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To Paris(パリへ)
[Bataille urbaine de Khan I(カーン市街戦)]
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「敵歩兵小隊、M4戦車を先頭に通りから入って来ます‼」
対戦車陣地を突破したものバイユーへの進出は叶わずカーンに引き返した俺たちは、新兵のホルツ2等兵を新たに加え、追いかける様に市街に進出してきた敵部隊との市街戦に突入した。
既に第21装甲師団のⅣ号戦車は壊滅的な損害を受けて使い物にはならず、武装親衛隊のⅥ号ティーゲル戦車が敵戦車部隊に大きな打撃を与えたものの、不利な戦局を打開するには圧倒的に数が足りなかった。
カーンに戻って直ぐに新兵の補充を受けた俺たちだったが、戦車に対する有効な兵器も持たないまま、命令はこの通りを死守することだった。
「クルッペン、2階に上がって戦車長を始末しろ!ザシャとカミールは向こうの建物の3階に機関銃を設置して応戦!ロス、援護についてやれ」
「了解!」
「グリーデン!本部へ報告、敵1個小隊がM4戦車を伴い侵入中、至急対戦車兵器望む!」
「了解!」
「クルッペンの狙撃と共に戦線を開く。何としてでも食い止めるぞ‼」
「了解‼」
1秒が1分にも感じられる時間の流れの中、皆が行動を開始する。
たった10人で、戦車1輌と50人の敵兵を相手にするという現実など考える余裕もない。
ただ考えることは、目に映る敵を始末する事だけ。
パーン。
クルッペンのKar98kが火を噴き、狙いすましたようにハッチから顔を出していた戦車長の眉間を貫いた。
「Sniper!」
血しぶきを上げて車内に転げ落ちた戦車長の後ろでブローニングM2重機関銃を構えていた奴が叫び、機関銃を乱射し始めた。
「ザシャ!重機関銃を叩き潰せ‼」
このM2重機関銃は厄介だ。
なにしろその12.7 mm口径の銃弾の威力は凄まじく、木造の家などは簡単に貫通してしまう。
M2重機関銃の弾丸が俺たちの隠れている塀のレンガを砕く。
「野郎‼」
シュパンダウが敵の重機関銃叩き潰そうとして、飛び出そうとするのを止めた。
奴は今、分隊長の居るこの場所を狙っている。
12.7 mm弾に当たれば軽傷では済まない。
俺たちのMG42の方が新型で、汎用性も高く機関銃としては優秀だ。
何よりMG42機関銃の最大の武器である発射速度は毎分1200発以上でM2の2倍以上もあるとは言え、敵の重機関銃の中でもこのM2の破壊力は厄介なのは間違いない。
敵もそれを知っているからM2重機関銃の射手をサポートするように、ザシャが機関銃を撃ち始めた途端、銃座を置いている3階の窓に集中攻撃を加えているからザシャも場所を移動するため俺たちの機関銃は暫く沈黙する事になってしまった。
いくら強力な兵器を持っていても、場所が特定されていれば敵の集中的な攻撃に晒されてしまい潰される確率は上がる。
この様な状況に晒された場合、移動できる物はその場所に固着せずにサッサと移動してしまう方がいい。
特に分隊と言う最小単位の組織では、たとえ1人でも失う事は致命的な損害になりかねないので、分隊のメンバーには苦境に陥りそうになった時はまず自分の安全を確保しろと伝えてある。
これは決して敵前逃亡を許すものではなく、無駄死にさせないために俺たちが取っている行動。
空挺隊と言う戦場で孤立しやすい俺たちならではの共通意識と、それを支える強力な仲間意識があってこそ成り立つ戦法だ。
一時的にザシャのMG42機関銃が沈黙したことで、敵のM2重機関銃がいい気になって撃ちまくっている。
これはある意味で俺たちの思う壺。
数秒後に奴の銃弾は切れて、弾帯を交換しなければならない。
そこが俺たちのチャンス。
そしてカギを握るのは、狙撃手のクルッペンだ。
M2の太鼓を叩く様な銃声が途切れた。
