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Liberation of Paris(パリの解放)
[Battle until the liberation of Paris Ⅵ(パリ解放までの戦い)]
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出番のなかったシュパンダウとホルツを連れて、元居たディタリー広場近くの公園に掘った塹壕陣地に帰り付く。
「隊長、御無事で何よりです」
ロス伍長が俺の顔を見てホッとした様子で出迎えてくれた。
彼はいつも俺のすることに深く詮索はしない。
俺が出て行っている間陣地を守れと言えば俺が戻るまで陣地を守り、待機していろと言えば待機している。
もちろんその逆に、偵察に行って来いと言えば嫌な顔一つも見せずに行くし、必ず生きて戻って来いと言っておけばロスは必ず生きて戻って来る。
それは分隊長と兵士の間に位置する伍長として大切な事。
パリ市庁舎に向かったジョンソン中尉たちは無事に目的地に着いたようで、正午にはノートルダム大聖堂の鐘が打ち鳴らされた。
「なんですかアノ鐘の音は?」
ロスが俺に聞く。
「昼を知らせる鐘なんじゃねえのか」
「いつも鳴って居たか?」
「いつも鳴っていたのか、たまたま鳴ったのか知らねえ。昨日何を食ったのかも覚えてねえのに、いちいち鐘が鳴ったかどうかなんて覚えていられるかっつうの!俺達が覚えていられるのは昨日何所で戦ったとか、誰が何所で死んだとかだけだ」
「それもそうだな……」
ロスと俺の間に割って履いて来たシュパンダウが答える。
時刻は丁度、正午。
ナカナカ旨い時間に到着したものだ。
ジョンソン中尉が約束を守ったのか、破ったのかは定かではないが、市内中心部からは単発的に銃声が聞こえるだけで激しい戦闘の気配は一切感じられなかった。
おそらく彼は約束を守ったのだろう。
そう推測すると、次に訪れる事は何か?
降伏、それとも連合軍の突入。
いずれにしても、速やかにその答えは出される事だろう。
その時、俺達は、どう行動するべきなのか?
降伏に従い敵に捕らわれて戦争を終えるのか、それとも降伏を無視して戦い続けるのか、あるいは敵の包囲網を掻い潜って味方の陣地迄逃げ帰るのか。
連合軍が突入して来た場合は、ただひたすらに戦うだけだが、おそらくそうはならない気がする。
何事もなく昼が過ぎ、15時に珈琲とビスケットを食べ、夜にはまた支給品のビスケットを食べた。
真夜中、機関銃を撃ち合う音で目が覚めると直ぐに歩哨に立っていたグリーデンが、戦闘が始まった事を知らせに来た。
「何か見えるか!?」
「いえ、建物が邪魔をして何も見えません!」
音は我々の位置から東に約3km。
きっと連合国軍はドレルアン門から、突入を開始したに違いない。
次は俺達のディタリーからか、それとも……。
「グリーデン直ぐにディタリー広場に居る国防軍に連絡して指示を仰げ!」
「了解しました!」
「各員は塹壕内にて周囲を警戒。以降指示あるまで私語は慎め!」
「了解‼」
俺は将軍ではないから、全ての防衛拠点の様子を見て回る事は出来ない。
だからディタリー門から続く通りの防衛ラインが、どの様に整備されているかその詳細は分からない。
けれどもディタリー通りから左程は慣れていない、サン・ジャック通りをジョンソン中尉たちの突入部隊が市庁舎の手前までドイツ兵に遭う事もなく進軍出来た事を考えると、この地区に展開する我が軍の守備隊が手薄であることは容易に想像する事が出来る。
だからこそジュリーは、そのルートを示したに違いない。
「ルッツ少尉! 国防軍ディタリー陣地マンハルト大尉からです」
グリーデンから受話器を取り、替わる。
「空軍降下猟兵分隊ルッツ少尉です」
「マンハルトだ、総督府の司令部に確認を取った所、ここにも直ぐに敵が押し寄せて来るから持ち場を離れるなと言う命令だ」
「しかしそれではドレルアンを突破した敵に後ろを取られた場合、前後の敵と戦わなければならなくなる可能性がありますが、その場合市内北側を守る部隊から応援は貰えるんでしょうね!」
「いや総督府からは、各部隊決して持ち場を離れないようにと、通達された」
“各部隊持ち場を離れるな……”
要するに“敵に渡した陣形図を崩すな”と言う事か。
なるほど、そうしておけば敵は戦力の隙間を突いて中心部に辿り着く事が出来、そうなれば戦闘は最小限に抑えられる。
だが、運悪く敵のルート上になってしまった部隊はどうなる?
圧倒的な連合軍の戦力の前に立たされ、応援も来ないまま見殺しにされてしまうんだぞ。
降伏するのなら、敵が市内に突入する前にすればいい。
そうすれば速やかに撤退も出来る。
何故この様な面倒くさい作戦を取るのか、俺には理解できなかった。
おそらく敵は直ぐには来ない。
来るのはパリの中心部に十分な戦力を満たしたあと。
つまり俺たちは前後から挟み撃ち……いや、ひょっとすると四方を敵に囲まれた状態で戦わなければならない状況に陥る。
しかし変だ。
もし、そうなれば逃げ場を失った俺たちは死に物狂いで戦う死ななくなり、戦場は正に乱戦の市街戦に突入してしまうだろう。
ジュリーは、それを避けるためにドイツ軍の配置図を敵に渡したのではないのか?
ド・ゴールが裏切った?
