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三章

36.復讐

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「......お前は何だ?」

 シウォンの前に立ちはだかった私を見て、ジークは訳が分からないと言った表情だった。

(――うう、やってしまった)

「フィ、オ......!?」

 するとシウォンは苦しそうに私の名前を呼んだ。

「ごめんシウォン。大人しくしてって言われてたけど我慢できなかった。ジーク皇子、私はフィオネと言います。シウォンの友人......です」

「はっ友人、だと?」

「もうやめてくださいこんなこと。それにシウォンを殺そうとしないで!」

 怯まずに叫んだ。
 シウォンを傷つけられた怒りでなんとか立っていられるが、剣を持った人間を前にすると震えが止まらない。

「お前、誰に向かって口を聞いている? 身分を名乗ってみろ」

「みっ、身分――?」

「はっさてはお前、貴族ではないだろう? その口調、歩き方、無礼な振る舞い。こんな人間が第二王子の友人? 笑わせるな」

「なっ......」

 恥ずかしさで顔が熱くなる。
 確かに私はスラム出身で、育ちもあまり良くないけど......。

「どけ、俺はそいつに用があるんだ」

「ど、退きません」

「なら、お前も一緒に死ぬか?」

 怖い。
 ジークの目は冗談を言っている目ではない。本当に、殺されるかもしれない。

「だったら冥土の土産に、一つ教えて貰えませんか? ジーク皇子は前女王を生き返らせてどうするつもりなのですか?」

「......どうするだと? これは復讐なんだ。母上がいなくなってから俺の人生はめちゃくちゃだ。特にこの愚弟、何も出来無いくせに現女王の息子というだけで周りに甘やかされて育った弱虫だ。だから俺が鍛えてやったんだ」

 そう言ってふんぞり返る第一王子を見て私は嫌な気持ちになった。

 (鍛えるという名の虐め、ね)

 ジークの言い分はまさに逆恨み。
 復讐とは言っているもののその実態はシウォンに対する歪んだ嫉妬でしかない。

「でも、亡くなった人が急に生き返っても民はそれを受け入れられるとは思いません」

「聖女に祭り上げれば良い。そうすればすぐに母上が女王に戻るだろう。現女王は既に表に出られる状態ではないからな」

「そう、でしょうね。だって他ならぬ兄上が階段から突き落としたんだから」

 私の後ろでうずくまっていたシウォンがふらつきながら立ち上がった。

「まって、シウォン! 血が......!?」

 急いで駆け寄るとシウォンは頭を打ったのか血を流している。

「僕は絶対に兄上のことを許しませんから!」

「ふっ最後に言い残すことはそれだけか? 女を痛ぶる趣味は無いがまあこの際どうでもいい」

 次の瞬間、ジークは剣を振りかぶった。

「終わりだ、二人とも死ね」

「フィオネ! 危ないっ......!」

 その瞬間、血飛沫が視界の全てを奪った。

(え......?)

 シウォンは私を庇った。
 斬られた勢いで私達は最上階の吹き抜けから転げ落ちる。

「きゃあああ!」

 落ちていく意識の中、私の心は恐怖で染まっていった。
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