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学園入学からしばらく経ち学園での生活にも慣れてきた。
今のところエリザやルシウスさんのサポートもあり大きな問題はない。
ただあの王太子が私やエリザに絡んでくることには困っている。
王太子は私たちを都合のいい人間だとしか思っておらず、何もかも自分より劣っていると決めつけているようだ。
そんな中で最近定期テストがあったのだが、結果はまさかの私が一位(前世の記憶のおかげだ)、エリザが二位、王太子が三位だった。
その結果を見た王太子は私達に言いがかりをつけてきた。
「この俺が一位じゃないなどあり得ない!俺は王太子だぞ!…あぁ!お前ら二人で不正をしたんだな!そこまでして一位になりたいなんて愚かなやつらだ。ハッ!お前らが一位になったところで王太子である俺には何一つ敵わないのにな。そう思うだろ?リュシアン」
「…その通りです」
「だよな。あぁ、こんなやつらが俺の婚約者と婚約者候補だなんて嘆かわしいと思わないか?」
「その通りです」
「だが俺は寛大だからな。お前らは二人とも俺の役に立てるようにしてやるから安心しろ。ただテストの不正は今回だけにするんだな。こんな風にバレて恥ずかしい思いをするだろうからな!はっはっはっ!」
言いたいことだけ言って去っていく王太子を私もエリザもそして他の生徒達も冷めた目で見ていたが、本人は気づきもしなかったようだ。
「なんか一人で騒いで楽しそうだったね…」
「そうね。以前から資質を疑ってはいたけれど…。それに周りからどう思われているかなんて気がついてもないようね」
バーヤイマ公爵家だけでなく他の貴族家も王家に不信感を募らせているようだ。
その証拠に王太子の側にはリュシアンしかおらず取り巻きの一人もいない。
みんな王家に不満はあるが聖獣様の加護のことがあるので黙って受け入れるしかないのだ。
「でもあの人はずっと側にいるよね。えーっと、確かリュシアン様だっけ?」
「っ!…そうね」
「?まぁきっと何か理由があるんだろうね。私達が悪く言われてる時、何だか辛そうな顔してたしさ」
「…オルガにはそう見えたの?」
「うん。私何となくだけど表情を見ればその人がどんな気持ちなのか分かるんだ」
(前世で目立ちたくなくて人の顔色を伺いながら生きてきたから、とは言えないけど)
「そうなのね…」
エリザは嬉しいと悲しいが混ざりあったような表情をしている。
私はこの表情に思い当たることがあった。
(この表情って恋をしてる時の?…ううん、ただ恋をしているだけなら悲しい表情はしないはず。そう考えるとエリザはリュシアンに対して悲しい恋をしているってこと?)
「エリザ、もしかして…」
「なんのことかしら?…さぁそろそろ教室に戻りましょうか」
「…うん、そうだね」
どうやらエリザはこれ以上この話には触れて欲しくなかったのだろう。
それなら私は何も言わない方がいいだろうと思い、これ以上この場でリュシアンの話はしないで教室に戻ったのだった。
そんなこともあり王太子といい関係など築けるわけもなく、日に日に嫌悪感が増していたある日の放課後。
エリザはイサーク先生に話があるそうで少し待っていて欲しいと言われ図書室に来ている。
放課後の図書室はあまり利用者がいないからとエリザにそこで待っていてほしいと言われたのだ。
きっと一人で待たせることが心配なのだろう。
まぁ一人と言ってもいつもの距離感でカイラントが付いてきているのであまり心配はしていないけれど。
