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「ふぅ……」
私は今学園の図書室に来ている。
何をしているかというと……特に何もしていない。
ではなぜ図書室に来たのかというと、今日は珍しく王太子殿下が学園に来ていないから。
いつもなら仕事を押し付けられるのだが、いないのであれば押し付けられることもない。
けれどそれを知ったのは、昼休みを少し過ぎてから。
リリアンが丁寧に教えに来てくれなければ、何もせず時間を無駄にするところだった。
『ネスト様は公務があるから、学園に来ていないのよ? ふふっ、婚約者なのにそんなことも知らないの?私だったら恥ずかしくて――』
このあともリリアンは何か言っていたが、私はそれどころではなかった。
学園に入学して初めてできた自由時間。
何をしようかと考えるので頭が一杯だった。
初めは昼食を食べようかと思ったが、やはりそれよりも休みたい。
どこか静かな場所をと探し求めてたどり着いたのが、ここというわけだ。
生徒たちは昼食を食べているからか、ここには誰もいない。
「……」
それにしても静かだ。
椅子に座り目を閉じるが、静かすぎてなんだか落ち着かない。
どうしたものかと悩んだが、せっかくだからと図書室内を歩くことにした。
屋敷と城の図書室しか知らないが、学園の図書室も負けていない。
壁一面に本が仕舞われており、その光景は圧巻だ。
できれば本でも読もうかとも考えたが、いかんせんあまり時間はない。
そう残念に思っていると、ふと一冊の本が目につく。
目の前のその本だけが、本棚から飛び出していた。
どうしてこれだけがと不思議に思ったが、これも何かの縁だと、その本を手に取る。
【ランカの軌跡】
どうやらランカ帝国の歴史書のようだ。
「……そういえば留学生が来るって話していたわね」
本を見て思い出したが、近々この学園にランカ帝国からの留学生が来るらしいと、生徒たちが騒いでいた。
きっと留学生の噂を聞いた生徒が、帝国について調べようとこの本を手に取ったのだろう。
そして読んだはいいが、最後にきちんと仕舞わなかったせいで、この本だけが飛び出していた。
それなら辻褄が合う。
そう一人納得しながら本をパラパラとめくる。
「留学生か……」
そもそも噂の留学生は、なぜこんな小さな国に留学することに決めたのだろうか。
ランカ帝国といえば、大陸一強大で豊かな国。
ここメノス王国から遠く離れているが、その影響力は非常に大きい。
なぜならメノス王国は、主食となる小麦のほとんどを、ランカ帝国からの輸入に頼っているからだ。
今のところ両国は友好な関係を築いているが、もしその友好に亀裂が入れば、この国は飢え死にする人で溢れ返る。
そうなれば国の存亡にも関わってくるだろう。
だから不思議なのだ。
圧倒的優位な立場であるランカ帝国の人間が、わざわざメノス王国に留学してくる意味があるのかと。
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