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五度目の出逢いは、サプライズでした。

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「なんとかしないと…… 」
(生本は、強烈でした。)
可愛いドレスと共に現れたサプライズ王太子に、リリースは悲鳴もあげずに意識を手放した。今は自ずとしれたベッドの上だ。リリースは、いつものように天井を見つめていた。

「絵姿なんて、なんの役にもたたないわ。」
その絵姿にさえ失神していたことは既にリリースは忘れていた。

「あの髪の艶に瞳の煌めき、どれをとっても強烈すぎる!! 」
ベッドの真正面にある等身大のダミアン王太子の絵姿を見ながら叫ぶ。

(怖さ、増し増し、怖だくよ!! )
何処かのチェーン店のつゆだくのように表現した。彼女はやはり頭のよい高校生ではないようだ。

「このままでは婚約破棄の、 」
(絞首台にまっしぐらよ!! )

「そんなのいやあーー!! 」 
(死にたくない、死にたくないの。)
枕を抱えベッドの上でのたうち回る。

「そんな事、この母がさせませんわ!! 」
「お母様!! 」
バァン!! 
と、扉を開けて母ナタリアが部屋に入ってきた。後に父と兄も続く、どうやら扉の前でようす見をしていたようだ。

「リリーの今迄の努力、この母が無駄にはさせませんわ。」
「お母様!! 」
ナタリアはリリースを抱きしめた。ボロボロとリリースの瞳から涙が溢れる。

「リリー、無理は体によくないぞ。」
「父上の言うとおりだ、この婚約は解 」
「何を言ってるのリーガル!! リリーを殺すつもり!? 」
父と兄はリリースの過酷な修行に、そこまでしなくても新しい恋をした方がよいのではと婚約の解消の話をしようとしていた。

「リリーが死んでしまうわ…… 」
(恋に、もがき苦しんで。)
母ナタリアは、婚約解消の後のリリースを想像する。

新たなる女性と婚姻する王太子。

『ダミアンさま、ダミアンさま… 』
涙にくれるリリース。

『お慕いしております、ダミアンさま。リリーの思いは、ダミアンさまだけのものですわ。』
塔の上から手を組み、祈るように身を投じる。

「ああ…… そんな事、ぜったい私はさせませんわ!! 」
母ナタリアの腕に力がこもる。

「リリー、死んじゃう。死んじゃうの。王太子殿下とお話できないと、リリー死んじゃう!! 」
(王太子と婚約解消の話ができないの~~!! )
パニック状態におちいったリリースは母に縋り付き、泣き出した。

「リリー、それ程までに…… 」
「くそっ、王太子め!! 」
父は目を閉じ、兄は拳で机を殴った。

「大丈夫よ、リリー。落ち着いて、母がなんとかしてみせるわ。」
泣きじゃくるリリースの背中を優しく撫でる。

「百万の味方を得て来ますわ。」
ナタリアは、リリースを夫のリーマンに預け立ち上がった。

「母上、何処に? 」
「登城してきますわ、それまでリリーをお願いねリーガル。」
「分かりました、母上。お早いお帰りを。」
「ええ、分かっているわ。」
ナタリアは、百万の味方を得るために屋敷を後にする。



「いらっしゃい、ナタリア。」
「お久しぶりでございます、王妃陛下。」
ナタリアは登城し、王妃陛下と謁見する。美しいカーテシーを取って、挨拶をする。

「堅苦しいことはなしなし、ナタリア。会いたかったわ。」
「私もですわ、ダイアナ。」
ダイアナに促されて、ナタリアはテーブル席に座った。侍女がお茶の用意をしてくれる。

「ダミアンの話かしら。」
「ええ、リリースの話ですわ。」
ナタリアは真剣な顔でダイアナに向き合った。

「リリーは、本当にダミアン王太子殿下をお慕いしています。」
「そう、ダミアンもリリース嬢を大好きだわ。」
ダイアナはナタリアに微笑み返す。

「ですが、リリーはダミアン殿下の前に出るとどうも緊張が酷くって、気を失ってしまうのです。」
「ええ、ダミアンから聞きましたわ。嬉しい半面、哀しい顔をしてましたのよ。」
ダイアナは息子の話をナタリアにする。

「でも大丈夫よ、婚姻までまだ時間はあるわ。それまではわたくしが、他の貴族達を抑えて見せますわ。」
「ありがとうダイアナ。百万の味方を得た思いですわ。」
二人は手を取り合って、微笑みあった。

リリースの思いとは逆に、婚姻への外堀がまた埋まった。







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