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学年は同じだけど、彼女とはこれまで特に接点はなく、遠くから姿を見かけたことがある程度。
ルース様の件はあったけど、私にとっては悪女と呼ばれる彼女はある意味救世主で。
だから私は彼女に恨みを抱いていないし、むしろ感謝しているくらいだ。
そして今、そんな人が目の前で泣いている……余計なお世話だと言われるかもしれない。
それでも泣いている人を放ってはおけない。
それにあの涙は本物だ。決して演技ではない。
彼女に言いたいこともあるし……よし。
「あの、大丈夫?」
「っ!」
わっ。近くで見るのは初めてだけど、本当に綺麗な子だ。
たしかにこんな綺麗な子から好意を寄せられたら、気持ちが靡いてしまうのは分からなくもない。
まぁ彼女は自分の美貌を分かって、わざとやっているんだろうけど。
「な、何?……ってあなた」
おお。一瞬で涙を隠したよ。すごい。
目が少し赤いから泣いてたのは間違いないけど、こんな自然に隠せるなんて……。
彼女は演技しなれている?
「あっ、ごめんなさい。急に話しかけて驚かせちゃったわね」
「……あなたも私に文句でも言いに来たの?」
「え?違うけど」
「えっ……嘘よ。だって私はあなたの婚約者を奪ったのよ」
違うとハッキリ言ったけれど、信じてもらえなかったようだ。
「私はただあなたが泣いていたから気になって声をかけただけよ」
「っ!……だから?悪女が泣いていたって馬鹿にでもするつもり?」
なんだか警戒しているみたい。
彼女が悪女?むしろ威勢をはった子猫のように見える。
「馬鹿にするつもりはないわ。むしろ私はあなたに感謝しているの」
「は?感謝ですって?何をふざけたことを言って」
「私はずっと婚約解消したいと願っていたの。そうしたらその願いをあなたが叶えてくれた。だからね……」
「ちょ、ちょっと何」
彼女の手を握り、目を見る。そして……
「本当にありがとう。あなたのおかげで毎日が輝いているわ」
彼女のしたことはたしかに褒められることではない。
彼女にも何か事情があったのかもしれないが、たくさんの人が傷ついたのも事実。
でもそれは他人の話であって私の話ではない。
私がこうして毎日夢に向かって進んでいけるのは、間違いなく彼女のおかげ。
「~~っ!」
「中にはこういう人間もいるからあまり思い詰めないでね。……まぁ私なんかに言われても嬉しくないだろうけど」
きっと彼女だって、私がはじうま令嬢って呼ばれているのは知っているだろうし。
そんな私がいつか国一番の役者になったら、彼女も驚くかな?
ふふっ、きっと彼女は驚いた顔も美しいだろうね。
涙の理由は聞かない。
親しい間柄でもないし、私はそう思っていなくても、周りから見れば被害者と加害者だしね。
でも実際に話してみたら、彼女は本当にみんなが言うような悪女には見えなかった。
まるで自分を守るために必死な……。
なんだか以前の自分と重なって見える。
だからかな。何かしてあげたいと思うのは。
……そうだ。あの言葉を贈ろう。
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この言葉が少しでも彼女に届きますように。
「『明けない夜はないわ』」
「!」
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「あなた……」
「それじゃあ私は行くわね」
これからは人様の恋路を邪魔なんてしていないで、自分の道を進んでいって欲しいものだ。
「あ、ちょっと……!今のって……」
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