それにエリザの言うとおり図書室にはほとんど人がいなかった。
ただ座って待つの暇なのでせっかく図書室に来たのだから本でも読もうと思い面白そうな本を探すことにした。
たくさんの本がありどれにしようかなと悩んで歩いていると、図書室の一番奥のエリアに来ていたようだ。
このエリアは入り口からは見えない場所にあるので人目を気にせず静かに本を読みたい人におすすめな場所であるのだが、そこには一人の男子生徒がいた。
(あの人は…リュシアン様?いつもは王太子の側にいるのに一人でいるのはめずらしいな)
「あの…」
「っ!」
一人でいるリュシアンがめずらしくてじーっと眺めていたら本人に気づかれてしまった。
「すみませんっ!」
「ま、待ってくれ!」
私は慌ててこの場から去ろうとしたのだがリュシアンに止められてしまった。
王太子の側近であるリュシアンはおそらく高位の貴族だろう。
エリザがいない今、平民である私が貴族であるリュシアンの言葉を無視するのは危険だと思いその場で立ち止まった。
(ど、どうしよう。怒られるのかな!?よ、よし!先に謝っておこう!え、えーっとちゃんと敬語で…)
「も、申し訳ございませんでした!」
「えっ!?ミ、ミストリア嬢!頭をあげてください!」
私は勢いよく頭を下げて謝ったのだがなぜだがリュシアンの声から焦りが感じられた。
どうやら怒っているわけではないようだ。
「?えっと…無礼だと怒っているわけではないのですか?」
「怒るなんて!ただミストリア嬢と話をしたくて声をかけたんですが驚かせてしまったようですね。私の方こそ失礼しました」
「い、いえっ!私が勘違いしちゃって…あ、してしまい申し訳ございませんでした」
「気にしていないから謝らないでください。それに言葉もいつも通りで大丈夫ですよ」
「…私の言葉遣いを知ってるの?話したこともないのに?」
私が学園で話すのはエリザと先生、クラスメイトくらいだ。
リュシアンとはクラスが違うし王太子に絡まれるときも私から言葉を発することはない。
そもそも王太子に絡まれるときくらいしかリュシアンを見かけたことがないのになぜ私の言葉遣いを知っているのだろうか。
普通平民は貴族に砕けた言葉で話すことなんてしないのが当然なのにだ。
「っ!…それも含めてお話しをする時間を頂けませんか?私には一人で過ごせる時間があまりなくて…」
「…いいですよ。私も人を待っているのでその人が来るまでなら」
「ありがとうございます」
怪しいと思いながらも私はリュシアンと話をしてみることにした。
私もリュシアンに聞きたいことがあったし、近くにはカイラントもいるから大丈夫だろう。
近くにある椅子に座るとリュシアンが話し始めた。
「まずは自己紹介をさせてください。私はリュシアン・レイコールドです」
「レイコールド…え、確か公爵家だったような?」
さすがに公爵家は覚えておいたほうがいい言われエリザに教えてもらっていたのだが、まさかリュシアンがレイコールド公爵家の人間だとは思わなかった。
バーヤイマ公爵夫人とレイコールド公爵夫人は親友なのだと聞いていたので、レイコールド公爵夫人の子であるリュシアンがあの王太子の側近になっているのが意外だったがなにか理由でもあるのだろうか。
「そうです。私はレイコールド公爵家の嫡男であり、ご存じだと思いますが王太子殿下の側近をしています」
「…あの、私あんまり回りくどいのは苦手だからはっきり聞いちゃうけど、どうして王太子、殿下の側近をしてるの?」
「それは…」
「私の勘違いだったらごめんね。リュシアン様はエリザのことが好きなの?」
「っ!?な、なぜそれを…」
