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しおりを挟む私が婚約破棄を宣言すると会場中が静まり返った。
このパーティーに参加しているのは全員が貴族だ。いくらシェザート殿下の言い分がめちゃくちゃであろうとも、貴族である私が王族であるシェザート殿下に逆らうことなどできないと思っていただろう。だからどんなに理不尽でも私が側妃に甘んじるのではと、この場にいる全員が考えていたはずだ。しかし私が堂々と婚約破棄を申し出たことで戸惑っているのだ。その中にはシェザート殿下も含まれていたが、さすがと言うべきかこういう時だけは頭の回転が早いようで、すぐに立て直してきた。
「ハッ!いきなりおかしなことを言うから惑わされるところだった!婚約破棄だと?お前が王太子である俺に婚約破棄などできるわけないだろう!そんなことも知らないとはお前は馬鹿だな!」
馬鹿に馬鹿呼ばわりされるのは腹立たしいが、重要なのはそこではないとグッと我慢する。
「目下の者から婚約破棄を申し出ることができないのは貴族の間では暗黙の了解ですもの。当然知っていますわ」
「は?知っているのにお前が俺に婚約破棄だと?ふざけるな!」
気に入らないことがあればすぐに激昂する癖は相変わらずだ。王妃に甘やかされて育った弊害だろう。このままシェザート殿下が国王になったら国は終わるかもしれない。その問題もどうにかしなければならないが、まずは自分の婚約破棄が先だ。
「ふざけてなどいません。私には婚約破棄を申し出るだけの理由が……」
「これはなんの騒ぎだ?」
このタイミングでパーティー会場にやってきたのは国王と王妃だった。
(パーティーは卒業生が主役なのをこの人たちはわかって……いないわよね)
このパーティーは王家主催ではなく学園主催である。招待客である国王と王妃が遅れて会場に来るなど、自分たちが主役だと勘違いしていそうだ。
「シェザート、どうしたの?」
「父上!母上!聞いてください!あの女に俺に謝罪さえすれば側妃にしてやると言ったのに、婚約破棄すると騒ぎだしたんです!王太子であるこの俺に向かって!」
「なんだと?」
「なんですって?」
国王と王妃の視線が私に向けられた。
「ルーシェント公爵令嬢。一体どういうことだ?そなたから婚約破棄を申し出るなど不敬にも程があるぞ」
「そうよ!どんな理由があって婚約破棄などと愚かなことを言うのかしら?」
二人の反応からシェザート殿下が私を側妃にすると言ったことに対しては、何とも思っていないように感じた。
(側妃にするって言った時点で、十分に婚約破棄ものだと思うけど)
国王は私が王妃になろうが側妃になろうが公爵家からの持参金が手に入るし、王妃はシェザート殿下が望むのならそれでいいと思っていそうだ。
「理由、ですか……」
「お前はただ側妃になるのが気に入らないだけだろう?それ以外の理由なんてあるはず」
「王太子殿下から婚約者とは認めないと言われたこと」
「っ!」
私はシェザート殿下に視線を向け、ゆっくりと理由を挙げ始めた。
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