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一章
1.パン泥棒犬
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見渡す限り広々とした廊下。
その両端にはメイドと執事がざっと見えるだけ五十人以上立っているのが伺える。
そして一番最後尾にいる一人だけ緊張で馴染めていないメイドが私だ。
「「お帰りなさいませ、ご主人様」」
使用人達が一斉に頭を下げるので私も慌てて頭を下げる。
コツコツと革の靴を鳴らしながら目の前を通り過ぎていく人物、それがこの国の皇弟である。
まさか数日前まで超貧乏人の私が、こんな貴族の宮で働く事になるとは......。
そう思いながらオリーブ色の瞳を揺らす少女。
彼女がこの屋敷の使用人になれたのはつい3日前、こんな出来事があったからだった。
「やっと、飯にありつける......」
スラムの路地に立つ私はその日、やっと三日ぶりの食事になる予定のパンを持っていた。
パンは子分(というか生意気だからボコボコにしたら勝手に懐いた)が隠し持っていたので奪ってやったものだ。
誰も来ないように人が少ない路地裏に隠れる。
ちなみにパンはカッサカサでカッチカチ。おまけにその辺の泥でコーティングされて真っ黒になっていた。
気にせず一口食べるがなんの味もしない。
というかまあ私の鼻がおかしくなってしまっているだけなのだが。
それでも私のようなスラムの虫けらにとってはこんなものでもご馳走である。腹を満たすことが最優先。死ぬよりはきっとずっとマシなはず。
「うぐ......けほっ、あっ」
二口目を食べて口の中の水分が無くなり、むせた。
その衝撃で掴んでいた手がパンを落としてしまった。
パンはアスファルトにバウンドし、跳ね返った。
(まあ、私には三十秒ルールがあるし)
そんなふうに開き直った私がすぐに拾おうとしたその瞬間、白い何かが前を通り過ぎた。
白い何かは私が落としたパンを咥えて路地の奥に走っていく。
「はっ!? 待て!!!」
私は血眼になって”それ”を追いかけた。
追いかけていくうちにそれは犬だということに気がついた。
(チッ、ついてない)
この辺によくいる犬は皆痩せこけてて汚くて目がギラギラしている。
そういうのとは真逆な汚れてない犬。白くて太ってて毛がふわふわな健康そうな犬が目の前を走っていた。
「はぁ、はぁ......。追いつけない」
しかもこの犬、私のスピードが遅くなると止まってこっちを伺ってくるのだ。
その隙を狙って一気にスピードを出して捕まえようとしてもふわりと逃げる。逃げられるのに本気で逃げない。まるでこちらを弄んでるようだった。
結局真っ昼間に食糧を奪われたその犬を捕まえたのは夕方になってからだった。
「ぜぇ、はぁ、お前、パン全部食べたの!?」
犬はパンを完食していた。ファック。
走って疲れたので今日はもうこの犬でも食べようかなと思っていた矢先――
「ジーン!!!!」
「?」
声のした方を見ると目の前には背の高い白髭の男が立っていた。
その両端にはメイドと執事がざっと見えるだけ五十人以上立っているのが伺える。
そして一番最後尾にいる一人だけ緊張で馴染めていないメイドが私だ。
「「お帰りなさいませ、ご主人様」」
使用人達が一斉に頭を下げるので私も慌てて頭を下げる。
コツコツと革の靴を鳴らしながら目の前を通り過ぎていく人物、それがこの国の皇弟である。
まさか数日前まで超貧乏人の私が、こんな貴族の宮で働く事になるとは......。
そう思いながらオリーブ色の瞳を揺らす少女。
彼女がこの屋敷の使用人になれたのはつい3日前、こんな出来事があったからだった。
「やっと、飯にありつける......」
スラムの路地に立つ私はその日、やっと三日ぶりの食事になる予定のパンを持っていた。
パンは子分(というか生意気だからボコボコにしたら勝手に懐いた)が隠し持っていたので奪ってやったものだ。
誰も来ないように人が少ない路地裏に隠れる。
ちなみにパンはカッサカサでカッチカチ。おまけにその辺の泥でコーティングされて真っ黒になっていた。
気にせず一口食べるがなんの味もしない。
というかまあ私の鼻がおかしくなってしまっているだけなのだが。
それでも私のようなスラムの虫けらにとってはこんなものでもご馳走である。腹を満たすことが最優先。死ぬよりはきっとずっとマシなはず。
「うぐ......けほっ、あっ」
二口目を食べて口の中の水分が無くなり、むせた。
その衝撃で掴んでいた手がパンを落としてしまった。
パンはアスファルトにバウンドし、跳ね返った。
(まあ、私には三十秒ルールがあるし)
そんなふうに開き直った私がすぐに拾おうとしたその瞬間、白い何かが前を通り過ぎた。
白い何かは私が落としたパンを咥えて路地の奥に走っていく。
「はっ!? 待て!!!」
私は血眼になって”それ”を追いかけた。
追いかけていくうちにそれは犬だということに気がついた。
(チッ、ついてない)
この辺によくいる犬は皆痩せこけてて汚くて目がギラギラしている。
そういうのとは真逆な汚れてない犬。白くて太ってて毛がふわふわな健康そうな犬が目の前を走っていた。
「はぁ、はぁ......。追いつけない」
しかもこの犬、私のスピードが遅くなると止まってこっちを伺ってくるのだ。
その隙を狙って一気にスピードを出して捕まえようとしてもふわりと逃げる。逃げられるのに本気で逃げない。まるでこちらを弄んでるようだった。
結局真っ昼間に食糧を奪われたその犬を捕まえたのは夕方になってからだった。
「ぜぇ、はぁ、お前、パン全部食べたの!?」
犬はパンを完食していた。ファック。
走って疲れたので今日はもうこの犬でも食べようかなと思っていた矢先――
「ジーン!!!!」
「?」
声のした方を見ると目の前には背の高い白髭の男が立っていた。
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