幸せを感じます。
でもね…いつの間にかわたくしは忘れていたの。
彼の方の寿命はまだ後400年ほど。
わたくしは後…。
わたくしは気がつくと、彼の方の外見年齢を追い越していたの。
顔には若い時のようなハリは無く、少し弛んだ頬とくすみが隠せなくなって来たの。
振り返れば、小さな頃から変わらない美しい彼の方がいた。
ああ。
これ以上年なんか取りたくない。
小さい頃は早く大きくなって追い付きたかったのにね。
なんて、ワガママでしょう。
更に時は過ぎ。
わたくしは中年と呼んで差し支えなくなった。
他人からわたくし達を見れば母と息子かしら。
彼の方は関係ないよと仰ったけれど、その認識が間違っていない出来事が起きたわ。
ある日、見知らぬ若夫婦が一夜の宿を求め我が家を訪れたの。
夕食を振る舞った際に奥様から家事を手伝う我が夫を見て。
素敵な息子さんですね。
と、仰られたの。
夫の顔が一瞬固まった。
夫が何か言いかけたけれど、わたくしは聞いていたくなくて被せるようにこう言いましたわ。
ええ、そうなんですの。
と。
それを聞いた夫の顔は強張り、怒りが見えました。
その日の夜、わたくしは静かに怒りを表す夫に対峙しました。
何故肯定するような事を言ったのかお怒りでしたけど、否定しない方が丸く収まると思ったのですよ。
そう言ったわたくしに夫は悲しげなお顔をされ、悔しくないのかとおっしゃいましたね。
でもね、わたくしは他人からなんと見えようと貴方のお側に居たいのです。
こんなおばさんは嫌よね。
貴方はこんなにも若いのに。
でも、ワガママを聞いて頂きたいの。
後30年程でいいから、わたくしの寿命までお側にいてもいいでしょうか?
以前悠久の刻に退屈を感じる事もあるとおっしゃいましたよね。
そんな貴方様におこがましいけれど、ひとときだけでも楽しいと感じて頂けたら嬉しいの。
それから更に時は過ぎました。
種族が違うと子供は望めない事は知っていたけれど、彼の方との間に子供がいたらまた違ったのかしら?
と、最近取り留めなく思考します。
自分の手を見るとシワだらけになって細くなった手が映ります。
あれ?どうしてこんなにシワシワなのかしら。
ああ、頭が重いわ。
今日は暖かい日だったので、夫が昼間家の庭にあるベンチに連れて行って下さいました。
ポカポカですね。
心配そうにみる夫に向かって笑い掛けます。
いつ見てもあの時同様のわたくしが恋をした彼の方がいましたわ。
わたくしが居なくなったら、またわたくしの時のように貴方様に恋をする女性が現れるのでしょうか。
寂しいわ。
嫉妬もしちゃうわね。
でも、私が居なくなったらまた貴方は一人。
彼の孤独が少しでも無くなるなら許すしかないわね。
ベンチで彼の方の腕に抱かれながらぼんやりお顔を見上げました。
ああ、幸せだわ。
視界に彼の方の泣き顔が見える。
貴方もちょっとでも幸せを感じてくれたのかな。
そうだといいなぁ…。
「………」
何か呟いたかに聞こえた私の意識は闇に沈んでいった……。
わたくし自身は人間。
覚えていないほど、小さな頃から近所にいた綺麗な男の人。
小さいながらに憧れの存在でしたが、いつの間にかその瞳にわたくしを映して欲しいと自然と望むようになりました。
少女から大人の女性に成長するにつれ育ってゆく恋心。
小さな頃からずっと変わらぬ彼の方の外見に疑問も抱かずに。
彼の方の半分も無かった身長はいつの間にか少し見上げれば優しく微笑んだ彼の視線と絡む。
やっと追い付いた。
と、そう思った。
彼の方は今年524歳になると言う。
わたくしにはピンと来ない数字。
わたくしの愛の言葉に困ったお顔をされた彼の方。
何故困ったお顔をされているの?
