本物の公爵令嬢

Na20

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「降りろ」


 馬車が停まり御者から降りるよう指示される。
 恐る恐る馬車から降りると、目の前には見たこともないほど大きな建物が。
 こんな大きな建物見たことがない。
 ここが公爵家……
 あまりの大きさに言葉を失ってしまう。


「さっさとついて来い」

「あっ、すみません」


 そう言って連れてこられたのは、屋敷の裏口。
 そこから中へ入ると、メイドが待ち構えていた。


「ここからは私が案内します」

「ああ、あとは頼んだ」


 それからはメイドのあとをついていく。
 その間に何人ものメイドにすれ違ったが、目の前を歩くメイドも含め、皆がきれいなお仕着せを着ている。
 その事実を目の当たりにして、私はなんだか恥ずかしくなった。
 公爵家の養子になるのだからと、一番きれいな服を選んで着てきたはずなのに、私が一番汚い。
 そしてやはりそれは、私の思い違いなどではなかった。


「嘘でしょう?この薄汚れた娘が?」


 案内された部屋に入るや否や告げられた現実。
 恥ずかしくて思わず俯いてしまう。


「はい。孤児院から連れてきた者です」

「……これが本物なの?」


 (本物?)


 派手に着飾った女性――ノスタルク公爵夫人の口から聞こえた小さな呟き。
 本物とは一体どういう意味なのだろうか。


「はぁ、仕方ないわ。旦那様がこの娘を養子にすると決めたのだから、最低限の教養は身に付けさせないと」

「えっ!僕はこんなやついらないよ!」

「ねぇ私の召し使いじゃないの?」


 公爵夫人に続き、息子のロバートと娘のリリアンが口を開く。
 その言葉には不快さが滲み出ている。

 ここまできてようやく理解することができた。
 本当の家族?
 そんなものは、私の期待が作り出した幻想にすぎないと。

 (どうして愚かにも期待してしまったのだろう)

 養子になれば、孤児の私でも貴族になれるとでも?
 いや、そんな日が一生訪れることはない。
 たとえ書類上は貴族であっても、本当の貴族だと認められることはない。
 孤児はどこまで行っても孤児のまま。

 別に貴族になりたかったわけじゃない。
 ただあの大切な約束を胸に、穏やかに暮らしていければそれでよかったのに。
 けれどもはやその願いが叶うことはないと理解してしまう。

 私はこれから、まったく歓迎されていないこの家で生きていくしかないのだ。

 こうして始まった新たな生活。
 それはひっそりと、そして確実に私の心に影を落としていった。

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