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四章

49.二年後

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「もおお無理だよお......」

 その時、私は机の上に山積みになった書類をなぎ倒しながら子供のように弱音を吐いていた。

 シウォンと結婚して早二年、皇后になってから毎日仕事は大忙しだ。
 書類に判子を押してまた捲って押して、捲って押して捲って押して――

「もういっそ今日は辞めちゃおうかな」

 ガチャ

 日頃の疲れから良からぬことを考えていると、誰かが部屋のドアを開ける音が聞こえてきた。

「ちょっと何やってんのよ?」

「ヘリ~ン、助けて......」

 私は皇后の側近兼親友のヘリンに助けを求めた。

「ったく、私がちょっと外してただけでこんなに部屋を荒らすなんて......。あんたは皇后っていう自覚少しは持ちなさいよね」

「ヘリンこそ、いくら私達の仲だからってその言い方はないんじゃない? 私、皇后よ!」

「はいはい、では皇后様早くお仕事の続きをお願いします」

「うっ......」

 皇后になってから側近は自分で選ぶことが出来たので私は離れの宮に戻って、ヘリンをここに連れてきたのである。

 最初はびっくりしていたヘリンも、今ではすっかり慣れて側近の中でも唯一、私に強く物申せるただ一人の人物として宮内では有名人だ。

 バンッ

「ライアン? ドアはノックしてから入りなさいとあれほど......」

「皇后陛下! 帰ってきましたよ!」

 ガタッ

 その瞬間、私は勢いよく椅子から立ち上がった。
そして一目散に部屋を飛び出る。

「ちょっと!二人とも待ちなさい!」

 私は後ろから怒っているヘリンを無視して廊下を走った。なぜなら――

「シウォンが帰ってきた!」

 三ヶ月前に遠征に行っていたシウォンが今日やっと帰ってきたからだ。

「皇后陛下! 廊下を走られては......!」

「皇后陛下! 皇帝陛下が正面玄関に到着しております!」

「ありがとう!」

 廊下には私の皇后らしからぬ猛ダッシュを注意する声と、シウォンの帰りを知らせてくれる声が交互に飛び交っている。

(早く......会いたい......)

 玄関に着いた瞬間、すぐに彼の姿が視界に入った。

「シウォン!」

「!フィ――」

 私はシウォンの返事を待たず思い切り彼に抱きついた。

「会いたかった、シウォン......」

 鼻にかかる髪の匂いが彼が本当にここに存在しているのだということを教えてくれる。

「ただいま。本当遅くなってごめんね。僕もフィオネが居なくて寂しかった」

 シウォンは皇帝になってから領地の視察に行くことが多くなった。
 それでもこんなに長く離れたことは今まで無い。

(本当に寂しかった)

 その瞬間、シウォンの背後から出てきた人影がボソッと何か呟いた。

「本当にバカップルですねえ......」
「ん? ドリーさん何か言った?」
「いえいえ。大変微笑ましい夫婦ですね、と言っただけです」

 シウォンの遠征に一緒に付き添っていたドリーは半ば呆れながら二人を生暖かい目で見ていた。

「皇帝陛下、おかえりなさいませ。ずっと待っていたんですよ」

「ただいま、ライアン。今日はこれ、良い牛肉が手に入ったから、よろしくね」

 ちなみにライアンも離れの宮から連れてきた同僚その2である。今ではもう、シウォンとかなり仲良くなっている。

 ここに来てから料理長お手製の料理を毎日頂けているのはとても嬉しいことだ。

「それにしても帰ってくるのは明日って言ってなかった?」

 シウォンが事前に聞いていた日より早く帰ってきた。一体それは何か理由があるのだろうか?

「えっっ、フィオネ。まさか今日が何の日か忘れたの?」
「えっ? な、なんだっけ......?」
「結婚記念日でしょ!!!」

(あっ......そうだった)

「ご、ごめん。怒らないでシウォン」
「あっでは、私は仕事がありますのでこれで」
「あっじゃあ、俺はこれでステーキを作ってくるからこれで」

 彼の怒りの気配を察知したドリーとライアンがそそくさと逃げる。

「もうっ! フィオネのばか!」
「ごめんって~あっ!」
「何?」
「そういえば、まだ言ってなかった」

 そうやって私は可愛い理由で拗ねたシウォンの機嫌をとる。

「シウォン、おかえり」

「......ただいま」

 このまま幸せな時間がずっと続けば良いのに。
 私はぶすっと不満そうな顔をするシウォンの頬を撫でながら、遠い未来もずっと一緒にいれたら良いな、とひそかに願うのだった。



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これにて、『スラムメイドと幽霊坊ちゃんの夜会飯』完結になります。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

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