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あれから私は帰る途中で、結局お惣菜を買って帰って家で食べた。
化粧を落として、部屋着になって、ぼんやりテレビを見て、なんの反応もないスマホを机の上に置いて眺めて、ただただ、ぼんやり。
今頃、圭人は先輩たちと楽しくやってるだろうか。
仏頂面で愛想をどこに忘れてきたのかってくらいの男だけど、仕事はできるし周りのフォローもできるから人望はばっちりだ。
あれで愛想があれば最高ってよく周りの女子社員は言ってるけど、まあそれを抜いてもオトしたい男ってやつらしい。
顔も良いしね。
「はあー……そろそろ、潮時だよねえどう考えても!」
思わず言葉に出してハッとする。
一人暮らしのワンルームマンションに、独り言は思いの外大きく響いた気がする。
だけど、それはずっと思っていたことだ。
私は可愛い女じゃない。
素直でもなければ、若くもない。流行を追ったりお化粧を頑張ったり、そんな健気さも持ち合わせちゃいない。
いるのは、毎日を必死に生きるだけの可愛げのない女がただ一人。
鏡を見ればくたびれた、つまらない女が写るだけ。
……今更、恋とか愛とか、好きだとか嫌いだとか。
そういうのが煩わしくてセフレ関係を続けていたんでしょ?
(違う、私は怖かっただけだ)
都合のいい女でイイから、圭人の傍にいたかった。それだけだ。
好きだなんて言ったら、この関係が途端に終わっちゃうってわかってる。
私は可愛い女じゃないから。
しょうがないじゃない。しょうがないの。
ああ、認めたら泣けてきた。
私だって可愛い女でいたかった、でもセクハラされて怖くて必死で、周りが助けてくれないなら自分で頑張るしかないって肩肘張って努力して、そしたらいつの間にか私は周りから『気が強くて可愛くない女』って呼ばれていて。
今更、それを覆すだけの力は、私に残ってなんかいなかった。
「あ……」
スマホの画面が、光った。
出ているのは、圭人の名前と、着信中の文字。
震える指が、通話を押した。
「……はい」
『琴原』
圭人の声が、電話越しに鼓膜を揺さぶる。
低めのそれが近くで聞こえると、なんだかくすぐったい気分になった。
ああ、本当に電話をかけてきてくれたんだなあ。
その事実に荒んでいた心が少しだけ浮上して――急降下した。
『やぁーだーあーけいとせんぱぁい、電話なんかしちゃっ、やあだ!』
『水原? なんでお前、さっき先輩と駅に……』
『あたし、けいとせんぱぁい……けいとせんぱいが……』
『待て、俺は電話中で……』
電話口から聞こえてきた甘ったるい声、電話越しにここまでハッキリ聞こえるってことは、今二人の距離はどのくらい? 考えたくもない。
苛立つことも、止めてと言うことも、私にそんな資格がないことくらい私が一番良く知っている。
だけど、自覚している恋心に傷を作って、じくじく痛み続けるこの想いを引きずって、可愛いアノコが好きな人に告白しちゃいそうな勢いな状況なんて、耐えられるはずがない!
