主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ

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第五章 この愛は重いのか?

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 私が彼の告白を受け入れてから一週間、恐ろしいほど何もなく平和な時間を過ごしていた。
 食材はシリウスが買ってきてくれて充実しているし、調理器具もばっちり。
 家の中の調度品はとても品が良くて私好み。
 洗濯についてはテラスには出られないけどサンルームがあるからそこに干せば済む話。

 ……つまり、本当に何一つ不自由ない生活が送れているってわけ。
 シリウス以外の人と会えないことを除けばね!

(これ真っ当な人生歩んできた人だったら耐えられないんじゃ……?)

 私はほらね、いろんな経験があるので大丈夫だけど。
 普通の人だったらこの空間に初めは問題なくとも、徐々に出会える唯一の相手へと依存していくパターンですよこれは。

 これが計画だとしたらシリウス、なんて恐ろしい男……!
 計画じゃなくて素だったらそれはそれで恐ろしいけどね!!

「……仕事が大変だったって言う割に、嬉しそうね?」

「そりゃそうだろう、帰ってきたらセレンがいる」

 ノクス公爵は広大な土地を治める大領主でもある。
 そしてその土地には魔獣が多数現れる危険地帯もあり、ノクス公爵家の騎士団がこの国一番の武力を誇ると言われるのはそれに対抗する力を持っているからである。

 魔獣は危険な生き物だけど、倒せればその死体は高級な素材となるのだ。
 魔道具を作る材料だったり、その魔道具を動かす核となる魔石の存在だったり、武器や防具、はたまた薬剤にもなるから捨てるとこなしである。

 魔獣は土地の魔力を受けて獣が進化したとされていて、生態系では上位に君臨するだけのことはあるのだ!

 ちなみにお肉に関しては美味しいかまずいかの両極端であるため、一般市民には基本普及していない。

 それはともかくとして、そんな魔獣も区分で言えば生物なので繁殖期などで爆発的に増えたり、攻撃的になったりする時期がある。
 そのためここ最近、シリウスは忙しいってわけ。

「今日はオウルディアーでしたっけ? 私は見たことないんだけど……」

「ああ。繁殖期になると人里まで下りてくる個体がたまにいるんだ。四頭立ての馬車より大きいぞ。今日持ち帰ったのはその肉だが、脂が乗っていて上手いんだ」

「じゃあ今日はシンプルにステーキにしましょうね~」

 魔獣肉のいいところは熟成の必要がないほど美味しいってところだね!
 そうかそうか、美味しい肉が食べられるからご機嫌なのか。可愛いね。

 ……なんて思っていたら、シリウスは笑顔で続けた。

「俺の用意したものだけを食べて、俺の用意した服を着て、俺とお前しかいない。嬉しいなあ」

 アッ、違ったわ。
 通常運転(?)でヤンデレてたわ……。

 おかしいなあ、落ち着くどころか悪化してないかこれ。
 やっぱりいろいろと早まったか……?
 いやでもあのままだと軟禁が監禁からのペットコースとかになりそうだから恋人コースが正解だと思いたい。

「シリウス、そういえば聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」

 ここは話題をすり替える!
 彼がヤンデレるのは私からの愛情を信じ切れないという点が大きいに違いない。
 一度は逃げている以上、そこは仕方ない。
 時間をかけてじっくりと信頼してもらうしかないだろう。

「恋人になったのに、どうしてキスしないの?」

「は?」

「それに、夜も別の部屋で寝るじゃない」

 それまで目のハイライトを消しながら嬉しそうに笑うという器用なことをしていたシリウスが、ぴたりと動きを止めた。
 まあ私もぶっこんだ話題だという自覚はある。

 だけど気になってたからさー!
 一夜を共にしたこともあるのに、いざ恋人になったら節度ある距離感を保って夜も少しお酒を飲んだらハイ解散! おやすみなさい! という健全な生活なんだもん!!

(いやただれた生活が送りたいわけじゃないんだけども)

 これって恋人なのか?
 それともペットなのか?

 返答次第では私の今後の対策ってもんがだね……。

 慎みがないって幻滅されるんならされるんでいいよ!
 今更お綺麗に取り繕ったって私は生まれも育ちも裏社会! いやごめんそれ関係ないけどとりあえず気になったもんだから!!

「……ま、前は、その……酒に酔って勢いだった。折角恋人になれたんだから、今度は……ゆっくり、セレンと関係を深めたくて……」

 顔を真っ赤にしたシリウスが、それでも真面目に答えようとする姿に思わずキュンとしてしまった。
 はあ~~~~? ここでそんな真面目回答しちゃう~~~~!?

「し、してもよかったのか……?」

 そんな! 上目遣いをするんじゃない!
 ヨシって言われるのを待ってる大型犬みたいで可愛いじゃないか!!

「……私ももうちょっと恋人っぽいことしたいなーって思ってたんで……」

「そうか!」

 ぱあっと笑みを浮かべるシリウスが、私を抱き寄せる。
 分厚い胸板に抱き込まれてちょっと力加減が強いんだよな~なんて思いながらも、なんかこう、嬉しかった。

 あれ……割れ鍋に綴じ蓋ってやつになってないかな……?
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