「やっぱりそうなんだ」
私がなぜそう思ったのかというと入学式の後王太子に絡まれた時のリュシアンの視線だった。
去り際に私の方を見たのだがその時は私が平民だから気になるのかな?と思っただけだった。
だがその後も王太子に絡まれる度にリュシアンがこちらに一瞬視線を寄越して来るのだが、よく観察しているとリュシアンが見ているのはエリザだということに気づいたのだ。
(それにこの間のエリザの反応から考えると二人は両想いなんじゃないの?でもエリザは王太子の婚約者だからお互いに気持ちを隠してるってこと?せっかく両想いなのに…)
「リュシアン様がエリザのことをよく見てたから気になってたの」
「…そうでしたか。ええ、私は彼女のことが…。すみません、これ以上は言葉にできませんが彼女の支えになりたいと思って今の立場を選んだんです」
リュシアンの話によると、母親同士が親友だったこともあり幼い頃はよく一緒に遊んでいたそうだ。
子どもたちが大きくなったら婚約させようと約束していたそうだが、王家からの命令でエリザが十歳の時に王太子の婚約者になってしまった。
その頃には既にバーヤイマ公爵夫人は病を患っており、秘薬と引き換えに婚約者になるしかなかったのだ。
リュシアンとエリザはお互いに想い合っていたが二人が結ばれる未来はなくなってしまった。
それでもエリザを側で支えたいと王太子の側近になることに決めたそうだ。
ちなみに私の情報はバーヤイマ公爵夫人からレイコールド公爵夫人に宛てた手紙で知ったのだそうだ。
きっとバーヤイマ公爵夫人はエリザからの手紙で私のことを知ったのだろう。
「そうだったんだ。…だからエリザは愛する人との未来を望んでいたのか」
「ミストリア嬢?どうかしましたか?」
「い、いえ!そ、それでリュシアン様は私に何が聞きたいの?何か聞きたいことがあったから私を呼び止めたんだよね?」
「…実はお願いしたいことがあって声をかけさせてもらいました」
「お願い?」
「ええ。突然のことで失礼なのは分かっているのですが、次はいつ私が一人の時にあなたにお会いできるか分かりませんからこの機会を逃すわけにはいきませんでした」
「確かに私も基本エリザと一緒だから次の機会があるかは分からないね。それでどんなお願いなの?私にできること?」
「…彼女を守って欲しいのです」
「?私は人を守れるほど強くないよ?」
「いえ、彼女の心を守って欲しいのです」
「心を?」
「はい。私には彼女が理不尽なことを言われていても今の立場からは何もしてあげることができません。むしろあちら側に加担しているような状況です。彼女は常に強くあろうとしていますが傷ついていないわけではないはずです。彼女を支えたくて今の立場を選んだというのに…。彼女はあなたを信頼しています。そんなあなたが彼女の側に寄り添っていてくれたら心強いのです。どうかお願いできませんか」
リュシアンの立場を考えれば仕方がないかもしれないが、きっと二人は想い合っている。
もちろん私もエリザに助けてもらってばかりなのでいつかは私がエリザの助けになれたらとは思っているが、できることなら今の言葉は直接エリザに伝えてあげてほしいと思った。
(そろそろ来ると思うんだけど…、っ!)
「そのお願いはお断りします」
「なっ!?」
「もちろん私に出来る限りはエリザを支えたいとは思ってるけど、リュシアン様の代わりに支えることはできないよ。だって私はリュシアン様じゃないから」
「それはどういう…?」
「…要するに直接本人に伝えてってこと!ね、エリザ!」
「っ!?エリ…」
