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封印と呪い。
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「君に私の名前をあげるよ。」
リンネルは嬉しそうに微笑む。
こんなに気さくに話が出来る相手は祖父以来だった。四公爵と嫡男嫡女は優しくしてくれたが、それは宝物の様に恭しかった。
(出来れば気さくに話がしたかったな。でも、最後に友達が出来た。)
リンネルは闇猫をもふもふする。
(友達と思ってもいいのかな? )
リンネルは闇猫の毛の中に顔を埋めた。
(いいよね、ちょっとの間だから。)
少しの間でも友達が出来て、リンネルの名まで残せる。リンネルは本当に嬉しかった。
「生きてることに感謝を。」
リンネルは黒いもふもふ毛に埋まりながら、感謝の祈りを捧げた。
『おい、お前。』
「お前じゃないよ、リンネル……。リンネル、リンネルでややこしいから、私はリンネでいいや。」
『俺がリンネでよいが。』
「駄目だよ、もうあげちゃったんだから。返却出来ません。」
リンネは大きな闇猫の顔を持った。
「君はリンネル。私がリンネ。」
額に額を擦りつけて、笑う。
『お前がいいなら……よい。』
闇猫は赤い目を恥ずかしそうに反らした。リンネはもう一度闇猫に抱き付いた、もふもふを堪能する。
「あと少しだけど宜しくね。」
リンネは死ぬ気満々であった。
『何故少しの間なのだ? 』
闇猫の問いかけにリンネは応える。
「食料が無いからね。水も無いし、餓死より水分不足で死にそうだけど。」
呑気に言ってのける。
「脱水症状の方が餓死よりいいかな? ぽっくりいけそうだ。」
脱水症状で気を失って、そのまま死んでしまう。飢えて死ぬよりはいいかもと、リンネは思った。
『水も食糧も俺が何とかする。だから死ななくてよい。』
「リンネルが? 」
『そうだ、俺が。』
ぴんと姿勢を正して座る闇猫をリンネは見た。尻尾が不安げに揺れている。
「それは死ななくていいのなら、その方がいいけど……。」
リンネは開いた扉から外の様子を見る。何も無い不毛の地、崩れた果てた都市。水も食糧も確保出来そうに無い。リンネは首を捻った。
『お前が、』
「リンネ。」
『……リンネが、この地の封印を解いてくれれば俺が外から水も食糧も調達してこよう。』
「封印? 」
リンネは首を傾げる。
『そうだ、この地の封印を解いてくれれば俺が。』
「閉じ込められているの? 」
『そうだ。』
「分かった。」
躊躇無く応える。
「でも、私は何の力も持って無いよ。私でも出来るの? 」
『力が無い? 何を言っている。お前の力は祈りの力、お前が望めば封印を解くことは操作もないことだ。』
「そうなの? 」
『そうだ。』
「分かった。」
リンネは何時ものように両膝を付いて祈りの格好をする。
「開けゴマ!! 」
両手を高々く上げ叫んだ。
『……何をしている? 』
「扉を開けるイメージで、叫んでみました。」
手を上げたまま闇猫に向かって応える。闇猫は溜息を付いた。
『鐘をならすのだ。』
「鐘? 」
『そうだ、お前の力で鐘を鳴らせ。その力をこの国に響かせろ。』
「アンジェラス? 」
『そうだ、祈りの鐘だ。』
闇猫はリンネに鐘を鳴らすよう促す。リンネは頷いた、鐘なら何時も祈って鳴らしている。それ以外したことが無い、得意中の得意だ。
リンネはアンゼラス国で何時も鐘を鳴らしていた。朝 昼 晩と毎日、休むこと無く。鎮魂祭の祭りの日以外は毎日。城と神殿を繋げる廊下を渡り、大きな鐘の下で祈りを捧げる。それがリンネにとっての日課であった。
