恋煩いから目を逸らす

玉響なつめ

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 私――琴原ことはらミズキと山科やましな圭人けいとはセフレである。
 セフレ、つまりセックスフレンド。要するにヤるだけの仲。

 そんでもって、同僚であり、同期だ。

 私はアイツんちを知らない。
 アイツも私んちを知らない。
 つまり、会社で顔を合わせるだけの関係でしかない、知人レベル。
 
 そんでもって時折会社でそっと他の人に内緒で『どこそこで 何時』みたいなやりとりで、ホテル行ってヤったらはい解散。
 なんとも非生産的な関係である。

 そして、その非生産的な関係で最たるものが私が抱いた、圭人への恋心ってやつだろう。

(……ずっとセフレの段階で、脈なしじゃん。まあ、可愛い女じゃないしな)

 今更恋する乙女よろしく可愛らしく着飾ったところで、同期で当初セクハラしてきた上司とがっつり真っ正面からコトを構えて悪目立ちした挙げ句居座り続けている私を見てきた圭人だし。
 取り繕ったところで変なモン食ったのかとかデリカシーゼロの発言されるだけだよなー。

 それに。

「やだぁー、先輩ったらぁ!」

「いやいやぁ、希美ちゃんがいてくれたから今日の商談、あちらさんも笑顔だったんだって。ありがとうなー!」

「えへへ……でもお役に立てたなら何よりです! ワタシ、頑張ります!」

「おう。なんなら今日はお礼にメシ奢ってやろうか。山科もどうだ?」

「いや、自分は……」

「ええー! 山科先輩も折角だからご一緒しましょうよう、先輩が誘ってくれてるんですし!」

 最近入った新入社員のオンナノコ。
 水原みずはら希美のぞみちゃん。
 スタイル抜群な上に可憐な雰囲気、守ってあげたくなるっていうのを体現しているような彼女に周りの男性社員たちもメロメロでびっくりするほど。
 
 そんな彼女は、あからさまに圭人狙いだ。

(私もあのくらい可愛げがあったら、『好きだ』って言えたのかしらね)

 そもそも私と圭人がこういう関係になったのって、いつだっけ?
 はしゃぐ希美ちゃんとそれを可愛がる同僚たちの声を背中に、私は自分の仕事を片付ける。

(今日は買い物して帰らないとな……そろそろ冷蔵庫、空っぽだ)

 しがない女の一人暮らし、冷蔵庫だって大して大きなものじゃない。
 気をつけてはいるものの、ついつい週末は疲れもあって家から出ないこともあるから食材が切れることもしばしばだ。

 世の中の兼業主婦ってのは逞しいよなあと感心せずにはいられない。
 私なんて仕事して、通勤電車に揺られるだけで精一杯だってのに。

「琴原も行こう」

「……え?」

 急に名前を呼ばれて、少し遅れて振り返る。
 そこには私の方を見ている圭人と、希美ちゃんと、先輩の姿。

「だから。先輩がメシ行こうって言うから、琴原もどうだって」

「ええ……?」

 私なにも関係なくね?
 それに先輩も圭人も気づいてないだろうけど、希美ちゃんがこっちを超睨んでるからね?

 これだからデリカシーゼロの男は困ったもんだ……彼女は先輩だって本当はいなくてもいいんだよ、お前とご飯行きたいんだよ!
 セフレで恋している私が言うのもなんだが、彼女も報われない恋してるなあ。

「先輩と希美ちゃん、それから山科くんって取り合わせってコトは商談の成功祝いかなにかでしょう? なら私は遠慮するよ。今日は寄るところもあるし」

「なんだよ琴原ァ、付き合い悪いな。そういうところが可愛げねえんだぞー」

「やだ先輩、琴原先輩だって忙しいんですよう! 無理に誘っちゃ悪いですってば」

「希美ちゃんは優しいなあー」

 先輩と希美ちゃんがあれこれ喋ってるけど、私は気にせず退勤の準備を始める。
 幸い残業しなくても業務は終えたし、忘れ物もないし……そう思ったところで圭人が私に歩み寄って屈んだ。

「落とした」

「え?」

「……後で、電話する」

 ぼそりと周りに聞こえないようにそう言った圭人がすっと離れて、先輩たちと去って行く。一体、なんの電話をしてくるんだろう、珍しい。

(……そんなに、シたかったのかな)

 だけど、それって私じゃなくてもいいんじゃない。
 可愛くない私がそう心の中で呟いた。
 
 希美ちゃんはちゃっかり圭人の腕に腕を絡めているのが見える。
 彼女は私に手を振る為に振り返り、勝ち誇ったような笑みを一つ、残していった。

 それを見て、諦めている恋心が、また軋んだ気がした。

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