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三章

38. 我、聖なる者を導く者なり

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「どういうこと、ちょっと待って......。なんで今そんなこと――」

 目頭がどんどん熱くなっていく。
 その意味を理解した瞬間、嬉しいやら恥ずかしいやらで私の心はぐちゃぐちゃになった。

「シウォン分かってる? 今、貴方死んじゃいそうなんだよ......」

「うん、ごめんね」

 すると次の瞬間、そう言って彼の目は開かなくなった。

「シウォン......? シウォン、シウォン! 待って!!行かないで!!」

 その瞬間、目の縁で堪えていた涙が溢れ出した。

「うっ、ううっ、うわあああん!」

 握っていたシウォンの手が力無く落ちる。
 頭の中にあった最悪の想像が今、現実になった。

「わっ、私っ......! まだ貴方に好きだって伝えてないのに!! ううっ、それなのに勝手に死ぬなんて許さない......。うわあああん!」

 私は段々冷えていくシウォンの身体を抱きしめながら大粒の涙を零していた。

「そんな、シウォン......」

「シウォン様が......本当に......?」

「なんてことだ」

 その場に居た全員が、シウォンの朽ちていく様を呆然と見ていた。
 誰もが諦めた瞬間、私は自分の涙が白く光っていることに気がついた。

「ううぅ、うう......?」

 それと同時に私の左手にはめていた指輪が熱くなる。

(な、に?共鳴してる?)

 指輪の光と涙の輝きはどんどん強くなり、次の瞬間辺り一体を白い光で覆い尽くした。

「なんだ、これは!?」

「何も見えません! 何が起きたのですか!?」

 周囲の慌てた声もみるみるうちに光の中に取り込まれて聞こえなくなっていく。
 そして私はあっという間に光の中にシウォンと二人きりになる。

「ここは――何?」

「どうか泣かないでおくれ、フィオネ」

「!」

 突然後ろから聞こえた声に振り返ると、そこに現れたのはカインだった。

「カ、カイン? なんでここにいるの? それに一体ここはどこなの......?」

「”我、聖なる者を導く者なり”だよ。君がちゃんと指輪を持ってくれて良かった。ここは光の世界。君の、聖女の精神世界さ。それにしてもフィオネ、君はやっぱり私のことを覚えてないんだね」

(え?)

 少し残念だ、とカインは悲しそうな顔で言った。

「え? 覚えてるよ......?」

「六百年前のこともかい?」

(えっ、どういうこと?)

「君は聖女の生まれ変わりなんだ。六百年前に亡くなったあの偉大なる、ね。だから不思議な力を使えるのさ。聖女なんて誰でもなれるものじゃない。おかしいと思わなかったのかい?」

(生まれ変わり......? わ、私が?)

 スワム達から話をちゃんと聞く時間が無かったから受け入れてたけどまさか前世が聖女そのものだったとは思いもしなかった。

「ああ、でもだからカインと初めて会った時に妙に安心感があったのね」

「!」

 私は何気なく、あの時の感想をポツリと零す。その瞬間、カインが膝から崩れ落ちた。

「え、カイン? どうしたの?」

「ずっとお待ちしていました......。聖女様、貴方が亡くなった時、身が裂ける思いでした。こうやってまた......貴方と話せる日が来るなんて――」

「えっと......」

(そっか、カインは本当に前世の私を慕っていたんだな)

「お疲れ様カイン。それと私のことを助けてくれてたのも貴方だったんだね。いままでありがとう」

 前世の記憶は無いがすっと出てきた感謝の言葉に私はほんの少しだけ、カインに対する懐かしさを感じていた。
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