妻が女神になりまして!?~異世界転移から始まる、なんちゃってスローライフ~

玉響なつめ

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おいでませ、異世界。

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 ヨシヤは蟻と共に神域に戻った。
 そう、無事契約できたあの蟻と共にである。

 といっても仲良く手に載せてとかそんな芸当ができるわけもなく、一定の距離を保った状態での帰参であった。
 
 それでも、無事に帰った夫の姿に安堵した様子のハナに出迎えられて、ようやく安心した。
 ヨシヤはその場に膝から崩れ落ちつつもなんとか笑みを浮かべて見せたのである。

「け、契約できたよぉぉ」

 声が震えていたのはしょうがない。
 怖かったし、苦手な虫を相手にしたのだし、ヨシヤはよく頑張った。
 それを理解しているハナも無言で夫をぎゅっと抱きしめる。

 しかし連れてこられた蟻は所在なさげに二人の周りをうろうろとして落ち着かない様子だ。当然だろう、いくら草木が生えていようと、生命を感じない世界に戸惑わないはずがない。
 今まで弱肉強食の中で暮らしていた蟻からしてみれば、天変地異が起きたようなものだ。

「さて、あなたの契約した虫ってどんな?」

「そこの蟻」

「え? どこ?」

「だから、そこの……あれ、どこいった」

 草むらに蟻である。
 正直、いくら彼らが過ごしていた世界の蟻よりサイズが大きいとは言え、一度見失うと見つけにくいのだ。
 カラーリングもちょっと紫みがかっていたとはいえ黒は黒なので、草の影に入ってしまうとさっぱりわからない。

「おおい、蟻!? どこいった!?」

 思わずヨシヤが大声を出しながら探そうとする瞬間、ハナが彼の手を掴んだ。
 強い力にぎょっとしたところで、妻の視線にヨシヤも自身の足下に向ければ、そこには蟻が大人しく両手(?)をあげているではないか。

 まるで幼子が抱っこを求めているかのようなそのポーズが、果たして蟻にとってどのような意味を持つのかはさっぱりわからないが、とりあえず踏まずに済んで、ヨシヤは心底ほっとした。

 契約したその日のうちに自分で踏み潰すとか、そんなのあり得なさ過ぎる。

「良かった……え、ええと、その蟻なんだけどね。フォレストアントっていう種類らしくて、……もしかしなくてもモンスターの部類?」

「まあ、ざっくりといえば……ちなみにこの世界でのモンスターと動物の区分けは魔力の有無なのよ」

「えっ、じゃあこの子も魔力を持っている……!?」

「ええ。えっと」

 ハナが軽く宙で手を振ると、どこからともなく本が出てきて勝手にページがめくられる。
 それに目を丸くするヨシヤをよそに、ハナはなにかを見つけたらしい。

「あった。『フォレストアントは比較的穏やかな性格の蟻で、群れで生活をする。木々の根元に巣を作る傾向にあって、その木に巣を作る蜂と共生関係になったりもする』らしいわ」

「蜂と共生ねえ……蜂に襲われてたけど」

「蜂と言ってもこの世界にもたくさん種類はいるから、蟻を狙う種類もいるんじゃないかしら……まあとにかく、フォレストアントは木を育てたりする土と水の魔力が強いそうよ」

「ちなみにその本はなんなの」

「これ? これはね、『初めての神様ガイドブック~この世界の情報を知ろう編~』よ」

 なんだそのガイドブック。
 そう喉元まで出てきた言葉をヨシヤは飲み込んだ。
 このままでは話が進まない、彼はそういうところはデキる男である。

 社長がよく朝礼で話題を脱線するのも、朝礼前に話す内容をメモしている時にニュースを見てちょっと気になることがあるとそれを調べて書き加えていくモノだからしっちゃかめっちゃかになるのだ。
 今もハナに問えばきっと丁寧に教えてくれるだろうが、それはまた今度でもいい内容に違いない。

 ヨシヤは別に優秀な社員ではなかったが、堅実に生きてきた男なのだ。

「とにかく、まずは契約おめでとう! じゃあヨシヤの眷属化をさせてあげなくっちゃね!!」

「お、おう?」

「女神として頑張るわ!!」

「……ほどほどに……」

 気合いを入れる妻をよそに、ヨシヤはちょっぴり心配だ。
 なんせ可愛い可愛い彼の妻は、なんと言ってもおっちょこちょいなのだ。

 張り切りすぎて失敗しないといいなあと若干ハラハラする気持ちを飲み込んで、彼は妻と蟻を見守る。

「汝、我が眷属ヨシヤと契約せしフォレストアント。我が眷属の者と共に歩み、彼の者に寄り添い、仕えることを誓うならば――新たなる加護を授けよう」

 蟻はヨシヤをちらっと見た。
 間違いなく、ちらっと見た。

 そして、ハナを見上げて先ほどのようにまるで抱っこをねだるかのようなポーズを見せたのだ。

「……え、ええと……それは了承でいいのよね……?」

「た、多分……?」

 フォレストアントが何かを決意し、その意思を示していることはわかるのだがいかんせん伝わらない。
 ヨシヤもなんとなくいやがってはいないんじゃないかなーくらいのニュアンスで受け取ったので、了承したのだろうとハナも頷いて続ける。

「コホン。よろしい、それではこれよりそなたをヨシヤの眷属として認め、私の加護を授けましょう」

 ハナの言葉を受けて、フォレストアントの体が輝き始める。
 それはもう眩しいほどの輝きで、慌ててヨシヤはハナに寄り添った。

「これで……これで、俺の眷属ってやつに……!?」

「そうよ! きっと意思疎通しやすい人型とかそんな感じに……!!」

 固唾を呑んで、フォレストアントの行く末を見守る二人。
 やがてゆっくりと光は収束を始め、その姿がはっきりと見え始める。

 そしてその姿を認めて手を取り合ってドキドキしていた夫婦は同時に呟いた。

「……あれぇ……?」

 なにせ、そこにいたのは――人型どころか、人間サイズに巨大化した、黒い装甲に青い輝きを纏わせ、冠を被った蟻だったのだから!
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