(でもあれ、頭の上で響いて煩いんだよな。耳がぐわんぐわんするんだ。)
リンネは今いる神殿の周りを見た、上も見る。鐘は無い。
『鐘ならこの上にある、付いて来い。』
闇猫は立ち上がるとリンネに体をすりっとすり寄せてこの部屋の壁に近付く。リンネも鞄を持って後に続いた。闇猫が浮き上がっていく。よく見ると壁に階段が設置されていた。
円形状の大広間の壁に螺旋状に階段が上へと設置されている。そこを闇猫は歩いて上がっていく。
『如何した、早く付いて来い。』
リンネも階段に足をかけ上がっていく。所々窓に差し掛かり外を見る。
上からの景色はよりよく遠くが見て取れた。やはり崩れた都市の向こう側は不毛の土地であった。
茶色だけの景色にリンネは、祈りを捧げる。
「傷つくものに、慈愛を。」
その景色は360度都市を囲っていた。かなりの階段を上り上に辿り着く。
「可笑しいな? 何時もならこんなに動くと息が上がるのに。」
リンネは息も上がらずに上まで辿り着いた。上がりきったそこに、真っ黒い大きな鐘が放置されていた。
「アンジェラス? 」
『そうだ、祈りの鐘だ。』
何時も祈っている鐘は銀色をしていた。だがこの鐘は黒い。
「黒いね。」
『俺の呪いが掛かっている。』
はっきりと闇猫は言った。
「呪い? 」
『この呪いが解けるのはお前だけだ、リンネ。』
闇猫はリンネの前に座って目を会わせた。
『聖人の、あいつの生まれ変わりのお前だけが俺の呪いを解くことが出来る。』
リンネは首を傾げた。
「えっと、封印は? 」
『封印を解くには、まずこの鐘の呪いを解くしかない。』
リンネは分からないと頭を捻る。
『まずこの鐘の呪いを解いて、鐘を鳴らして封印を解くのだ。』
闇猫はリンネにも分かるように簡単に言った。
「分かった。」
リンネは素直に頷いた。
リンネルは嬉しそうに微笑む。
こんなに気さくに話が出来る相手は祖父以来だった。四公爵と嫡男嫡女は優しくしてくれたが、それは宝物の様に恭しかった。
(出来れば気さくに話がしたかったな。でも、最後に友達が出来た。)
リンネルは闇猫をもふもふする。
(友達と思ってもいいのかな? )
リンネルは闇猫の毛の中に顔を埋めた。
(いいよね、ちょっとの間だから。)
少しの間でも友達が出来て、リンネルの名まで残せる。リンネルは本当に嬉しかった。
「生きてることに感謝を。」
リンネルは黒いもふもふ毛に埋まりながら、感謝の祈りを捧げた。
『おい、お前。』
「お前じゃないよ、リンネル……。リンネル、リンネルでややこしいから、私はリンネでいいや。」
『俺がリンネでよいが。』
「駄目だよ、もうあげちゃったんだから。返却出来ません。」
リンネは大きな闇猫の顔を持った。
「君はリンネル。私がリンネ。」
額に額を擦りつけて、笑う。
『お前がいいなら……よい。』
闇猫は赤い目を恥ずかしそうに反らした。リンネはもう一度闇猫に抱き付いた、もふもふを堪能する。
「あと少しだけど宜しくね。」
リンネは死ぬ気満々であった。
『何故少しの間なのだ? 』
闇猫の問いかけにリンネは応える。
「食料が無いからね。水も無いし、餓死より水分不足で死にそうだけど。」
呑気に言ってのける。
「脱水症状の方が餓死よりいいかな? ぽっくりいけそうだ。」
脱水症状で気を失って、そのまま死んでしまう。飢えて死ぬよりはいいかもと、リンネは思った。
『水も食糧も俺が何とかする。だから死ななくてよい。』
「リンネルが? 」
『そうだ、俺が。』
ぴんと姿勢を正して座る闇猫をリンネは見た。尻尾が不安げに揺れている。