「圭人」
『悪い、すぐかけ直す』
「いいよ、水原さん送ってあげて。……それから、もう電話してこないで」
『なに?』
「もう、オシマイにしよう。この関係」
勢いだった。
惨めさを感じて、自分から踏み出す勇気もなくて、傷つきたくなくて、色々ない交ぜになった感情が、そう切り出していた。
自分でも驚くほど平坦なその声のまま、珍しく驚いているらしい圭人が私の名前を呼んだ気がしたけれど、私はそのまま通話を切ってやった。
(ヤってる時でさえ『琴原』って呼ぶアイツが私のことを名前で呼ぶはずなんかないってね)
最後の最後に、私が夢を見ただけだ。
元通りに戻っただけ。
昔みたいに、肩肘張った可愛くない女が、独りぼっちになっただけ。
……元々、独りぼっちのようなもんだったしね。
セフレに恋をした、私に明るい未来なんて、見えるはずがないんだから。
化粧を落として、部屋着になって、ぼんやりテレビを見て、なんの反応もないスマホを机の上に置いて眺めて、ただただ、ぼんやり。
今頃、圭人は先輩たちと楽しくやってるだろうか。
仏頂面で愛想をどこに忘れてきたのかってくらいの男だけど、仕事はできるし周りのフォローもできるから人望はばっちりだ。
あれで愛想があれば最高ってよく周りの女子社員は言ってるけど、まあそれを抜いてもオトしたい男ってやつらしい。
顔も良いしね。
「はあー……そろそろ、潮時だよねえどう考えても!」
思わず言葉に出してハッとする。
一人暮らしのワンルームマンションに、独り言は思いの外大きく響いた気がする。
だけど、それはずっと思っていたことだ。
私は可愛い女じゃない。
素直でもなければ、若くもない。流行を追ったりお化粧を頑張ったり、そんな健気さも持ち合わせちゃいない。
いるのは、毎日を必死に生きるだけの可愛げのない女がただ一人。
鏡を見ればくたびれた、つまらない女が写るだけ。
……今更、恋とか愛とか、好きだとか嫌いだとか。
そういうのが煩わしくてセフレ関係を続けていたんでしょ?
(違う、私は怖かっただけだ)
都合のいい女でイイから、圭人の傍にいたかった。それだけだ。
好きだなんて言ったら、この関係が途端に終わっちゃうってわかってる。
私は可愛い女じゃないから。
しょうがないじゃない。しょうがないの。
ああ、認めたら泣けてきた。
私だって可愛い女でいたかった、でもセクハラされて怖くて必死で、周りが助けてくれないなら自分で頑張るしかないって肩肘張って努力して、そしたらいつの間にか私は周りから『気が強くて可愛くない女』って呼ばれていて。
今更、それを覆すだけの力は、私に残ってなんかいなかった。
「あ……」
スマホの画面が、光った。
出ているのは、圭人の名前と、着信中の文字。
震える指が、通話を押した。
「……はい」
『琴原』
圭人の声が、電話越しに鼓膜を揺さぶる。
低めのそれが近くで聞こえると、なんだかくすぐったい気分になった。
ああ、本当に電話をかけてきてくれたんだなあ。
その事実に荒んでいた心が少しだけ浮上して――急降下した。
『やぁーだーあーけいとせんぱぁい、電話なんかしちゃっ、やあだ!』
『水原? なんでお前、さっき先輩と駅に……』
『あたし、けいとせんぱぁい……けいとせんぱいが……』
『待て、俺は電話中で……』
電話口から聞こえてきた甘ったるい声、電話越しにここまでハッキリ聞こえるってことは、今二人の距離はどのくらい? 考えたくもない。
苛立つことも、止めてと言うことも、私にそんな資格がないことくらい私が一番良く知っている。
だけど、自覚している恋心に傷を作って、じくじく痛み続けるこの想いを引きずって、可愛いアノコが好きな人に告白しちゃいそうな勢いな状況なんて、耐えられるはずがない!
「圭人」
『悪い、すぐかけ直す』
「いいよ、水原さん送ってあげて。……それから、もう電話してこないで」
『なに?』
「もう、オシマイにしよう。この関係」
勢いだった。
惨めさを感じて、自分から踏み出す勇気もなくて、傷つきたくなくて、色々ない交ぜになった感情が、そう切り出していた。
自分でも驚くほど平坦なその声のまま、珍しく驚いているらしい圭人が私の名前を呼んだ気がしたけれど、私はそのまま通話を切ってやった。
(ヤってる時でさえ『琴原』って呼ぶアイツが私のことを名前で呼ぶはずなんかないってね)
最後の最後に、私が夢を見ただけだ。
元通りに戻っただけ。
昔みたいに、肩肘張った可愛くない女が、独りぼっちになっただけ。
……元々、独りぼっちのようなもんだったしね。
セフレに恋をした、私に明るい未来なんて、見えるはずがないんだから。
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