「シアン…。オルガこれはどういう…?」
エリザが困った顔をしながら本棚の陰から出てきた。
この状況をどうにか理解しようとしているようだ。
「エリザおかえり。あのねエリザを待ってる間リュシアン様と話をしてたんだけどちょうど今終わったんだ。でね、私本を読みたかったんだけどまだ読めてないから本を探しに行ってくる。ここでちょっと待ってて!…リュシアン様頑張って。…じゃっ!」
「っ!ミストリア嬢待ってくれ!」
「ちょっとオルガ…!」
引き留める二人を置き去りにして早足でその場から離れた。
私は辺りを見回しカイラントの他に人がいないことを確認してホッと息を吐いた。
確かに今の二人には立場があるから距離を取るのは理解できるが、それでも想い合っているのだ。
私には二人が話す時間を作るくらいしかできないが少しでも協力したい。
「ねぇ、カイラント。この事は誰にも内緒だよ?」
「はい。分かりました」
エリザからはこの後何か言われるのだろうなと思いながら、私はとりあえず言い訳用の本を探すことにしたのだった。
今のところエリザやルシウスさんのサポートもあり大きな問題はない。
ただあの王太子が私やエリザに絡んでくることには困っている。
王太子は私たちを都合のいい人間だとしか思っておらず、何もかも自分より劣っていると決めつけているようだ。
そんな中で最近定期テストがあったのだが、結果はまさかの私が一位(前世の記憶のおかげだ)、エリザが二位、王太子が三位だった。
その結果を見た王太子は私達に言いがかりをつけてきた。
「この俺が一位じゃないなどあり得ない!俺は王太子だぞ!…あぁ!お前ら二人で不正をしたんだな!そこまでして一位になりたいなんて愚かなやつらだ。ハッ!お前らが一位になったところで王太子である俺には何一つ敵わないのにな。そう思うだろ?リュシアン」
「…その通りです」
「だよな。あぁ、こんなやつらが俺の婚約者と婚約者候補だなんて嘆かわしいと思わないか?」
「その通りです」
「だが俺は寛大だからな。お前らは二人とも俺の役に立てるようにしてやるから安心しろ。ただテストの不正は今回だけにするんだな。こんな風にバレて恥ずかしい思いをするだろうからな!はっはっはっ!」
言いたいことだけ言って去っていく王太子を私もエリザもそして他の生徒達も冷めた目で見ていたが、本人は気づきもしなかったようだ。
「なんか一人で騒いで楽しそうだったね…」
「そうね。以前から資質を疑ってはいたけれど…。それに周りからどう思われているかなんて気がついてもないようね」
バーヤイマ公爵家だけでなく他の貴族家も王家に不信感を募らせているようだ。
その証拠に王太子の側にはリュシアンしかおらず取り巻きの一人もいない。
みんな王家に不満はあるが聖獣様の加護のことがあるので黙って受け入れるしかないのだ。
「でもあの人はずっと側にいるよね。えーっと、確かリュシアン様だっけ?」
「っ!…そうね」
「?まぁきっと何か理由があるんだろうね。私達が悪く言われてる時、何だか辛そうな顔してたしさ」
「…オルガにはそう見えたの?」
「うん。私何となくだけど表情を見ればその人がどんな気持ちなのか分かるんだ」
(前世で目立ちたくなくて人の顔色を伺いながら生きてきたから、とは言えないけど)
「そうなのね…」
エリザは嬉しいと悲しいが混ざりあったような表情をしている。
私はこの表情に思い当たることがあった。
(この表情って恋をしてる時の?…ううん、ただ恋をしているだけなら悲しい表情はしないはず。そう考えるとエリザはリュシアンに対して悲しい恋をしているってこと?)
