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*****French Foreign Legion(外人部隊)*****
Enlistment test Ⅲ(入隊テスト)
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最後の対戦相手はハンス。
おそらく彼は、この野蛮な部隊の隊長で、一番強いはず。
「少し休憩をとるか?」
2試合立て続けにやらせておいて、今更休憩も無いだろう。
「かまわない。続けよう」
「わかった。トーニ、審判をしろ」
俺がヤジ将軍と勝手に名前を付けていた男にハンスが聞く。
「了解しましたが隊長、僕ちゃんが食べやすいようにチャンとこの女の子をおネンネさせて下さいよ」
その言葉に静まり返っていたギャラリーが再び笑った。
畳の上で向かい合う俺たちにトーニがルールを改めて説目し、その最後に俺を覗くように「いいかいお嬢ちゃん。試合時間は5分もあるんだぜ、もう少し観客を喜ばせる工夫もしてくれなきゃチップもはずまないよ」と揶揄い、その言葉にギャラリーたちが「服を脱がせちまえ!」とか下品な声を上げて騒ぎ出し、ハンスに注意された。
「そんじゃ、行きますよ……はじめ!」
トーニの声を合図に、半歩前に出て直ぐ一歩下がった。
ハンスが如何なる攻撃を仕掛けてくるのか分からなかったので、フェイントをかけたつもりだったが、それをハンスは微動だにしない姿勢で見ていた。
そして両腕を胸の前に構える俺に対して、ハンスの腕は下げられたままで、戦意さえ感じられない。
“かいかぶり・だったのか?”
牽制のつもりで、ローキックを入れてみた瞬間、思いもしなかった動きをされて慌てた。
振り上げた右足はハンスが伸ばした手により見事にそのまま勢いよく左に流されてしまい、あっと言う間に横向きにされ、無防備になった脇腹目掛けてハンスのパンチが襲い掛かる。
俺はパンチを避けるためそのまま左に回転しながら向きを立て直そうと振り向いたが、直ぐに蹴りを入れられそうになり、姿勢を低くして手で畳を掻きむしる猫の様な恰好で思いっきり逃げた。
脇腹を逸れた蹴りが臀部に当たるが、お構いなしに一目散に走り、ハンスの足音が追ってこないのを確認して向き直る。
「い~ね~。お尻を触られてキャっと逃げるそのヒョウの様なしなやかな動き、エロ可愛かったよぉ~」
ヤジ将軍改め、トーニの言葉にギャラリーが湧く。
「審判は、言葉を慎め!」
ハンスがトーニ―をたしなめる。
「カラテと護身術か」
「そう。お前と同じだが、俺は合気道と呼んでいる」
ハンスが答えた。
広い体育館だったから逃げられたものの、部屋の中だとしたら背中を向けた無防備な俺は、直ぐに壁に行き詰まり逃げ切れずに負けていただろう。
緩んだ帯を締め直し、元の間合いに戻った。
“どうする?”
結局、護身術同士の戦いで俺は一度もサオリに勝てなかった。
“なぜ”
『だからナトちゃんは、私に勝とうと思って挑んでくるから勝てないのよ』
もう一度、サオリの言った言葉を思い出す。
今この戦いは俺の入隊試験。
必ず俺が攻撃を仕掛けてくるものだとハンスは思っているに違いない。
そして俺は、さっきその通りに先制攻撃をした。
しかし、どうだろう。
見方を変えると、このハンスと言う男は、このギャラリーたちの隊長らしい。
部下が2人もノックアウトされて、それを黙って見ていたのでは隊長としての沽券に関わるだろう。
まして相手は女だ。
奴は必ずOKを狙いに来る。
そして、俺はその一瞬を狙う。
だらりと下げられた両手。
棒立ちの足。
穏やかに俺を追いかける澄み切った青い瞳。
俺は地球を周る月のように、一定の間合いを保ちながら用心深くステップを踏みながらハンスの周りを回る。
「ファイト!ファイト!」
レフェリーのトーニが俺とハンスをけしかけるが、ハンスは動かない。
そして俺も地球に寄り添う月のように、周り続ける。
「いよーネーチャン!踊るんだったら、もっとケツをこうクネクネさせてくれー!」
「いいケツしてんだから、もっとサービスしろよー!」
「なんなら俺様がベッドで、もっと色っぽい踊り方教えてやろうか?」
「そりゃあいいや、こいつは上玉だからな!」
ギャラリーが揶揄うように、囃し立てるがこのステップを止めるわけにはいかない。
どのような攻撃に出てくるか分からないハンスに対して、一瞬でも動きが遅れてしまうのは命取りになる。
「4分悔過、両者ファイト!ファイト!」
トーニが叫ぶ。
残り時間は、あと1分。
ハンスは本当に攻撃してこないつもりだろうか?
