悪魔と2人の主人

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サリビト

オータム・セッダー

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「いやー、話がわかる方で嬉しいですね」
上機嫌で話す振りをしながら、こちらの情報を探ってくる。
「貴族はやっかいな奴が多いからな。確認できて良かった。お前は良くわかっているな」
「お褒め頂き光栄でございます。ですので「報酬は倍額にしてもらう。それからこれだな。これは却下だ」」
にこやかな笑顔が一瞬固まる。
「しかし、これも大事な財源」
「聞こえなかったのか?却下だ。あぁ、却下が無理ならそれは葵に頼め。貴族達との関わりは極力避けたい」
下手に動いてこちらの思惑と違う動きや勘繰りには辟易する。この世界も貴族の性質は変わらない。歪な派閥争いに後継者問題。場所が違うだけだ。
「お前は貴族なんだろ?どうしてこんな連中とつるんでいる?」
「正確には元ですけどね」
オータムは首から下げていた金のロケットを開いてみせた。
「顔はそっくりでしょう。私の自慢の息子でした」
オータムそっくりの青年と女性の写真がはめられている。セピア色の写真と映る服装に違和感を感じる。目の前のオータムはどう見ても30代なるかならないかぐらいだ。
「息子は身体が弱くて貧乏貴族の私にはどうする事もできなかった。当時は魔獣に対抗しうる手段もなくて、多くの貴族や傭兵達が犠牲になりました」
オータムは立ち上がるとぬるくなった紅茶を入れ直した。
「サリビトという新しい試みに参加するならば、王宮から相応の金貨を貰えたんです。おかげで息子はその、寿命が来るまで生きれましたし、セッダー家も続いています。私はサリビトとして当主の座からは引退しておりますが、自分の末裔を路頭に迷わせることはしたくないのです」
「だから貴族との交渉を?」
「単純に私が適任だったというだけです。私の前にはティアンも交渉係として働いていたそうです」
ドアをノックする音に中断され、夕食が運ばれる。
フェイクとオータムにさがるよう指示し、扉が閉めらるのを待ってから仮面を外した。
葵は平民の出身なのだろう。従者と同じ場所で食事するなど貴族ならあり得ない。しかも相手は普通の人でなく闇と契約したいつ、魔獣化するかわからない物。数日を共にしただけでも、いかに彼らが恐れられ、嫌われているかを肌で感じる。
「それでもなお、領民を守るか」
オータムの話の半分は誇張された作り話だろう。
『自分の末裔を路頭に迷わせることはしたくないのです』
そう言い切った時、彼の魔力が少しだけ反応した。
『魔力を持たないお前ならば、我の闇にも耐えられよう』
魔力根も持たずに生まれた私だから闇に囚われることはない。だが、契約により、魔力根が作成され、魔力を扱えるようになったのなら、私も闇に呑まれる可能性があるのだろうか。
オータムの写真はどう見てもかなり古い。それにオータムは息子とか孫ではなく末裔と言った。
「化け物か」
ディアムの手を思い浮かべる。亜人族に分類されるエルフやドワーフも長く差別対象だったのだ。亜人族自体がいないこの世界では、なおさら差別対象だろう。そしてその事実すら彼らにとっては日常なのだ。ルフェと契約した自分も彼らと変わりない。
「エムリス、お前がいてくれたら」
変わらない笑顔と楽天的な解答にどれだけ救われていたのだろう。
オータムの話ではバードン領の当主、サー・バードンは温厚でサリビト達への理解もあるらしい。
王家直属という位置付けではあるが、実態は国のなんでも屋らしい。王家直属部隊の魔獣討伐部隊というのに、貴族絡みのパーティー護衛やら、薬品の輸送業務、社交パーティーの準備なんてのもある。王家直属部隊ならそれなりの報酬、名誉、誇りがあるのが本来の姿だ。
魔法が使えず、剣の力のみで直属部隊隊長に任命された時は歓喜で震えたぐらいだ。




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