「エリザ、もしかして…」
「なんのことかしら?…さぁそろそろ教室に戻りましょうか」
「…うん、そうだね」
どうやらエリザはこれ以上この話には触れて欲しくなかったのだろう。
それなら私は何も言わない方がいいだろうと思い、これ以上この場でリュシアンの話はしないで教室に戻ったのだった。
そんなこともあり王太子といい関係など築けるわけもなく、日に日に嫌悪感が増していたある日の放課後。
エリザはイサーク先生に話があるそうで少し待っていて欲しいと言われ図書室に来ている。
放課後の図書室はあまり利用者がいないからとエリザにそこで待っていてほしいと言われたのだ。
きっと一人で待たせることが心配なのだろう。
まぁ一人と言ってもいつもの距離感でカイラントが付いてきているのであまり心配はしていないけれど。
それにエリザの言うとおり図書室にはほとんど人がいなかった。
ただ座って待つの暇なのでせっかく図書室に来たのだから本でも読もうと思い面白そうな本を探すことにした。
たくさんの本がありどれにしようかなと悩んで歩いていると、図書室の一番奥のエリアに来ていたようだ。
このエリアは入り口からは見えない場所にあるので人目を気にせず静かに本を読みたい人におすすめな場所であるのだが、そこには一人の男子生徒がいた。
(あの人は…リュシアン様?いつもは王太子の側にいるのに一人でいるのはめずらしいな)
「あの…」
「っ!」
一人でいるリュシアンがめずらしくてじーっと眺めていたら本人に気づかれてしまった。
「すみませんっ!」
「ま、待ってくれ!」
私は慌ててこの場から去ろうとしたのだがリュシアンに止められてしまった。
王太子の側近であるリュシアンはおそらく高位の貴族だろう。
エリザがいない今、平民である私が貴族であるリュシアンの言葉を無視するのは危険だと思いその場で立ち止まった。
(ど、どうしよう。怒られるのかな!?よ、よし!先に謝っておこう!え、えーっとちゃんと敬語で…)
「も、申し訳ございませんでした!」
「えっ!?ミ、ミストリア嬢!頭をあげてください!」
私は勢いよく頭を下げて謝ったのだがなぜだがリュシアンの声から焦りが感じられた。
どうやら怒っているわけではないようだ。
「?えっと…無礼だと怒っているわけではないのですか?」
「怒るなんて!ただミストリア嬢と話をしたくて声をかけたんですが驚かせてしまったようですね。私の方こそ失礼しました」
「い、いえっ!私が勘違いしちゃって…あ、してしまい申し訳ございませんでした」
「気にしていないから謝らないでください。それに言葉もいつも通りで大丈夫ですよ」
「…私の言葉遣いを知ってるの?話したこともないのに?」
私が学園で話すのはエリザと先生、クラスメイトくらいだ。
リュシアンとはクラスが違うし王太子に絡まれるときも私から言葉を発することはない。
そもそも王太子に絡まれるときくらいしかリュシアンを見かけたことがないのになぜ私の言葉遣いを知っているのだろうか。
普通平民は貴族に砕けた言葉で話すことなんてしないのが当然なのにだ。
「っ!…それも含めてお話しをする時間を頂けませんか?私には一人で過ごせる時間があまりなくて…」
「…いいですよ。私も人を待っているのでその人が来るまでなら」
「ありがとうございます」
怪しいと思いながらも私はリュシアンと話をしてみることにした。
私もリュシアンに聞きたいことがあったし、近くにはカイラントもいるから大丈夫だろう。
近くにある椅子に座るとリュシアンが話し始めた。
「まずは自己紹介をさせてください。私はリュシアン・レイコールドです」
「レイコールド…え、確か公爵家だったような?」
さすがに公爵家は覚えておいたほうがいい言われエリザに教えてもらっていたのだが、まさかリュシアンがレイコールド公爵家の人間だとは思わなかった。
バーヤイマ公爵夫人とレイコールド公爵夫人は親友なのだと聞いていたので、レイコールド公爵夫人の子であるリュシアンがあの王太子の側近になっているのが意外だったがなにか理由でもあるのだろうか。
「そうです。私はレイコールド公爵家の嫡男であり、ご存じだと思いますが王太子殿下の側近をしています」
「…あの、私あんまり回りくどいのは苦手だからはっきり聞いちゃうけど、どうして王太子、殿下の側近をしてるの?」
「それは…」
「私の勘違いだったらごめんね。リュシアン様はエリザのことが好きなの?」
「っ!?な、なぜそれを…」
「やっぱりそうなんだ」