いや、まさかジュリーが人を見誤るはずがない。
これには屹度何かある。
よく考えろ!
ジュリーを信じて。
「隊長、御無事で何よりです」
ロス伍長が俺の顔を見てホッとした様子で出迎えてくれた。
彼はいつも俺のすることに深く詮索はしない。
俺が出て行っている間陣地を守れと言えば俺が戻るまで陣地を守り、待機していろと言えば待機している。
もちろんその逆に、偵察に行って来いと言えば嫌な顔一つも見せずに行くし、必ず生きて戻って来いと言っておけばロスは必ず生きて戻って来る。
それは分隊長と兵士の間に位置する伍長として大切な事。
パリ市庁舎に向かったジョンソン中尉たちは無事に目的地に着いたようで、正午にはノートルダム大聖堂の鐘が打ち鳴らされた。
「なんですかアノ鐘の音は?」
ロスが俺に聞く。
「昼を知らせる鐘なんじゃねえのか」
「いつも鳴って居たか?」
「いつも鳴っていたのか、たまたま鳴ったのか知らねえ。昨日何を食ったのかも覚えてねえのに、いちいち鐘が鳴ったかどうかなんて覚えていられるかっつうの!俺達が覚えていられるのは昨日何所で戦ったとか、誰が何所で死んだとかだけだ」
「それもそうだな……」
ロスと俺の間に割って履いて来たシュパンダウが答える。
時刻は丁度、正午。
ナカナカ旨い時間に到着したものだ。
ジョンソン中尉が約束を守ったのか、破ったのかは定かではないが、市内中心部からは単発的に銃声が聞こえるだけで激しい戦闘の気配は一切感じられなかった。
おそらく彼は約束を守ったのだろう。
そう推測すると、次に訪れる事は何か?
降伏、それとも連合軍の突入。
いずれにしても、速やかにその答えは出される事だろう。
その時、俺達は、どう行動するべきなのか?
降伏に従い敵に捕らわれて戦争を終えるのか、それとも降伏を無視して戦い続けるのか、あるいは敵の包囲網を掻い潜って味方の陣地迄逃げ帰るのか。
連合軍が突入して来た場合は、ただひたすらに戦うだけだが、おそらくそうはならない気がする。
何事もなく昼が過ぎ、15時に珈琲とビスケットを食べ、夜にはまた支給品のビスケットを食べた。
真夜中、機関銃を撃ち合う音で目が覚めると直ぐに歩哨に立っていたグリーデンが、戦闘が始まった事を知らせに来た。
「何か見えるか!?」
「いえ、建物が邪魔をして何も見えません!」
音は我々の位置から東に約3km。
きっと連合国軍はドレルアン門から、突入を開始したに違いない。
次は俺達のディタリーからか、それとも……。
「グリーデン直ぐにディタリー広場に居る国防軍に連絡して指示を仰げ!」
「了解しました!」
「各員は塹壕内にて周囲を警戒。以降指示あるまで私語は慎め!」
「了解‼」
俺は将軍ではないから、全ての防衛拠点の様子を見て回る事は出来ない。
だからディタリー門から続く通りの防衛ラインが、どの様に整備されているかその詳細は分からない。
けれどもディタリー通りから左程は慣れていない、サン・ジャック通りをジョンソン中尉たちの突入部隊が市庁舎の手前までドイツ兵に遭う事もなく進軍出来た事を考えると、この地区に展開する我が軍の守備隊が手薄であることは容易に想像する事が出来る。
だからこそジュリーは、そのルートを示したに違いない。
「ルッツ少尉! 国防軍ディタリー陣地マンハルト大尉からです」
グリーデンから受話器を取り、替わる。
「空軍降下猟兵分隊ルッツ少尉です」
「マンハルトだ、総督府の司令部に確認を取った所、ここにも直ぐに敵が押し寄せて来るから持ち場を離れるなと言う命令だ」
「しかしそれではドレルアンを突破した敵に後ろを取られた場合、前後の敵と戦わなければならなくなる可能性がありますが、その場合市内北側を守る部隊から応援は貰えるんでしょうね!」
「いや総督府からは、各部隊決して持ち場を離れないようにと、通達された」
“各部隊持ち場を離れるな……”
要するに“敵に渡した陣形図を崩すな”と言う事か。
なるほど、そうしておけば敵は戦力の隙間を突いて中心部に辿り着く事が出来、そうなれば戦闘は最小限に抑えられる。
だが、運悪く敵のルート上になってしまった部隊はどうなる?
圧倒的な連合軍の戦力の前に立たされ、応援も来ないまま見殺しにされてしまうんだぞ。
降伏するのなら、敵が市内に突入する前にすればいい。
そうすれば速やかに撤退も出来る。
何故この様な面倒くさい作戦を取るのか、俺には理解できなかった。
おそらく敵は直ぐには来ない。
来るのはパリの中心部に十分な戦力を満たしたあと。
つまり俺たちは前後から挟み撃ち……いや、ひょっとすると四方を敵に囲まれた状態で戦わなければならない状況に陥る。
しかし変だ。
もし、そうなれば逃げ場を失った俺たちは死に物狂いで戦う死ななくなり、戦場は正に乱戦の市街戦に突入してしまうだろう。
ジュリーは、それを避けるためにドイツ軍の配置図を敵に渡したのではないのか?
ド・ゴールが裏切った?
いや、まさかジュリーが人を見誤るはずがない。
これには屹度何かある。
よく考えろ!
ジュリーを信じて。
応援ありがとうございます!
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