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しおりを挟む「あの頃の私は両親が亡くなり、兄たちに裏切られ落ち込んでいました。それになんて私は無力なんだろうって……」
「アンナ……」
「でもダリア様の言葉を聞いて、落ち込んでる場合じゃないって思ったんです!」
ん?私の言葉って何?
そんなどん底まで落ち込んでいる少女を、元気づけられるほどの言葉なんて言った記憶はないのだけど……
「……ねぇ、私何て言ったの?」
「えっ、忘れてしまったのですか……?」
アンナが悲しげな顔をする。どうやらその言葉とやらは、アンナにとって大切なものらしい。
これは間違っても覚えていないなんて言えやしない。
「わ、忘れるわけないじゃない!ただアンナの口から聞いてみたいなって」
「なるほど、そうでしたか!……ふふ、なんだか少し照れ臭いですが、ダリア様は落ち込んでいる私にこうおっしゃってくれたんです。『それじゃあ一緒に商会を立ち上げよう』って!」
「……え」
「あの時すごく嬉しかったんです!……ああ、今思い出してもあの時のダリア様は目がキラキラしていて、それはそれは眩しいくらい素敵で……」
「……」
言った。たしかに言った。
でもその言葉は落ち込んでいるアンナを元気づけるために言ったわけではない。
ただ自分自身のために言った言葉なのだ。
あの時、アンナの身の上話を聞いた私はこう思った。
これは商売を始めるチャンスだと。
前世の記憶を思い出してから数年が経ち、お金もずいぶんと貯まっていた。
だからそろそろ挑戦してみようかと思っていたところにこの出会い。これを運命と言わずになんと言うのか。
おそらくあの時の私は興奮していたんだと思う。
だから落ち込むアンナにあんな言葉を……まぁ結果オーライだったようだけど、あの時の私はぜひとも反省してほしい。
……とまぁなんやかんやで立ち上げたのがローズ商会だ。
会長は私だが、実務的なトップはアンナだ。
さすが大商会の後継者に指名されていただけあって、アンナの手腕は素晴らしかった。
そのおかげで立ち上げからたったの三年で、ローズ商会は王室御用達にまで成長することができたのだ。
現在も私の知識とアンナの経営手腕で、ローズ商会は成長を続けている。
「そういえばまだお兄さんたちから連絡は来るの?」
「あ……はい。以前よりは減りましたが時々手紙が届いています」
ちなみにアンナから後継者の座を奪った兄たちは、共同で商会を継いだものの経営がうまく行かず、数年で商会を潰したという。
そしてアンナを裏切ったことなど忘れ、厚かましくも家族なんだから助けろと手紙を送ってくるそうだ。
ただこれはあくまでもアンナと兄たちの問題。アンナが望まない限り、無関係な私がしゃしゃり出るつもりはない。
「まぁ自業自得よね」
「はい。両親には申し訳なく思いますが、あの人たちはもう赤の他人です。助けろと言われても、助けたいとはこれっぽっちも思いません。そもそもそんなことに時間を割くくらいなら仕事をした方が百万倍有意義です!」
「ふふっ、アンナは随分強くなったわね」
あの頃の悲しみを背負った少女は、もうどこにもいない。
「そ、そうでしょうか?」
「ええ、見違えるほどにね。でも困ったことがあったらいつでも相談してね」
「ありがとうございます」
あ、そうだ。
相談と言えば、ディランとマーサが最近アンナは働きすぎだって心配していたわね。
きっとアンナのことだ。与えられた休みの日でさえも大好きな仕事をしていたいのだろう。
でもそれではダメだ。
ローズ商会は超ホワイト企業。
理由のない残業や休日出勤は認められない。
「そういえばアンナ。ディランとマーサが心配していたんだけど、あなたちゃんと休んでるのかしら?」
「えっ!……も、もちろんです!」
そう言うアンナの目は激しく泳いでいる。これは黒だな。
学園に行くまでは私が口酸っぱく休むように言ってたけど、いなくなった途端これだ。
ここはちょっと厳しく言わないとね。
「……アンナ。あなた商売に関する交渉は得意だけど、嘘をつくのは下手ね」
「あ、えっと、その……」
「いい?仕事を頑張るのはいいことだけど、ちゃんと休みは取るようにしてちょうだい。アンナが休まないとみんなが休みにくくなるの。分かった?」
「ど、努力します……」
「必ず、ね?」
「……うぅ、分かりましたぁ」
よし。言質はとったぞ。
あとは本人の気持ちか……うん、それならこれでどうだ!
「休むことで仕事の効率も上がるし、いつもと違う状況なら何か新しい発想が生まれたりするかもしれないでしょう?だから前向きに捉えてくれると嬉しいのだけど……」
前世の世界では当たり前の考えだけど、この世界ではそんな考えは存在しない。
『休む=給料がもらえない』
これが全てだ。
まぁアンナは特殊だけど、みんなにはぜひとも休むことの大切さを知ってほしいと思う。
「……さすがです」
(おっ?これは響いたかな?)
それならよかった、そう思ったけれど……
「さすがダリア様です!」
「え?」
「なるほど……そうですよね!休むことも仕事のうちだなんて目から鱗です!そのような素晴らしい考えをお持ちだからこそ、ダリア様は数々の人気商品を生み出してきたのですね!」
「あ、うん……」
違います、前世の記憶のおかげです……なんて言えるわけもないのでここは頷いておこう。
ちょっと勘違いしてはいるようだけど、休む気になったのならそれでいい。
アンナはビジネスパートナーでもあり大切な家族。身体を大切にしてほしいものだ。
「……それなら街に出て情報収集を……いや、でも一人だと入りづらいお店もあるし、うーんどうしよう」
「それなら私と一緒に出掛けましょうよ」
「え!いいのですか!?」
「もちろんよ。次の休みはどうかしら?」
「わぁ!ダリア様とお出掛けできるなんて楽しみです!」
これで次もちゃんと休みをとってくれるだろう。私もアンナと出掛けるのは楽しみだ。
「それじゃあ約束」
「はい!」
そうしてアンナとのおしゃべりを楽しんだあと、ジークと手合わせをして、二度目の休日が終わったのだった。
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