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5話
冬子さんと歩く家路は、いつもと変わらぬ景色のはずなのに、異世界を歩いているようだった。いつもより少しだけ色付いたように見える景色の中を歩いていく。
決して都会とは言えない住宅街だが、それでも不便だと思ったことはない。家路の中で見つける店は個人経営店で、大きなチェーン店は駅前にしか存在しない。それでも、買い物や身の回りの生活には困らなかった。
住んでいるアパートに着いて、鍵を開けて家に入る。いつも通りの散らかった廊下。人を入れるのは間違いだったかもしれない。
「ただいま」
「お邪魔します」
「決して綺麗ではないんですけど」
「生活できれば良いですよ」
貶されてはいないが、決して褒め言葉ではないそれを受け取って廊下を歩いていく。ドアを開けると、自分の部屋が見える。改めて見ても綺麗ではなかった。
「綺麗じゃないけど、座れるところに座ってもらって」
「分かりました」
短い会話の後、冬子さんには部屋に座ってもらって冷蔵庫へと向かう。さっき買った食材をひたすら冷蔵庫へと詰めていく。いつもより遥かに多い買い物袋の中身をひたすら詰め込んでいく。いつもより遥かに有意義な使い方をされている冷蔵庫の扉を閉めて、部屋に戻る。
「戻りました」
「お疲れ様です」
「そういえば」
「何ですか?」
「そのカバンには何が入ってるんですか?」
「必要になりそうなものです」
「なるほど」
「お風呂で使うものとか」
「なるほど」
出会った時から聞けなかったが、流石に帰宅した後なら聞けた。何が入っているかさっぱり分からなかったが、流石に男の部屋にはないものは自前で用意するのが早いと考えたのだろう。
6.5畳ほどの部屋で、お世辞にも広いとは言えない部屋だったが、2人で座っても特段狭いと感じることは無かった。冬子さんと特にすることもないまま時間だけが過ぎていく。
「そういえば、ここWi-Fiあるんで、良かったら繋いでください」
「あ、これですね。分かりました」
「あとはまぁ、何しようかって感じですけど」
「とりあえず私はここで仕事から離れられればそれでいいです」
「なるほど」
何も納得はしていないが、混乱を避けるためにはこの返事しかなかった。
土曜日の昼。何かを提案できるほど手札があるわけじゃない。無言のまま時間だけが過ぎていくかと思いきや、冬子さんが口を開いた。
「今から何しますか?」
「特に予定はないけど、多分YouTubeでも見てるんじゃないかな」
「なるほど」
「なんかやりたいことある?」
「特に思いついてないです。私もそんな感じの生活だったので」
今日会ったばかりの冬子さんの一面が見えた。官公庁勤務の人間がいつ休みなのかすらよく分かっていないが、休日には動画を見ているらしいことは分かった。
2人で一緒の動画を見るわけではなく、それぞれがそれぞれのスマートフォンでYouTubeを見ていた。冬子さんからの提案待ちをするべきか、自分から何かを提案するべきか。今までに経験のない事態に冷静になれるはずもなく、時間が過ぎていくのを待つしかなかった。
決して都会とは言えない住宅街だが、それでも不便だと思ったことはない。家路の中で見つける店は個人経営店で、大きなチェーン店は駅前にしか存在しない。それでも、買い物や身の回りの生活には困らなかった。
住んでいるアパートに着いて、鍵を開けて家に入る。いつも通りの散らかった廊下。人を入れるのは間違いだったかもしれない。
「ただいま」
「お邪魔します」
「決して綺麗ではないんですけど」
「生活できれば良いですよ」
貶されてはいないが、決して褒め言葉ではないそれを受け取って廊下を歩いていく。ドアを開けると、自分の部屋が見える。改めて見ても綺麗ではなかった。
「綺麗じゃないけど、座れるところに座ってもらって」
「分かりました」
短い会話の後、冬子さんには部屋に座ってもらって冷蔵庫へと向かう。さっき買った食材をひたすら冷蔵庫へと詰めていく。いつもより遥かに多い買い物袋の中身をひたすら詰め込んでいく。いつもより遥かに有意義な使い方をされている冷蔵庫の扉を閉めて、部屋に戻る。
「戻りました」
「お疲れ様です」
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「何ですか?」
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「必要になりそうなものです」
「なるほど」
「お風呂で使うものとか」
「なるほど」
出会った時から聞けなかったが、流石に帰宅した後なら聞けた。何が入っているかさっぱり分からなかったが、流石に男の部屋にはないものは自前で用意するのが早いと考えたのだろう。
6.5畳ほどの部屋で、お世辞にも広いとは言えない部屋だったが、2人で座っても特段狭いと感じることは無かった。冬子さんと特にすることもないまま時間だけが過ぎていく。
「そういえば、ここWi-Fiあるんで、良かったら繋いでください」
「あ、これですね。分かりました」
「あとはまぁ、何しようかって感じですけど」
「とりあえず私はここで仕事から離れられればそれでいいです」
「なるほど」
何も納得はしていないが、混乱を避けるためにはこの返事しかなかった。
土曜日の昼。何かを提案できるほど手札があるわけじゃない。無言のまま時間だけが過ぎていくかと思いきや、冬子さんが口を開いた。
「今から何しますか?」
「特に予定はないけど、多分YouTubeでも見てるんじゃないかな」
「なるほど」
「なんかやりたいことある?」
「特に思いついてないです。私もそんな感じの生活だったので」
今日会ったばかりの冬子さんの一面が見えた。官公庁勤務の人間がいつ休みなのかすらよく分かっていないが、休日には動画を見ているらしいことは分かった。
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