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三章 異世界verの中東戦争

160話 一時撤退

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 匍匐で移動して少しでもサタンとの距離を稼ぐ。

 「どこに隠れたんだい?」

 とても柔軟で温かみが乗った声だが、その裏には狂気しかない。

 「まずは……止めないとな」

 撃たれた右肩の力がどんどん抜けていく感覚を覚える。
 俺は右利きだっていうのに、よりにもよって右に命中するとは。だが今はそんな些細な問題に怒りを湧かせる場合ではない。
 ナイフでズボンの布を数センチ切り取ると、包帯の代替として肩に巻き付けた。
 布はほんの数十秒で真っ赤に染まったが、これでも応急処置をやらないよりかはマシだ。

 「大丈夫……俺なら何とかできる」

 負傷した自分に応援の言葉を送るが、はっきりいって薬物摂取状態のサタンと真正面から対峙するのは分が悪すぎる。
 だから奴を鎮静化させるには死角に立ち回る必要がある。
 幸いにもここは工場だ。入り組んだ構造なので俺の運と努力次第では彼の背後に立てるだろう。だが――――

 「そこだね」

 音も立てていないのに何故か居場所が特定されてしまい、またもや凶弾に見舞われる。

 「何で分かった……!?」

 驚きつつも反撃しなければ死ぬと、発砲し返す。
 サタンは真っすぐ曲がる事なく歩いていたので弾は容易に当たった。しかし、血が数滴出ているだけで痛がる素振りはなかった。

 「通常の状態なら僕は間違いなく病院送りだ。でも薬物のおかげで痛くも痒くも何ともないんだ。それと、これは薬物の効果じゃなくて生まれつきの障害みたいなものなんだけど――――あ、そこか」

 鈍い銃声と共に弾が近くに着弾。

 「話を戻すけど、僕は常人の数十倍嗅覚がいいんだ」

 犬かよ。
 普通の人間より嗅覚が優れているとはいえ、これは既存の人類を卓越した能力だ。

 「だったらよサタン、こんなんやるより警察犬でもやったらいいんじゃねえのか?」

 冗談風味に返してやるが、俺はその間に奴から一時的に身を隠す方法を考えようと、必死に思考回路を張り巡らす。

 「警察犬? 誰かの駒になるのは嫌だね」

 ライフルの威圧的な銃口が向けられる。狙いは顔だ。
 サタンの銃撃の腕前は元から良いし、薬物の影響でさらにその精度は高まっている。そして俺は肩に銃創を負っているので、避けるのは難しい。
 どうやって回避するか、使えるものは何かないかと探している時、プレートキャリアから筒状のものが転がり落ちた。
 それを拾い上げると表面に黄色い文字で「SMOKE」――――つまり煙幕を発生させられる爆弾の名称が記されていた。
 奴から遠ざかるにはこれしかないとピンを引き抜き、床に転がす。
 スモークグレネードは順調に機能し、白の淀んだ煙を排出し始める。

 「ゴホッ! これは煙幕か!?」

 サタンは煙を吸ったようで咳き込んでいた。如何に麻薬の力が強大でも化学には負けるみたいだ。
 そういえば、サルマトと争った際にもスモークグレネードを利用して何とか逃げられた。その経験が活きたのだろうか。
 奴が煙幕に苦しめられている間に俺は奥にある倉庫へと逃げ込んだ。
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