学園七不思議。

❄️冬は つとめて

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教科書が浮く、噴水。

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季節は既に秋。
夏休みも終え衣替えが終わった頃、その事件は起こった。

いや、夏休みが開けた時から事は起こっていたのだか気づかなかったのだ。


「此処が女生徒の教科書が浮いていた噴水、なのですね。」

授業が終わった放課後。
一人の女生徒が 校舎内から中庭に出る、綺麗な石畳の真ん中に石で作られた丸い噴水を見て声をあげた。

吹き出す噴水の水が、水飛沫をあげ日の光を浴びてきらきらと輝く。

「「はあ…… 」」
後ろにいる二人の女生徒は自分達に問うてきた人物に見惚れてしまう。きらきらと輝く水飛沫を纏う姿が、声をあげた女生徒から醸し出される光に見える。

「左様でございます、お姫様おひいさま。」
「はい、迦具夜かぐや様。」
先に中庭に入り立った女生徒に後ろに控える女生徒二人は恭しく応える。

「如何でしょうか、お姫様おひいさま。」
お姫様おひいさまはおやめになって、鈴音りんね。」
お姫様おひいさまと、呼ばれた女生徒はこの『まほろば学園』の生徒会長である。それと同事に、旧家月夜見つきよみ家のお姫様おひいさまでもある。

月夜見つきよみ迦具夜かぐや。艷やかな流れる黒髪を腰までのばし、白く潤いある肌。少しつり上がった黒い闇のような瞳には、月の光を思わせる鋭さもあった。

学園の制服である紺の冬用のセーラー服は今流行りの短いスカート丈ではなく、膝下五センチの折り目のしっかりと付いた昔ながらのセーラー服である。三学年を示すスカーフは白色である。

「申しわけありません、お姫おひ迦具夜かぐや様。」
「宜しくってよ、鈴音。」
迦具夜は品良い紫色の扇子を閉じたまま、口元へと近づける。

「「はぁ…… 」」
その美しさに、鈴音りんね鈴香すずかはうっとりとため息を放つ。

彼女達は、代々月夜見家に使える十二の月家の一つ在月ありづき家の双子の姉妹である。彼女らも流行りのミニスカートではなく、昔ながらのセーラー服を着ていた。迦具夜と同じ三年の白のスカーフである。整った顔立ちに長い黒髪は首の後ろの方できっちりと縛られてある。

迦具夜の幼き頃からの幼馴染であり、同じ年のお付きの者達であった。

お屋敷で者は迦具夜を『お姫様おひいさま』と、呼んでいるので学園での名前呼びに未だに慣れない者達もいるのである。

学園内の中庭に降り立って、迦具夜は周りを見渡す。

水飛沫を振りまき水を吹き出している噴水を、迦具夜はその闇の瞳で見て回る。

「如何でしょうか? 迦具夜かぐや様。」
「そうね、なにも感じませんわ。」
迦具夜は振り向かずに言った。

「鈴音。これはでは、なくって? 」
噴水に教科書が浮いていた事は、その女生徒への虐めではないかと迦具夜は鈴音に問うてみる。

「はい。それも考えましたが、年に一度必ずこの噴水で教科書が浮く事件が起こるのです。迦具夜かぐや様。」
「昨年も、その前の年も、此処5年程、この時期になると特定の女生徒の教科書が噴水に浮くとの事です。」
鈴音の言葉に付け足すように鈴香も声を出す。

「そう…… 5年も。」
迦具夜は首を傾げる。此の二年学園に通っていたが、去年もその前の年もは聞いたことがない。

三年になって、生徒会長になって、迦具夜は初めて聞くことであった。

それはただ、迦具夜の周りの者がを耳に入れなかっただけである。鈴音と鈴香も、あまりの下世話な話題を気にする者ではなかったためでもある。

しかしその事件は、今年も起こってしまった。
  
の仕業か、人のか。」
迦具夜は瞳を閉じて言った。

「もののけの仕業ならば、一度迦具夜かぐや様に見て頂こうと思い。」
「人であれば、犯人を見つけ出さねばなりません。」
鈴音の言葉に付け足すように鈴香が言葉をつなげる。

「そうね、わたくしの矜持が許さなくってよ。」
長年続いている事件であるが、自分が生徒会長ある時に起こったことを有耶無耶に終わらせることは迦具夜の矜持が許さなかった。

「「流石でごさいます、迦具夜かぐや様。」」
感心する二人。

「わたくし月夜見つきよみ迦具夜かぐやの名にかけて、この事件を解決してみせますわ。」
振り向いた迦具夜の艷やかな黒髪が流れる。口元に、紫色の扇子を少し開きおさえる。月の光を秘めた闇の瞳がきらめく。

一瞬、迦具夜の美しさに声を出せなかった二人は、体を動かし拍手喝采を迦具夜に贈る。
 
「さあ、鈴音、鈴香。次の事件現場に案内あないしてくださるかしら。」
勿論もちろんですとも、迦具夜かぐや様。」
二人は迦具夜の為に道を開けた。迦具夜は凛とした姿で二人より先に歩き出す。

ふと、止まる。

「あら、わたくしが先に歩いては、事件現場が分かりませんわ。」
迦具夜は閉じた扇子で口元を隠すようにして、半分振り向く。

「「うっ、迦具夜かぐや様!! 」」
迦具夜の美しさの中にある可愛らしさにあてられ、二人は口元を両手でおさえるのであった。




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