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三章
30.魚の塩焼き(番外編)
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本編の展開が中々複雑になってしまったので息抜きで書いた番外編です。
タイミング的には16話と17話の間くらいの話です。
読まなくても展開には支障ありませんが箸休めだと思っていただけると幸いです。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
(フィオネ様、今夜11時地下の渡り廊下で行われる夜会に招待します。お腹を空かせて来てください――って何これ?)
午前の仕事を終えた私はエプロンのポケットに小さい紙が入っていることに気がついた。
おそらくこの紙を入れたのは他ならぬシウォンだろう。しかし改まって来て欲しいなんて言われたのは初めてだ。
「”夜会”って書いてある......ダンスでも踊るのかな?」
ということで私は紙に書いていた通り、ライアンに断って夕飯を抜くことにした。
そして皆が寝静まった後、一人ベッドで様子を伺う。
「むにゃ......ちょっと! 私が先に飛ぶのよ! あんた達は黙ってそれを履いてればいいの......よ」
(! うわ、びっくりしたあ......)
相変わらずヘリンの寝言は意味が分からない。
私はそーっとベッドから出て地下へ向かった。
地下へ向かうため、階段を降りるとなんだか白い煙が上がってきていることに気がつく。
「なにこれ......! 火事!?」
私は急いで階段を駆け下りた。
それと同時にどんどん煙は濃くなっていく。何かが焦げたような匂いが余計に私を焦らせた。
「シウォン! だいじょ――」
「あっフィオネ! 良かった~来ないかと思ったよ。ちょっとこっち来て!」
「.....へ?」
そこには串刺しになった魚を焚き火で炙るシウォンの姿があった。
「これ、何を......してるの?」
「今日はね、フィオネにご馳走しようと思ってさ」
――ぐぅ~
(あっ......)
その瞬間、夕食を食べていなかった私のお腹は周囲に聞こえるほど大きく鳴ったのだった。
(ううっ、死ぬほど恥ずかしい)
「ふふっこれもう焼けたから食べようよ。そのために呼んだんだよ」
シウォンは特に気にする様子も無く、串に刺された魚を私に渡した。
魚はちょうど私の顔くらいの大きさだ。
尾びれの方から串で一突きされ、こんがりと黒く焼けている。
「シウォン、これなんて言う魚?あと結構、その、焦げてるような」
「アジだよ、アジの塩焼き。まあそう言わずに食べてみてよ」
「へぇ......いただきます」
私は魚の腹をおそるおそる一口、齧った。
ぱくっ......もぐもぐ......。
「あつっ、おいひぃ」
食べた瞬間、口の中に塩気のある魚の香ばしい匂いが広がった。
皮があれだけ黒くなっていたので不安だったが、焦げていたのは表面だけで中身はちょうど良い焼き加減である。
「身が詰まってておいひぃね。あつっ」
「ふふっそうでしょ、良かった。まだまだいっぱいあるから食べてね」
彼はそう言うと、奥からバケツいっぱいに入った魚を目を輝かせながら見せてきた。
「うわっすごい量。シウォンが全部採ったの?」
「頑張ったんだよ」
「ねえシウォン、どうしてこれを私に食べさせてくれたの? 私、誕生日とかでも無いけど......」
私は魚の量に驚きつつも、シウォンに素朴な疑問を投げかけた。
「フィオネにいつも食べ物貰ってるから、何か返してあげたくてさ。僕が今できることと言ったらこうやって魚を採ってご馳走することくらいだから」
シウォンはどうやら私が持ってくる食べ物を貰ってばかりなのが申し訳なく思っていたらしい。
(別に気にしてないのに)
「そっか。美味しいね、この魚。私は好きで持ってきてるから気にしなくて良かったのに」
「えっ、すっ......?」
聞こえなかったのだろうか。もう一度言ってあげきゃ。
「えっ? うん。好きで持ってきてるから......どうかした?」
「あっそっ...そっか。そういうことか...ちょっと聞こえなかっただけだから大丈夫、でもいつもありがとうね」
「ううん、こちらこそ」
彼は途中何かに狼狽えたが、私が魚を食べるのに夢中でよく分からなかった。
それにしてもこの魚美味しいな。お腹空いてたから止まらない......。
そうしてまた、食べるのに夢中だった少女は少年の耳が赤くなっていたことに気づくことはなかった。
タイミング的には16話と17話の間くらいの話です。
読まなくても展開には支障ありませんが箸休めだと思っていただけると幸いです。
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(フィオネ様、今夜11時地下の渡り廊下で行われる夜会に招待します。お腹を空かせて来てください――って何これ?)
