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19 冷淡姫と〝番犬〟な婚約者
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アリオスは、最近第二王子の護衛騎士の座を辞した。
忠誠を誓うに値する方だと思っていたが、それでもマリアンナの件もあって辞退する方が互いのためだと考えた結果だ。
第二王子は残念そうにしていたが、それでもやはりアリオスの意思は固かった。
そうして今は王宮騎士として働いて、最近ではすっかり〝冷淡姫の番犬〟というあだ名がつけられているが、アリオスは存外それを気に入っていた。
ちなみに親しい友人たちからは〝狭量な男〟だの、好き勝手に呼ばれている。
そちらについては少しばかり思うところがあるものの、アリオスとしても否定しきれないので苦い顔で睨み付けるだけである。
理由は簡単、友人の婚約者を紹介してもらいたい同僚たちの言葉を皆まで聞くこともなくアリオスが断り続けているからだ。
己の狭量さを誰よりも彼が一番よく知っていた。
どうせあいつらは祝いにかこつけてどこぞのご令嬢を紹介してもらえたらって下心なんだから紹介するまでもないだろ、というのがアリオスの言い分である。
それから言葉にしない部分として、大事な恋人に見惚れる男共をぶん殴りたくなるからでもある。
これを狭量と言わずなんと言うのか。
自分でも知らなかった部分に、アリオスは苦笑する日々だ。
イリアネにだけは決して知られたくないと彼は心に誓っている。
そんなイリアネは三曲目を踊ったところで体力の限界を迎えていた。
「踊り疲れたんじゃないか」
「……ええ、ありがとうアリオス……」
恋しい相手と踊るダンスが、こんなにも胸躍らせるものだとは思わなかった。
見上げれば優しい眼差しが降ってくることも、支えてくれるその手のひらが熱いことも、今もまだイリアネにとってはまるで夢物語の中に迷い込んでしまったような気分だ。
見た目だけで判断された日々も、それに抗わずいいように流されてしまった弱い日々も、彼女に恋を諦めさせるには十分だった。
それでも巡り巡った不思議な縁で、イリアネは大事な人に出会えたのだ。
「そういえばアリオス」
「うん?」
「ネグァイ公爵家のご令嬢が、隣国に嫁がれるそうだけれど」
「……ああ、そうらしいな」
テラスに出た先で、イリアネがそっとそう問えばアリオスは皮肉めいた笑みを浮かべた。
最近、彼が騎士隊に所属するネグァイ公爵家の次男と親しくしているという噂を耳にして、今件に何か関与しているのではと思ったのだ。
ブルネッラの輿入れが、今後社交界でそう会わないほど遠い距離であることは偶然だろうか、と。
「ねえアリオス。あなたは、何もしていないのよね……?」
「俺はただ、あまりにしつこく追いかけ回されていて職務に支障が出て困っていることを先輩に相談させてもらっただけさ」
咎めようとするイリアネを制し、アリオスがぐっと彼女の細腰を抱き寄せる。
どこか拗ねたような表情を浮かべる彼に、今度はイリアネが目を瞬かせた。
「なあ、それより……次は、もう少し露出を控えたドレスにしないか?」
「でもこれは流行の型なのよ? 似合っているって褒めてくれたじゃない」
「似合っているさ。それはもう誰よりも! けど、周りの連中に見せるのがいやだ」
「もう、アリオスったら……他の方々も似たようなものじゃない」
「イリアネ以外はみんなどうでもいい」
(それじゃ困るのだけれど)
騎士らしくあろう、貴族らしくあろう。
そうした考えを、アリオスはイリアネの前でだけ取っ払うことにしていた。
どうしてもそれらにばかり気に取られては素直な気持ちが伝えられないらしかった。
イリアネとしては別に普段のこうした言葉遣いでも、しっかりとこれまでの学びが生かされて十分だと思うのだが――二人の時だけ、こうして甘えるような表情を見せてくれるようになってくれたことを考えると、まだ教える気にはならない。
「……それじゃあ、次のドレスを選ぶ時も一緒にいてくださる?」
「勿論だ。嫌だと言っても傍にいるから」
「まあ!」
クスクス笑い合う二人を見て、誰が少し前まで破局の噂を流されていたと思うだろうか。
孤高の冷淡姫の笑みを守る番犬。
