32 / 71
おや? 神域の様子が……
幕間 神域のある一日
しおりを挟む
神域は、穏やかだ。
女神とその眷属である夫婦と、その眷属たちによる暮らし――そこは争いなどない、ただ穏やかなだけの日々がある。
蟻たちの朝は早い。
働き蟻たちは基本的に外敵がいない神域であろうと夜間も警備を怠らないが、日中は自分たちの食い扶持を稼いだり主であるヨシヤに対する貢ぎ物を見つけるために神域の外に出る。
ヨシヤが外に出る際には護衛やその他の役割を担うために選ばれた幸運な数匹が同行することを許されるが、それ以外の蟻たちは基本的に周辺警護、ハナの家事手伝い、探索、女王蟻であるあっちゃんのお世話と忙しいのだ。
普通の蟻であれば女王蟻が産んだ卵、及び幼虫の世話もあるのだが神の眷属のそのまた眷属という立ち位置になった彼らは寿命も延びたし知能も格段に上がっている。
そのため必要以上に増やすこともせず、人員過多に陥ることはない。
時折外で苦難に出合って落ち込む主人のために張り切って外でゴブリンを狩って作った彼らの大事な食料でありオヤツでもあるゴブリン玉を差し入れるのだが、あまり喜ばれないのが最近の悩みである。
玉にしたからダメなのか?
頭そのものだったら喜ぶのか?
日夜、蟻たちの間で議論が交わされていることをヨシヤは知らない。
あっちゃんは『多分、人間、ソレ嫌イ』と気づいているが子供たち自身が気づくべきだと彼女は静観を決めているようだった。
教えてあげてほしい。
そして蜂たちもまた忙しい。
木々や草花、それらから得られる作物の管理、花々から得る蜜の貯蔵とこちらもなかなか忙しい。
最近では蟻たち同様、主であるヨシヤが神域の外に出る際に同行を許されるようになったので彼らは彼らでまた工夫をしたのだ。
女王蜂であるエイトの護衛兵である蜂たちは黒光りする鎧のようなものを身に纏い、槍のようなものも携えるようになった。
その方が護衛っぽいというハナの発案である。
でも彼らが戦う際に利用するのは、自分の針と牙であるのでどれだけ槍を使うかは不明である。
そんな勤勉で主大好きな蟻と蜂たちは、最近悩んでいる。
主であるヨシヤが、どうやら自分たちよりも客人であるモフモフ……アーピス神の方が好きなのかもしれない、という恐ろしい事態に気づいたのである。
残念ながら彼らは自分たちがモフモフしているとは言い切れないことを自覚していた。
そう、自覚しているのである。
一応、産毛のようなものが生えているがそれはきっとヨシヤが求めるものではないのだろうと彼らは察してしまったのだ!
どうする?
どうしたらいい?
そんな悩みを互いに共有し、情報を集めた結果……ヨシヤが外の世界で『可愛い』という言葉を使う生き物たちの仕草を真似るという事に辿り着いたのだ!!
そして、彼らは訓練を始めた。
たゆまぬ努力でその訓練は行われた。
「ん? どうしたんだい?」
そして、とうとうヨシヤに対して披露する日が来たのである。
蟻たちはドキドキしながら主の前に立ち、見てほしいとジェスチャーした。
自分たちよりも先にそれを会得した蟻たちに若干のジェラシーを覚えつつも、蜂たちだって羽を震わせて応援した。
だって主大好き同士だもの。
「……んん?」
ギチィ……。
不穏な音が、聞こえた。
ギチィ……ギチ、ギチギチ、ギュリィィイン!