午前の仕事を終えた私はエプロンのポケットに小さい紙が入っていることに気がついた。
おそらくこの紙を入れたのは他ならぬシウォンだろう。しかし改まって来て欲しいなんて言われたのは初めてだ。
「”夜会”って書いてある......ダンスでも踊るのかな?」
ということで私は紙に書いていた通り、ライアンに断って夕飯を抜くことにした。
そして皆が寝静まった後、一人ベッドで様子を伺う。
「むにゃ......ちょっと! 私が先に飛ぶのよ! あんた達は黙ってそれを履いてればいいの......よ」
(! うわ、びっくりしたあ......)
相変わらずヘリンの寝言は意味が分からない。
私はそーっとベッドから出て地下へ向かった。
地下へ向かうため、階段を降りるとなんだか白い煙が上がってきていることに気がつく。
「なにこれ......! 火事!?」
私は急いで階段を駆け下りた。
それと同時にどんどん煙は濃くなっていく。何かが焦げたような匂いが余計に私を焦らせた。
「シウォン! だいじょ――」
「あっフィオネ! 良かった~来ないかと思ったよ。ちょっとこっち来て!」
「.....へ?」
そこには串刺しになった魚を焚き火で炙るシウォンの姿があった。
「これ、何を......してるの?」
「今日はね、フィオネにご馳走しようと思ってさ」
――ぐぅ~
(あっ......)
その瞬間、夕食を食べていなかった私のお腹は周囲に聞こえるほど大きく鳴ったのだった。
(ううっ、死ぬほど恥ずかしい)
「ふふっこれもう焼けたから食べようよ。そのために呼んだんだよ」
シウォンは特に気にする様子も無く、串に刺された魚を私に渡した。
魚はちょうど私の顔くらいの大きさだ。
尾びれの方から串で一突きされ、こんがりと黒く焼けている。
「シウォン、これなんて言う魚?あと結構、その、焦げてるような」
「アジだよ、アジの塩焼き。まあそう言わずに食べてみてよ」
「へぇ......いただきます」
私は魚の腹をおそるおそる一口、齧った。
ぱくっ......もぐもぐ......。
「あつっ、おいひぃ」
食べた瞬間、口の中に塩気のある魚の香ばしい匂いが広がった。
皮があれだけ黒くなっていたので不安だったが、焦げていたのは表面だけで中身はちょうど良い焼き加減である。
「身が詰まってておいひぃね。あつっ」
「ふふっそうでしょ、良かった。まだまだいっぱいあるから食べてね」
彼はそう言うと、奥からバケツいっぱいに入った魚を目を輝かせながら見せてきた。
「うわっすごい量。シウォンが全部採ったの?」
「頑張ったんだよ」
「ねえシウォン、どうしてこれを私に食べさせてくれたの? 私、誕生日とかでも無いけど......」
私は魚の量に驚きつつも、シウォンに素朴な疑問を投げかけた。
「フィオネにいつも食べ物貰ってるから、何か返してあげたくてさ。僕が今できることと言ったらこうやって魚を採ってご馳走することくらいだから」
シウォンはどうやら私が持ってくる食べ物を貰ってばかりなのが申し訳なく思っていたらしい。
(別に気にしてないのに)
「そっか。美味しいね、この魚。私は好きで持ってきてるから気にしなくて良かったのに」
「えっ、すっ......?」
聞こえなかったのだろうか。もう一度言ってあげきゃ。
「えっ? うん。好きで持ってきてるから......どうかした?」
「あっそっ...そっか。そういうことか...ちょっと聞こえなかっただけだから大丈夫、でもいつもありがとうね」
「ううん、こちらこそ」
彼は途中何かに狼狽えたが、私が魚を食べるのに夢中でよく分からなかった。
それにしてもこの魚美味しいな。お腹空いてたから止まらない......。
そうしてまた、食べるのに夢中だった少女は少年の耳が赤くなっていたことに気づくことはなかった。
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