婚約破棄は決定事項です

Na20

文字の大きさ
33 / 43

33

しおりを挟む

 私が婚約破棄を宣言すると会場中が静まり返った。
 このパーティーに参加しているのは全員が貴族だ。いくらシェザート殿下の言い分がめちゃくちゃであろうとも、貴族である私が王族であるシェザート殿下に逆らうことなどできないと思っていただろう。だからどんなに理不尽でも私が側妃に甘んじるのではと、この場にいる全員が考えていたはずだ。しかし私が堂々と婚約破棄を申し出たことで戸惑っているのだ。その中にはシェザート殿下も含まれていたが、さすがと言うべきかこういう時だけは頭の回転が早いようで、すぐに立て直してきた。


「ハッ!いきなりおかしなことを言うから惑わされるところだった!婚約破棄だと?お前が王太子である俺に婚約破棄などできるわけないだろう!そんなことも知らないとはお前は馬鹿だな!」


 馬鹿に馬鹿呼ばわりされるのは腹立たしいが、重要なのはそこではないとグッと我慢する。


「目下の者から婚約破棄を申し出ることができないのは貴族の間では暗黙の了解ですもの。当然知っていますわ」

「は?知っているのにお前が俺に婚約破棄だと?ふざけるな!」


 気に入らないことがあればすぐに激昂する癖は相変わらずだ。王妃に甘やかされて育った弊害だろう。このままシェザート殿下が国王になったら国は終わるかもしれない。その問題もどうにかしなければならないが、まずは自分の婚約破棄が先だ。


「ふざけてなどいません。私には婚約破棄を申し出るだけの理由が……」

「これはなんの騒ぎだ?」


 このタイミングでパーティー会場にやってきたのは国王と王妃だった。


 (パーティーは卒業生が主役なのをこの人たちはわかって……いないわよね)


 このパーティーは王家主催ではなく学園主催である。招待客である国王と王妃が遅れて会場に来るなど、自分たちが主役だと勘違いしていそうだ。


「シェザート、どうしたの?」

「父上!母上!聞いてください!あの女に俺に謝罪さえすれば側妃にしてやると言ったのに、婚約破棄すると騒ぎだしたんです!王太子であるこの俺に向かって!」

「なんだと?」

「なんですって?」


 国王と王妃の視線が私に向けられた。


「ルーシェント公爵令嬢。一体どういうことだ?そなたから婚約破棄を申し出るなど不敬にも程があるぞ」

「そうよ!どんな理由があって婚約破棄などと愚かなことを言うのかしら?」


 二人の反応からシェザート殿下が私を側妃にすると言ったことに対しては、何とも思っていないように感じた。


 (側妃にするって言った時点で、十分に婚約破棄ものだと思うけど)


 国王は私が王妃になろうが側妃になろうが公爵家からの持参金が手に入るし、王妃はシェザート殿下が望むのならそれでいいと思っていそうだ。


「理由、ですか……」

「お前はただ側妃になるのが気に入らないだけだろう?それ以外の理由なんてあるはず」

「王太子殿下から婚約者とは認めないと言われたこと」

「っ!」


 私はシェザート殿下に視線を向け、ゆっくりと理由を挙げ始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ

ゆっこ
恋愛
 その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。 「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」  声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。  いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。  けれど――。 (……ふふ。そう来ましたのね)  私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。  大広間の視線が一斉に私へと向けられる。  王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

あなたの思い通りにはならない

木蓮
恋愛
自分を憎む婚約者との婚約解消を望んでいるシンシアは、婚約者が彼が理想とする女性像を形にしたような男爵令嬢と惹かれあっていることを知り2人の仲を応援する。 しかし、男爵令嬢を愛しながらもシンシアに執着する身勝手な婚約者に我慢の限界をむかえ、彼を切り捨てることにした。 *後半のざまあ部分に匂わせ程度に薬物を使って人を陥れる描写があります。苦手な方はご注意ください。

お子ちゃま王子様と婚約破棄をしたらその後出会いに恵まれました

さこの
恋愛
   私の婚約者は一つ歳下の王子様。私は伯爵家の娘で資産家の娘です。  学園卒業後は私の家に婿入りすると決まっている。第三王子殿下と言うこともあり甘やかされて育って来て、子供の様に我儘。 婚約者というより歳の離れた弟(出来の悪い)みたい……  この国は実力主義社会なので、我儘王子様は婿入りが一番楽なはずなんだけど……    私は口うるさい?   好きな人ができた?  ……婚約破棄承りました。  全二十四話の、五万字ちょっとの執筆済みになります。完結まで毎日更新します( .ˬ.)"

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

飽きたと捨てられましたので

編端みどり
恋愛
飽きたから義理の妹と婚約者をチェンジしようと結婚式の前日に言われた。 計画通りだと、ルリィは内心ほくそ笑んだ。 横暴な婚約者と、居候なのに我が物顔で振る舞う父の愛人と、わがままな妹、仕事のフリをして遊び回る父。ルリィは偽物の家族を捨てることにした。 ※7000文字前後、全5話のショートショートです。 ※2024.8.29誤字報告頂きました。訂正しました。報告不要との事ですので承認はしていませんが、本当に助かりました。ありがとうございます。

婚約破棄した相手が付き纏ってきます。

沙耶
恋愛
「どうして分かってくれないのですか…」 最近婚約者に恋人がいるとよくない噂がたっており、気をつけてほしいと注意したガーネット。しかし婚約者のアベールは 「友人と仲良くするのが何が悪い! いちいち口うるさいお前とはやっていけない!婚約破棄だ!」 「わかりました」 「え…」 スッと婚約破棄の書類を出してきたガーネット。 アベールは自分が言った手前断れる雰囲気ではなくサインしてしまった。 勢いでガーネットと婚約破棄してしまったアベール。 本当は、愛していたのに…

真実の愛とやらの結末を見せてほしい~婚約破棄された私は、愚か者たちの行く末を観察する~

キョウキョウ
恋愛
私は、イステリッジ家のエルミリア。ある日、貴族の集まる公の場で婚約を破棄された。 真実の愛とやらが存在すると言い出して、その相手は私ではないと告げる王太子。冗談なんかではなく、本気の目で。 他にも婚約を破棄する理由があると言い出して、王太子が愛している男爵令嬢をいじめたという罪を私に着せようとしてきた。そんなこと、していないのに。冤罪である。 聞くに堪えないような侮辱を受けた私は、それを理由に実家であるイステリッジ公爵家と一緒に王家を見限ることにしました。 その後、何の関係もなくなった王太子から私の元に沢山の手紙が送られてきました。しつこく、何度も。でも私は、愚かな王子と関わり合いになりたくありません。でも、興味はあります。真実の愛とやらは、どんなものなのか。 今後は遠く離れた別の国から、彼らの様子と行く末を眺めて楽しもうと思います。 そちらがどれだけ困ろうが、知ったことではありません。運命のお相手だという女性と存分に仲良くして、真実の愛の結末を、ぜひ私に見せてほしい。 ※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開は、ほぼ変わりません。加筆修正して、新たに連載します。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...