77 / 176
二章 異世界ライフ

72話 この女騎士、途轍もなくヤバいかもしれん

しおりを挟む
 朝陽がしっかりと昇った時。
 旅館の一室にて。
 外で優雅に暮らす小鳥の囀りと太陽の心地よい光が、俺を目覚めさせた。

 「んー……最高の気分だよっ!」

 背伸びしつつ、大きな独り言を溢す。
 こんなにも快眠できたのはいつぶりだろうか。体が重いという感覚が全くない。
 ベッドから窓の向こう側に広がる雄大な森林をしばらく眺め、そろそろ起き上がろうとした時、ふと膝に柔らかいけど絶妙に固い物体が当たった。何なのか確かめてみようと、横を振り向く。
 サラサラとした黄金の清楚な髪。
 端正な顔立ち。
 シャツ一枚と下着だけを纏い、可愛らしい寝息を立てながらぐっすりと眠る女。
 その方はまさしく、いつも世話を掛けているレベッカ本人だった。

 「え、何でここに居るの? ってか臭っ! 何だよこれ」

 不快感を覚える香り――――酒だ。うん、酒臭いのだ。
 見た目は美女なのに中身は中年のオッサンのようだと思っていると、突然寝息が停止し、彼女の瞼がゆっくりと上へ開いていった。

 「んふぅ……お酒は……」

 この人、女の子らしい声で厳つい事言いやがった。
 というか今気付いたが、俺も何だかアルコール臭い気がする。
 意識がある程度覚醒したのか、レベッカが拙い速度で首をこちらに回す。

 「お、おはようございます……あっはっは」

 いつもと雰囲気が違い過ぎるためか、変な口調の挨拶が出てしまった。
 挨拶の数秒後、向こうから返事が。

 「んん……セルゲイ君ですか、おはようございます……」

 勝手に下がる瞼をゴシゴシと擦りながら、気だるげな声で答えるレベッカ。

 「んむー? あれれ」

 新たな事実がもう一つ。
 自分の姿を何となく見てみると、パンツ一枚ではないか。
 で、相手の美人さんも際どい格好をしていると。
 ……この状況、かなり、相当、非常に危ない。

 「あ、改めておはよう……その、うん、やっぱりスタイルとか顔とかいいな」

 相手に送る適切な言葉が思い付かず、下心丸出しな発言をしてしまった。セクハラ認定をされるかもしれない。

 「スタイル……? 体に何か……」

 未だ眠気が残ったままの顔のレベッカが自分の格好を確認して、

 「え、これは……えぇぇぇぇええ!?」

 甲高いが少し興奮する悲鳴を叫んだ。
 レベッカが布団のシーツを自分の体に巻き付け、部屋の端へ退避する。戦闘時の頼れる騎士ではなく、完全にか弱い女性の顔だ。

 「昨日のお風呂といい、やっぱりセルゲイ君、私の体を狙って……!」

 潤んだ瞳で俺を睨み付けてくる。あまりに理不尽な発言である。

 「んな訳ないだろ! 俺も意味分からないよ! 第一、お前みたいな女に興奮するかよっ」
 「お、お前みたいな女って、どういう意味ですか!?」

 あ、やってしまった。決して本心からそう言った訳ではないが――――

 「おうっ!?」

 反論する前に、鞄やらクッションやらを投擲してきた。
 頭部を両腕でガードしながら、必死に弁明を試みる。

 「い、今のは冗談だ! し、信じてくれー!」

 情けない許しの声を上げると、彼女による投擲攻撃が終焉を迎えた。

 「ご、ごめんなさい。騎士たる者がこのような行為を……そ、それはそうと、本当に冗談なんですよね?」
 「あ、ああ、そうさ。いつも世話になってる人を嫌いになる訳ないよ」
 「で、ですよね! 私ったら……」

 あはは、と2人で笑い合ってみるが、すぐに気まずい雰囲気が漂う。
 俺達は目を合わせて、

 「まずは……」
 「格好、ですね」

 衣服を着ると約束を交わした。
 何十分か経過し、俺達はベッドの上に横に並んで座った。

 「で、何でこんな事になったんだか……」

 さっきのあれは誰がどう見ても、ただの同衾と答えるだろう。

 「……セルゲイ君、昨日の夜、覚えていますか?」

 そういえば、昨夜の記憶が風呂でのトラブルから途絶えている。

 「いや、全然」
 「私も今思い出したのですが、お風呂の後、2人でお酒を飲みました。それもいっぱいです」
 「……そうなのか」

 俺は未成年だが飲んでも大丈夫なのだろうか……。法も健康も色々と不安だ。まあ、少なくとも前者の法律に関しては問題ないだろう。ここには警察もスペツナズも居ない訳だし。

 「お酒、美味しかったですね」

 レベッカは明るい笑顔でそう言うが、

 「俺はそんなの覚えてないよ……」

 昨日の晩酌なんてすっかり忘れているので答えようがなかった。

 「ところでさ……レベッカって何歳? 酒飲んでも大丈夫なのか?」
 「はい、この国では18歳から成人で、お酒も煙草も全部可能ですね」

 ボスホートルーシではそういった大人の仕草は20歳からだった。

 「そして、私は19歳です。……あと数週間もすれば20歳ですが」

 肩を落とし、少し悲しそうに語る彼女。

 「何でそんなに落ち込むんだよ。あ、俺は16歳だよ」
 「若くて素晴らしいです……はあ」
 「いやいやそっちもだろ。第一、20歳なんかまだまだ始まったばかりだろ」
 「そうですけど……ああ、どんどんおばさんになっていく……このまま独身ババアで生涯を終えるのでしょうか」

 とても哀愁が漂っている。
 若者なのに、こんな事を呟いていたら本当に老化する速度が速くなるのでは、と思う。

 「仮にだ、もしレベッカが70、80のババアになっても俺はお前が好きだ。見た目がどんなに変貌しようとも、お前はお前しか居ないんだ」

 意図していなかったが、とんでもない発言を投下した。しかし後悔してももう遅い。

 「え、好きって……」

 顔の表面は微妙に紅潮させ、レベッカがモジモジし始めた。

 「あ、いや、と、友達として、さ。こ、これはボスホートルーシのジョークなんだ。洒落てるだろ? アッハッハッハ~」

 頭を掻きむしりながら、笑って誤魔化す。
 ……ここだけの話、友人以外に向ける好意も少しはあるが。それは一生の秘密に取っておこう。
 起きた時のあの姿を思い出し、彼女に質問を掛ける。

 「何であんな事になってたんだ?」
 「さあ、流石にそれは分かりません……考えられる可能性としては、その場のノリとかではないでしょうか?」
 「ノ、ノリ?」
 「実は私……」

 恥ずかしそうに、視線を交互させるレベッカ。俺に目を合わせようとしない。

 「……酔ってしまうと、服を脱いだり、脱がせたりする癖があるのです……」

 初めて知ったレベッカの特殊性癖に恐怖と驚愕、僅かな興奮を覚えたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...