「それは死ななくていいのなら、その方がいいけど……。」
リンネは開いた扉から外の様子を見る。何も無い不毛の地、崩れた果てた都市。水も食糧も確保出来そうに無い。リンネは首を捻った。
『お前が、』
「リンネ。」
『……リンネが、この地の封印を解いてくれれば俺が外から水も食糧も調達してこよう。』
「封印? 」
リンネは首を傾げる。
『そうだ、この地の封印を解いてくれれば俺が。』
「閉じ込められているの? 」
『そうだ。』
「分かった。」
躊躇無く応える。
「でも、私は何の力も持って無いよ。私でも出来るの? 」
『力が無い? 何を言っている。お前の力は祈りの力、お前が望めば封印を解くことは操作もないことだ。』
「そうなの? 」
『そうだ。』
「分かった。」
リンネは何時ものように両膝を付いて祈りの格好をする。
「開けゴマ!! 」
両手を高々く上げ叫んだ。
『……何をしている? 』
「扉を開けるイメージで、叫んでみました。」
手を上げたまま闇猫に向かって応える。闇猫は溜息を付いた。
『鐘をならすのだ。』
「鐘? 」
『そうだ、お前の力で鐘を鳴らせ。その力をこの国に響かせろ。』
「アンジェラス? 」
『そうだ、祈りの鐘だ。』
闇猫はリンネに鐘を鳴らすよう促す。リンネは頷いた、鐘なら何時も祈って鳴らしている。それ以外したことが無い、得意中の得意だ。
リンネはアンゼラス国で何時も鐘を鳴らしていた。朝 昼 晩と毎日、休むこと無く。鎮魂祭の祭りの日以外は毎日。城と神殿を繋げる廊下を渡り、大きな鐘の下で祈りを捧げる。それがリンネにとっての日課であった。
(でもあれ、頭の上で響いて煩いんだよな。耳がぐわんぐわんするんだ。)
リンネは今いる神殿の周りを見た、上も見る。鐘は無い。
『鐘ならこの上にある、付いて来い。』
闇猫は立ち上がるとリンネに体をすりっとすり寄せてこの部屋の壁に近付く。リンネも鞄を持って後に続いた。闇猫が浮き上がっていく。よく見ると壁に階段が設置されていた。
円形状の大広間の壁に螺旋状に階段が上へと設置されている。そこを闇猫は歩いて上がっていく。
『如何した、早く付いて来い。』
リンネも階段に足をかけ上がっていく。所々窓に差し掛かり外を見る。
上からの景色はよりよく遠くが見て取れた。やはり崩れた都市の向こう側は不毛の土地であった。
茶色だけの景色にリンネは、祈りを捧げる。
「傷つくものに、慈愛を。」
その景色は360度都市を囲っていた。かなりの階段を上り上に辿り着く。
「可笑しいな? 何時もならこんなに動くと息が上がるのに。」
リンネは息も上がらずに上まで辿り着いた。上がりきったそこに、真っ黒い大きな鐘が放置されていた。
「アンジェラス? 」
『そうだ、祈りの鐘だ。』
何時も祈っている鐘は銀色をしていた。だがこの鐘は黒い。
「黒いね。」
『俺の呪いが掛かっている。』
はっきりと闇猫は言った。
「呪い? 」
『この呪いが解けるのはお前だけだ、リンネ。』
闇猫はリンネの前に座って目を会わせた。
『聖人の、あいつの生まれ変わりのお前だけが俺の呪いを解くことが出来る。』
リンネは首を傾げた。
「えっと、封印は? 」
『封印を解くには、まずこの鐘の呪いを解くしかない。』
リンネは分からないと頭を捻る。
『まずこの鐘の呪いを解いて、鐘を鳴らして封印を解くのだ。』
闇猫はリンネにも分かるように簡単に言った。
「分かった。」
リンネは素直に頷いた。
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