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攻略対象リリース。

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気がつけば目に映るのは、何時もの部屋の天井であった。

「ギャルゲーの世界…… 」
(それも鬼畜系。)
リリースは呟いた。

「道理で攻略対象(男)が、出てこない訳よね。」
(攻略対象、女の子ですもの。)
その中に自分も入っている。

ヒーローが推し(好み)過ぎて、推しの幸せを見ようと女子なのにギャルゲーをスイッチを入れた処までは覚えていたが後が続かない。

「車でも突っ込んだかな? 」
惜しい、バイクが突っ込んだ。前世の家は小さな交差点の角で、出会い頭によく車同士が事故って弾かれた車が塀に突っ込んでいた。残念ながら今回はバイクが車に弾かれて、二階の彼女の部屋へと突っ込んだ。気がつく前に、彼女は即死であった。

(まあ、いいわ。死んだ事思い出さなくても。思い出したら怖いもの。)

「それより今よ、今。」
今、彼女は推し世界にいる。

(兄が言うには、激難死亡者出さないルート。婚約者ルート、激甘激愛ルートのエンディングでは幸せに微笑む推しのイラストがあるって都市伝説になってるて言ってたわ。)

「見たい、見たい、見たい!! 妖しく微笑む推しではなく、幸せに微笑む推しを。」
(でも、買ったも当然!! 今の推しは私に夢中、大人の魅力にメロメロなんだから!! )
今のダミアンはリリースに夢中なのは誰の目にも明らかだった。が、リリースに大人の魅力があるかは別である。

「私は死なない。」
(だって、ダミアン様は私を選んでくれたから。)

ギャルゲー『硝子の花園』は、ヒーローが兎に角一人の攻略者を必要以上に追いかける。一途なヒーローだと、彼女は兄から聞いていた。ただ、一途過ぎて他の攻略対象のヒロインを死に追い詰める鬼畜系のギャルゲーだとも言っていた。

「私は死なない…… 」
(私を選んでくれてるよね? )
しかし、ギャルゲーの開始は今日の学園に登校してからだ。そして今日、他の攻略対象のヒロインとヒーローは出逢った。

「私、死んじゃうの? 」
(も、もしかしてダミアン様が今日、他の攻略対象を選んでたら。)
他の攻略対象を選んでたらリリースは確実に絞首刑へと進む。だって、婚約者は邪魔だから。

「嫌!! 死にたくない、推しを幸せにできるのは私よ。」
(他のルートは鬼畜道一色線、婚約者さよならルート。)

「幸せな推しが見たい!! 」
(物陰からならいいけど、草葉の陰からは見たくない!! )
リリースは枕を抱えて、ベッドの上を転がりまわる。

「でも、他のヒロインルートなら…… 」
(素早く婚約解消を言って草葉の陰、じゃなく物陰から推しの幸せを応援するわ!! )
リリースはストーカーになる事を心に決めた。草葉の陰じゃなく、物陰から推しの幸せを願う。

「ダミアン様は誰を選んだの? 」
あの時(思い出した時)頭が混乱して、癖になった失神をしてしまっていた。

「久方振り失神!! 推しが誰を選んだか分からないじゃない!! 」
朝にも失神をしていたことは、彼女の頭の中から消えていた。

(もし、他のルートを選んでたら……… )
「私が、速やかに婚約解消をすれば……… いい…… 」
(誰も死なないよう見守れば。)
ズキンと、胸が痛んだ。

「いや、いや、いや、嫌ーー!! 婚約解消なんてしたくないーー!!!! 」
リリースはベッドの上で、びええええ~んと泣き出した。

「リリー、どうしたんだい!? 」
泣き声を聞いて、ダミアンが部屋に飛び込んで来た。

「しちゃう、しちゃう、婚約解消しちゃう? 」
「リリー、落ち着いて。誰が婚約解消するんだ? 」
ぼろぼろと泣きながら、リリースはダミアンに聞いてくる。

「ダミアン様が、リリーと婚約解消しちゃう!! 」
「私はリリーと婚約解消しないよ。」
ダミアンは泣くリリースを抱き締めた。

「本当に? リリーを選んでくれる。リリー以外を選ばない? 」
「リリー以外、選ばない。私にはリリーしかいない。」
「嘘ついたら、針千本飲ますんだから~~!!!! 」
リリースはダミアンの幸せと選ばれなかった時の哀しみで、子供のように泣きじゃくった。

 







    
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