3人と闘うこのルール。
既に2人に勝っているのだから、普通に考えればもう合格ではないのか?
それなのに、この三試合目が有るということは、三人に対して完全勝利しなければならないのかも知れない。
引き分けではマズイ?
そう思って、なんとか攻撃の手段を考える。
“足蹴り”
足蹴りの場合だと、フェイントに使うにしても、その間残った片方の足に重心の全てが掛かるため、咄嗟の判断を要するときに行動が遅れる欠点がある。
あの黒い男のように、長射程の足を持つのならまだしも、俺の場合はハンスよりも小さいから射程が短い。
同じ護身術を操る俺が黒い男を簡単に倒したのだから、俺の攻撃も簡単にあしらわれるのがオチだ。
まして、既に不用意なローキックでバックを取られて無様に逃げている。
“パンチ”
パンチに関しては、護身術の世界では基本中の基本だ。
ハンスがその道のスペシャリストだとすると、どのようなパンチ攻撃にも対処するだろう。
“頭突き”
攻撃力は最も高いが、超接近戦に持ち込む必要がある。
果たしてハンスの懐にスンナリと入らせて貰えるとは到底思わない。
いや、ひとつ手が有るかも知れない。
相手に勝とうとしない技を仕掛けることだ。
サオリが良く言っていた“相手に勝とうと思えば思う程、負けに近づいて行く”と。
俺は作戦を考えた。
先ずハンスを誘い出すために、始めから倒す目的の無いパンチを繰り出す。
そして、そのパンチを折りたたみハンスの最も防御力の高いはずの胸を目掛けて体を預けるようにエルボーを撃つと見せかけて懐に飛び込み、最後に顎に向けて頭突きをお見舞いする。
「あと30秒!両者ファイト!ファイト!」
冷静にシュミレーションしてみる。
俺が繰り出すパンチに反応して、腕を取るため前に出てくる。
ところが、その腕は折りたたまれエルボーとなるが、これもただの見せかけで掴まれる前に素早く脇を閉めハンスの胸に飛び込む。
しかし、そう上手くいかずに脇を閉める前にエルボーを掴まれるかも知れない。
だけど予め頭突きを撃つ用意をしていた俺の方が、一瞬早くハンスの顎を捉えるはず。
「あと15秒、ファイト!」
「あと10秒、ファイト!ファイト!」
「あと5秒、ファイト!ファイト!ファイト!」
時間は申し分ない。
もし失敗しても、時間的に逃げ切れる。
もう俺の負けはない!
おそらく彼は、この野蛮な部隊の隊長で、一番強いはず。
「少し休憩をとるか?」
2試合立て続けにやらせておいて、今更休憩も無いだろう。
「かまわない。続けよう」
「わかった。トーニ、審判をしろ」
俺がヤジ将軍と勝手に名前を付けていた男にハンスが聞く。
「了解しましたが隊長、僕ちゃんが食べやすいようにチャンとこの女の子をおネンネさせて下さいよ」
その言葉に静まり返っていたギャラリーが再び笑った。
畳の上で向かい合う俺たちにトーニがルールを改めて説目し、その最後に俺を覗くように「いいかいお嬢ちゃん。試合時間は5分もあるんだぜ、もう少し観客を喜ばせる工夫もしてくれなきゃチップもはずまないよ」と揶揄い、その言葉にギャラリーたちが「服を脱がせちまえ!」とか下品な声を上げて騒ぎ出し、ハンスに注意された。
「そんじゃ、行きますよ……はじめ!」
トーニの声を合図に、半歩前に出て直ぐ一歩下がった。
ハンスが如何なる攻撃を仕掛けてくるのか分からなかったので、フェイントをかけたつもりだったが、それをハンスは微動だにしない姿勢で見ていた。
そして両腕を胸の前に構える俺に対して、ハンスの腕は下げられたままで、戦意さえ感じられない。
“かいかぶり・だったのか?”
牽制のつもりで、ローキックを入れてみた瞬間、思いもしなかった動きをされて慌てた。
振り上げた右足はハンスが伸ばした手により見事にそのまま勢いよく左に流されてしまい、あっと言う間に横向きにされ、無防備になった脇腹目掛けてハンスのパンチが襲い掛かる。
俺はパンチを避けるためそのまま左に回転しながら向きを立て直そうと振り向いたが、直ぐに蹴りを入れられそうになり、姿勢を低くして手で畳を掻きむしる猫の様な恰好で思いっきり逃げた。
脇腹を逸れた蹴りが臀部に当たるが、お構いなしに一目散に走り、ハンスの足音が追ってこないのを確認して向き直る。
「い~ね~。お尻を触られてキャっと逃げるそのヒョウの様なしなやかな動き、エロ可愛かったよぉ~」
ヤジ将軍改め、トーニの言葉にギャラリーが湧く。
「審判は、言葉を慎め!」
ハンスがトーニ―をたしなめる。
「カラテと護身術か」
「そう。お前と同じだが、俺は合気道と呼んでいる」
ハンスが答えた。
広い体育館だったから逃げられたものの、部屋の中だとしたら背中を向けた無防備な俺は、直ぐに壁に行き詰まり逃げ切れずに負けていただろう。
緩んだ帯を締め直し、元の間合いに戻った。
“どうする?”