蟻たちの気合いを表すかのように、彼らの目がギラギラと輝き、恐ろしい音とともにヨシヤに向けられる。
それを一身に受けたヨシヤの顔色はすこぶる悪いが、彼は浮かべた笑みをそのままに僅かも動かない。動けない。
(俺……なんか、しちゃったかな……)
蟻たちが目指したのは、いわゆる『きゅるん、うるうる』だったのだが、ヨシヤはソレを知らない。
主に喜んでもらおうとして空回っていることを、眷属たちも知らない。
そうだよね、そもそも『きゅるん』は効果音であって強靱な顎から出る音ではない。
そしてうるうるおめめは虫という生き物である以上、難しい話なのだ。
彼らの交わらない想いをなんとなく察したのは、ハナとあっちゃん、エイトの女性陣たちなのであった。
ただ、彼女たちはお互い顔を見合わせて――面白いから放っておこう、そう言葉なく意見を交わす。
今日も神域は、平和である。
女神とその眷属である夫婦と、その眷属たちによる暮らし――そこは争いなどない、ただ穏やかなだけの日々がある。
蟻たちの朝は早い。
働き蟻たちは基本的に外敵がいない神域であろうと夜間も警備を怠らないが、日中は自分たちの食い扶持を稼いだり主であるヨシヤに対する貢ぎ物を見つけるために神域の外に出る。
ヨシヤが外に出る際には護衛やその他の役割を担うために選ばれた幸運な数匹が同行することを許されるが、それ以外の蟻たちは基本的に周辺警護、ハナの家事手伝い、探索、女王蟻であるあっちゃんのお世話と忙しいのだ。
普通の蟻であれば女王蟻が産んだ卵、及び幼虫の世話もあるのだが神の眷属のそのまた眷属という立ち位置になった彼らは寿命も延びたし知能も格段に上がっている。
そのため必要以上に増やすこともせず、人員過多に陥ることはない。
時折外で苦難に出合って落ち込む主人のために張り切って外でゴブリンを狩って作った彼らの大事な食料でありオヤツでもあるゴブリン玉を差し入れるのだが、あまり喜ばれないのが最近の悩みである。
玉にしたからダメなのか?
頭そのものだったら喜ぶのか?
日夜、蟻たちの間で議論が交わされていることをヨシヤは知らない。
あっちゃんは『多分、人間、ソレ嫌イ』と気づいているが子供たち自身が気づくべきだと彼女は静観を決めているようだった。
教えてあげてほしい。
そして蜂たちもまた忙しい。
木々や草花、それらから得られる作物の管理、花々から得る蜜の貯蔵とこちらもなかなか忙しい。
最近では蟻たち同様、主であるヨシヤが神域の外に出る際に同行を許されるようになったので彼らは彼らでまた工夫をしたのだ。
女王蜂であるエイトの護衛兵である蜂たちは黒光りする鎧のようなものを身に纏い、槍のようなものも携えるようになった。
その方が護衛っぽいというハナの発案である。
でも彼らが戦う際に利用するのは、自分の針と牙であるのでどれだけ槍を使うかは不明である。
そんな勤勉で主大好きな蟻と蜂たちは、最近悩んでいる。
主であるヨシヤが、どうやら自分たちよりも客人であるモフモフ……アーピス神の方が好きなのかもしれない、という恐ろしい事態に気づいたのである。
残念ながら彼らは自分たちがモフモフしているとは言い切れないことを自覚していた。
そう、自覚しているのである。
一応、産毛のようなものが生えているがそれはきっとヨシヤが求めるものではないのだろうと彼らは察してしまったのだ!
どうする?
どうしたらいい?
そんな悩みを互いに共有し、情報を集めた結果……ヨシヤが外の世界で『可愛い』という言葉を使う生き物たちの仕草を真似るという事に辿り着いたのだ!!
そして、彼らは訓練を始めた。
たゆまぬ努力でその訓練は行われた。
「ん? どうしたんだい?」
そして、とうとうヨシヤに対して披露する日が来たのである。
蟻たちはドキドキしながら主の前に立ち、見てほしいとジェスチャーした。
自分たちよりも先にそれを会得した蟻たちに若干のジェラシーを覚えつつも、蜂たちだって羽を震わせて応援した。
だって主大好き同士だもの。
「……んん?」
ギチィ……。
不穏な音が、聞こえた。
ギチィ……ギチ、ギチギチ、ギュリィィイン!
蟻たちの気合いを表すかのように、彼らの目がギラギラと輝き、恐ろしい音とともにヨシヤに向けられる。
それを一身に受けたヨシヤの顔色はすこぶる悪いが、彼は浮かべた笑みをそのままに僅かも動かない。動けない。
(俺……なんか、しちゃったかな……)
蟻たちが目指したのは、いわゆる『きゅるん、うるうる』だったのだが、ヨシヤはソレを知らない。
主に喜んでもらおうとして空回っていることを、眷属たちも知らない。
そうだよね、そもそも『きゅるん』は効果音であって強靱な顎から出る音ではない。
そしてうるうるおめめは虫という生き物である以上、難しい話なのだ。
彼らの交わらない想いをなんとなく察したのは、ハナとあっちゃん、エイトの女性陣たちなのであった。
ただ、彼女たちはお互い顔を見合わせて――面白いから放っておこう、そう言葉なく意見を交わす。
今日も神域は、平和である。
0
あなたにおすすめの小説
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~
めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。
しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。
そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。
その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。
(スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる