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しおりを挟むそれから月日は流れ、気づけばもう九年が経っていた。
この日はめずらしいことに、父から本邸の執務室に来るようにと使用人から伝えられていた。前世の記憶を思い出してから今日までの間、一歩たりとも本邸に入ったことは無いし、父と会話なんてしたことはない。
もちろんそれを寂しいや悲しい、なんて思うことはない。むしろ好都合だと思っていた。なぜなら私には、やることがたくさんあって忙しかったから。
それなのに今さら私を呼ぶということは、おそらく王太子との婚約の件なのだろう。もしかしたら近いうちに、顔合わせをすることになるのかもしれない。……というより、それしか呼ばれる心当たりがないが。
父の執事に執務室まで案内してもらい、扉をノックをした。
「ダリアローズです」
「……入れ」
少し間があったものの、扉の向こうから声が聞こえてきた。私は指示通りに扉の中へと入る。
「失礼します。お呼びとのことで参りました」
部屋に入ると、執務机で何やら書類仕事をしている男がいた。四十代と思われる青髪のこの男がダリアローズの父親のようだ。
ゲームではダリアローズと、攻略対象である兄の幼少期エピソードで少し出てくるだけ。姿は出てこない。これまでも見ようと思えば見ることはできたけれど、はっきり言って興味がなかった。だからこうして目の前で姿を見るのは前世を含め初めてである。
髪の色はダリアローズの青よりも深い青。瞳の色は……と思ったところで、こちらに顔も向けずに話し始めたので分からなかった。
「一度だけしか言わないからよく聞け。明日お前は王太子殿下と婚約する。……ああ勘違いするな。王家はお前を望んでいるわけではない。お前しかちょうどいい令嬢が居ないから仕方なくだ」
実の娘に対してずいぶんとひどい言いようだ。これじゃゲームのダリアローズがひねくれてしまったのも無理はない。
「まぁそれでもお前を貰ってくれるんだ。感謝して誠心誠意尽くすように。明日着るドレスは執事に渡してある。貰って準備して待っていろ。以上だ」
「……分かりました。それでは失礼いたします」
話が終わったのならと、さっさと退散することにした。というよりも、これだけの用件なら手紙で連絡してくれてもよかったのでは?顔すら見たくないほど娘のことが嫌いなのなら、そうすればいいのに。時間の無駄だった。
それに部屋を出る前、ちらりと盗み見てみたけれど、父はいつの間にか顔を上げていて、眉間に皺を寄せていた。どうやら私の態度がお気に召さなかったようだが、そんなことは知ったこっちゃない。
そういえば父の瞳は灰色だった。ダリアローズの瞳の色は、母の色を受け継いだようだ。しかし最愛の妻との間に生まれた子どもを受け入れられないなんて、私には到底理解できない。きっと生涯相容れることはできないだろう。
まぁその父は明日何としてでも婚約させるつもりでいるようだが、私は婚約なんてするつもりはこれっぽっちもない。
この九年で私は力をつけた。その力を使う時が来たようだ。
「……私は決して、あなた達の思い通りにはならないわ」
私は明日、この手で自由を掴むんだ。
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