私がなぜそう思ったのかというと入学式の後王太子に絡まれた時のリュシアンの視線だった。
去り際に私の方を見たのだがその時は私が平民だから気になるのかな?と思っただけだった。
だがその後も王太子に絡まれる度にリュシアンがこちらに一瞬視線を寄越して来るのだが、よく観察しているとリュシアンが見ているのはエリザだということに気づいたのだ。
(それにこの間のエリザの反応から考えると二人は両想いなんじゃないの?でもエリザは王太子の婚約者だからお互いに気持ちを隠してるってこと?せっかく両想いなのに…)
「リュシアン様がエリザのことをよく見てたから気になってたの」
「…そうでしたか。ええ、私は彼女のことが…。すみません、これ以上は言葉にできませんが彼女の支えになりたいと思って今の立場を選んだんです」
リュシアンの話によると、母親同士が親友だったこともあり幼い頃はよく一緒に遊んでいたそうだ。
子どもたちが大きくなったら婚約させようと約束していたそうだが、王家からの命令でエリザが十歳の時に王太子の婚約者になってしまった。
その頃には既にバーヤイマ公爵夫人は病を患っており、秘薬と引き換えに婚約者になるしかなかったのだ。
リュシアンとエリザはお互いに想い合っていたが二人が結ばれる未来はなくなってしまった。
それでもエリザを側で支えたいと王太子の側近になることに決めたそうだ。
ちなみに私の情報はバーヤイマ公爵夫人からレイコールド公爵夫人に宛てた手紙で知ったのだそうだ。
きっとバーヤイマ公爵夫人はエリザからの手紙で私のことを知ったのだろう。
「そうだったんだ。…だからエリザは愛する人との未来を望んでいたのか」
「ミストリア嬢?どうかしましたか?」
「い、いえ!そ、それでリュシアン様は私に何が聞きたいの?何か聞きたいことがあったから私を呼び止めたんだよね?」
「…実はお願いしたいことがあって声をかけさせてもらいました」
「お願い?」
「ええ。突然のことで失礼なのは分かっているのですが、次はいつ私が一人の時にあなたにお会いできるか分かりませんからこの機会を逃すわけにはいきませんでした」
「確かに私も基本エリザと一緒だから次の機会があるかは分からないね。それでどんなお願いなの?私にできること?」
「…彼女を守って欲しいのです」
「?私は人を守れるほど強くないよ?」
「いえ、彼女の心を守って欲しいのです」
「心を?」
「はい。私には彼女が理不尽なことを言われていても今の立場からは何もしてあげることができません。むしろあちら側に加担しているような状況です。彼女は常に強くあろうとしていますが傷ついていないわけではないはずです。彼女を支えたくて今の立場を選んだというのに…。彼女はあなたを信頼しています。そんなあなたが彼女の側に寄り添っていてくれたら心強いのです。どうかお願いできませんか」
リュシアンの立場を考えれば仕方がないかもしれないが、きっと二人は想い合っている。
もちろん私もエリザに助けてもらってばかりなのでいつかは私がエリザの助けになれたらとは思っているが、できることなら今の言葉は直接エリザに伝えてあげてほしいと思った。
(そろそろ来ると思うんだけど…、っ!)
「そのお願いはお断りします」
「なっ!?」
「もちろん私に出来る限りはエリザを支えたいとは思ってるけど、リュシアン様の代わりに支えることはできないよ。だって私はリュシアン様じゃないから」
「それはどういう…?」
「…要するに直接本人に伝えてってこと!ね、エリザ!」
「っ!?エリ…」
「シアン…。オルガこれはどういう…?」
エリザが困った顔をしながら本棚の陰から出てきた。
この状況をどうにか理解しようとしているようだ。
「エリザおかえり。あのねエリザを待ってる間リュシアン様と話をしてたんだけどちょうど今終わったんだ。でね、私本を読みたかったんだけどまだ読めてないから本を探しに行ってくる。ここでちょっと待ってて!…リュシアン様頑張って。…じゃっ!」
「っ!ミストリア嬢待ってくれ!」
「ちょっとオルガ…!」
引き留める二人を置き去りにして早足でその場から離れた。
私は辺りを見回しカイラントの他に人がいないことを確認してホッと息を吐いた。
確かに今の二人には立場があるから距離を取るのは理解できるが、それでも想い合っているのだ。
私には二人が話す時間を作るくらいしかできないが少しでも協力したい。
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