短歌を読んで、物語を創る。

❄️冬は つとめて

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恋愛②短歌一首

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妖怪の
話を集める
その理由
昔見た妖怪 《キミ》
見つけたくて

で、コチラです⬇


僕は見たんだ

『ここで見たことは、ないしょだよ。』
人差し指を口元にあてて、その彼女は言った。

長い黒髪と鮮やかな赤い牡丹の柄の白い着物。

あの夏祭りの日に、僕は恋をした。



「やっぱり、これかな…… 」
大学生の大野おおのたけしは数枚あるカードの中の一枚を取り出す。

それは妖怪の載った、いわゆるトレーディングカードだ。

「おっ、なに? カードゲームか。」
武の友達の反町そりまち裕二ゆうじは後ろから机の上のカードを覗き見る。

「妖怪のカードゲームか。渋いな、武。」
「いや、これは!! 」
咄嗟に机の上のカードを隠したが、既に遅しだ。

ひらりと武の持っていたカードが床の上に落ちる。

裕二は落ちたカードを拾った。

「二口女? 」
カードには、顔の後ろの頭の部分に大きな口のついた妖怪二口女が描かれてあった。

「か、返せ!! 」
武は彼からカードを奪い返そうと手を伸ばす。裕二はその剣幕に少し引く。

「なんだよ、おかしいぞお前。」
手を上げて武の手を反らして、裕二は人質のようにヒラヒラとカードを振った。

「裕二!! 」
武の悲痛な声に、裕二は驚く。

「悪かったよ。」
謝りながらカードを武に返す。

「なあ、どうしたんだ? 」
抱きしめるようにカードを持つ武を心配して、裕二は声をかけた。

「秘密だから…… 」

あの日の彼女との約束。

子供の頃、出会った彼女。

倒れ伏す男達の中に立っていた彼女。

夏祭りの幻のように。

ゆらゆらと揺れる提灯の明かりに照らされた彼女は、長い黒髪の間に見える口元に人差し指をあてた。

『ここで見たことは、ないしょだよ。』

振り向いた彼女の後ろの頭に、髪の間から垣間見える口があった。

(妖怪!? )
武は、その場を逃げ出した。

つい最近、おばあちゃんが話して聞かせてくれた『雪女』の話を思い出す。

『もしこのことを誰かに話したら、命はないでしょう。』

雪女はそう言って、男の父の命を奪って消えていった。


『ここで見たことは、ないしょだよ。』

(しゃべったら駄目なんだ。しゃべったら僕、殺される。)
武は幼心に、怯えた。

だが、強烈なほどに焼きついた彼女。長い黒髪と赤い牡丹の柄の白い着物。

武は忘れることが、

そして、それがだと大きくなって気がついた。

彼女に会いたい。
武はずっと思っていた。

だが一生会うことはないだろう。
彼女は妖怪で、自分は人間。
住む世界が違う。

妖怪の話を集めても、妖怪の絵姿を集めても、会うことはかなわない。


「昔…… 見たんだ。」
ぽっりと、武は話しだした。

あの夏祭り日の出来事を。

このまま会えないのなら誰かに話をしてしまえば、彼女が自分を来るのではないかと。

倒れ伏した男達はどうしたんだろう。次の日、恐れながらもあの場所へ足を運んだ。

(夢かもしれないと。)

何もなかった。
倒れ伏した男達も、そして誰もその事を話す者はいなかった。

(夢かもしれない。)

真夏の祭りが見せた、暑い日の幻想。

(だが、僕は見たんだ。)

長い黒髪の間から垣間見える口元に、人差し指をあてた彼女を。

『ここで見たことは、ないしょだよ。』

あの声を。
少し端があがった口元を。

強烈に記憶に残る彼女を。

長い黒髪に牡丹の柄の白い着物。
振り向いた後頭部に、髪の間から見えた大きな口を。

武は全てを裕二に話した。

幼き頃の初恋を。

「…… 」
裕二は黙ってその話を最後まで聞いていた。少し、顔色が悪い。

「た、武…… その…… 」
気まずそう裕二は顔を逸らした。

「たぶん、それ…… 妖怪じゃ。」

「えっ? 」

「いや。妖怪と言ゃあ、妖怪かもしれないが…… 」
「どういうことだ!! 」
目を逸らす裕二の首元を掴み、武はひねり上げた。

「大鷹学園のって、知らないか? 」
「鬼女? 」

裕二は首元を掴まれながら、頭をかいた。

「あ~~ 3つ上の俺の従姉弟いとこなんだけど~~ 」
武は裕二を放した。

「お前が見たその祭りの日、ナンパして来た男達をボコボコにしてた記憶が…… 俺にある。」
「えっ? 」
武は目を見張った。

「長い黒髪で、牡丹の柄じゃなくってだ。」
「えっ? 」
裕二は驚く武の肩に手をのせた。

従姉弟いとこは、『大鷹学園の鬼女』と呼ばれるほどのだった。」



「で、でも、後頭部に口が!! 」
縋るように武は裕二に食い下がる。

「それ、お面な。先生のお面を後ろに被ってたわ。」
裕二はその場にいたのだ。

当時遊びに来た親戚の高校生3つ上従姉弟いとこと、その日祭りに行った。

蝶の柄の白い浴衣に、長い黒髪の頭の後ろに◯先生大きな口の黄色いお面。

ボコボコにボコった、男達の返り血をあびて白い浴衣は真っ赤な牡丹の花が咲いたような絵柄となった。

呆然とする武の肩を、二度裕二は叩いた。

「幽霊見たり枯れ尾花て、言うしな。」
裕二は、再び武の肩を叩いた。

「まあ、元気だせや! 」
裕二は武を慰めるのであった。



【完】

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