その話を耳にしたマリアンナが二人を前に大爆笑をしたのだが、それはまた別の話である。
忠誠を誓うに値する方だと思っていたが、それでもマリアンナの件もあって辞退する方が互いのためだと考えた結果だ。
第二王子は残念そうにしていたが、それでもやはりアリオスの意思は固かった。
そうして今は王宮騎士として働いて、最近ではすっかり〝冷淡姫の番犬〟というあだ名がつけられているが、アリオスは存外それを気に入っていた。
ちなみに親しい友人たちからは〝狭量な男〟だの、好き勝手に呼ばれている。
そちらについては少しばかり思うところがあるものの、アリオスとしても否定しきれないので苦い顔で睨み付けるだけである。
理由は簡単、友人の婚約者を紹介してもらいたい同僚たちの言葉を皆まで聞くこともなくアリオスが断り続けているからだ。
己の狭量さを誰よりも彼が一番よく知っていた。
どうせあいつらは祝いにかこつけてどこぞのご令嬢を紹介してもらえたらって下心なんだから紹介するまでもないだろ、というのがアリオスの言い分である。
それから言葉にしない部分として、大事な恋人に見惚れる男共をぶん殴りたくなるからでもある。
これを狭量と言わずなんと言うのか。
自分でも知らなかった部分に、アリオスは苦笑する日々だ。
イリアネにだけは決して知られたくないと彼は心に誓っている。
そんなイリアネは三曲目を踊ったところで体力の限界を迎えていた。
「踊り疲れたんじゃないか」
「……ええ、ありがとうアリオス……」
恋しい相手と踊るダンスが、こんなにも胸躍らせるものだとは思わなかった。
見上げれば優しい眼差しが降ってくることも、支えてくれるその手のひらが熱いことも、今もまだイリアネにとってはまるで夢物語の中に迷い込んでしまったような気分だ。
見た目だけで判断された日々も、それに抗わずいいように流されてしまった弱い日々も、彼女に恋を諦めさせるには十分だった。
それでも巡り巡った不思議な縁で、イリアネは大事な人に出会えたのだ。
「そういえばアリオス」
「うん?」
「ネグァイ公爵家のご令嬢が、隣国に嫁がれるそうだけれど」
「……ああ、そうらしいな」
テラスに出た先で、イリアネがそっとそう問えばアリオスは皮肉めいた笑みを浮かべた。
最近、彼が騎士隊に所属するネグァイ公爵家の次男と親しくしているという噂を耳にして、今件に何か関与しているのではと思ったのだ。
ブルネッラの輿入れが、今後社交界でそう会わないほど遠い距離であることは偶然だろうか、と。
「ねえアリオス。あなたは、何もしていないのよね……?」
「俺はただ、あまりにしつこく追いかけ回されていて職務に支障が出て困っていることを先輩に相談させてもらっただけさ」
咎めようとするイリアネを制し、アリオスがぐっと彼女の細腰を抱き寄せる。
どこか拗ねたような表情を浮かべる彼に、今度はイリアネが目を瞬かせた。
「なあ、それより……次は、もう少し露出を控えたドレスにしないか?」
「でもこれは流行の型なのよ? 似合っているって褒めてくれたじゃない」
「似合っているさ。それはもう誰よりも! けど、周りの連中に見せるのがいやだ」
「もう、アリオスったら……他の方々も似たようなものじゃない」
「イリアネ以外はみんなどうでもいい」
(それじゃ困るのだけれど)
騎士らしくあろう、貴族らしくあろう。
そうした考えを、アリオスはイリアネの前でだけ取っ払うことにしていた。
どうしてもそれらにばかり気に取られては素直な気持ちが伝えられないらしかった。
イリアネとしては別に普段のこうした言葉遣いでも、しっかりとこれまでの学びが生かされて十分だと思うのだが――二人の時だけ、こうして甘えるような表情を見せてくれるようになってくれたことを考えると、まだ教える気にはならない。
「……それじゃあ、次のドレスを選ぶ時も一緒にいてくださる?」
「勿論だ。嫌だと言っても傍にいるから」
「まあ!」
クスクス笑い合う二人を見て、誰が少し前まで破局の噂を流されていたと思うだろうか。
孤高の冷淡姫の笑みを守る番犬。
その話を耳にしたマリアンナが二人を前に大爆笑をしたのだが、それはまた別の話である。
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