わたくしがお嫌いなのかしら。
そう問うと、君と私は相容れない存在だと。君と同じ人々と幸せになりなさいと仰られた。
どうしてでしょう。
わたくしに悪いところがあれば直しますのに、ダメだと変わらぬ答えが返って来ます。
辛くなるのは君だよと言われるけれど、彼の方と一緒にいられるのにどこが辛くなると言うのでしょう。
諦めないわたくしに閉口する彼の方。
溜息を吐いた彼はわたくしに条件をお出しになったわ。
その条件は、結婚適齢期を過ぎても結婚せず、その時になり未だ気持ちが変わらずにいるのなら答えても良いと。
困りましたわ。
適齢期まで後三年、そこそこ裕福な商家に生まれたわたくしは数年前から縁談が舞い込んでいるのです。
年々お断りするのが難しくなって来たので彼の方に告白したのに。
でも分かりましたわ。
彼の方と一緒にいたいのはずっと変わりません。
お父様を説得しなければね。
お父様は予想通り猛反対。
人とエルフは寿命が違うのだぞ!大事な娘を苦しめると分かっていて許すはずもないと、予想通りの答えが聞こえて来ましたが、私はそれでも良かった。
再三父から他の縁談を勧められたけれど、決して頷くことなく適齢期を越えた。
これで彼の方の元に行けると笑うとお父様は疲れたように苦笑した。
好きにしなさい…と。
認めて下さいました。
それから久しぶりに訪れた彼の方の所に行きびっくりした顔を見る。
わたくしが諦めると思っていらっしゃったのかしら?失礼しちゃうわ。
彼の方もここまでされれば断れなかったようで、苦笑いしながらわたくしを受け入れてもらえました。
幸せ。
新しい生活に彼の方がいる、ままごとのような生活。
主人のために家事をする事に平凡で暖かい幸せを感じます。
でもね…いつの間にかわたくしは忘れていたの。
彼の方の寿命はまだ後400年ほど。
わたくしは後…。
わたくしは気がつくと、彼の方の外見年齢を追い越していたの。
顔には若い時のようなハリは無く、少し弛んだ頬とくすみが隠せなくなって来たの。
振り返れば、小さな頃から変わらない美しい彼の方がいた。
ああ。
これ以上年なんか取りたくない。
小さい頃は早く大きくなって追い付きたかったのにね。
なんて、ワガママでしょう。
更に時は過ぎ。
わたくしは中年と呼んで差し支えなくなった。
他人からわたくし達を見れば母と息子かしら。
彼の方は関係ないよと仰ったけれど、その認識が間違っていない出来事が起きたわ。
ある日、見知らぬ若夫婦が一夜の宿を求め我が家を訪れたの。
夕食を振る舞った際に奥様から家事を手伝う我が夫を見て。
素敵な息子さんですね。
と、仰られたの。
夫の顔が一瞬固まった。
夫が何か言いかけたけれど、わたくしは聞いていたくなくて被せるようにこう言いましたわ。
ええ、そうなんですの。
と。
それを聞いた夫の顔は強張り、怒りが見えました。
その日の夜、わたくしは静かに怒りを表す夫に対峙しました。
何故肯定するような事を言ったのかお怒りでしたけど、否定しない方が丸く収まると思ったのですよ。
そう言ったわたくしに夫は悲しげなお顔をされ、悔しくないのかとおっしゃいましたね。
でもね、わたくしは他人からなんと見えようと貴方のお側に居たいのです。
こんなおばさんは嫌よね。
貴方はこんなにも若いのに。
でも、ワガママを聞いて頂きたいの。
後30年程でいいから、わたくしの寿命までお側にいてもいいでしょうか?
以前悠久の刻に退屈を感じる事もあるとおっしゃいましたよね。
そんな貴方様におこがましいけれど、ひとときだけでも楽しいと感じて頂けたら嬉しいの。
それから更に時は過ぎました。
種族が違うと子供は望めない事は知っていたけれど、彼の方との間に子供がいたらまた違ったのかしら?
と、最近取り留めなく思考します。
自分の手を見るとシワだらけになって細くなった手が映ります。
あれ?どうしてこんなにシワシワなのかしら。
ああ、頭が重いわ。
今日は暖かい日だったので、夫が昼間家の庭にあるベンチに連れて行って下さいました。
ポカポカですね。
心配そうにみる夫に向かって笑い掛けます。
いつ見てもあの時同様のわたくしが恋をした彼の方がいましたわ。
わたくしが居なくなったら、またわたくしの時のように貴方様に恋をする女性が現れるのでしょうか。
寂しいわ。
嫉妬もしちゃうわね。
でも、私が居なくなったらまた貴方は一人。
彼の孤独が少しでも無くなるなら許すしかないわね。
ベンチで彼の方の腕に抱かれながらぼんやりお顔を見上げました。
ああ、幸せだわ。
視界に彼の方の泣き顔が見える。
貴方もちょっとでも幸せを感じてくれたのかな。
そうだといいなぁ…。
「………」
何か呟いたかに聞こえた私の意識は闇に沈んでいった……。
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