敵の射手が「Give me bullet‼」と大声で銃弾を要求する。
3人の兵士がM4戦車の上に登り、そのうちの1人戦車の下に居る兵士から弾薬箱を受け取り、あとの2人が止まった重機関銃に代わりトミーガンを連射して周囲への威嚇射撃を開始した。
敵の威嚇射撃は特にザシャの居た建物など、周囲の建物の上階に集中していた。
「今だ、シュパンダウ、派手にやるぞ!」
「待ってました‼」
俺とシュパンダウが飛び出して、戦車の上に居る兵士たちに銃弾を浴びせる。
その動きに連動して今まで潜んでいたザシャのMG42が戦車後方に隠れている敵兵に向けて機銃掃射を始め、クルッペンの狙撃銃が敵の重機関銃の射手と銃弾の補給を行おうとしていた兵士を狙いすます。
戦車上に居た4人はあっと言う間に車上から転げ落ち、交換するために持ち上げていた弾薬箱もレンガを敷き詰められた路上に落ちた。
幸な事に戦車前面の機関銃ポットに備え付けてあるM1919機関銃の方は、戦車発見当初から沈黙したまま。
市街戦に投入されたこのM4戦車は、俺たちの携帯対戦車兵器(パンツァーファーストやパンツァーシュレック)の攻撃から身を守るために車体前面装甲板の上に土嚢を積み上げているが、その土嚢が走行時の振動によりズレ落ちて来たのかM1919機関銃に圧し掛かっていて撃とうにも撃てない状況を作り出しているし、砲塔は戦車長の仇を討つつもりなのか建物の上を狙っている。
チャンスだ。
「ホルツ、裏から屋根に上がって戦車の後ろ側に手りゅう弾を落とせるか?」
「やってみます!」
「マイヤー、ゼーゼマン援護しろ!シュパンダウは俺について来い」
「了解!っで、どこにお散歩!?」
「戦車を遣るぞ。俺がHHL 3(磁気吸着地雷:正式名称はHaft-Hohlladung 3kgで、磁力で戦車に吸着させて爆破する対戦車兵器)を仕掛ける。お前は履帯の間から手りゅう弾を投げろ」
「了解!軍曹も俺も気の毒なことで」
「今は使われていないが、敵戦車の前面機関銃と、同軸機関銃には充分注意しろ!」
「気が付かれませんように」
シュパンダウは、そう言うと胸で十字を切った。
対戦車陣地を突破したものバイユーへの進出は叶わずカーンに引き返した俺たちは、新兵のホルツ2等兵を新たに加え、追いかける様に市街に進出してきた敵部隊との市街戦に突入した。
既に第21装甲師団のⅣ号戦車は壊滅的な損害を受けて使い物にはならず、武装親衛隊のⅥ号ティーゲル戦車が敵戦車部隊に大きな打撃を与えたものの、不利な戦局を打開するには圧倒的に数が足りなかった。
カーンに戻って直ぐに新兵の補充を受けた俺たちだったが、戦車に対する有効な兵器も持たないまま、命令はこの通りを死守することだった。
「クルッペン、2階に上がって戦車長を始末しろ!ザシャとカミールは向こうの建物の3階に機関銃を設置して応戦!ロス、援護についてやれ」
「了解!」
「グリーデン!本部へ報告、敵1個小隊がM4戦車を伴い侵入中、至急対戦車兵器望む!」
「了解!」
「クルッペンの狙撃と共に戦線を開く。何としてでも食い止めるぞ‼」
「了解‼」
1秒が1分にも感じられる時間の流れの中、皆が行動を開始する。
たった10人で、戦車1輌と50人の敵兵を相手にするという現実など考える余裕もない。
ただ考えることは、目に映る敵を始末する事だけ。
パーン。
クルッペンのKar98kが火を噴き、狙いすましたようにハッチから顔を出していた戦車長の眉間を貫いた。
「Sniper!」
血しぶきを上げて車内に転げ落ちた戦車長の後ろでブローニングM2重機関銃を構えていた奴が叫び、機関銃を乱射し始めた。
「ザシャ!重機関銃を叩き潰せ‼」
このM2重機関銃は厄介だ。
なにしろその12.7 mm口径の銃弾の威力は凄まじく、木造の家などは簡単に貫通してしまう。
M2重機関銃の弾丸が俺たちの隠れている塀のレンガを砕く。
「野郎‼」
シュパンダウが敵の重機関銃叩き潰そうとして、飛び出そうとするのを止めた。
