伯爵令嬢シェリア・ハジェットの夢~はじうま令嬢は、舞台の上で輝きたい~

Na20

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「……その」

「ん?」

「王太子殿下の事情は理解しました。ですが先ほど利害が一致したとおっしゃってましたよね?一体私には何の利益があるのでしょうか」


 王太子殿下に利益があることは分かった。
 でも私には?
 引き受けるしか選択肢はないけど、それならばせめて利益は明確にしてもらわないと……


「あれ?さっき言ったよね?」

「え?」


 さっき言ったって……


「君は私の恋人役だ。だから私に恋をしている演技をしなくてはならない。でもね、それは私も同じさ」

「!そ、それって……」

「そうだよ。君は演技力を磨くために私を利用すればいい。悪い話じゃないと思うんだけど……」


 嘘……さっきの言葉は本気だったの!?てっきり冗談だと思っていたのに……
 まさか私が得られる利益が、練習相手恋人役だなんて!

 喉から出るほど欲しい。でも相手は王太子殿下だしさすがに……いや、でも?
 いくら命令だとしても、これは歴とした契約になるんだよね?
 それなら双方に利益があって然るべき……だよね?


「どうかな?」


 うっ……そんな美しい顔で微笑むのは反則でしょ!
 この人絶対分かっててやってる。どんな表情をすれば人の心を揺さぶれるのかってね。


「……王太子殿下は役者に向いてますね」

「そうかな?まぁ生まれた頃から身近にそういう人がいたからかもね」


 生まれた頃から?
 それって幼い頃から多くの観劇に触れていたってこと?
 羨ましい。
 こちとら幼い頃から資金管理で忙しかったし、王家からのお達しのせいで自由に過ごせなかったっていうのに……いや、違うか。
 これはただの嫉妬だ。才能の塊である王太子殿下がただうらやましいだけ……うん、やめよう。
 そんなこと考えるだけ無駄だ。いくら考えたって、私は私でしかない。
 生まれ持った才能を羨んでいる暇があるなら、その時間も努力しないと。
 そうじゃなければ、国一番の役者になるなんて到底無理な話だ。

 たしかに王太子殿下の話にはメリットがある。
 でも当然デメリットもあるわけで。
 正式な婚約者が発表されたら、私は王太子殿下に捨てられた哀れな女となる。
 そうなれば今後確実に良縁は望めないだろう。

 それに安全面。果たして私の身の安全はどの程度保証されるのか。
 王太子殿下の恋人役となれば、私は多くの女性から目の敵にされることは間違いない。
 陰口を言われるくらいならどうってことはないが、痛かったり苦しかったりするのは嫌だ。
 ただ王太子殿下がその辺りをどう考えているかまでは分からない。
 殿下からしてみれば、私はちょうどいいタイミングに現れた都合のいい女。
 ただれだけのこと。
 きっとそのあとのことなんて気にもしていない。
 だから最終的に私が得られる利益は少ないだろう。

 (……ただそれでも)

 どうせ婚約解消した身だ。元より良縁なんて望めない。
 それに私は役者として身を立てることを望んでいる。それなら結婚しない方が好都合。
 だから哀れな女になろうとも構わない。


「……分かりました」

「!」

「そのお話、お受けします」


 それよりも今私が一番望んでいるのは、演技力の向上。
 それなら王太子殿下であろうと利用できるものは利用しないと。


「よかった。じゃあ早速詳しい打ち合わせなんだけど……あーそろそろ休み時間も終わりそうだからまた明日にしようか」

「えっ、もうそんな時間……!」


 ここは学舎から遠い。急がなければ授業に遅れてしまう。


「あ、明日ですね!分かりました!それでは失礼します!」

「それじゃあ明日の放課後またここでね。……シェリア嬢」

「え」


 やっぱり私の名前……


「ほら、急がないと授業に遅れちゃうよ?」

「はっ!し、失礼します!」


 そのあとなんとか授業には間に合ったものの、名前のことで頭が一杯で、内容はまったく入ってこなかった。


 ◇


「つ、疲れた……」


 学園から帰ってきてすぐ、ベッドに倒れこんだ私。
 え?はしたないって?そんなの分かってる。
 でも今日はあまりにも精神的負担が多すぎた。


「はぁ……これでよかったのかな……」


 てっきり私のことなんて知らないと思ってたのに、本当は知っていて声をかけたの?
 そんな素振りはなかったのに……それすらも演技だったり?もしかして私、早まっちゃったり?


「……ううん。もう考えるのはやめよう」


 やると決めたのだから、今さら悩んだってもうどうにもならない。
 それなら少しでもいい結果に繋がるよう、努力するしかないのだ。


 ――パチン


「……よしっ!がんばれ私」


 頬を叩き気合いを入れる。
 まずは明日。話はそれからだ。

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