婚約が白紙になりました。あとは自由に生きていきます~攻略対象たちの様子が何やらおかしいですが、悪役令嬢には無関係です~

Na20

文字の大きさ
7 / 72

7

しおりを挟む

 雲一つない青い空。私は今、大きな門の前に立っている。
 今日は学園の入学式。
 眩しいほどの青色が、新たな始まりを歓迎しているようだ。


 ――ブランディール学園


 カラフリア王国王都にある、屈指の名門校だ。
 貴族なら誰でも入れるわけではなく、入学するには入学試験をパスしなければならない。在籍する学園生は、教育の差から圧倒的に貴族が多いが、平民にも門戸を開いている。
 貴族も平民も入学を夢見て、毎年試験を受ける者があとを絶たない。なぜならブランディール学園卒業は、一つのステータスだから。

 クラスは騎士科、魔法科、経営科、普通科の四つに分かれてて、好きなクラスを自分で選ぶことができる。
 騎士科は騎士を目指す者、魔法科は魔法士や治癒士を目指す者が多く在籍するクラスだ。平民の学園生は、この二つのクラスのどちらかを選択している。
 逆に経営科と普通科の二つのクラスには、貴族子女しか在籍していない。経営科は領地を継ぐ者の為のクラスであり、普通科はとりあえず卒業することを目的としている者が選ぶクラスである。


 では私はどのクラスを選ぶべきか。
 入学するからには必ず選ばなくてはいけないが、剣も魔法も改めて学ぶ必要はない。それに領地を継ぐ予定はないし、貴族が多いのもなんかめんどくさそうだし……などなど、色々悩んだ結果、最終的に選んだのは魔法科。
 特にこうなりたいとかがあるわけではない。ただ魔法が好き。それが選んだ理由だ。

 ちなみにこの世界の人間は、多かれ少なかれ皆が魔力を持っている。血筋の影響なのか、魔力の多い者はほとんどが貴族ばかりだが、平民でも魔力の多い者はいる。
 魔力の多い者は魔法士や治癒士など、将来の選択の幅が広げることができ、魔力の少ない者は、火を起こしたり水を出したり程度しかできないというのが一般的な見解だ。
 しかし私から言わせてもらえば、魔法は魔力の多い少ないよりも、想像力の方が重要だ。

 魔力の少なさを、想像力でカバーする。

 こんな考えは、この世界の人には思いもつかないらしく、魔力が少ないからと自ら将来を狭めてしまうのはもったい……まぁそもそもの話、そう思えるのは、私に前世の記憶があるからなのだが。



 門をくぐり、入学式の会場へと向かう。もちろん歩いてだ。頬にあたる風が心地よい。


『あの方がブルー家の……』

『綺麗……』


 長く伸びた青の髪を揺らし歩いていると、ヒソヒソと話す声が聞こえてくる。それにあちこちから視線も感じた。


 (こればっかりは仕方ないか)


 初めてブルー家の娘が表に出てきたのだ。みんな気になって仕方ないのだろう。それにこの美しい見た目だ。目立つなという方が無理な話なのである。

 会場に着くと、すでにたくさんの新入生がいた。入り口に張り出されていた座席表を見ると、どうやら席はクラスごとに分かれているようだ。


 (私の席は……あそこね)


 指定された席に座る。先ほどの張り紙を見るに、新入生は五十名くらい。三学年あるから、単純に考えればこの学園には百五十名近く在籍していることになる。


 (せっかく学園に通うんだもん。友達できるといいなぁ)


「続きまして新入生代表挨拶――」


 そんなことを考えているといつの間にか入学式が始まっていたようだ。次は新入生代表挨拶か。


「王太子殿下よ」
「まぁ……」
「今日も素敵ね」


 (新入生代表は王太子なのね)


 王太子は『ハナキミ』のメインヒーロー。当然と言えば当然か。
 壇上に上がった王太子を見つめる多くの女子からは、うっとりとした声が聞こえてきた。たしかにメインヒーローなだけあって、見た目は極上だ。
 王家の色である黒い髪に黒い瞳、格好いいというよりは美しいという言葉がぴったりの容姿をしている。さらに背も高く、女子がうっとりするのも理解できる。私には無しだが。

 挨拶を終えた王太子が壇上から降りてくる。その様子を眺めていた私だったが、やはりこの見た目が目立つのか、王太子がこちらに視線を向けた。


 (あ、今……)


 王太子と目が合った。あちらもあっ、と思ったのだろう。
 ついこの間までは見下していた相手が、急に気を遣わなくてはいけない相手になってしまったのだ。一瞬気まずそうな表情をしたものの、すぐに表情を戻し、席に戻っていく。その姿にうっかり笑ってしまいそうだった。

 王太子からしても、望んでいない婚約が回避できたのだ。私は今後、王太子や他の攻略対象、そしてヒロインに近づくつもりはさらさらない。だからぜひとも私のことは気にせず、ヒロインとの真実の愛を育くんでいってほしい。




 ……しかしいくら私がチートだとしても、すべてが思い通りになるわけではない。
 この時の私はすっかり忘れていたのだ。

 ヒロインはを目指しているということを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜

平山和人
恋愛
公爵令嬢エルナは、熱烈に追いかけていた第一王子シオンに冷たくあしらわれ、挙句の果てに「婚約者候補の中で、お前が一番あり得ない」と吐き捨てられた衝撃で前世の記憶を取り戻す。 そこは乙女ゲームの世界で、エルナは婚約者選別会でヒロインに嫌がらせをした末に処刑される悪役令嬢だった。 「死ぬのも王子も、もう真っ平ご免です!」 エルナは即座に婚約者候補を辞退。目立たぬよう、地味な領地でひっそり暮らす準備を始める。しかし、今までエルナを蔑んでいたはずのシオンが、なぜか彼女を執拗に追い回し始め……? 「逃げられると思うなよ。お前を俺の隣以外に置くつもりはない」 「いや、記憶にあるキャラ変が激しすぎませんか!?」

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました

黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。 古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。 一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。 追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。 愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。 レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。 冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

処理中です...