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しおりを挟む「カレン。ちょっといいか?」
それはある日の昼下がり。剣の訓練を終えた私の元に父がやってきた。
「お父様、どうかされましたか?」
「実はな、お前に縁談が来た」
「え、縁談ですか!?」
「そうだ」
私は驚きのあまり剣を落としそうになった。
「わっ!……その話は本当ですか?」
「本当だ」
「う、嘘じゃないですよね?」
「ああ。嘘じゃない」
「ようやく私にも縁談が……!」
私、カレン・アイラスに縁談が舞い込んできたのは、十九年間生きてきて初めてのことであった。貴族令嬢は十八歳が結婚適齢期と言われている。たとえ結婚はまだでも、その年齢なら婚約者がいるのが普通なのだが、私には婚約者すらいなかった。
アイラス家は伯爵家だ。家には何も問題はない。それならば縁談の一つや二つあってもおかしくないと思うのだが、なぜか私にはなかった。家を継ぐ五つ下の弟には既に婚約者がいるというのにも関わらずだ。だが両親は娘に縁談が一つも来ないことに対してまったく焦る様子もない。両親が焦っていないのならと、私自身もあまり気にしていなかった。
しかし友人たちが結婚に向けて忙しくしている姿目の当たりにすることが増えてくると、さすがに焦りを感じるようになった。いくら剣の腕を磨いても女は騎士にはなれない。いずれは結婚しなくてはならない、という現実に気づいたのが十八歳の時だった。だが現実に気がついたからといって縁談が来るわけでもなく、私はあっという間に十九歳を迎えてしまう。
そんな時に突然やってきた縁談。この縁談は私にとって最初で最後の縁談になる可能性が高い。それならたとえ相手がどんな相手でも嫁ぐ覚悟はできている。
(デブでもハゲでも歳の離れたジジイでも!どんな相手だって構わないわ!)
「……それで、お父様。私の縁談のお相手はどなたなのですか?」
「ゴホン。カレン、喜べ!相手はなんと……」
「なんと……?」
「あの!」
「あの?」
「レイノ・ウィズバーテン君だ!」
全くもって想像していなかった名前。
レイノ・ウィズバーテン。
デブでもハゲでも歳の離れたジジイでもない。ウィズバーテン公爵家の美しき天才だ。
「…………嘘」
「嘘じゃないぞ!ははは、嬉しいだろう?お前はレイノ君のことが昔から好きだったもんな!」
「……はい?」
私は呆然とした。父は私がレイノ・ウィズバーテンを好きだと勘違いしている。一体どうしてそんな勘違いをしているのか。
「お前はいつも『レイノが!レイノが!』と言ってたもんな」
「そ、それは……!」
(たしかに!たしかに言っていたけれども!)
「まぁそう照れるな!」
「ち、違う!」
「ははは!」
父には私の反応がただの照れ隠しに見えているらしい。
「それにレイノ君とお前のことが好きなんだから二人は両想いってやつだな!よかったな!」
「…………は?」
「いやぁまさか―――」
父の一言に私の思考は停止した。父はまだ何か言っているようだが全く頭に入ってこない。
(これは一体どういうことなのよ……!)
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