結局、護身術同士の戦いで俺は一度もサオリに勝てなかった。
“なぜ”
『だからナトちゃんは、私に勝とうと思って挑んでくるから勝てないのよ』
もう一度、サオリの言った言葉を思い出す。
今この戦いは俺の入隊試験。
必ず俺が攻撃を仕掛けてくるものだとハンスは思っているに違いない。
そして俺は、さっきその通りに先制攻撃をした。
しかし、どうだろう。
見方を変えると、このハンスと言う男は、このギャラリーたちの隊長らしい。
部下が2人もノックアウトされて、それを黙って見ていたのでは隊長としての沽券に関わるだろう。
まして相手は女だ。
奴は必ずOKを狙いに来る。
そして、俺はその一瞬を狙う。
だらりと下げられた両手。
棒立ちの足。
穏やかに俺を追いかける澄み切った青い瞳。
俺は地球を周る月のように、一定の間合いを保ちながら用心深くステップを踏みながらハンスの周りを回る。
「ファイト!ファイト!」
レフェリーのトーニが俺とハンスをけしかけるが、ハンスは動かない。
そして俺も地球に寄り添う月のように、周り続ける。
「いよーネーチャン!踊るんだったら、もっとケツをこうクネクネさせてくれー!」
「いいケツしてんだから、もっとサービスしろよー!」
「なんなら俺様がベッドで、もっと色っぽい踊り方教えてやろうか?」
「そりゃあいいや、こいつは上玉だからな!」
ギャラリーが揶揄うように、囃し立てるがこのステップを止めるわけにはいかない。
どのような攻撃に出てくるか分からないハンスに対して、一瞬でも動きが遅れてしまうのは命取りになる。
「4分悔過、両者ファイト!ファイト!」
トーニが叫ぶ。
残り時間は、あと1分。
ハンスは本当に攻撃してこないつもりだろうか?
3人と闘うこのルール。
既に2人に勝っているのだから、普通に考えればもう合格ではないのか?
それなのに、この三試合目が有るということは、三人に対して完全勝利しなければならないのかも知れない。
引き分けではマズイ?
そう思って、なんとか攻撃の手段を考える。
“足蹴り”
足蹴りの場合だと、フェイントに使うにしても、その間残った片方の足に重心の全てが掛かるため、咄嗟の判断を要するときに行動が遅れる欠点がある。
あの黒い男のように、長射程の足を持つのならまだしも、俺の場合はハンスよりも小さいから射程が短い。
同じ護身術を操る俺が黒い男を簡単に倒したのだから、俺の攻撃も簡単にあしらわれるのがオチだ。
まして、既に不用意なローキックでバックを取られて無様に逃げている。
“パンチ”
パンチに関しては、護身術の世界では基本中の基本だ。
ハンスがその道のスペシャリストだとすると、どのようなパンチ攻撃にも対処するだろう。
“頭突き”
攻撃力は最も高いが、超接近戦に持ち込む必要がある。
果たしてハンスの懐にスンナリと入らせて貰えるとは到底思わない。
いや、ひとつ手が有るかも知れない。
相手に勝とうとしない技を仕掛けることだ。
サオリが良く言っていた“相手に勝とうと思えば思う程、負けに近づいて行く”と。
俺は作戦を考えた。
先ずハンスを誘い出すために、始めから倒す目的の無いパンチを繰り出す。
そして、そのパンチを折りたたみハンスの最も防御力の高いはずの胸を目掛けて体を預けるようにエルボーを撃つと見せかけて懐に飛び込み、最後に顎に向けて頭突きをお見舞いする。
「あと30秒!両者ファイト!ファイト!」
冷静にシュミレーションしてみる。
俺が繰り出すパンチに反応して、腕を取るため前に出てくる。
ところが、その腕は折りたたまれエルボーとなるが、これもただの見せかけで掴まれる前に素早く脇を閉めハンスの胸に飛び込む。
しかし、そう上手くいかずに脇を閉める前にエルボーを掴まれるかも知れない。
だけど予め頭突きを撃つ用意をしていた俺の方が、一瞬早くハンスの顎を捉えるはず。
「あと15秒、ファイト!」
「あと10秒、ファイト!ファイト!」
「あと5秒、ファイト!ファイト!ファイト!」
時間は申し分ない。
もし失敗しても、時間的に逃げ切れる。
もう俺の負けはない!
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