奴は今、分隊長の居るこの場所を狙っている。
12.7 mm弾に当たれば軽傷では済まない。
俺たちのMG42の方が新型で、汎用性も高く機関銃としては優秀だ。
何よりMG42機関銃の最大の武器である発射速度は毎分1200発以上でM2の2倍以上もあるとは言え、敵の重機関銃の中でもこのM2の破壊力は厄介なのは間違いない。
敵もそれを知っているからM2重機関銃の射手をサポートするように、ザシャが機関銃を撃ち始めた途端、銃座を置いている3階の窓に集中攻撃を加えているからザシャも場所を移動するため俺たちの機関銃は暫く沈黙する事になってしまった。
いくら強力な兵器を持っていても、場所が特定されていれば敵の集中的な攻撃に晒されてしまい潰される確率は上がる。
この様な状況に晒された場合、移動できる物はその場所に固着せずにサッサと移動してしまう方がいい。
特に分隊と言う最小単位の組織では、たとえ1人でも失う事は致命的な損害になりかねないので、分隊のメンバーには苦境に陥りそうになった時はまず自分の安全を確保しろと伝えてある。
これは決して敵前逃亡を許すものではなく、無駄死にさせないために俺たちが取っている行動。
空挺隊と言う戦場で孤立しやすい俺たちならではの共通意識と、それを支える強力な仲間意識があってこそ成り立つ戦法だ。
一時的にザシャのMG42機関銃が沈黙したことで、敵のM2重機関銃がいい気になって撃ちまくっている。
これはある意味で俺たちの思う壺。
数秒後に奴の銃弾は切れて、弾帯を交換しなければならない。
そこが俺たちのチャンス。
そしてカギを握るのは、狙撃手のクルッペンだ。
M2の太鼓を叩く様な銃声が途切れた。
敵の射手が「Give me bullet‼」と大声で銃弾を要求する。
3人の兵士がM4戦車の上に登り、そのうちの1人戦車の下に居る兵士から弾薬箱を受け取り、あとの2人が止まった重機関銃に代わりトミーガンを連射して周囲への威嚇射撃を開始した。
敵の威嚇射撃は特にザシャの居た建物など、周囲の建物の上階に集中していた。
「今だ、シュパンダウ、派手にやるぞ!」
「待ってました‼」
俺とシュパンダウが飛び出して、戦車の上に居る兵士たちに銃弾を浴びせる。
その動きに連動して今まで潜んでいたザシャのMG42が戦車後方に隠れている敵兵に向けて機銃掃射を始め、クルッペンの狙撃銃が敵の重機関銃の射手と銃弾の補給を行おうとしていた兵士を狙いすます。
戦車上に居た4人はあっと言う間に車上から転げ落ち、交換するために持ち上げていた弾薬箱もレンガを敷き詰められた路上に落ちた。
幸な事に戦車前面の機関銃ポットに備え付けてあるM1919機関銃の方は、戦車発見当初から沈黙したまま。
市街戦に投入されたこのM4戦車は、俺たちの携帯対戦車兵器(パンツァーファーストやパンツァーシュレック)の攻撃から身を守るために車体前面装甲板の上に土嚢を積み上げているが、その土嚢が走行時の振動によりズレ落ちて来たのかM1919機関銃に圧し掛かっていて撃とうにも撃てない状況を作り出しているし、砲塔は戦車長の仇を討つつもりなのか建物の上を狙っている。
チャンスだ。
「ホルツ、裏から屋根に上がって戦車の後ろ側に手りゅう弾を落とせるか?」
「やってみます!」
「マイヤー、ゼーゼマン援護しろ!シュパンダウは俺について来い」
「了解!っで、どこにお散歩!?」
「戦車を遣るぞ。俺がHHL 3(磁気吸着地雷:正式名称はHaft-Hohlladung 3kgで、磁力で戦車に吸着させて爆破する対戦車兵器)を仕掛ける。お前は履帯の間から手りゅう弾を投げろ」
「了解!軍曹も俺も気の毒なことで」
「今は使われていないが、敵戦車の前面機関銃と、同軸機関銃には充分注意しろ!」
「気が付かれませんように」
シュパンダウは、そう言うと胸で十字を切った。
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